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遡った時間
49:矛盾がある考えに皇女は首をひねる
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「皇女様のお部屋に入れる人間は現在の所、そちらのアガタ嬢のみのはずです」
ドゥ伯爵夫人の放ったこの言葉で、周囲の人々はオケアノスとサラを遠巻きに見るようになり、小声で言い合い始める。
「私たちメイドはここの部屋に入ってはいけないって言われているものね」
「そうそう。侍女長のモレス伯爵夫人から言われているもの」
「というか、いくらサラ様がお優しいと言っても、皇女様のお部屋で見たこと聞いたことを軽々しく話すようなメイドがいるってこと?」
さて、ドゥ伯爵夫人に任せっきりというのも悪いし、少しつつこうかしら。ああ、コラーロも準備は万端のようだし、少し前に出ましょう。ここではせっかくの青ざめているサラの表情もオケアノスの思考停止な抜けている顔もみえませんし。
「ドゥ伯爵夫人がおっしゃるとおり、私の部屋にはアガタしか入れないようにお願いしております。陛下も『ルサルカ皇女のお部屋はある意味でペルラ領であるから、皇女の許可なしでは何人も入らぬように』と王宮の方々におふれを出して下さっているはずなのです。ですから、サラ様、そのお話をされたメイドの方を教えていただけませんか?」
「えっ?ええっと…どなただったかしら。ーフロス、いいえアリシアだったかしら…」
「そんな曖昧な方のお話を信じたのですか?…私、サラ様はこの国で最初のお友達だと思っていましたのに…サラ様は違ったようですね」
そう呟きながら、こっそり持っていたブローチの針を指に指して涙目になってみせると周囲の雰囲気は一気に私寄りになった気配がした。計画通りすぎて、にやけそうなのを隠す為に、俯いて顔を反らして続けた。
「それに、お部屋にどなたかが侵入されていると思いますと…不安ですわ」
ふらりとよろめいてコラーロに支えられると、コラーロがアドリブをし始めた。
「実は申し上げていなかったのですが、いくつか皇女様の持ち物がなくなっているのです…。私の管理不十分であることを皇女様はお許しくださいましたが…おかしいのです。何度探してもなくて…」
「それは良いのよ、コラーロ」
「ですがっ」
「貴方に危害がなければ問題ございませんわ」
「皇女様…皇女様はこんな失敗続きの私めにも、ほら、こうして褒美として多くの宝石を下賜して下さるのですよ」
私から下賜されたと、コラーロが腕に着けている大振りの宝石を皆に見せると、女性の何人かが目を見開いてている。そして侍従か騎士であろう1人の男性が声を出していた。
「ペルラは宝石が多く取れるらしいからな。わざわざ盗むか?」
「それもカメオって言えば、ペルラ産が最高級ってのは常識レベルだしな」
「それよりも、俺たちが聞くべきことがあるな…。テンペスタス子爵令嬢、これは由々しき状態かと思います。王宮内で陛下の許しなく皇女様の部屋に入り、おまけに盗難事件が発生しているということはカエオレウム王国の恥です。是非、テンペスタス子爵令嬢のお力を、その『皇女様のお部屋について話をしたと言うメイド』について詳細を教えていただけますか?」
騎士の1人はサラにそう言って、近寄ろうとすると、サラはあからさまに狼狽え始めている。
当然のことだ。だって、そんなメイドはきっと存在しないのだから。とはいえ、私の部屋にカメオが置かれていたのだから、誰かは確実に部屋に入っている。それはサラか、まぁテンペスタス子爵家縁の誰かで、あることは間違いない。
さっきまでの強気な発言を見るからに、私の部屋に陛下とそんな話になっていると知らなかったのだから、きっとサラ自身が入って置いたのでしょう。苦しい言い訳として、皇女様が過去に自分を招き入れた際に落とした、と説明出来たとしてもあれだけ『盗まれた』と騒ぎ立ててしまっていれば、難しいでしょうしねぇ。
答えを促すように、騎士が再び声をかけると今度はオケアノスがサラと騎士の間に立った。
「無礼だぞ。そなたは誰だ」
「これは申し訳ございません。私はグラディウス侯爵家の者です」
「侯爵家の末端風情が、サラに命令をして良いと思っているのか?」
「命令などではございません!王宮の秩序を守るのが我々近衛兵の勤めとご理解いただけないでしょうか」
オケアノスの返しを聞いて吹き出してしまいそうになる。これは完全にミスだ。侯爵家の末端風情?サラだって子爵令嬢に過ぎない訳だし、確かグラディウス家ってこの国の軍関係で上級の家ではなくって?
それに、階級で考えるのでしたらサラだって子爵令嬢に過ぎない。その子爵令嬢が先ほどまで皇女に対して部屋を開けろと言っているのは問題だと気がつかない、そのおめでたい頭に拍手をしたくなっちゃうわ。
ドゥ伯爵夫人の方を見れば、呆れたというように首を傾げてため息をついているではないか。
「……殿下、身分で発言を許す許さないというのは上に立つ者として宜しくございません」
「またあなたか。ドゥ伯爵は夫人にどのような教育をしているのだ?」
うわぁ…最悪。夫が妻を教育とか一体いつの時代のお話をされているの?
ほら、もうドゥ伯爵夫人なんて怒りを通り越して呆気にとられちゃっているし、周りの男性も女性もドン引きしているわよ。貴方達の後ろに立っているニックスすら軽蔑の眼差しを向けているのに気がつかないみたい。
私、自分のことではないのに少し居たたまれなくなって来てしまったわ。とりあえず貧血と称して倒れておこうかしら…となんて思っていると、私たちの輪の方を1人のおじいさん困ったように眺めている姿が見えた。
あの方は確かアガタが仲良くなって、色々私のために花を届けてくれている庭師の方だわ。
「ねぇコラーロ、ちょっとあの庭師の方がこちらにご用があるみたい」
「あら本当。アールトス爺ですね。ちょっと聞いて参ります」
同じく居たたまれなかったらしいコラーロはちょうど良いと言わんばかりに庭師の方へ小走りで言ってしまうのだった。
ドゥ伯爵夫人の放ったこの言葉で、周囲の人々はオケアノスとサラを遠巻きに見るようになり、小声で言い合い始める。
「私たちメイドはここの部屋に入ってはいけないって言われているものね」
「そうそう。侍女長のモレス伯爵夫人から言われているもの」
「というか、いくらサラ様がお優しいと言っても、皇女様のお部屋で見たこと聞いたことを軽々しく話すようなメイドがいるってこと?」
さて、ドゥ伯爵夫人に任せっきりというのも悪いし、少しつつこうかしら。ああ、コラーロも準備は万端のようだし、少し前に出ましょう。ここではせっかくの青ざめているサラの表情もオケアノスの思考停止な抜けている顔もみえませんし。
「ドゥ伯爵夫人がおっしゃるとおり、私の部屋にはアガタしか入れないようにお願いしております。陛下も『ルサルカ皇女のお部屋はある意味でペルラ領であるから、皇女の許可なしでは何人も入らぬように』と王宮の方々におふれを出して下さっているはずなのです。ですから、サラ様、そのお話をされたメイドの方を教えていただけませんか?」
「えっ?ええっと…どなただったかしら。ーフロス、いいえアリシアだったかしら…」
「そんな曖昧な方のお話を信じたのですか?…私、サラ様はこの国で最初のお友達だと思っていましたのに…サラ様は違ったようですね」
そう呟きながら、こっそり持っていたブローチの針を指に指して涙目になってみせると周囲の雰囲気は一気に私寄りになった気配がした。計画通りすぎて、にやけそうなのを隠す為に、俯いて顔を反らして続けた。
「それに、お部屋にどなたかが侵入されていると思いますと…不安ですわ」
ふらりとよろめいてコラーロに支えられると、コラーロがアドリブをし始めた。
「実は申し上げていなかったのですが、いくつか皇女様の持ち物がなくなっているのです…。私の管理不十分であることを皇女様はお許しくださいましたが…おかしいのです。何度探してもなくて…」
「それは良いのよ、コラーロ」
「ですがっ」
「貴方に危害がなければ問題ございませんわ」
「皇女様…皇女様はこんな失敗続きの私めにも、ほら、こうして褒美として多くの宝石を下賜して下さるのですよ」
私から下賜されたと、コラーロが腕に着けている大振りの宝石を皆に見せると、女性の何人かが目を見開いてている。そして侍従か騎士であろう1人の男性が声を出していた。
「ペルラは宝石が多く取れるらしいからな。わざわざ盗むか?」
「それもカメオって言えば、ペルラ産が最高級ってのは常識レベルだしな」
「それよりも、俺たちが聞くべきことがあるな…。テンペスタス子爵令嬢、これは由々しき状態かと思います。王宮内で陛下の許しなく皇女様の部屋に入り、おまけに盗難事件が発生しているということはカエオレウム王国の恥です。是非、テンペスタス子爵令嬢のお力を、その『皇女様のお部屋について話をしたと言うメイド』について詳細を教えていただけますか?」
騎士の1人はサラにそう言って、近寄ろうとすると、サラはあからさまに狼狽え始めている。
当然のことだ。だって、そんなメイドはきっと存在しないのだから。とはいえ、私の部屋にカメオが置かれていたのだから、誰かは確実に部屋に入っている。それはサラか、まぁテンペスタス子爵家縁の誰かで、あることは間違いない。
さっきまでの強気な発言を見るからに、私の部屋に陛下とそんな話になっていると知らなかったのだから、きっとサラ自身が入って置いたのでしょう。苦しい言い訳として、皇女様が過去に自分を招き入れた際に落とした、と説明出来たとしてもあれだけ『盗まれた』と騒ぎ立ててしまっていれば、難しいでしょうしねぇ。
答えを促すように、騎士が再び声をかけると今度はオケアノスがサラと騎士の間に立った。
「無礼だぞ。そなたは誰だ」
「これは申し訳ございません。私はグラディウス侯爵家の者です」
「侯爵家の末端風情が、サラに命令をして良いと思っているのか?」
「命令などではございません!王宮の秩序を守るのが我々近衛兵の勤めとご理解いただけないでしょうか」
オケアノスの返しを聞いて吹き出してしまいそうになる。これは完全にミスだ。侯爵家の末端風情?サラだって子爵令嬢に過ぎない訳だし、確かグラディウス家ってこの国の軍関係で上級の家ではなくって?
それに、階級で考えるのでしたらサラだって子爵令嬢に過ぎない。その子爵令嬢が先ほどまで皇女に対して部屋を開けろと言っているのは問題だと気がつかない、そのおめでたい頭に拍手をしたくなっちゃうわ。
ドゥ伯爵夫人の方を見れば、呆れたというように首を傾げてため息をついているではないか。
「……殿下、身分で発言を許す許さないというのは上に立つ者として宜しくございません」
「またあなたか。ドゥ伯爵は夫人にどのような教育をしているのだ?」
うわぁ…最悪。夫が妻を教育とか一体いつの時代のお話をされているの?
ほら、もうドゥ伯爵夫人なんて怒りを通り越して呆気にとられちゃっているし、周りの男性も女性もドン引きしているわよ。貴方達の後ろに立っているニックスすら軽蔑の眼差しを向けているのに気がつかないみたい。
私、自分のことではないのに少し居たたまれなくなって来てしまったわ。とりあえず貧血と称して倒れておこうかしら…となんて思っていると、私たちの輪の方を1人のおじいさん困ったように眺めている姿が見えた。
あの方は確かアガタが仲良くなって、色々私のために花を届けてくれている庭師の方だわ。
「ねぇコラーロ、ちょっとあの庭師の方がこちらにご用があるみたい」
「あら本当。アールトス爺ですね。ちょっと聞いて参ります」
同じく居たたまれなかったらしいコラーロはちょうど良いと言わんばかりに庭師の方へ小走りで言ってしまうのだった。
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