学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
39 / 84
捕獲

1

しおりを挟む
 「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかここまでとはな」
 「酷い。初対面なのに」
 「なぁにが、初対面なのに、だ。このドアホ」

 竜崎は額に手を当てて天を仰いでいた。その前には、黒髪眼鏡で変装した聖月と転がる死体――ではなく不埒を働こうとして返り討ちに遭った愚か者ども。どうしてくれようかこの馬鹿は、と竜崎は痛む頭を押さえていた。


 事の発端は聖月たちの旅行が終わった後。学園の夏休みは短く、一月足らずの夏休みが明けようとしている時だった。

 旅行の後、高宮からは直接会って話す、というか仕事が山積み過ぎてそれどころではない、と報告の様な愚痴の様なメールが来てから音沙汰無し。大変だな、と怜毅は何とも言えない顔で言っていた。竜崎としても早く話を聞きたいところではあるが、高宮の立場を考えると文句も言いずらい。どうやって颯斗を宥めるかという事を考えていたのだが、当の本人は他に気を取られているようで生返事を返しただけだった。

 拍子抜けを通り越して何かあったのかと問い詰めたのだが、ハッキリしてから話すとの一点張り。皆揃ってマイペースである。

 そんな話をしつつも、風紀のメンバーは夏休みも忙しく働いていた。休み期間中も学園に残る者は少なくない。それ故に治安維持活動は休みなく続ける必要があるのだ。特に、警戒が緩くなると勘違いした馬鹿がやらかす事があるので気が抜けないのだ。そう思いつつ見回りしている際に、通報があって急行した先で、先の場面に遭遇したのだ。

 「学園に蔓延る馬鹿もアレだが、とりあえず、お前は何してた」
 「なんか、聞いてた取り調べと違うぅ」

 ため息と疲れと頭痛をごっちゃ混ぜにしてとりあえず飲み込み、不届き者たちを縛り上げて謹慎室に放り込んだのち。こっそり逃げようと画策する聖月の首根っこをひっつかんだ竜崎は勢いよく取調室に突っ込んだ。しくしくとなく真似をする聖月を白けた瞳で見つめる。


 「まだ通報してないのに」
 「善良な一般生徒が、生徒が数名のガラの悪そうな生徒に絡まれてるって通報してきたんだよ。それで言ったら何故かフィーバーしている絡まれたであろう生徒がガラの悪いのを足蹴にしているのが見えてな。一瞬どっちが被害者だと思ったわ」
 「こっちが被害者です」

 悪びれず飄々とした聖月に、竜崎は蟀谷を引きつらせる。

 「俺には向こうが被害者に見えてしょうがない」
 「それは気のせい。もしくは委員長の目がおかしい」 
 「黙れこの戯け」

 ペースに巻き込まれてると頭を抱えて盛大なため息をつく。ややあって顔を上げた竜崎は爛々と目を光らせていた。

 「で、どういうつもりだ?」
 「何の事やら」

 そのヅラとカラコン引っぺがしたろか、と顔に書く竜崎。本気で実行しそうな彼に聖月が流石に冷や汗をかき始める。うわ、流石龍、変装してるのにばれてる気がする、と現実逃避気味だ。

 「俺はとある大馬鹿とゲーム中でな。ソイツをとっ捕まえるのが勝利条件なんだわ」
 「へ、へぇ」
 「んで、尻尾は見せても棚から勢いよく落ちてくることはないだろうと頭をひねっていたんだが」
 「ふんふん」
 「まさかその落ちてくるを素でやられるなんて予想外過ぎる。馬鹿は治って無い様だな」
 「そんな人いるんだぁ」

 視線が泳いで戻ってこない聖月。苦虫をたっぷりと味わっているような顔でソレを見ていた竜崎だったが、ため息をついて紙を取り出した。

 「名前と事件の詳細を話せ」
 「へ」

 終わり、と目が点になる聖月。珍獣を見る目で見られる竜崎の方がその眼をしたいくらいだと叫びそうになる。蟀谷を揉みつつ竜崎はペンを走らせた。

 「俺の知っているヤツは、馬鹿アホ間抜けの三拍子そろったクソガキだが、意味のない行動はしない。このゲームには着地点があってそこへ至るレールもあるはずだ。で、これはそのレールとは関係ないと判断しただけだ」
 「俺だったら問答無用で捕まえるけど。甘いんじゃないの?」
 「他の奴だったらそれでいいさ。けど、相手はお前アイツだからな。レールから逸れた行動をしたらその瞬間に全てを失う」

 そうだろう?と目で問われ。聖月は微笑んだ。やっぱりこの男が好きだ、と思いながら。

 「さぁ。俺は委員長が思っている人とは違うから分からないけど?」
 「そういう事にしておく」

 とある夏の日の幕間。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

処理中です...