学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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捕獲

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 「それで、どうだった?」

 新学期が始まった。長期休暇が終わった後というのは、元の生活のペースに戻すのに少し手間がかかる。生徒会と風紀も同じで、長期休みによって停止していた運営を改めて回す際に、ちょっとした雑事を片さなければならない。よって、皆が集まったのは新学期が始まって少しした頃だった。

 「というか、結局ウチ風紀室での会議なんだな」
 「なら生徒会室に来るか?中々修羅場だぞ?」
 「主に貴方が修羅場にしている事にお気づきで?」

 諦めの境地にいる怜毅と、これからの仕事の段取りで頭の痛そうな嵯峨野。何時もの如く聞き流しながら、ふと高宮は周囲を見回した。

 「颯斗はどうした?」
 「ここでその呼び名を使うな。如月か颯斗だ」

 律儀に訂正しつつ竜崎は肩を竦めた。

 「何か気になる事があるらしくてな。最近はもっぱら何かを調べてる。聖の名前を知った時からな」
 「へぇ」

 高宮と嵯峨野はこっそり視線を交わした。颯斗の実家、如月家は五大名家には遠く及ばずとも、かなりの資産家である。"真水"の事を知っていてもおかしくはない。それに聖月が気付いているかは分からないが。

 「アイツも勘が良いからな。何かしら掴んでくるだろう。アイツを本当に捕まえる為の何かを」

 それはいいから報告しろ、と竜崎に急かされる。これは聖月との交渉は余り意味がない……と思って、高宮は顔を顰めた。寧ろ、それまで考えたから軌道修正しろと言っているとしたらどれだけ負担をかけてくるんだあのクソガキ、と内心聖月をののしる。それを顔に出さないあたりは流石だが。

 「一言でいえば、聖に会った」
 「……確証掴めば御の字、何らかの手がかりをと思ったら、いきなりすっ飛ばしたな」
 「俺も驚いた」

 絶句した竜崎が呻く。対する高宮ももはや言葉がないと言わんばかりである。嵯峨野が心なしか悔しそうな表情を浮かべているのを一瞥して、竜崎は先を促す。

 「で。そうなったって事はメッセンジャーになったのか」
 「いや。単純に会っただけだ」
 「聖と真水聖月を繋げる確証は」
 「特に言質げんちはなかった。ただ、言える事と言えば、で逃げる気は無さそうだったという事だ」
 「そういう意味で、ねぇ。つまり、先に捕まえても問題はない訳だ」

 さり気なく混ぜた違和感に、竜崎は敏感に反応した。顎を撫でながら捕獲計画を練っているだろう彼は、チラリと意味ありげに高宮を横目で見た。

 「アイツと何かろくでもない取引でもしたか」

 うわ、聡すぎてコイツ嫌。高宮がそっと遠い目をする。たった一言でそこまで行きつくあたり、高宮や聖月と対等に渡り合うだけの資質を証明している。ため息を零しつつ頭を振る。

 「さてね。そこは想像に任せる。俺がは二つだけだ」

 顔を上げた高宮は、思いのほか真剣で。

 「一つ。アイツはゲームに勝つ気はあまりない。着地点にはこだわっているがそれ以外は無視の方針だ。二つ。手に入れた後の事だが、気を付けろ。聖にも、それ以外にも。後悔したくなければな」

 怪訝そうな顔をする竜崎。これは聖月との取引に引っかかるかと苦笑しつつ、高宮は竜崎に賭ける事にしたのだ。嵯峨野の非難の眼差しは無視する。聖月の描く未来は最適解であろうが、面白くない。しかし、損得や実家の関係で高宮はこれ以上動けない。そして聖月もそれは同じ。この状況を変えられるのは、ある意味ジョーカーの竜崎。

 「いざとなったら守ってやるよ。だから好きに動きゃあいいんじゃねぇか」
 「……アイツめ、何考えてやがる」

 面倒ごとの匂いに頭を抱える竜崎を残して高宮と嵯峨野は立ち上がった。やれやれ、書類の山が待っていると嘆く高宮の背中に、竜崎は頼みがあると呼びかけた。


 その日の授業中、聖月はぼんやりと窓の外を眺めていた。暦上ではそろそろ秋に突入するころ合いだが、体感的にはまだまだ夏。早く涼しくなればいいな、と思っていたその時。カバンの中でスマホが振動したのに気付いた。

 こっそりスマホを取り出して、教師の死角で画面に指を滑らせる。送られてきたのはメッセージ。送り主は高宮。


――――――――

 今日の夜8時、あの公園の噴水で待つ。

 竜崎

――――――――


 「ちょっと、風紀委員長の癖に無断外出させる気?これから外出手続しても間に合わないんだけど」

 小さく呟く聖月。文句とは裏腹に優しい瞳を細めた聖月は竜崎の文字をそっと撫でた。聖月は刻一刻と、時が刻まれるのを感じていた。


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