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やり直す時間

86:賢者の忠告

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「一体あれはどういうことなのだ!?オケアノス、説明せよ!!」

皇女が居なくなった後、騒然としつつもエッセ侯爵の冷静なフォローによってなんとか収拾がついた祭典が終わると、国王は息子へ怒りをあらわにした。
「祭典の中で皇女の命が狙われるなどっ!あってはならぬことだ!!それになによりも皇女の服!なぜ彼女があんな色を着ていたのだ!!」
「本当に。オケアノス、これは由々しき事態ですわよ?国王陛下へ申し開きをなさい」
夫の怒りに同調するように王妃も息子に冷めた視線を向け、不機嫌な口元を扇で隠しながら付け加える。
「そのせいでわたくし、王太后に嫌味を言われましたのよ?『カエオレウムは外から嫁ぐ者には厳しくされますから、王妃は安心できますわね』と」

両親にそう詰られるオケアノスは奥歯を噛み締めながら、床を見つめていた。
すると、横に居たサラが先に声を出した。

「国王陛下、王妃殿下、発言をお許しください!ーーオケアノス様は気を遣われたのです!」
「気を?誰にだ?そなたにか?」
「いいえ、陛下達にです」
「どういうこと?テンペスタス子爵令嬢、発言を許しましょう」
「はい。申し上げます。私が着ているドレスが本来はルサルカ様のために王妃殿下がご用意したとは聞き及んでおります。しかし、ルサルカ様のお気に召さないようで、着ていただけなかったと言うのです。…ね、オケアノス殿下、そうなのでしょう?」

サラは自分がドレスを受け取った際に聞いていた話をそのまま国王陛下達に伝えた。その話がオケアノスが適当に作り上げた嘘とも知らずに。彼女は人が言ったことを疑ったことがなく、言葉通りに受け取ってしまう素直な性格だったのだ。
オケアノスはサラが語った内容はこの場では何の意味も持たないと、両親の表情から察して急いで取り繕う言葉を発しようとした瞬間、王妃がバチンっ!と大きな音を立てて扇子を閉じた。

「オケアノスよ、私はあなたに失望しました。お気に召さない?そんなことは関係ないのです!!」
「しかし、母上!!」
「気に入る気に入らないではない!それならば別の服を仕立てれば良かったのだ!!カエオレウム我が国にそんな力もないと思っているのか?おまけに皇女に臣下の色を着せていることを、ペルラ皇帝に見られたのだぞ!!この責任をどう取るつもりだ!!」

自らの非を認めない息子に痺れを切らした王は、椅子の手すりに拳を何度もぶつけながら声を張り上げていた。父親がこれほど怒っている姿を始めてみたオケアノスは驚きつつ、父親が焦っているようにも見え不思議に思う。何がそれほど問題だと言うのだろうか、と国王が怒る姿を見ながら平然と考えていた。
そして、ルサルカを連れ去った男が居なくなる直前に父親に何かを耳打ちしたことを思い出した。

「ペルラ皇帝に見られたのが何だと言うのです。あんな弱小国に我がカエオレウムが負ける訳もございません。父上に対してもあのような振る舞いをして許されると思っているのでしょう…」
「その考えが間違いなのだ!!ペルラは決して弱小国ではない!!」
「弱小国でしょう。金も国土も、資源もない。あるのは歴史だけです。恐れる必要などないでしょう」

そう言ったオケアノスがバカにしたように笑っていると、国王は首を横に振った。

「弱小国ではないのだ。我々周囲の国々がどれだけあの国を欲したと思う?何度攻め込もうと思ったか分からない。攻め込もうとすれば軍隊に伝染病が流行し、船を出せば未曾有の大嵐がくる。ならば内側から崩そうと、人を送り込めばすぐさま見つかりその者の首だけが帰ってくる始末。害をなすとその国や王家が先に断絶するのだ」
「では何故あのような小さな国土で貧しく生きているのですか」
「彼らはそれで充分だと思っているのだ。他の領土など欲しくないのだろう。あの海とあの島さえあれば良いのだ」
「まさか」
「昔、先代国王のツテで数回だけだが大賢者に学問を習う機会があった。その時に言われたよ。『殿下、決してこの海の国には手を出してはなりませんよ。皇帝は魔女からこの世を終わらせる力を貰っているのですから』と」

と、深刻そうに話す国王に対し、あまりに突拍子もないことを言われたオケアノスは思わず吹き出してしまった。

「ふっ、父上、そんなのを信じているのですか?魔法はまだしもこの世を終わらせる力?ありえませんよ」
「有り得なくはないだろう。皇女がこの国に来た時の馬車の周りを見ただろう?先ほど皇帝が皇女を連れ帰る姿は?それに……私の前の妻は魔法使いの一族であった」
「あなた!!」

国王が言った最後の言葉に、今度は王妃がヒステリックな声を上げた。金切り声に近い声にオケアノスもサラも、当然国王も身を竦めた。
「す、すまん。つい…」
「ともかく!民衆の前で皇女が王太子妃の色ではなく、臣下の色を身につけて現れてしまったことは大変なことなのです。ーーテンペスタス子爵令嬢、私はこれまであなたのことを娘のように可愛がって来ましたが、少々特別扱いをしすぎたようですね。テンペスタス子爵には報告をさせていただきます。オケアノスは今回の件を払拭させるような皇女との仲をアピールするような対応を考えなさい」

王妃はそう言うとオケアノスとサラに出て行くように促し、扉をキツく締めさせたのだった。
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