183 / 183
第二部
168.幼馴染、兼、婚約者
しおりを挟む「ユリアーナ~!」
「! イブ⋯⋯!」
会場から少し離れた庭園に行こうとしていた時、私は本好き友達のイブと会った。
魔法戦で〈竜〉と戦ったり、生徒会に呼び出されたりと忙しかったので、会うのは久しぶりだ。
イブは真紅のドレスワンピースを着ていた。
ふんわりとした香色の髪は三つ編みにされていて可愛らしい。
「最近全然会えてなかったから、よかった~! 元気だった?」
「元気元気~」
⋯⋯〈竜〉にやられたことを除けば、だけど。
「イブこそ、元気だった?」
「もちろん。この通り健康体だよ」
それならよかった。
健康体っていいよね、すごく大事。
すると―――
「イブ」
「っ、ラルフ⋯⋯!」
―――誰だ?
ラルフと呼ばれたのは、黒茶の髪の青年だった。
目が隠れるほどに前髪は長く、やや猫背。
自信がなさそうに見えるも、弱いわけではなさそうだ。
「ここにいたんだね。探してたんだよ、イブ」
「ごめんねラルフ。見つけてくれてありがと」
「えっと⋯⋯イブ、その人は?」
「あぁ。紹介するね、ユリアーナ。この人はラルフ。私の幼馴染、兼、婚約者です!」
「え、ええぇっ!」
イブに婚約者がいただなんて、知らなかった。
と、とりあえずご挨拶をしなくては。
「お初お目にかかります、ラルフ様。イブの友達のユリアーナ・リンドールです」
「ラルフ様だなんて、そんな⋯⋯ラルフで構いません」
「ではラルフさん、と」
「ふふっ、ラルフ“さん”か⋯⋯ふふっ」
「笑わないでくれよ、イブ」
「ごめんごめん。⋯⋯ふふふっ」
改めまして、とラルフさんは言った。
「ラルフ・フェレーラです。ユリアーナ様のことはイブからよく聞いています。⋯⋯もしやとは思っていましたが、まさか本当に〈氷上の魔術師〉様のことだったとは⋯⋯」
伝えてなかったっけ、と首を傾げるイブ。
イブよ、私が言うべきことではないかもしれないが、私が一級魔術師だってことは教えておいたほうがよかったのでは?
「すみませんユリアーナ様。イブは何か失礼なことをしていませんか? 大丈夫ですか?」
「もぅ、なんでそんなこと言うのよラルフ。私のこと信用してないの?」
「悪いが、こういうことの信用はしていない」
「えぇ~? ひどくない?」
「ひどくない」
ふたりは幼馴染なのだとイブは言っていた。
この会話を聞くに、それは本当なのだろうと確信する。
「失礼なことだなんて、イブは全くしていませんよ」
「ほらね!」
「本当かなぁ⋯⋯」
「私としては、気楽に話せる友人ができてとても嬉しいです。堅苦しいのは苦手なので、イブが友人で、私、すごく助かってます」
「私もユリアーナと友達になれて嬉しいよ~。本の話をできる人、あんまりいないからさ」
私たちはお互いに欲していた理想の友人だ。
ずっとこの関係が続くといいな。
「最近、セフェルカルツィ図書館に来れてないみたいだけど、やっぱりそれって忙しいから?」
「そうなんだよぉ。エトワールに来たら少しは楽になるかと思っていた時期もあったけど⋯⋯意外とこっちはこっちで大変なんだよね」
「そっかそっか。夏休み明けはまた図書館に来れそう? 本の話できる?」
「うーん⋯⋯頑張る、としか言えないなぁ」
夏休み明けから、私はエトワールの臨時教師として働くことになっている。
スパルタのリュカ様と自由人のヴィンセント様と一緒だから⋯⋯正直、何が起こるか分からない。
ある程度時間は取れるだろうが⋯⋯リズ様からのお茶会の件と同じく、確約はできない。
―――いや、でも、まだ希望はある。
臨時教師のお礼としてセフェルカルツィ図書館の禁書庫の鍵をもらえることになっているので、任期を終えれば私は必ず図書館へ行くはずだ。
そうだ、任期を終えれば行けるのだ。
「冬休み前には必ず図書館には行くつもり」
「本当?」
「うん」
「絶対?」
「絶対」
そう、これは絶対だ。
禁書庫の本をお預けのまま私が冬休みに入れるとは思えない。
となれば冬休み前にはセフェルカルツィ図書館に行くはずだ。
「ん、分かった。図書館で待ってるね、ユリアーナ」
「うん。待ってて。必ず行くから」
よーし、そうなったらお仕事頑張らないとね!
イブとブックトークするために、禁書庫の本を読むために⋯⋯!
「⋯⋯なぁイブ」
「ん? どうしたのラルフ?」
「冬休み前って、テストもあるし、今年は生徒強化訓練を行うんだろ? 最悪、成績が悪かったら図書館には行けないんじゃね?」
「⋯⋯はっ!」
一気にしょぼんとするイブ。
そんなに気にしなくても大丈夫だよ、きっと。
「テストは置いといて、生徒強化訓練かぁ⋯⋯うぅ⋯⋯ユリアーナはいいなぁ」
「えっ、なんで?」
「だってユリアーナは一級魔術師じゃん。生徒強化訓練なんて余裕でしょ? あーあ、私もユリアーナみたいに上手に魔法が使えたらいいのに」
―――あぁ、そっか。イブは私が生徒強化訓練を“受ける側”だと思っているのか。
私が臨時教師をすることはまだ秘密にされている。
だからイブも知らない。
エリィ姉さんやアルトゥール様も、このことは教えていない。
―――たしか、夏休み明けの始業式に発表するんだよね。
みんなはどんな顔をするのだろうか。
ヴィンセント様は有名人だからすっごく盛り上がりそう。
リュカ様も名前は知られているけれど、あまり顔は出ていないから、最初は「誰?」ってなるかも。
私は⋯⋯「生徒なのに教師ってどゆこと!?」って感じかな?
「じゃ、私たちはこれで。また夏休み明けに会おうね~!」
「うん。また夏休み明けに」
イブは満面の笑みで、ラルフさんは軽く会釈をして会場の方へと戻っていく。
私は庭園に向かう途中だったので、反対方向へ。
―――ちょっと寒いな。
夏とは言えど、夜間は冷え込む。
まだ空は明るい方だが、もうそろそろ、暗く染まっていくだろう。
「―――どこへ行くんだ、ユリアーナ?」
後ろから聞き覚えのある声がして、振り向く。
オールバックにされたネイビーの髪に、純粋無垢なシルバーグレーの瞳。
ノーブル様だ。
――――――――――――
著者から/
ラルフの名前ですが、初めは「ラルフ・ローレン」にするつもりでした。口で言いやすいからです。しかし、後で調べたら「ラルフ・ローレン」はアメリカのファッションブランドであることが発覚し、さすがにモロ被りなので「ラルフ・フェレーラ」にしました。フェレーラもローレンと同じで、口で言いやすかったのでこれに決めました。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
ネタバレ含む
ネタバレ含む
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。