悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

64.わかんねぇ……

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「さて、二人きりになりましたし演技は不要です。ユリアーナ様」
「……なんのつもり?」
「契約を果たしに来ました」
―――それはわかってるよ!

 私が聞きたいのは契約のことじゃない。

「専属教師って言ってたけど、本気? わざわざ契約を果たすためだけにそんな役職になる必要あった?」
「主に二つの理由があります」

 エヴァはそう言うと、話し始めた。

「まず一つ、私は、ユリアーナ様の持つ知識を知りたいと思っています」
「⋯⋯知識? 私の??」

 話を聞くと、どうやらエヴァは私のただならぬ知識……なんてすごそうなことになってる前世の知識がほしいらしい。
 何に使うのか聞くと、「それは秘密です」と言われた。

「……どういうことを知りたいのよ」
「たくさんありますが、そうですね。この世界の未来について教えていただきたいです」
「……そんなの知らないわよ」

 逆に教えてほしえてほしいぐらいだ。

「で、もう一つの理由は?」
「清々しいほどにばっさりと話題を変えましたね」
「本題に戻しただけよ」

 躊躇していたらエヴァに話を持っていかれてしまう。

「二つ目の理由ですが、私はフェーリ様にお願いされて専属教師になりました」
「えっ!? お母様が!?」
「はい。『ユリアーナの教師になってくださらない?』と」
―――ありそー……。

 お母様なら普通にありえる。
 あれ、でも……。

「エヴァはどこでお母様と会ったの?」

 二人に接点などないはずだ。

「仕事中に急に現れて話を持ちかけられました」
―――可愛く微笑むお母様が想像できる……。
「『教師だなんて面白そうだと思わない? 教え子が成長していく姿を見るのは楽しいわよ』と言われました」
「……それで、受けたの?」
「こちらのことを握られましたからね。旦那様は騎士団長ですし」
「ああ、たしかに」
―――お父様に突っ込まれたら一発ノックアウトだろうね。

 容易に想像できる。

「というわけですので、今後もよろしくお願いします。ユリアーナ様」
「……ルアへの説明が大変なんだけど」
「そこは主人の腕にかかっています」
「はぁ……」

 猛反発しそうだがなんとかするしかない。
 ああ、また仕事が増えた……。

「基本的に毎日会うことになると思います。勉学、魔法、社交などほぼすべてのことを私が教えることになるでしょう。……ああそうそう。剣術などの護身術も教えるかはユリアーナ様が選んでください」
「えっ!」

 それはお父様が「絶対ダメ! 危ない! 危険! 禁止!」と言ってできなかったはずだ。

「フェーリ様が『夫はなんとかしておくからユリアーナがしたいことを教えてあげて』と仰っていました」
―――おおおぉっ!! お母様すごい!
「ということで護身術は……」
「やります! やりたいです!」
「かしこまりました」

 健康な体ならきっとできるはず!
 前世でできなかったやりたいこと、ぜんぶやってみせるんだから!

「では契約内容に移ります。よろしいですか?」
―――そういやそっちが本命だったな。

 私は頷き、エヴァの話を聞いた。

「まず一つ目のユリアーナ様を暗殺しようとしたことですが、依頼が入ったのが理由です」
「依頼? 誰から?」

 まさかブライト様?
 ……いや、さすがに王族が暗殺者出したってバレたらやばいもんな。

「―――ユリアーナ様を一番敬愛し、崇拝し、お慕いする者から」

 エヴァが真面目に言うので、私は思考が止まった。
 
「……えっと、なんて?」
「ですから『ユリアーナ様を一番敬愛し、崇拝し、お慕いする者から』です」
「……答えになってません。誰なんです、その人」
「私も知りません。ですが、依頼主はそう名乗っていましたよ」
―――私を一番敬愛して崇拝して慕ってる人が私の暗殺を依頼してる? 矛盾してない?

 誰なんだ?
 全くわからん。
 でも、少なくとも一度は会ったことあるはずだよね?
 なんなんだ、いったい。

「そんな人の依頼、なんで受けたんです?」
「……それが、のです」
「…………え?」

 あのエヴァが?
 わからない??

「わからないってどういうこと?」
「依頼で暗殺しようとしたのは確かです。けれど、依頼主のその名前以外覚えていないのです」
「……つまり、記憶を消されてるってこと?」
「そうなります」
―――はあぁ……。

 私は頭を抱える。
 次から次へとどうしてこうも面倒なことが増えていくのだろう。

「その人の特徴は?」
「暗い場所でもよくわかる、綺麗な赤い目をしていました。骨格からして女性だと思われますが、姿を変えられている可能性が高いのでなんとも言えません」
―――赤い目の女性、か。

 赤い目は悪役、魔族、いじめられっ子などに多い。
 前世だと虐げられ系の主人公ヒロインの特徴として多くなっていた気がする。

「髪の色は?」
「おそらく黒です」
「歳は?」
「20代ぐらいかと」
―――わかんねぇ……。

 異常者とか変人にしか思えない。
 でも主要人物メインキャラクターとも思えない。

「何かわかり次第お伝えします」
「ん、お願い」

 一旦この件は保留だ。
 考えたって、わからないものはわからないのだから。

「では、私が人身売買を通して行いたいこと、そして、私から見たユリアーナ様の見解をお話しさせていただきます」



――――――――――――
著者から/
 エヴァがフェーリに専属教師にならないか、と誘ったときの短編はこちらです。

https://kakuyomu.jp/users/shidukiyua/news/16818792438370462536
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