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番外
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しおりを挟む真宮家当主が男と恋仲にある事は、最初から知れ渡っていた。元々同性関係に忌避感がない市民性に助けられて、少しの困惑と共に受け入れられた二人。もっとも、聖月の真宮家当主就任からの二人の暴走は見事なもので。お似合いと言うか、この二人についていくのは無理だと半ば諦められたという裏事情が無きにしも非ず。
そうは言っても、やはり優秀で見目も良く、資産も膨大となればお近づきになりたい人間は多い。特に聖月は真宮の当主。その懐に入る、もしくは万一にもその血を引く子供が生まれれば、一躍殿上人の仲間入り。それを喉から手が出る程に欲する者もいる訳で。
「そんな顔するならパーティーに呼ばなきゃ良かったじゃねぇの」
「やられたらついやり返したくなる性分でな」
「んっとにお似合いだよお前ら」
仏頂面で人に囲まれる聖月を見つめているのは竜崎。主催者として進行をある程度進めたのち、気配を消してさっさと壁際まで下がったのだ。実は聖月同様パーティーが苦手な竜崎。庶民出身の彼としては煌びやかなパーティーが性に合わないらしい。そこに揶揄うように声を掛けたのは高宮。本来ならばここに居るはずがないのだが、強引に入り込んできたのだ。
「何せ、俺が必死になって作り上げた計画事持っていかれたもんな。流石に埋め合わせしてもらわないと割に合わん」
「ヤツの動きにまで気を回せなかったお前の落ち度だろう」
そうは言いつつも、流石に高宮に同情の瞳を向ける。なので、どんなに圧力をかけても笑顔で躱された為に真宮からは何も引き出せなかったから、取引先になる予定だった企業に埋め合わせしてもらうのさ、と鼻息荒く現れた高宮を引きいれたのだ。結果、その顔を見る限り満足いく結果を得られたようだ。
「全く。右を向けば真宮、左を向くと高宮。どちらを向いても角が立つ状況に追い込まれた彼らが一番の貧乏くじか」
「ウチも何処かの天才の相手で手一杯何でな。取りこぼし厳禁なんだわ」
意味深に視線を投げられ、竜崎は奇遇だな俺もだ、とため息をつく。いや、お前も大概相手するのが面倒なんだけど、というクレームは無視する。ふと竜崎の瞳が細められる。不穏な空気を醸し出した彼に、今度は何だと戦慄しながらその視線を追うと。
「アイツ……」
「あーあー」
一人の小柄な少女が聖月の細腕に縋り付いていた。体格の割に豊満な胸を押し付け、明らかに誘っている。可愛らしく整った顔立ちと堂々たる振舞いからして、自分に相当自信があるようだ。顔色一つ変えずに談笑し続ける聖月を見て、独占欲丸出しの男は既に臨戦態勢だ。
言わんこっちゃない、と呆れ顔の高宮。その時、ふと視線を巡らせた聖月の瞳が竜崎を捉えた。そして、ふっと妖艶な笑みを浮かべると赤い舌を薄い唇に這わせる。ゾクリとするほどの色気が立ち上り、見てしまった者は皆顔を赤らめて見惚れている。
一人の男を除いて。
「失礼だが、そろそろ私のパートナーを返していただいてもお嬢さん?」
「って早」
長い足で一挙に距離を詰めた竜崎が人込みをかき分けて聖月に近づいたかと思うと、すっと少女の腕をさり気なく払って聖月の細い腰を引き寄せた。ついでに愛おし気に目を細めると、蟀谷にキスをする。
「うわぁ」
ドン引きの高宮が呻く一方で、会場は黄色い悲鳴に満たされる。中性的な美貌のほっそりした青年と、男の色気を振りまく精悍な男の恋愛は予想以上に受け入れられているらしい。普通なら男同士のキスなど、と引かれる場面で皆が食い入るように見つめて甘く吐息を漏らすのだ。
「やっぱり真宮様と竜崎社長の組み合わせは最高よね……!」
「これ以上とない眼福よ……!」
「あそこのお嬢さんたち大丈夫か……?」
漏れ聞こえる女性たちの憧れを込めた内緒話。いや確かに外面だけ見れば美しい絵画にも見えるが中身があの天才たちと考えて、頭を抱える。
「全く外ずらだけはいいって、完璧詐欺ですよね」
「ああ、何と言うかまともな人間がいてくれてほっとしているよ」
嵯峨野と連れ立っていつの間にか現れた蓮。隣に並んだ蓮からのしみじみとした感想に、高宮は心の底から同意した。周りの期待に応える為か、それとも単純に遊んでいるだけか、更に甘ったるく聖月を抱きしめてキスの雨を降らせる竜崎。その腕の中の聖月も満更では無さそうに、がっしりとした首に腕を回している。
ピンク色の幻想が、と高宮は目を手のひらで覆ったが、服の裾が惹かれる感触に視線を脇に落とす。その先では嵯峨野が微妙な顔をしていた。
「なんか聞きたくない事実を話そうとしていないか?」
「私もなんか聞きたくない話を蓮君から聞きまして」
それを聞いた蓮が死んだ魚の目を高宮に向けた。いや、嵯峨野さんと話すまで気づかなかったんですけど、と前置きした蓮が歯切れ悪く呟いた。
「この前の件で、高宮さんに対しては完全に嫌がらせだって言ってたんですけど、竜崎さんに対しては行きたくない会食に自分だけ行かされた仕返しだって言ってまして」
「その会食は、今回の一件で社長と竜崎がやりあう直前にあったそうで、恐らくその期間は聖月に構っている暇はなかったのではないかと」
「問題なのはその会食で、聖月がお見合いみたいな事をさせられたと言っていまして……」
「あの竜崎が良く暴れなかったな?」
「そもそも会食に聖月を向かわせたのはその竜崎さんなんです」
は?と高宮が口を開ける。普段からは考えられない行動に、高宮が額に眉を寄せる。俺もおかしいと思ってたんです、と蓮も同意する。
「それを嵯峨野さんと話している時に思いだして。で、ついでに思いだしたのが、その前に聖月がデートの話をしていたな、という事で」
「そのデートで何かあったのか?」
「今人気絶頂のイケメン俳優を目撃した、と目を輝かせていました」
あははは、と乾いた笑いを零す蓮。目を瞬かせた高宮は、絶句した。え、まさか、と嵯峨野を見るとこれまたげんなりした顔で頷く。
「つまりアレか、アイツらはただじゃれ合ってただけだってことか?!」
高宮の素っ頓狂な声が会場に響き。一斉に振り返った会場の人に、高宮は愛想笑いをして濁そうとした。しかし、そうは問屋が卸さない。
「申し訳ありませんが、真宮当主は次の予定がありまして。私も付き合わねばなりませんので、これにて失礼させていただきます。その代わりと言っては何ですが、高宮の御曹司をお呼びしておりますので、是非この機会に親交を深められてはいかがでしょう」
「は?!」
いきなりの話にぎょっとする暇もなくその周囲に人が溢れる。そこまで来て、竜崎がここに招き入れた理由を察する。そつなく周囲の人間を捌きながら、悠々と退出する二人を睨みつけるとあくどい笑みを返される。
俺をダシに逃げ出すなど、いつかやり返してやる。これは貸しだからな、と内心で毒づく。どこまで行っても振り回される苦労人なのはいつまでも変わらないようだ。
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