悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第二部

103.エトワール魔法学校

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「ユリィ、フィル、こっちこっち」

 エリィ姉さんに手招きされ、向かうと、そこにはたくさんのお菓子が用意されていた。

―――どれもおいしそう……っ!

 さすがエリィ姉さん。
 レティシア様と並ぶ社交界の名だたる令嬢のエリィ姉さんの選ぶお菓子は最高に美味しい。
 よく時間を忘れて本を読んでいる時に、エリィ姉さんからお茶会を誘われる。
 きっとサーシャあたりが頼んでいるのだろう。

―――どーれっをたーべよっかなー?
「今日はシフォンケーキがおすすめだよ、ユリィ。とってもふわふわしてるの」
「そうなの? じゃあそれにする!」

 ……あれ?
 私、エリィ姉さんにどれを食べるか迷ってたの、言ってたっけ?

「はい。どうぞ、ユリィ」
「! ありがとエリィ姉さん! ……わっ、めっちゃふわふわ!」

 生クリームとキャラメルソースがかかった白いシフォンケーキだ。
 ナイフを入れると、もっちりふわふわとした感覚がある。

「いただきます」

 口に運び、咀嚼する。

「~~~~っ!!」
―――やばい。めっちゃうまい。

 ふわっと雪のように口の中で溶けていくのがわかる。
 キャラメルソースは甘すぎず、少しの苦味とともにシフォンケーキを包んでいる。

―――というか、見た目もすごい。

 真っ白な生地と生クリームの境目がわからないほど、綺麗に仕上がっている。
 なんで美しいケーキなのだろう。

「……い、ユリィ」
「っ、あっ、なに?」
「ふふっ。おいしすぎて、私の声にも気づかなかったの?」
「うっ、その通りすぎて何も言えない……」
「ユリィって食べるの好きだもんね~」

 本より好きなことを挙げるとしたら、私は迷わず食事というだろう。
 ちなみに2番目は寝ることである。
 さすがの私も三大欲求には抗えない。

「それにしても、そろそろ入学かぁ。まさか、ユリィと一緒に入学できるなんて、想像もしてなかったわ」

 この春、私とエリィ姉さんはアンリィリル王国屈指の魔法学校・エトワール魔法学校に入学することが決まっている。
 本来なら15歳にならなければ入学できないのだが、今回、私はとして特別待遇で入学することになった。

―――何も起こらないといいんだけど……。

 だが、きっとそれは不可能に近い。

『エトワールに入学してほしい、って……どういう意味ですか』

 事は1年前、魔法協会で行われた一級魔術師が集う議会までさかのぼる。

『そのままの意味ですよユリアーナ様。あなたには来年、エトワール魔法学校に入学してほしいのです』
『何故です? 何故、こんな急に?』
『先週、機密事項として帝国から言われたのですが―――3年後にラーマオ殿下がエトワールに入学するそうです』
『!!?』

 ラーマオ様はアンリィリル王国の南部にある大国・グランティルド帝国の皇太子で、我が国の王女、クローリス様の婚約者だ。

『帝国が我が国を狙っているのはご存知ですね?』
『はい』

 帝国は軍事国家だ。
 人も領地も欲しくなったら他国に攻めて奪い、手に入れる、そういう国だ。
 アンリィリルが侵略されていないのには2つ理由があるとされている。
 ひとつは国境となっている険しい山脈があること。
 もうひとつはアンリィリルの北部にある大国・フリジア王国が帝国を牽制していること。
 帝国とは貿易が盛んで、日々、新たなものが取り入れられているが、いつ戦争になってもおかしくない。

『帝国は我が国と戦争をしたがっています。もし、帝国の皇族に何かが起きれば、それを戦争の火種とし、即座に帝国は侵攻を始めるはずです』
『……だからラーマオ殿下を護衛するために本人が入学される1年前に入学しろと?』
『アンリィリルの護衛を拒まれた場合を想定して、事前に入学していてほしいのです。さすがに「護衛は必要ないから」という理由で1年前に入学した生徒を退学させることは難しいでしょうし』

 それに、と新たな可能性を提示する。

『エトワール内だとブライト殿下とノーブル殿下の護衛がどうしても手薄になります。もしエトワール内で狙われ、どちらともお亡くなりになられた場合、王位継承権はクローリス殿下が第一位となるため、必然的にこの国の王は婿入りせざるを得ないラーマオ様となります』
『! そうなれば……』
『帝国が統治していると言っても過言ではありません』

 ブライト様とノーブル様が亡くなった場合、最も得をするのは帝国だ。

『そこでユリアーナ様にはエトワールで生徒として入学1年目にブライト殿下とノーブル殿下の護衛を、2年目以降はそれに加えてラーマオ殿下の護衛をお願いしたいのです』
『ちょ、ちょっと待ってください!!』

 何故に魔法学校に入学して護衛しないといけないのだ。
 私よりも強い魔術師はここにいる。
 なのにどうして―――

『この中で一番エトワールにいて違和感がないのがユリアーナ様なのです。「一級魔術師としてさらに魔術を学びたい」とでも言えば大抵の人は納得してくれます』
『うっ……で、でも、エトワールは全寮制です。殿下たちは男性で、私は女性なので、一日中守ることはできません。それに、私の年齢ではまだエトワール魔法学校には入れませんし―――』
『男子寮にはとても丈夫な結界を事前に施せばなんとかなると判断しました。結界は定期的に張り直すので老朽化の心配はいりません。また、になれば入学時の年齢は関係ありませんのでご安心を。それに、ユリアーナ様の姉君はブライト殿下の婚約者でしょう? 妹のユリアーナ様が殿下たちの近くにいてもおかしなことではないかと』

 ひとつひとつ丁寧に私を選ぶ理由が挙げられる。
 私以外に生徒として学校に入れる人はいないこと、入学しても違和感がないことなど、私以上の適任者がいないことを示す。

『……で、でも、エトワールの生徒となれば四六時中護衛できるわけではありません。授業を受けなければなりませんし、選択授業がすべて被ったら怪しまれます』
『別に、四六時中護衛しろとは言っていません』
『えっ……?』
『ユリアーナ様が対処しなければならないほどの脅威がそんな毎日現れるとは思っていません。そんなことが起これば殿下たちには王宮に戻ってもらいますよ』

 そのあとの長い長い説明を要約すると、どうやら私は相当な騒ぎが起きない限り、一級魔術師として動かなくていいとのことだ。
 基本的には好きに過ごしていいが、敵襲時には臨機応変に対応、殿下たちの護衛を最優先に動けと指示された。

『一級魔術師の任務はどうすればよいのですか? 学校生活と護衛任務以外の任務の両立は難しいと思いますよ……?』
『ユリアーナ様に回るはずだった任務は私たちが請け負います。安心して殿下たちの護衛をしてください』

 というわけで、私はエトワール魔法学校に入学することになってしまった。

―――なんで私が……。

 と思いつつ、私以上の適任者がいないことはわかっている。
 常に殿下たちの近くには優秀な護衛(公式)がいるとのことなので、ほとんどのことは大丈夫らしいが⋯⋯やっぱり心配になる。

―――私が入学する意味、本当にあるのか?

 まあ、メインは来年入学するラーマオ様を護衛するための根回しだ。
 気楽にいこう。
 すると、フィルがエトワールについて尋ねてきた。

「エトワールは全寮制とお聞きしました。姉さまたちは同じ部屋で過ごされるのですか?」
「全寮制なのはあってるけど、私とユリィは同じ部屋でもなければ、同じ寮でもないわよ」
「えっ!? エリアーナ姉さまとユリアーナ姉さまは、違う寮で過ごされるのですか?」

 エトワールには男子寮、女子寮ともうひとつ、特別寮と呼ばれる寮があり、特待生のみが使うことのできる寮が存在する。
 エリィ姉さんは特待生ではなく一般生徒なので女子寮を使う。
 だから私とエリィ姉さんが同じ寮になることもないし、当然、同じ部屋になることもない。
 ちなみに特別寮は他の寮より学校から少し離れているため、ハズレ寮と言われているらしい。
【転移】を使えばどこにあろうと関係ないのに、変なの。

「それと、エトワールは休暇が少ないとお聞きしました。入学後、リンドール邸へ戻られるのはいつになるのですか?」
「うーん……外出申請が必要になるから、すぐには難しいね。あ、でも冬休みは絶対に帰ってくるよ。2ヶ月の長期休みだもん。家でゆっくり過ごしたいな」
「冬休み……」

 フィルは悲しそうに目を伏せる。

「帰ってきたらいっぱい遊ぼう、フィル。約束するわ」
「ユリアーナ姉さま……」
「少しの間、離れることになるけれど、私たちの絆がなくなるわけではないわ。お互い、頑張りましょう」
「エリアーナ姉さま……」

 フィルは頷くと、「約束」と言って、両手の小指を向ける。
 私はエリィ姉さんと見つめ合い、笑って、自分の小指とフィルの小指を絡める。

 そして時は過ぎ、エトワールの入学式となった。


――――――――――――
まとめ/
 ユリアーナがエトワールに入学する理由をうまくまとめられているか心配なので、簡単にまとめさせてください。
・1年生:ブライトとノーブルの護衛
・2年生:↑+ラーマオの護衛
・3年生:2年生と同じ
・卒業後:未定

補足/
 魔法部門において最も優れている学校はエトワール魔法学校です。全寮制で15歳から18歳の少年少女が通います。つまり高校ですね。エトワール侯爵家が運営しており、貴族が多いです。
 エトワール家は代々王宮図書館の管理を任されており、また、優秀な魔術師を輩出していることで有名です。教師になる人も多いのだとか。真面目で努力家な人が多いです。
 武術部門において最も優れている学校はルミエール学院です。ルアが編入したところですね。「白と黒の要塞」と呼ばれるほど厳しい場所です。9歳~18歳までの男女が通う全寮制の名門校で、ルミエール侯爵家が運営しています。
 ルミエール家はリンドール家と並ぶ、優秀な騎士を輩出する家です。伝統を重んじる保守派ですが、時々家の圧力によって世渡り上手なチャラい人が生まれるそうです。

情報/
 今回ユリアーナが食べていたシフォンケーキはGREEN HOUSE By MERCER BRUNCHというお店のものを参考に書かせてもらいました。写真で見ていたものよりも大きくて、とっても美味しいので、皆様にもぜひ食べてみてほしいです。
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