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第二部
162.会合の詳細
しおりを挟むエトワールの舞踏会には、ほとんどの生徒が参加する大規模な夜会らしい。
そしてこの舞踏会では婚約者がいる場合、相手の男性から贈られたドレスを着て参加するのが女性のマナーのようなものなのだと言う。
『シュヴァリエ家の者をそちらに向かわせますので、安心して部屋でお待ちください』
異学年交流魔法戦の前、エリィ姉さんたちと6人でお出掛けした時に、私のドレスはアルトゥール様が生地から色まですべて選ぶことになった。
そういうわけで、私は自分のドレスについて何も知らない。
舞踏会当日にシュヴァリエの侍女がドレス一式を持って私のところへ来る、とアルトゥール様に言われたが、これって普通なのだろうか?
『いい、ユリィ? 贈り物をされたら、素直に受け取るのよ。断るほうが失礼だってこと、忘れないでね。相手の善意を無下にするのは淑女のすることではないわ』
エリィ姉さんもこう言ってたし、私は静かに待つべきなのだろうが……こういうのって初めてだから、なんだか緊張する。
すると、コツコツと何かをたたく音が聞こえた。
―――なんだ……?
魔力反応は、ない。
人ではないのか?
となると考えられるのは……
―――あっ。
私は音のしたほうを振り向く。
防犯のためにカーテンを閉め、鍵をかけた窓を見て、私は確信した。
急いで開けると、羽音と共に金色の小鳥が入ってくる。
ポポロだ。
「ごめんポポロ。気づくの遅くなって」
「ポロロッポロッポポッ」
「許してくれるの? ありがとう」
ポポロの足に一通の手紙が括り付けられている。
いったい誰からだろうと見ると、一輪の薔薇と羽が描かれた封蝋が押されていた。
差出人の名前はなかったが、その封蝋だけで私には十分だった。
―――夏の会合の詳細……!
一級魔術師全員出席の会合は、いつも開催の数日前に詳細の手紙が届く。
―――場所はいつもの水晶の間で行われるのね。
水晶の間、というのは王宮に存在する一級魔術師のみ使用を許可された特別な部屋だ。
今回の夏の会合のように重要な場合に使用することもあれば、一級魔術師同士のお遊びの魔法戦で使うこともある。
お遊びと言っても、一級魔術師ともなればひとつの魔法の威力はとんでもなく大きくなるため、普通の魔法戦の競技場では半壊しかねない。
そこで一級魔術師専用のものすごく硬い魔法戦専用の結界を張ったのが水晶の間なのだ。
―――要は、加減のできないバカのために用意した部屋ってわけだよね。
ただ、会合で話す内容は一般人には秘匿しているものもあるので、水晶の間は必要不可欠な部屋だ。
年にたった2回しか本来の使い方をしてないが、それは気にしてはいけない。
―――今回の話し合いの内容は〈竜〉襲撃の事件がメイン、か。
納得の案件である。
〈竜〉による被害なんてここ数年受けていなかったのだ。
それが急に王都近くのエトワールに、それも、召喚によって現れたとなると、無視はできない。
―――そんで日にちは……んん!? 明日!!?
何がどうして明日になった?
普通、会合は数日前に連絡が来るはずなのに、前日通達ってどういうこと!?
会合の日程調整等々はリュカ様の仕事のはずだ。
あの真面目なリュカ様がこんなことするとは思えない。
「……ポポロ」
「ポッ?」
「これ、いつもらったもの?」
「ポー……ポポッ、ポロロッポ! ポロ、ポロロッ!」
「へぇ。昨日? 誰から受け取ったの?」
「ポッポポポッ、ポロッ」
―――あ~! やっぱりヴィンセント様か……っ!!
ポポロによると、昨日……というか今日の明朝、ヴィンセント様に渡されたらしい。
『すまんポポロ! これ、ユリアーナに渡してくれ! リュカさんから頼まれていたのをすっかり忘れていたことは教えないでくれな!』
ポポロは一級魔術師の情報伝達係(人外部門)となってから、今年で数年目。
よってこの手紙の重大さを理解していたため、急いで届けに来たらしい。
―――なんでポポロはこんなに賢くていい子なのに、ヴィンセント様は一切成長しないのだろう……人間って、不思議だ。
というか、なんでリュカ様はヴィンセント様に頼んだのだ?
夏休み明けのエトワールでの臨時教師仲間だからか?
にしたって人選が悪すぎる。
「ポポッ、ポロロッ。ポポポポロポポッ、ロロッ、ポロッ」
「えっ。手紙を渡すの、ヴィンセント様が自分から立候補してたの? ポポロにお願いするんじゃなくて?」
「ポポロッ。ポロロロロ、ポロポポ、ポロロッポポッ」
「加えて『渡す時間なかったからやっぱ頼んだ!』って言ってたの!? あれ、でもさっきはリュカ様に頼まれてたって言ってたよね?」
「ポロロポポ」
「『リュカさんに頼まれたってことにしてくれ!』ですって?」
「ポロロッ」
なんてことを言ってるんだヴィンセント様よ。
あのハイスぺのリュカ様がそんなへまするわけないだろう。
そんな嘘、すぐにバレるに決まっているではないか。
―――仕方ない。黙っておくか。
ポポロによると、今このことを知っているのはヴィンセント様本人と私とポポロだけだそうだ。
私が黙っていれば何も問題ないことだろう。
まさか会合が明日だとは思いもしなかったが、まあ、何か予定があったわけではないので問題ない。
「会合の件、承知したわ。リュカ様に私がこれを受け取ったこと、報告してくれるかしら?」
「ポポッ!」
「ありがとう。……ヴィンセント様の件は、内緒にしておいてあげましょ。悪いことをしたのはヴィンセント様だけど、リュカ様からお叱りを受けるのはちょっと可哀想だから」
リュカ様は怒るととても怖い。
それは一級魔術師共通の理解だ。
ポポロがリュカ様のところへと向かったのを確認すると、私はユリを呼び出した。
「ユリ」
「はい。ご主人様」
「そろそろ時間でしょ? カレンとシャノンのところへ行ってあげて。ふたりのドレスの着付けを補助をしてほしいの」
ノイア・ノアールのお針子、アナスタシアに頼んだドレスはすでに届いており、カレンとシャノンに渡してある。
「ほら、ドレスってひとりで着るのは難しいし、ふたりは多分、夜会用のドレスを着たことがないだろうから、困ると思うの。お願いできる?」
「承知致しました。ご主人様の着替えはシュヴァリエの方が行うのですよね?」
「えぇ」
普段は侍女を寮に入れることは禁止されているが、今夜の舞踏会のみ、許可されている。
上限はたしか5人までだったはずだ。
リンドールからはサーシャが代表してエトワールに来ると伝え聞いている。
「かしこまりました。カレン様とシャノン様のことは、私にお任せください」
「助かるわ。いつもありがとう」
ユリは軽く礼をすると、姿を消した。
―――ん、そろそろかな。
私の部屋へと近づく魔力反応を感知する。
そして、部屋のドアをノックする音がした。
「はい。どうぞ」
「失礼します。ユリアーナ様」
ドアが開かれて、白薔薇の香りが中へ入る。
白と黒のメイド服を着た一人の女性には見覚えがあった。
「お元気そうで何よりです。ユリアーナ様」
「カガリさんも。お久しぶりです」
シュヴァリエ家に仕える侍女、カガリさん。
以前、私がシュヴァリエ邸に遊びに行った時にお世話になったメイドさんである。
――――――――――――
補足/
ユリアーナはたまにシュヴァリエ邸へ行きます。泊まったこともあり、そのときにカガリにお世話になりました。
解説/
なぜユリアーナがポポロの言葉を理解できるのかというと、ウィリアムにポポロの言葉を教えてもらったからです。もともとポポロと仲が良かった上に、尊敬するウィリアムに教わったこともあり、すぐに覚えました。
「ポ」と「ロ」しか話してないあれを理解できるユリアーナとウィリアム。すごいですね。私にはできません。
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