悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第二部

167.煽り、煽られ

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―――この辺なら大丈夫かな。

 ダンスを終えてすぐ、私は会場の端の方に移動した。
 こんな私でも一応は公爵令嬢なので、どんなに踊るのが下手くそでも、ダンスをしないかと誘われることがある。
 言うまでもなくリンドール家と懇意にしたいと思う貴族からのみだ。

『私以外の男性とは踊らないと、約束してくれませんか?』

 アルトゥール様ともそう約束したので、ダンスのお誘いをしてくれた男性方には悪いが、全員丁重にお断りしておいた。
 中にはしつこく誘う人もいたが、私も粘って結果的に諦めてもらうことに成功した。
 いやぁ、うまくいってよかったよかった。

―――さ~て、何を食べよっかな~。

 私の目の前には色とりどりの美味しそうな料理が並んでいる。
 全部食べたい⋯⋯が、私のお腹は容量が小さいのでよくよく考えて選ばなければ。

「どのお料理を食べるかでお悩みですか、お嬢様?」
―――お嬢様⋯⋯?

 声のしたほうを向くと、そこにはひとりのメイドさんがいた。
 どうやらこの舞踏会に派遣された者らしい。
 エトワール家の家紋が刺繍されたメイド服からそれが分かる。

「もしよろしければ、わたくしめが席までお料理をお持ちしますよ。シェフのおすすめのお料理から提供させてもらいます」

 なんと。
 それはすごくありがたい。
 ぜひお願いしよう。

「それではこちらへどうぞ。少しの間、お待ちくださいませ」

 その後はもう、天国のようだった。
 じっくりと煮込んだスープに、柔らかいお魚、旨味がじゅわっと溢れ出すお肉、塩レモンの冷製パスタ⋯⋯と、どれも素晴らしかった。
 腹八分目ぐらいなところで食事を終えることができ、大満足である。

―――はわぁ⋯⋯どれも美味だった⋯⋯。

 お茶を飲みながら食後の休憩をしていたそんな時、私の幸せはぶち壊された。

「随分と美味しそうな表情をしていましたね、ユリアーナ様」
―――げっ、出た⋯⋯。

 なんで今ここで話しかけてくるんだよブライト様。
 見て分からないのか?
 美味しい食事を食べて、その余韻に浸っていい気分だったというのに⋯⋯っ。

「⋯⋯なんの用ですかブライト様」
「表情も声も本心を隠せていませんよ、ユリアーナ様。もう少し貴族として演じるということを覚えては?」
「隠す気がないので隠していないだけです。他の人の前ではちゃんとしてます」

 すると流れるような自然な動きでブライト様は私の真ん前に座る。

―――何故そこに座る?

 別に、私一人で食事をしていたのでその席は誰も座っていなかったけどさ。
 ブライト様が座っちゃダメなんてルールはないけどさ。

―――わざわざ座るってことは、私に話があるってこと、だよね?

 でも、ブライト様から話って⋯⋯なに?

「常日頃、感情を隠す練習をしなければいざという時できなくなりますよ」

 なっ。
 私が演技下手だと言いたいのか?
 ⋯⋯あってるけど。

「それはブライト様だけでは?」
「⋯⋯ほぅ?」

 軽く挑発してみると、今日は煽られやすい日のようで、すぐに反応した。
 ふっ、こんな軽い煽りに心を動かされるとは、ブライト様もまだまだだね。

「王族であり未来の兄に対して、失礼では?」
「そうですか? これぐらい普通ですよ、ブライト王子殿下様?」

 ブライト様の笑みがまた一層黒くなる。
 私に『表情も声も本心を隠せていませんよ』とか言っておきながら、ブライト様も全然できてないじゃん。
 そんなんだからダメなんだよ。

「⋯⋯ですが、私がエリアーナを娶り、ユリアーナ様が義理の妹になるのはもはや確定事項。義兄にいさんと呼んでくれても構いませんよ、義妹ユリアーナ
「はぁ? だぁれが義兄にいさんと呼ぶもんですか。ブライト様、頭大丈夫ですかぁ?」
「そろそろ不敬罪で訴えますよ?」
「できるもんならどうぞ? そんなことしたらエリィ姉さんが悲しむだけですけど」
「⋯⋯生意気な義妹め」
「まだ義妹じゃないのでやめてもらえますかクソ王子ブライト様?」
「「⋯⋯」」

 互いに微笑にらみ合いが続くも、そう長くはなかった。

「お話中のところ、失礼いたします」

 先程のメイドさんがやって来て、私のカップに紅茶のおかわりが注がれる。
 ありがとうございますと礼を言うと、ブライト様が「私にもお願いします」とメイドさんに紅茶を頼んだ。

「それで、なんの用です?」

 私は二度目の質問をブライト様に投げかける。

「わざわざ私のところへ来たのには、何かあるのでしょう?」
「実は、少しお願いがありまして」
「お願い?」
「えぇ。そんな難しいものではございません。―――夏休みの間、どこかのタイミングでリズに会っていただきたいのです」
「クローリス様に?」
「はい」

 クローリス様は我がアンリィリル王国の第一王女で、来年エトワールに入学予定のラーマオ殿下の婚約者だ。
 ありがたいことに私はクローリス様に「ユリアーナお姉様」と呼ばれているほど慕われている。

―――そう言えば、全然リズ様に会えてないなぁ。

 エトワールに入学する前に何度かお茶会はしたが、直近だと約一年前のことである。
 一級魔術師の仕事(主に書類仕事)があまりにも多いのでなかなか時間を取れなかったのだ。
 それに、レティシア様たちと違ってリズ様は王族。
 私と同じように公務がたくさんあるため、お茶会をしようにも日付の調整の時点でハードルが高い。
 そんなわけで私はリズ様に会えていないのだった。

「会いたい気持ちは山々ですが、夏となるとかなり難しいです。かなり仕事がたまっているようでして⋯⋯」
「では、冬はどうでしょう?」
「冬ですか? そうですね⋯⋯確約はできませんが、夏よりかはずっと希望があります」
「分かりました。リズには私から伝えておくので、よろしくお願いします。詳しい日程が出ましたら、また後ほど伝えさせてください」

 夏休みは1ヶ月だが、冬休みはその2倍の2ヶ月だ。
 まぁ、冬休みがダメでも春休みがあるし、春休みも無理になっても、来年会える。
 リズ様もラーマオ殿下と一緒に来年エトワールに入学するはずだからだ。

「⋯⋯あの、ひとつ質問が」
「なんですか?」
「どうしてこのことをクローリス様からではなくブライト様から聞いているのでしょうか?」
「⋯⋯というと?」
「こういうのはクローリス様から直接手紙で聞くのが普通ではないかと思いまして。わざわざブライト様を介して連絡を取る意味はあるのだろうかと疑問に感じたのです」

 ブライト様を経由せずとも、手紙で話し合うことはできる。
 何故こんな面倒な方法を取っているのだろう。

「理由は主にふたつです。ひとつは、リズからの手紙には王家の家紋の封蝋が使われるから。これはわかりますね?」

 王家の家紋の封蝋は法的な効力を持つものとなっている。
 例えるならば前世で言う実印だ。
 郵便物を受け取った時に押す印鑑―――認印とは違い、実印は市区町村役場に登録した印鑑で、個人の意思を公的に証明する最も重要な印鑑となっている。
 そんな実印と同じ意味を持つようなものが王家の家紋の封蝋なのだ。

「もうひとつは、行き違いなどを防ぐためです。ユリアーナ様はエトワール生ですが、同時に一級魔術師でもあります。緊急時には駆り出されることになりますし、多忙と聞いていますので、いつ手紙の返事を書いてくれるか分かりません」
―――いや、手紙の返事ぐらいは書けると思うよ? ⋯⋯何事も起こらなければ、だけど。

 入学してから今日まで、一応(学校外では)特に何事もなかったため普通に学校生活を送っていたが、国内で何かあったら私はすぐに一級魔術師として動くことになる。
 けど、そんな、私が動かないといけないほどの事件が起きるとは思わない。

―――でもまあ、人生分かんないしな⋯⋯。

 ブライト様経由で連絡を取ったほうが安心だよね。

「それでは私はこれで」
「はい。クローリス様によろしくお伝えください」
「言われなくとも。こう見えても私は妹思いな兄なので」
―――妹思い、ねぇ。

 ブライト様に妹思いというイメージはあまりない。
 だが、以前エリィ姉さんに『ブライト様って、ユリィが思っているよりもずっと優しいと思うな』と言われたことがある。
 エリィ姉さんが言うのなら、おそらくそうなのだろう。
 だって、エリィ姉さんの言葉は大体正しいから。

『ユリィとブライト様って、結構仲良いよね』

 ⋯⋯この言葉だけを除いて、だけど。
 どこをどう見たら仲が良いと思われるのだろうか。
 これだけは本当に信じられない。
 というか、信じたくない。

―――私とブライト様が仲良いだなんて、未来永劫ないんだからね!



――――――――――――
補足/
 第一部まではユリアーナはエリアーナのことを「大好き」ぐらいだったのですが、第二部に入ってから「大大大大大好き」ぐらいにラブ度が大幅に上昇しました。主に原因はブライトです。
 ブライトのエリアーナとの親密性をアピールする発言(ユリアーナからしたら煽り)によりユリアーナの「私のエリィ姉さん」意識が高まった結果、エリィ姉さんラブになりました。それによりブライトのエリアーナラブも上昇。ふたりはエリアーナを取り合う(?)好敵手ライバルとなることに。
 このふたりのやりとりを一番近くで見ているエリアーナいわく「喧嘩するほど仲が良いって言うもんね~」とのことです。
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