67 / 84
終末
6
しおりを挟む
クリスマス当日ともなれば、学園だけではなく第九都市全体もお祭り気分に浮かれる。道を歩けばイルミネーション、広場に出ればクリスマスツリー。どこもかしこも煌びやかで、普段は治安に多少の難がある第九だがその陰が一時的に払拭されていた。
「いやー。クリスマスなんてマトモに楽しむのは初めてだわ」
「クリスマスなんてどこでもやってるだろう?」
ウキウキと街を歩く聖月に付き合っていた竜崎は、ともすればフラフラと何処かへ行きかねない恋人をひっつかんで首を傾げた。首元じゃなくて、手つないでと不満そうにその大きな手を引きはがした聖月は、苦笑する。
「やってるのは見てたんだけどね。どうにも人が多い所は落ち着かなくて。隠れるには人混みの中、といえどそれは一時的な物でしかないから」
「恒久的に逃げてる状態じゃどこで見られているか把握できないという事か」
「正解」
視線が煩くて落ち着かないってのもあるけど、と笑う聖月は確かに真宮から逃げ回っていた過去を持っていて。竜崎はふっと笑うとその華奢な腰を引き寄せた。
「だが、例の一件で逃げ回る生活には終止符が打たれたしな。これからは今までの分も楽しめるんじゃないか?」
「イベントは大好物だからね。もっとも、真宮になったらそっちの意味で楽しめなくなりそうだけど」
VIPの仲間入りだから警備とかの関係が、と恨めしそうな顔をする聖月。よっぽどお祭り騒ぎの中心に入れないことがご不満らしい。低く笑った竜崎はそっと小さな耳に唇を近づけると。
「ま、その分たっぷり構ってやるよ。イベントがどうの、なんて言ってる暇ないくらいになぁ」
「……龍ちゃんの過激さ加減がアップしてるぅ」
甘ったるく囁かれ、恋人としては赤面ものだが、その中身を知っている人間としては冷や汗ものである。どうにかして逃げる算段を付けないと、と頭を回転させるがチラリと見上げた竜崎の顔に諦めの境地に達した。
砂糖と黒糖と蜂蜜を極限まで煮詰めたくらいに甘いものと、不慣れな者が見たら一瞬で腰砕けになりそうな男の色気が、これでもかとプラスされている満面の笑み。その顔をしている時は、まず間違いなくろくなことはない。しっかり学習済みである。
賑わう店舗を冷やかしながら、街を歩く二人。互いにプレゼント(嫌がらせ込)を贈ったり、甘い物好きな聖月にカフェへ引きずられていったり、ゲーセンで商品を軒並みゲットして店員に追い出されたり。今までしてこなかった、することが出来なかった普通のデート。
目を輝かせて楽しむ聖月をみて、竜崎は目を細める。漸く聖月に平穏が訪れた事と、己の腕の中に最愛の恋人がいる事を噛みしめて。
楽しい時はあっという間に過ぎていくもので。特に日の短い冬、薄暗くなっていく空を残念そうに眺める聖月。
「クリスマスなんて、来年も来る。嫌でもな」
「今年のクリスマスは二度とこないんだけど?」
素っ気ない男の言葉に、聖月は苦笑する。それでも、来年の話が出来る事が嬉しかった。いつの間にか辿り着いていた、中心地の大広場。細部にまで気が使われた巨大なツリー。それを前に聖月はそっと目を伏せた。
「ねぇ龍。ホントに良かったの?」
「何が」
そっと隣の男に尋ねると、気だるげな返答が返ってくる。立派な体躯を持つくせに、実は寒さに弱い竜崎。気温が徐々に下がってきているのが彼にダイレクトにダメージを与えているらしい。龍と言うか寒さに弱いトカゲかな、とクスクス笑った聖月がそっと寄り添う。
「龍は、俺の事助けてくれた。十分なくらいに。ここから先は、俺の領域。俺がやらなきゃいけない事で、龍が付き合う必要はない」
「馬鹿か」
あっさりと一刀両断され、聖月はぐっと竜崎の脇腹をつねる。厚着故にあまりダメージを与えられていない様子を見て益々面白くない。最近馬鹿って言われ過ぎな気がする、と抗議すると馬鹿に馬鹿と言って何が悪いと返される。
「言ったろ、傍に居るってな」
「でも」
「でも、もだって、もねぇよ。俺がお前が傍にいないのが気に食わないだけだし、ここまで来たら何処までも付き合ってやるよ。なんせ目を離したら何が起きるかわかったもんじゃないからな」
「ちょっと。人の事危険物みたいに言わないでよ」
散々な言い分に抗議するが、その通りだろう、と憐れむ目で見られてそっぽを向く。一秒、二秒、と穏やかな静寂が二人を包んで。二人して吹き出した。
「龍。すき」
「知ってる」
素っ気ない返答に、そこは俺もとか返すところでしょ、と文句を言おうと顔を上げた聖月は目を見張る。冷え切った唇に感じる熱い感触。そっと目を伏せると、その眦から一筋の光が滑り落ちた。
二人きりのクリスマスが、ゆっくりとした時を刻んでいた。
「いやー。クリスマスなんてマトモに楽しむのは初めてだわ」
「クリスマスなんてどこでもやってるだろう?」
ウキウキと街を歩く聖月に付き合っていた竜崎は、ともすればフラフラと何処かへ行きかねない恋人をひっつかんで首を傾げた。首元じゃなくて、手つないでと不満そうにその大きな手を引きはがした聖月は、苦笑する。
「やってるのは見てたんだけどね。どうにも人が多い所は落ち着かなくて。隠れるには人混みの中、といえどそれは一時的な物でしかないから」
「恒久的に逃げてる状態じゃどこで見られているか把握できないという事か」
「正解」
視線が煩くて落ち着かないってのもあるけど、と笑う聖月は確かに真宮から逃げ回っていた過去を持っていて。竜崎はふっと笑うとその華奢な腰を引き寄せた。
「だが、例の一件で逃げ回る生活には終止符が打たれたしな。これからは今までの分も楽しめるんじゃないか?」
「イベントは大好物だからね。もっとも、真宮になったらそっちの意味で楽しめなくなりそうだけど」
VIPの仲間入りだから警備とかの関係が、と恨めしそうな顔をする聖月。よっぽどお祭り騒ぎの中心に入れないことがご不満らしい。低く笑った竜崎はそっと小さな耳に唇を近づけると。
「ま、その分たっぷり構ってやるよ。イベントがどうの、なんて言ってる暇ないくらいになぁ」
「……龍ちゃんの過激さ加減がアップしてるぅ」
甘ったるく囁かれ、恋人としては赤面ものだが、その中身を知っている人間としては冷や汗ものである。どうにかして逃げる算段を付けないと、と頭を回転させるがチラリと見上げた竜崎の顔に諦めの境地に達した。
砂糖と黒糖と蜂蜜を極限まで煮詰めたくらいに甘いものと、不慣れな者が見たら一瞬で腰砕けになりそうな男の色気が、これでもかとプラスされている満面の笑み。その顔をしている時は、まず間違いなくろくなことはない。しっかり学習済みである。
賑わう店舗を冷やかしながら、街を歩く二人。互いにプレゼント(嫌がらせ込)を贈ったり、甘い物好きな聖月にカフェへ引きずられていったり、ゲーセンで商品を軒並みゲットして店員に追い出されたり。今までしてこなかった、することが出来なかった普通のデート。
目を輝かせて楽しむ聖月をみて、竜崎は目を細める。漸く聖月に平穏が訪れた事と、己の腕の中に最愛の恋人がいる事を噛みしめて。
楽しい時はあっという間に過ぎていくもので。特に日の短い冬、薄暗くなっていく空を残念そうに眺める聖月。
「クリスマスなんて、来年も来る。嫌でもな」
「今年のクリスマスは二度とこないんだけど?」
素っ気ない男の言葉に、聖月は苦笑する。それでも、来年の話が出来る事が嬉しかった。いつの間にか辿り着いていた、中心地の大広場。細部にまで気が使われた巨大なツリー。それを前に聖月はそっと目を伏せた。
「ねぇ龍。ホントに良かったの?」
「何が」
そっと隣の男に尋ねると、気だるげな返答が返ってくる。立派な体躯を持つくせに、実は寒さに弱い竜崎。気温が徐々に下がってきているのが彼にダイレクトにダメージを与えているらしい。龍と言うか寒さに弱いトカゲかな、とクスクス笑った聖月がそっと寄り添う。
「龍は、俺の事助けてくれた。十分なくらいに。ここから先は、俺の領域。俺がやらなきゃいけない事で、龍が付き合う必要はない」
「馬鹿か」
あっさりと一刀両断され、聖月はぐっと竜崎の脇腹をつねる。厚着故にあまりダメージを与えられていない様子を見て益々面白くない。最近馬鹿って言われ過ぎな気がする、と抗議すると馬鹿に馬鹿と言って何が悪いと返される。
「言ったろ、傍に居るってな」
「でも」
「でも、もだって、もねぇよ。俺がお前が傍にいないのが気に食わないだけだし、ここまで来たら何処までも付き合ってやるよ。なんせ目を離したら何が起きるかわかったもんじゃないからな」
「ちょっと。人の事危険物みたいに言わないでよ」
散々な言い分に抗議するが、その通りだろう、と憐れむ目で見られてそっぽを向く。一秒、二秒、と穏やかな静寂が二人を包んで。二人して吹き出した。
「龍。すき」
「知ってる」
素っ気ない返答に、そこは俺もとか返すところでしょ、と文句を言おうと顔を上げた聖月は目を見張る。冷え切った唇に感じる熱い感触。そっと目を伏せると、その眦から一筋の光が滑り落ちた。
二人きりのクリスマスが、ゆっくりとした時を刻んでいた。
27
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる