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第13話
2・ドルイドの裏切り
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――古代魔法をもってしても、人形を人間に変えられるかどうかわかりませんよ。それでも、あなたはディランに義理立てするんですね……馬鹿ですね。
だって、人形だなんて、信じられない。ディランには鮮やかな感情があり、荒っぽいながら正義感の強い性格もはっきりしている。これらがすべて作りものなら――琥珀は、これから先、どんな生きものを愛せるだろう……。
「あんた、戦車に乗ったことないだろう? 乗せてやるよ」
ディランが琥珀を両手で抱え、自分の乗ってきた戦車に押しあげようとした。すると、
「ディラン様」
厳しい声をあげたのは、ローブの上に金属の鎧をつけた……ドルイドだ。
「魔法使いエルクウァルを討つというのは、コルマク王とドルイドの名において下された命令。それに背くとおっしゃいますか」
「琥珀が戻れば、戦いの大義名分はなくなったも同然だ。先に宮殿に寄り、王に報告したほうがいいのか? 父上も、あくまでエルクウァルを討てとはおっしゃらないだろうよ――息子にゃ違いないんだから」
「しかし我々の決定はどうなさる。いまエルクウァルを討たねば、あなたには破滅がもたらされますぞ」
「脅しのつもりかよ。いったい、どんな」
ディランが眉をひそめた。ドルイドは間髪おかず、手にした投げ槍を振りかざすと、表情一つ変えずに琥珀めがけてそれを投げつけた。琥珀はただ目を丸くして、一連の動きを見つめていることしかできない。
「!」
ビィン、と木が震える。ディランの手が、琥珀の胸元すれすれで投げ槍をつかんでいた。
「なんのつもりだ、てめえら!」
「……」
ディランを取り囲んでいるエリウの戦車、それぞれに乗っているドルイドたちが、次々と琥珀めがけて投げ槍を放る。ひゅん、ひゅん、と飛び交う槍をディランは息もつかない速さで叩き落としたが、狙いの逸れた槍がディラン自身の脇腹に突き刺さったとき、とうとう動きが止まった。
「ディラン―――!」
悲鳴をあげる琥珀に、八方から弧を描いて槍が投げつけられ――。
「っっ!」
目を閉じた琥珀は、ぎゅっとディランを抱きしめた。けれど最後の瞬間はなかなか訪れず、周囲は水を打ったように静まり返っている。恐る恐る目をあげると、こちらに背を向けている魔法使いの背中が見えた。樫の杖を掲げていて、銀髪が逆光に縁どられている……エルクウァルだ。
わずかな間のあと、空中で静止していた槍が強風にあおられて向きを変え、投げたものの足もとに突き刺さった。
「……まったく。だから馬鹿だと言ったんですよ。そいつに義理立てしたところで、あなたを守れるのは僕だけだというのに」
エルクウァルは首にかかっている轡を放りなげた。まさかとは思うが――琥珀が乗ってきた、あの馬に変化していたのだろうか。
琥珀の腕のなかでディランが顔をあげ、唖然として魔法使いの背中を睨んでいる。ドルイドたちが勝ち誇ったように言った。
「やはり! ご覧になったか、ディラン様。すでに琥珀姫は魔法使いと通じていたのです。あなたの名誉を守るためには、いまここでエルクウァルをお倒しになるしかない」
(なにを言っているの、この人たち)
「……う……」
ディランが身をよじり、槍を抜こうと手をかけたので、琥珀は我に返って、
「大丈夫、ディラン。痛いの? しっかりして!」
「……触ん、な!」
激しい言葉に、びくっとした。琥珀が体を硬直させているあいだに、ディランは腰を貫いている槍の穂先に手をかけ、ずるずる引き抜いていく。その手を汚すのは、黒っぽい泥のようなもの……血ではなかった。叫び声を呑みこんでいる琥珀の前で、ディランは柄まで引き抜いた槍を杖にして立つ。
息を切らしているようだが、その息が空気の流れでしかないことを、すでに琥珀は知っていた。
「琥珀」
「……ディラン。エルクウァルは悪い人じゃないわ。わたしをあなたのもとへ連れてきてくれたの」
「ディラン様、この剣をお使いなさい!」
ドルイドが投げつけた剣を、ディランは片手で受けとめた。古びた鉄の剣――琥珀が最初に抜いた、贋物だという英雄の剣だ。
「真の英雄の剣ではなくとも、それには長年の儀式の魔法が沁みこんでおります。魔法使い一人を斬るなどたやすいこと。我々が全力で援護いたします、さあ、はやく!」
ディランはぐらつく足を槍で支えながら、ゆっくりと剣を握りなおした。青眼に構えた剣の先が指すのはエルクウァルの鼻先だ。同時にドルイドたちが奇妙な詠唱をはじめる。
耳を塞ぎたくなるような、不快な歌声だった。
(いやだ、なに、この歌)
エルクウァルが不快そうに顔をしかめ、攻撃を受けてたつように杖を構えた。
「精霊を操る力は僕には叶わないとみて、精霊を近づけない作戦に出ましたか。まったく陰険ですね。そんな考えで魔法を使えるつもりでいるから、いつのまにか精霊たちが力を失いつつあることにも気づかなかったんですよ」
「黙れ、魔法使い! ルーの封印を解けば古代の魔法は再び我々のもとに還るのだ――さあ、ディラン、いつまでぐずぐずしている、戦え!」
身の程をわきまえないドルイドの命令。一度、目を伏せたディランがいきなり槍を振りかぶり、命令を下したドルイドの腹を串刺しにした。瞬きのあいだにディランは地を蹴り、琥珀たちを取り囲む戦車の中央に降りたつ。ディランの剣を、ドルイドたちはそれぞれの武器で受けとめた。
琥珀は唖然とする。ディランの意図がまったく読めず、立ちすくんでいると、
「ぐずぐずすんな、逃げろ!」
ディランが叫んだ。
だって、人形だなんて、信じられない。ディランには鮮やかな感情があり、荒っぽいながら正義感の強い性格もはっきりしている。これらがすべて作りものなら――琥珀は、これから先、どんな生きものを愛せるだろう……。
「あんた、戦車に乗ったことないだろう? 乗せてやるよ」
ディランが琥珀を両手で抱え、自分の乗ってきた戦車に押しあげようとした。すると、
「ディラン様」
厳しい声をあげたのは、ローブの上に金属の鎧をつけた……ドルイドだ。
「魔法使いエルクウァルを討つというのは、コルマク王とドルイドの名において下された命令。それに背くとおっしゃいますか」
「琥珀が戻れば、戦いの大義名分はなくなったも同然だ。先に宮殿に寄り、王に報告したほうがいいのか? 父上も、あくまでエルクウァルを討てとはおっしゃらないだろうよ――息子にゃ違いないんだから」
「しかし我々の決定はどうなさる。いまエルクウァルを討たねば、あなたには破滅がもたらされますぞ」
「脅しのつもりかよ。いったい、どんな」
ディランが眉をひそめた。ドルイドは間髪おかず、手にした投げ槍を振りかざすと、表情一つ変えずに琥珀めがけてそれを投げつけた。琥珀はただ目を丸くして、一連の動きを見つめていることしかできない。
「!」
ビィン、と木が震える。ディランの手が、琥珀の胸元すれすれで投げ槍をつかんでいた。
「なんのつもりだ、てめえら!」
「……」
ディランを取り囲んでいるエリウの戦車、それぞれに乗っているドルイドたちが、次々と琥珀めがけて投げ槍を放る。ひゅん、ひゅん、と飛び交う槍をディランは息もつかない速さで叩き落としたが、狙いの逸れた槍がディラン自身の脇腹に突き刺さったとき、とうとう動きが止まった。
「ディラン―――!」
悲鳴をあげる琥珀に、八方から弧を描いて槍が投げつけられ――。
「っっ!」
目を閉じた琥珀は、ぎゅっとディランを抱きしめた。けれど最後の瞬間はなかなか訪れず、周囲は水を打ったように静まり返っている。恐る恐る目をあげると、こちらに背を向けている魔法使いの背中が見えた。樫の杖を掲げていて、銀髪が逆光に縁どられている……エルクウァルだ。
わずかな間のあと、空中で静止していた槍が強風にあおられて向きを変え、投げたものの足もとに突き刺さった。
「……まったく。だから馬鹿だと言ったんですよ。そいつに義理立てしたところで、あなたを守れるのは僕だけだというのに」
エルクウァルは首にかかっている轡を放りなげた。まさかとは思うが――琥珀が乗ってきた、あの馬に変化していたのだろうか。
琥珀の腕のなかでディランが顔をあげ、唖然として魔法使いの背中を睨んでいる。ドルイドたちが勝ち誇ったように言った。
「やはり! ご覧になったか、ディラン様。すでに琥珀姫は魔法使いと通じていたのです。あなたの名誉を守るためには、いまここでエルクウァルをお倒しになるしかない」
(なにを言っているの、この人たち)
「……う……」
ディランが身をよじり、槍を抜こうと手をかけたので、琥珀は我に返って、
「大丈夫、ディラン。痛いの? しっかりして!」
「……触ん、な!」
激しい言葉に、びくっとした。琥珀が体を硬直させているあいだに、ディランは腰を貫いている槍の穂先に手をかけ、ずるずる引き抜いていく。その手を汚すのは、黒っぽい泥のようなもの……血ではなかった。叫び声を呑みこんでいる琥珀の前で、ディランは柄まで引き抜いた槍を杖にして立つ。
息を切らしているようだが、その息が空気の流れでしかないことを、すでに琥珀は知っていた。
「琥珀」
「……ディラン。エルクウァルは悪い人じゃないわ。わたしをあなたのもとへ連れてきてくれたの」
「ディラン様、この剣をお使いなさい!」
ドルイドが投げつけた剣を、ディランは片手で受けとめた。古びた鉄の剣――琥珀が最初に抜いた、贋物だという英雄の剣だ。
「真の英雄の剣ではなくとも、それには長年の儀式の魔法が沁みこんでおります。魔法使い一人を斬るなどたやすいこと。我々が全力で援護いたします、さあ、はやく!」
ディランはぐらつく足を槍で支えながら、ゆっくりと剣を握りなおした。青眼に構えた剣の先が指すのはエルクウァルの鼻先だ。同時にドルイドたちが奇妙な詠唱をはじめる。
耳を塞ぎたくなるような、不快な歌声だった。
(いやだ、なに、この歌)
エルクウァルが不快そうに顔をしかめ、攻撃を受けてたつように杖を構えた。
「精霊を操る力は僕には叶わないとみて、精霊を近づけない作戦に出ましたか。まったく陰険ですね。そんな考えで魔法を使えるつもりでいるから、いつのまにか精霊たちが力を失いつつあることにも気づかなかったんですよ」
「黙れ、魔法使い! ルーの封印を解けば古代の魔法は再び我々のもとに還るのだ――さあ、ディラン、いつまでぐずぐずしている、戦え!」
身の程をわきまえないドルイドの命令。一度、目を伏せたディランがいきなり槍を振りかぶり、命令を下したドルイドの腹を串刺しにした。瞬きのあいだにディランは地を蹴り、琥珀たちを取り囲む戦車の中央に降りたつ。ディランの剣を、ドルイドたちはそれぞれの武器で受けとめた。
琥珀は唖然とする。ディランの意図がまったく読めず、立ちすくんでいると、
「ぐずぐずすんな、逃げろ!」
ディランが叫んだ。
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