悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

文字の大きさ
40 / 158
第一部

39.さて、どうやって少年を逃がそうか

しおりを挟む



―――異母兄……腹違いの兄弟か。
「……驚かないんだな、あんた」
「驚いていないわけではないよ」

 なんとなく予想してたから、そこまでね。
 異母兄弟ってことは、色ありは父親かな。
 ま、今そんなことはどうでもいい。
 少年をなんとかしなくては。

「それだけわかれば十分。逃げるよ」
「無理だ」
「しつこいわねぇ……。そんなにエヴァは強いの?」
「ああ、強い」
「…………」
―――知ってるわよ。けど、逃げ出さないと意味ないでしょうが。

 自分から逃げるのは無理みたいだ。
 ならどうしよっかなぁ……あ。

「先に一個教えて。ここが綺麗なのはなんで? 誰のため?」
「! あんたはどこまで知っているんだ」
「え? ぜーんぜん知らない。ほとんど知らない。だから聞いてるんでしょ」

 けれど少年の反応でなんとなくわかった。

「……なんで育てられてるの? 目的は?」

 暗殺者にすることだけじゃない。
 明らかに何か別の目的がある。
 じゃなきゃ、綺麗に保つ必要なんてほとんどないに等しい。

「―――人身売買」

 少年が一言、そう言った。

「幼児の人身売買をしている」
「なるほどね」

 なら納得が行く。
 買うのは金持ちの貴族だ。
 汚いところに足を踏み入れるはずがない。
 だから綺麗にしているのだ。

「俺は今日の売買の目玉だ。売られる」
「そう」

―――さて、どうやって少年を逃がそうか。

 手っ取り早いのはリンドール家に仕えさせ、鍛えて、強くなってからもう一度来てぶっ倒す方法だ。
 強引にやれるけど肝心の本人が嫌がってるし……なら、そうね、賭けてみるか。
 結構危険だが、主要人物メインキャラクターの少年が生きるため、そして私の読書のためなら仕方がない。
 ここは必要経費だ。

「売買用のコインとかあるの?」
「……魔力や宝石を売って、コインに変えられる。1コインの料金は1万円。コインの変換は受付でする。見た目が綺麗な人とか常連はサービスしてくれることもある……って、こんなこと知る必要あるのか?」
「ええ、あるわよ」

 少年の我儘な願いを叶えるためにはこれしかない。

「あなたを買うわ。私が」

 指をたて口元の近く当て、不敵に微笑んで見せる。

「……は? え?」
「ありがとね、少年。裏でコソコソ動かなくても正規の方法であなたを連れ出せばいいだけのことだもの」
「お前、頭大丈夫か!? 自分で言うのもなんだが、俺は高いんだぞ!?」

 おおー、本当に自分で言ってるな、おい。
 頭大丈夫か!? って……私をなんだと思ってるのよ。
 恩人(?)なのにひどいこと言うなぁ。

「最低でも一千万はかかる。そこからさらに値は上がるってのに……てか、金はどうするんだよ! 盗むのか!?」
「そんなことするわけないでしょ。私の魔力を売ればいいだけよ。それに、美人になれば少しはサービスしてくれるのよね?」
「……自分で言うか? 美人って。それにお前は幼女だろ、誰がどう見ても。美人っていうのは色気のある蠱惑こわく的な人のことを言うんだぞ?」

 失礼極まりないことを言う。
 確かに私は幼女で色気のない女ですよ。
 けど、この世界には魔法がある。
 姿形なんて変えられる。
 舐めんなよ少年。
 読書のために鍛えた私の魔法の精度を侮られては困る。

―――【変色】【成長】【促進】【幻惑】【魅了】【創造】【顕現】
「……!!?」

 誰もが認める色気のある女性に、少年が目を大きく開いた。
 甘い香りのしそうな艶《つや》のある蜂蜜色の弱巻毛のロングヘアー。
 神秘的で蠱惑的なアメジストの瞳。
 黒を基調としたセクシーなボンテージのゴシックロリータ風のワンピースに、スタイルを引き出すコルセット。
 網タイツにヒールの靴。
 ところどころに散りばめた美しい蝶や花の飾りはくどくなく美しい。
 そんな美しい魅力的な女性は誰でしょう。
 はい。そうですね。私です。
 ユリアーナ・リンドールが変身した姿です。

「おま、え……」
「うーん、名前、どうしようかしらねぇ。あっ、ヴァイオレットとかどうかしら。ヴァイオレット。うん、いいわね。そうしよ」
「そうじゃなくて!」
「ん?」
―――あ、もしかして恥ずかしくなっちゃったのかな? この胸、大きいもんね。私もびっくりしてるよ。

 もちろん変装した姿なのでわたしの未来の姿とかではない。
 美人さんの方がサービスしてくれるとのことだったので前世の知識を活かしてボンキュッボンのナイスバディなお姉さんにしてみた。
 大きい胸にむっちり太もも、ぺったんお腹の素晴らしいスタイルの女性だ。
 大丈夫だ少年。
 私にもそういう心理の理解はある。
 安心したまえ。
 勝手にそう解釈して私は話を進めた。

「じゃ、またあとでね~」
「っ、おい! 待てっ!」
―――あ、そっか。忘れてた。【復元】
「っ……!」

 少年の枷を元に戻す。

「バレたらまずいもんね。これで大丈夫よ」
「いや、ちが……っ!」
「私もそろそろ見つかったらまずいから行くね。バイバイ」
「あっ、まっ……!」
―――【透明】【隠蔽】【同化】

 私は姿を隠して取引会場を探しに行くのだった。
 しかし少年の部屋から出る時、廊下にエヴァが隠れていたことを私はわからなかった。



――――――――――――

補足/
 病弱で引きこもりのだったくせになんでエロいお姉さんになれるんじゃい、と言われることを考えてここで説明させてください。
 今回ユリアーナがヴァイオレットになるときに創った服は、コンビニの入り口付近にあるグラビア写真や、一時期同じ病室で過ごした男の子に借りた漫画に出てくるみんなが理想のお姉さんの服をイメージして創りました。
 ユリアーナが素敵なお姉さんになれたのは運が良かったからです。基本的に性教育系の知識はありません。
 魅惑的、蠱惑的という言葉を知っているのは、同じ病室で過ごした男の子に教えてもらったからです。

小話/
ユリアーナ「肌の露出面積が高ければいいんでしょ? 高ければ。そしたら自然とエッチなお姉さんになるよ(ドヤ)」
ルア「出す場所によるだろ、出す場所。やり過ぎるとただの変態痴女になるぞ(真剣)」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...