学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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終末

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 クリスマス当日ともなれば、学園だけではなく第九都市全体もお祭り気分に浮かれる。道を歩けばイルミネーション、広場に出ればクリスマスツリー。どこもかしこも煌びやかで、普段は治安に多少の難がある第九だがその陰が一時的に払拭されていた。

 「いやー。クリスマスなんてマトモに楽しむのは初めてだわ」
 「クリスマスなんてどこでもやってるだろう?」

 ウキウキと街を歩く聖月に付き合っていた竜崎は、ともすればフラフラと何処かへ行きかねない恋人をひっつかんで首を傾げた。首元じゃなくて、手つないでと不満そうにその大きな手を引きはがした聖月は、苦笑する。

 「やってるのは見てたんだけどね。どうにも人が多い所は落ち着かなくて。隠れるには人混みの中、といえどそれは一時的な物でしかないから」
 「恒久的に逃げてる状態じゃどこで見られているか把握できないという事か」
 「正解」

 視線が煩くて落ち着かないってのもあるけど、と笑う聖月は確かに真宮から逃げ回っていた過去を持っていて。竜崎はふっと笑うとその華奢な腰を引き寄せた。

 「だが、例の一件で逃げ回る生活には終止符が打たれたしな。これからは今までの分も楽しめるんじゃないか?」
 「イベントは大好物だからね。もっとも、真宮になったらそっちの意味で楽しめなくなりそうだけど」

 VIPの仲間入りだから警備とかの関係が、と恨めしそうな顔をする聖月。よっぽどお祭り騒ぎの中心に入れないことがご不満らしい。低く笑った竜崎はそっと小さな耳に唇を近づけると。

 「ま、その分たっぷり構ってやるよ。イベントがどうの、なんて言ってる暇ないくらいになぁ」
 「……龍ちゃんの過激さ加減がアップしてるぅ」

 甘ったるく囁かれ、恋人としては赤面ものだが、その中身を知っている人間としては冷や汗ものである。どうにかして逃げる算段を付けないと、と頭を回転させるがチラリと見上げた竜崎の顔に諦めの境地に達した。

 砂糖と黒糖と蜂蜜を極限まで煮詰めたくらいに甘いものと、不慣れな者が見たら一瞬で腰砕けになりそうな男の色気が、これでもかとプラスされている満面の笑み。その顔をしている時は、まず間違いなくろくなことはない。しっかり学習済みである。

 賑わう店舗を冷やかしながら、街を歩く二人。互いにプレゼント(嫌がらせ込)を贈ったり、甘い物好きな聖月にカフェへ引きずられていったり、ゲーセンで商品を軒並みゲットして店員に追い出されたり。今までしてこなかった、することが出来なかった普通のデート。

 目を輝かせて楽しむ聖月をみて、竜崎は目を細める。漸く聖月に平穏が訪れた事と、己の腕の中に最愛の恋人がいる事を噛みしめて。

 楽しい時はあっという間に過ぎていくもので。特に日の短い冬、薄暗くなっていく空を残念そうに眺める聖月。

 「クリスマスなんて、来年も来る。嫌でもな」
 「今年のクリスマスは二度とこないんだけど?」

 素っ気ない男の言葉に、聖月は苦笑する。それでも、来年の話が出来る事が嬉しかった。いつの間にか辿り着いていた、中心地の大広場。細部にまで気が使われた巨大なツリー。それを前に聖月はそっと目を伏せた。

 「ねぇ龍。ホントに良かったの?」
 「何が」

 そっと隣の男に尋ねると、気だるげな返答が返ってくる。立派な体躯を持つくせに、実は寒さに弱い竜崎。気温が徐々に下がってきているのが彼にダイレクトにダメージを与えているらしい。龍と言うか寒さに弱いトカゲかな、とクスクス笑った聖月がそっと寄り添う。

 「龍は、俺の事助けてくれた。十分なくらいに。ここから先は、俺の領域。俺がやらなきゃいけない事で、龍が付き合う必要はない」
 「馬鹿か」

 あっさりと一刀両断され、聖月はぐっと竜崎の脇腹をつねる。厚着故にあまりダメージを与えられていない様子を見て益々面白くない。最近馬鹿って言われ過ぎな気がする、と抗議すると馬鹿に馬鹿と言って何が悪いと返される。

 「言ったろ、傍に居るってな」
 「でも」
 「でも、もだって、もねぇよ。俺がお前が傍にいないのが気に食わないだけだし、ここまで来たら何処までも付き合ってやるよ。なんせ目を離したら何が起きるかわかったもんじゃないからな」
 「ちょっと。人の事危険物みたいに言わないでよ」

 散々な言い分に抗議するが、その通りだろう、と憐れむ目で見られてそっぽを向く。一秒、二秒、と穏やかな静寂が二人を包んで。二人して吹き出した。

 「龍。すき」
 「知ってる」

 素っ気ない返答に、そこは俺もとか返すところでしょ、と文句を言おうと顔を上げた聖月は目を見張る。冷え切った唇に感じる熱い感触。そっと目を伏せると、その眦から一筋の光が滑り落ちた。

 二人きりのクリスマスが、ゆっくりとした時を刻んでいた。


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