悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

文字の大きさ
54 / 183
第一部

53.お願い、間に合って……っ!

しおりを挟む



 私は少しの間考えてお母様にお願いした。

「一つだけ、約束してほしいことがあるの」
「んー、内容によるわね。教えてくれる?」
「ルアのことを、絶対に傷つけないで」
「…………」

 ルアは〈黒竜の末裔〉だ。
 私はルアの全てを知らないから、傷つけられたことにより過去のトラウマを思い出して力が……だなんて展開になると困るのだ。
 それに、ルアはまだ警戒している。
 ここが危険な場所と判断すると、未来に影響が出る。
 それだけは避けなければならない。

「わかったわ。〈精霊の愛子〉フェーリ・リンドールの名のもとに、あなたの要求を受け入れます」

 私はほっと息をつく。
 だが、それも束の間。

「だから剣を下ろして、ディール」
「!?」

 見ると、怒りマックスの笑顔で剣を取り出し剣先をルアに向けているお父様の姿が!

―――えっ、嘘、お父様!? やばいやばいやばいやばい!!

 お父様はこの国の騎士団の団長だ。
 剣も物理も魔法もいけるとても強い人である。
 超硬い魔力封じの枷をつけても力技で破壊して相手を殺《や》りにくるお父様。
 味方だと頼もしい……が、敵だとこの世の終わりを悟ってもおかしくない。

―――お父様が本気を出したらルアが死んじゃうよ!!

 お父様が踏み込むのと同時に、私はいくつもの魔法を発動させた。

―――【防御】【隠蔽】【結界】【補強】【複製】!

 防護結界を幾重にも重ねるが、壊されても不思議じゃない。
 それぐらい、お父様は強い。

―――お願い、間に合って……っ!

 ぎゅっと目を瞑り、力を振り絞る。
 目の前に広がる光景がどのようなものか想像したくなくて、見たくなくて、恐怖で全身が震える。
 だが心配する必要はなかった。
 次の瞬間、お母様がある言葉を紡いだ。

「ローサ、リリィ」

 それは、花の名前。
 気高い真紅の薔薇と、無垢な純白の百合。
 けれど、お母様が意味するのは花の名前ではなく〈精霊〉の名前だ。

「大丈夫よ、ユリアーナ」

 お母様にそう言われて、私は恐る恐る目を開けた。
 すると―――

「……、……っ!?」

 そこには植物によって動きを止められたお父様と、信じられないものを見る目をしたルアがいた。

「ごめんなさい、ユリアーナ。少し怖い思いをさせてしまったわね。あとでお父様にはちゃんと言っておくから、安心して」

 お母様は私の頭を優しく撫でた。

「お母様はお父様みたいに乱暴しないし、怒ることもしないから、あの子のことを教えてくれる? ユリアーナ」

 お母様はおっとりとした声でそう言うが、私はお父様が今にも植物の蔦《つた》などを引きちぎってルアを傷つける気がして、不安で仕方がない。
 しかもお父様の目がヤバい。

―――『殺す』って目をしてる。

 ……怖い。
 怖くて気が気じゃいられない。
 そんな私の気持ちを感じ取ったのか、お母様が「ディール」とお父様を呼んだ。

「殺気を抑えて。ユリアーナが怖がってる」
「……だが、フェーリ」
「いいから。やめてって言ってるの」
「……」

 お父様は渋々剣をしまう。
 植物による拘束は解かれない。
 多分、拘束したままじゃないと私が安心できないのだと思ったのだろう。

「これで教えてくれる?」

 私は頷くと、落ち着いて話した。
 いつお父様がルアに攻撃するかわからないが、お母様がひとまずお父様の激情を鎮めてくれたので、さっきよりも緊張が解けた。
 それに、お母様の植物の拘束があれば、今のお父様にルアに攻撃することはできないだろう。
 だってお母様は、から。

「ルアは……あ、えっと、ルアって名前なんだけど」
「うん」
「私の護衛として、従者にしてほしいの」

 周りにどよめきが起こるが、お母様は「あら、そうなの」と言った。
 何も驚いていない。
 不思議だ。

「ルアは、すごく強いの。誰かのために戦うことができる子なの。だから認めてほしい、です」

 私なりに伝えたつもりだ。
 だが、お父様は認める気がないらしい。

「そんなやつを大事なユリアーナのそばに居させるものか!」
「っ……」
―――やっぱり、無理なのかな……。

 公爵家の私が、ルアを従者にする。
 それを聞いて人が思うのは二択。

 ルアをとても強いと思うか。
 リンドール公爵家が落ちぶれたと思うか。

 金がない、だから平民を護衛にする。
 そう、捉える人は少なくない。
 世間体は重要だ。
 だから簡単に人を雇うわけにはいかない。
 信用と、実力があって成り立つ。
 それが貴族の世界だ。

「一つ教えて、ユリアーナ」

 お母様が私に聞いた。

「あなたがこの子を望むのは何故?」
―――私が、ルアを望む理由……。

 そんなの、一つしかない。
 未来の読者時間確保のため?
 安心安全に暮らすため?
 ううん、それもあるけど、違う。

「―――ルアが私を守ると言ったから」

 ルアは、私を守ると言った。
 私はそれを信じるだけだ。



――――――

補足/
 リンドール家は代々騎士団に所属し、騎士団長に就任することが多くあります。リンドール家から騎士団長を輩出するのはディールで8人目。
 リンドール以外ではルミエール家が多く、次期騎士団長はルミエール家の後継が有力と言われています。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...