学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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 「あはは。最後の高宮の顔みた?最高だったね」
 「ああ。俺たちとの付き合いが長いわりには良く利用されるよな」

 無事に会場を抜け出した二人は、さっさと真宮邸に戻って来ていた。

 「あれ?このあと用事あるんじゃなかった?」
 「さぁ。何のことやら」
 「ふふ。嘘つくなんて悪い人」
 「今更。何なら、俺と過ごすっていう用事があるって事にするか?それなら嘘にならん」

 部屋に戻るや否や押し倒され、聖月はクスクス笑った。シレっとした顔で覆いかぶさってくる男の頬に手を当てると引き寄せる。ゆっくりと唇を重ねてから解放すると、飢えた獣の瞳とぶつかった。ほんと悪い人、とつぶやいた聖月は方眉を上げた。

 「龍が見合いに俺を行かせるのが悪いんじゃん」
 「そもそもお前がよそ見をするからだろう」

 今回の騒動の真相。それは実にくだらない。

 事の発端は、蓮が言っていたデート。学生から社会人となり、真宮当主と会社社長としての仕事が出来てから二人の時間は減った。その忙しい間を縫ってデートに出かけたのだ。

 「久しぶりのデートだったのに、あんな奴に見惚れるのが悪いんだろう」
 「いや、一般論的にイケメンでしょ。イケメン俳優として売ってるんだから」

 偶然街で出くわした人気俳優。何気なく、流石にイケメンとしてもてはやされるのが分かるよねーと聖月が零したせいで、竜崎の機嫌が急降下。独占欲の強い男が嫉妬をするとろくなことにならない。

 「んなにイケメンと美女が好きなら見合いでもすればいいと思って気を回してやったじゃねぇか?」
 「いや、確かにイケメンと美女はいっぱいいたけど」

 お偉方との会食では、聖月にすり寄りたい老害が己の子や孫を連れてくるのは分りきっていた。そんなにイケメンが好きならいくらでも見て来ればいいだろう、と拗ねた嫉妬丸出しの男の浅はかな計画である。

 「しかも、会食嫌いなのは龍だけじゃなくて俺もなのに、さっさと一人で逃げるしさ。……って言うか!そんなのどうでもいいけど、その後全然かまってくれなかったじゃん!」
 「そもそも、その会食から今回の話を持って来たのが悪いだろう。お前の所為じゃねぇか」

 行かなければならない会食だったから行ったものの、竜崎の嫉妬から色んな人間に媚びを売られるわ、自分はさっさと逃げられるわで鬱憤が溜まったらしい。

 そして、転んでもただは起きないのが聖月。その会食で面白い話を聞いてきた、と新規事業の話を竜崎に丸投げ。お偉方と真宮当主からの話となれば竜崎も断れず、仕事漬けの日々。それで構ってもらえない、と駄々をこねられても不可抗力だろうというのが竜崎の言い分だが、聖月には通用しない。

 「だから、今回の話を進めてあげたのさ!」
 「やっぱりあれはそういう意味だったか……」

 自分を放っておくほど仕事が忙しいの、そんなに仕事が好きならもっと増やしてやる!と今度は拗ねた聖月の浅はかな考え。

 纏めると、イケメンに目を眩んだ聖月に対する竜崎の嫉妬が発端となり、廻り巡って最終的に仕事に追われる羽目になった竜崎が構ってくれないので面白くないと拗ねた聖月が暴走したという。つまりは、高宮達の想像の通り、完璧に恋人同士のじゃれ合い痴話げんかである。

 恐ろしいのは、たかが痴話げんかに周囲を巻き込んだ騒動にまで発展させる天才馬鹿っぷりだろう。しかも、周囲にダメージを与える癖に自分達の評価はちゃっかり上げて信者を増やすというオマケ付き。しかも真相を知る者にはあまりのくだらなさで追加ダメージ。

 「だから、時間が上手くとれるようにパーティーに呼んだだろうが」
 「ま、さっさと抜け出せば時間が作れるしね。パーティーだから時間が読めないし、後に予定入れないでって言えば皆納得するから。丁度いい餌高宮がいた事だしね」

 と言う訳で現在に至る。後始末まで高宮に投げた事に対する罪悪感は全く無い様だ。

 機嫌を直せ、と甘く口付けられて嬉しそうな聖月。最愛の恋人が腕の中で自分だけを見つめている状況に満足げな竜崎。忙しい二人の、貴重な逢瀬の時間。ゆっくりと二つの影が重なっていき、空気の甘さが濃度を増す。長くて短い夜の訪れだった。



 「つか、アイツらはもっとマトモな痴話げんかが出来ないのか?!なんでいちいち話を大きくしないと気が済まない?!」
 「第一次粛清ファーストパージの時もそうでしたが……全く、人騒がせというか、周りを巻き込まずにやってくれませんかね」
 「なんか、すみません……」

 大勢の人に囲まれた高宮がぐったりと潰れて呻く。今回の一番の被害者は、確実に振り回された相手企業と見事に利用された彼だろう。嵯峨野も、いちいち喧嘩が壮大すぎると胃が痛い様子。

 よくよく見れば些細な話なのに、必ず国家規模・五大名家規模の騒動を引き起こす。今回も、真宮・高宮両家屈指の会社の規模拡大がかかった大事、成功した方はバックに控える家が勢力を拡大できる。彼らが文句を言うのも無理はない。そんな二人に恐縮した様子で謝る蓮。あの二人を相手にした後だと天使に見える、と涙ぐんだ二人が蓮を構い倒す。

 「本気でそろそろウチ高宮に移籍しません?」
 「その方が良い気がしてきました……」

 そんな一幕があったとかなかったとか。兎にも角にも、結論は一つ。

 悪戯好きで腹黒な天才馬鹿が喧嘩を始めるとろくなことにはならない。聖月と竜崎の周囲の人間の合意である。


********
という事で、後日談短編でした。リクエストしてくださいましたsaya様、ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。本当は長編の方が良いのでは、とか本編では名前のみの春宮・大宮を出したら、などとも考えたのですがここに落ち着いてしまいました。お楽しみいただけたら嬉しいです。

この後、本編に出せなかったお話を出して、終了となります。宜しければ、おつきあいください。
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