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第二部
161.ドキドキ☆夏休み企画
しおりを挟む「ユリユリ~!」
―――んん……なんだ……? ノエル先輩……?
星詠みの夜の翌日。
私はノエル先輩の呼ぶ声で目が覚めた。
よたよたと重い足取りでドアを開けると、いつもの元気なノエル先輩がそこにいた。
「あれ? ユリユリ、今起きたの?」
「……ちょっと、眠くて」
「ふうん。でも今、9時だよ?」
「9時、ですか」
「うん。朝の9時。今夜の舞踏会に気合入れてる子はすでに準備し始めてる時間だね」
「めっちゃ気合入りまくりじゃないですか……」
舞踏会は夜7時からだったはずだ。
まだあと10時間もある。
「毎年数人はいるよ。婚約者探しに必死なんじゃない?」
「……あー」
公爵家ともなれば幼少期に婚約するのは普通だが、男爵や子爵などの貴族の場合、婚約していない人のほうが多い。
将来の伴侶を探すため夜会やパーティーに出席する人は少なくない。
結婚相手は人生においてかなり重要度が高い。
できることなら爵位が高くて勉強ができて魔力も多くて……と思う令嬢、令息はいる。
そんなハイスペックな人間はなかなかいないので、高望みするほど婚約は遠ざかるだろう。
「それで、何の用です?」
「あっ、そうだった! ユリユリ、ちょっと大広間に来て。話したいことがあるの」
「話したいこと?」
それも大広間で……。
となると、内緒話というわけではないのか。
私だけじゃなくて、他の人にも話したいことかもしれない。
「すぐ着替えますので、少し待ってもらえますか?」
「ん。分かった。先に行って待ってるよ~」
私は急いで着替え、髪を梳かし、大広間へ向かった。
―――おや。
そこにはすでに私以外の特待生が座って待っていた。
グレース先生もいる。
いないのは……ライラ先輩だけか。
「適当に椅子に座ってね、ユリユリ」
「はい。……あの、ライラ先輩は?」
「ライラは家に帰ったぞ」
「え?」
「だから、ライラは家に帰った」
「えぇっ!?」
ライラ先輩が、家に帰った?
「ユリユリ、ライラにだって帰る家はあるよ?」
「あ、すみません。すごく失礼なことだとは分かっているんですが……あのライラ先輩に帰る家があっただなんて、知らなくて」
「本当に失礼なこと言ってるね」
「気持ちは分からんでもない。ライラは基本、しゃべらないからな」
私はライラ先輩の年齢も、家族がいるのかすらも知らない。
しゃべったこともない。
ライラ先輩のことを知る日は来るのだろうか。
「はい。じゃあ話を始めます! どぅるどぅるどぅるどぅる~~パンパカパーン!! 今年もやります! ノエル先輩のドキドキ☆夏休み企画~~!」
―――テンション高いな……。
フォルツァ先輩は「またか」と言い、私たち1年生組は何が始まったのか分からずただただ静かに黙っている。
「あのねあのね、あたしたち、同じ寮内で暮らしてるのに、全ッ然一緒にいないじゃん? お互いのことあんまり知らないし、なんか、すごく悲しいな~って思うわけですよ」
カレンと同じことを言っている。
だが、お互いを知らないのは事実だ。
特にライラ先輩はそう。
「そこであたしは特待生同士でもっと仲良くなろ~って企画を提案します! お泊まり会とか、カードゲームとか、探検とか⋯⋯いっぱいしよ!!」
「あ、あの、ノエル先輩」
「なんだいシャノンちゃん?」
「わ、私たちはいつも、特別寮に住んでいるのでお泊まり会というのは、その、ちょっと変ではないでしょうか?」
それは私も思っていた。
だいたい、お泊まり会をするとして、どこで寝るのだ?
「ちっちっちっ。よく聞きたまえシャノンちゃん。お泊まり会というのはね、雰囲気が大事なんだよ!」
「雰囲気、ですか」
「そう! だからやるとしたらここの大広間の机を撤去して~⋯⋯」
「私は許可しないぞ。ノエル」
「えっ、なんでよ、グレース先生?」
「こんなでかい机をどこに動かすんだ。それに、おまえの場合『撤去=破壊』だ」
撤去と破壊では意味が全く違う。
が、ノエル先輩なら『撤去=破壊』となる。
「えぇ~。じゃあお泊まり会はナシ?」
「そうなるな」
「じゃあゲームと探検を⋯⋯」
「あのな、ノエル」
「ん?」
「ここにいる奴らは全員夏休み中帰省する」
「えぇっ!?」
まぁ、普通はそうだよね。
夏休みは1ヶ月。
家に帰らない人のほうが少ない。
「す、少なくともユリユリは家に帰らないんじゃなかったの!?」
「たしかに私は帰省しませんが、一級魔術師の仕事がありますので」
「そんなぁ~~!!」
ノエル先輩が半泣きで床に転がって駄々をこね始める。
嫌だ嫌だと全身を使って暴れる。
―――【結界】
物の破損が心配なので周囲の物に結界を張る。
結界は強めに創ったほうがいいかな。
ノエル先輩相手だとすぐに壊されそうだ。
「あ、あの、ノエル先輩⋯⋯」
カレンが声をかけると、ノエル先輩はバッと起き上がって訊く。
「カレンちゃんは残ってくれるの!!?」
「あ、それは、ごめんなさい」
しゅんと落ち込むノエル先輩。
でも、とカレンは続けた。
「夏休み最終日でしたら、また寮に戻って来れそうです」
「! ほんと!?」
「そ、それでしたら私たちも⋯⋯ねっ、カルム?」
「⋯⋯そうだな。事故や災害に備えて、余裕を持って帰ってくると思う」
「私もカルムたちに同意だ」
「フォルツァ⋯⋯」
長い期間は難しくとも、皆、1日ぐらいなら調整できると考えたのだろう。
ノエル先輩が明るさを取り戻して行く。
「ユリユリは? ユリユリも帰って来れる?」
帰っては来る、が、私は夏休み明けから臨時教師として働くので荷物等々は教師の使用する教員寮に移動することになっている。
私が臨時教師をすることは関係者以外知らないので、当然、ノエル先輩たちも知らない。
「―――最終日だけは空いてます。1日だけになりますが、それでよければ」
「~~っ! じゃあ、絶対絶対、最終日帰って来てね! 企画を用意しとくから!」
「あ、企画に関してはグレース先生の許可をもらったもののみでお願いします」
「え?」
「なんか、心配なので」
うんうん、とノエル先輩以外のみんなが頷く。
―――最終日遊んで、特別寮の部屋に戻ったらこっそり転移すればいいか。
保険としてユリを私の部屋に待機させておこう。
これが一番安全だ。
「⋯⋯皆、ノエルのわがままに付き合ってもらって、悪いな」
「ちょっとグレース先生!? あたしのわがままって、どういう意味?」
「⋯⋯」
「無視しないでよぉっ!」
こうして、私の夏休み最終日の予定は埋まったのだった。
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