学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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 「ふふふ。そろそろ仕掛けに気付いた頃かなぁ」

 そう呟くのは聖月。艶やかな長い銀糸の髪に、ゆるりと着流した着物。屋敷に造られた荘厳な庭園を眺め、赤い唇をそっと扇の影に隠す。鈴を転がした様な笑い声は、何も知らない者が聞けば全員聞きほれるだろうもの。整った顔立ちは今だ健在で、アルビノ特有の色彩と相まってこの世のものでは無いかのよう。たおやかな容姿と零れ出る色気。見た目詐欺だ、と知人全員に言われる聖月は今、上機嫌だった。

 「相っ変わらず性格悪い」
 「うふふ。お褒めに与り光栄。それに、先に手を出してきた龍たちが悪いんだもん」

 呆れ顔で茶を差し出したのは蓮。就職期に、問答無用で聖月が引っ張ってきた。蓮としては家の会社を継ぐ気だったのだが、そこは手際のよすぎる聖月である。さっさと手回しして、気付いた時には両親に笑顔でサムズアップされていた。家の事は弟たちに任せてオッケー、真宮様のお手伝いしてきなさい、と。

 そんなこんなで聖月に再び付き合う事になった苦労性。散々聖月の悪だくみを見てきたが、今回は流石に酷いと頭を抱えていた。

 「竜崎さん相手に手一杯の高宮さんの隙をついて、既に作られていた買収後の事業拡大計画ごと頂くなんて」
 「高宮は働き損だねぇ。計画を見たけど、完璧だったよ。これじゃ失敗の仕様がないって思うくらいにはね。そんな付加価値ごと頂けるなんて、最高の嫌がらせで俺は楽できる。一石二鳥とはこのこと!」

 「竜崎さんは、真宮の仕事に加えてご自身の会社の運営。この上更に仕事を増やそうなんて、そろそろ過労で倒れられるんじゃない?」
 「ふふ。今仕事がそれなりにあるからって、しれっと高宮に仕事を押し付けて楽しようとしてたもんね。高宮に取られたってなれば皆納得しちゃうし。でも、詰めが甘ーい。結局俺が取ってきちゃったから、龍はお仕事漬けになっちゃうねぇ。高宮からかっぱらった事で俺の評価も上がるし、この前の龍へのお仕置きも出来ちゃう。あれ、一石四鳥だった!流石俺!」

 「ちょっと黙れこのクソガキ」

 竜崎達がクソガキ呼ばわりするのがよく分かる、と蓮は額を押さえた。悪戯好きと性格の悪さは変わらないらしい。というか、お仕置きってなんだお仕置きって、と視線を向けると聖月は可愛らしく唇を尖らした。

 「だってだってだってさ。この前、龍ってば真宮のお偉方との会食を俺に放り投げたくせに、自分は仕事って言ってこなかったんだよ?!実害はないけど、娘を薦められたり息子を薦められたり、あーだこーだと口煩かったり!大変だったんだから!文句言おうにも、仕事仕事って逃げ回るし」
 「あーはいはい」

 よっぽどお偉方との会食がストレスだったらしい。大方、聖月と同じくお偉方との会食が苦手な竜崎はさっさと聖月を餌にして逃げたのだろう。お互いに嫌がらせをしあうなど、どうして破局しないのか全く理解が出来ない。これから先もどうなる事やら、と思っていると蓮の元に竜崎からメッセージが届いた。

 「はいはい、聖月。ちょっと注目」
 「ふぇ?」

 にっこり可愛らしく笑った蓮は、スマホの画面を聖月に向けた。さっと目を通した聖月の顔が色を失って行って。

 「今回の買収に関してパーティーを開くみたいよ。んで、その立役者たる聖月も強制参加だって。一言コメント述べる時間があるから、それも準備しておくようにと竜崎さんからの伝言」
 「これは龍の管轄で……!」
 「最終的に纏めたのは聖月だし、竜崎さんは相手の企業の社長と一緒に主催者になるらしいからそれどころじゃない。しかも、真宮にとっても大きな一歩だから出席しないわけにはいかないよ、真宮当主様?」
 「龍の馬鹿ぁ!」

 その人目を引く容姿と、異色な経歴からパーティーでは人に囲まれる事が多い聖月。ただでさえ、過去のトラウマで人込み嫌いなのにも関わらず、パーティー強制参加。しかも、一言を言わないとならないという事は、参加者に確実に聖月の出席がばれる。つまり、囲まれるのは確実。

 逃げようにも真宮の名前がある以上逃げられないし、聖月の扱いに慣れた蓮が逃がしてくれない。すぐに聖月の嫌がらせに気付いた竜崎からの仕返しである。見事な八方ふさがり。

 「自業自得って言葉をいい加減その切れる頭に刻み込んでおきな」

 冷ややかな言葉を残して去っていく蓮。諸々の準備をしに行くのだろう。後には見事にやり返されて潰れた聖月が一人残された。
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