日本国転生

北乃大空

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2話 地球人類の歴史を改変する理由

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 ガイアはガヴリエルをメディカルルームに送り出して、コントロールルームのコンソール席に座った。


「ピポピポ」

「ん?今日はよく中央管理局からメールが来るよな。
 どれ、内容は何かな?」

『前略、女神ガイア殿。

 貴殿が先日実施した、地球の人類滅亡シミュレーションの結果は、大変興味深いものであった。
 このまま地球上で人類が文明発展させたとしても、革新的な出来事が起きない限りは、人類が滅亡する可能性が極めて高い。

 他の知的種族等から『神々』と呼ばれている宇宙管理者たる神族としては、地球から人類が滅亡することは大変好ましくないし、これからの宇宙の発展にも大いに損失的な事である。

 貴殿が開発したパラレルワールド(以下PW略)時空管理システムを最大限に活用し、地球の歴史をバックアップコピーして、何度も人類の歴史を進行させたとしても、正史地球のシミュレーションと同様の結果だと思う。

 そこで、宇宙中央管理局は評議委員会を開催し、地球人類滅亡のシミュレーション結果を検討した結果、貴殿のPW時空管理システムを活用し、人類滅亡を回避するために歴史そのものを根本的に改変することが決定された。

 なお、歴史改変するための注意点をいくつか伝える。

・正史地球は滅亡の危機直前であっても、一切干渉しない。

・歴史改変するのは、正史地球からコピーしたPW地球を活用すること。

・歴史改変を行う場合、貴殿の管理者権限をフル活用してもOK。

・歴史改変でPW地球の人類に神々や天使達の存在を知られてもOK。

・歴史改変するPW地球の国家、地形、資源分布等が大幅に変更してもOK。

・正史地球の人類が滅亡した場合は、正史地球とPW地球と置き換えする。


 貴殿が第2級宇宙管理神のままでは、惑星コピーとパラレルワールド運用は人類滅亡回避のためには可能だが、人類の歴史全体を改変する操作権限が一部しか認められていない。
 今回、大幅に人類の歴史を改変するためには第1級宇宙管理神の権限が必要であり、過去の業績を含めて貴殿の歴史改変を成功させるために昇格させた。

 評議委員会は満場一致で貴殿の昇格を認めるとともに、地球上での人類滅亡を回避するための歴史改変が成功することを望んでいる。

 私自身も貴殿の歴史改変が成功することを祈念致します。

 宇宙中央管理局 アスター中央統括管理神』


 メールを読み終えたガイアはため息を付いた後、呪文のように独り言を呟いていた。

 「あの人類滅亡シミュレーションの結果が、こんな大事になるとはね。
 しかも、アスター中央統括から直々のメールとは思いもよらなかったわ」

 中央統括管理神とは、例えるならば国家のトップであり、宇宙管理者全体の代表でもあった。


 ガイアが中央統括から命令メールを受けて、本格的に地球の歴史改変に動き出したのは、正史地球の西暦2025年1月であった。

「さてと、どうしようかな?あの時の愚行は繰り返したくないし、今回は慎重かつ大胆にというのが歴史改変のポイントなのよね」


 ガイアは歴史改変に伴い、過去の愚行について思いを巡らしていた。

 ガイアが呟いた『愚行』とは、超古代文明の滅亡であった。
 彼女が前任者から担当した直後は、現生人類が地球全体に拡散しつつある時であった。
 この頃の現生人類は原始的な生活をしており、文明と呼べるものは打製石器等の類いであった。

 そんな原始生活を送っていた現生人類に、ガイアは文明の発展を促進させるために、いきなり超科学技術を与えてしまったのであった。
 それから原始生活から飛躍的に文明が一気に向上して、伝説上語られているアトランティス、ムー、レムリア等の超古代文明に発展成長していった。

 その文明も古代人が基礎科学や技術を理解せずに超科学技術を持ったため、
或る日、古代人の1人が或る種の機械操作を誤り、地球上全ての超古代文明が一瞬にして大陸が消滅し、その文明も同時に破滅してしまったのであった。

 だが、なぜ1人の操作で全ての文明が同時に破滅してしまったのか?という疑問が残るが、ガイアは全ての文明が均等に発展するよう機械類をリンク接続させていたからであった。

 この時の失敗は、直ちに中央管理局に知られることとなったが、地球上から人類が全て滅亡したわけでは無かったため、処分等も厳重注意のみであったが第1級管理神への昇進時期は大幅に遅れることは確かであった。


 超古代文明を滅亡させてしまったガイアは、二度とこのような愚行を繰り返さないためにも惑星操作のバックアップ手段として、PW時空管理システムを編み出したのである。

 このシステムは惑星を丸ごとバックアップコピーする他に、そのコピー機能を利用して惑星を年代順にコピーし、亜空間に時空凍結することでその惑星へ疑似タイムトラベル出来ることが最大の特徴であった。

 なお、余談だが宇宙管理者は例え宇宙の果てが何十億光年の距離があったとしても、縦横無尽に一瞬で行き来出来る能力を持ち合わせていた。
 だが、タイムトラベルだけは不可能であった。
 否、正確には自分達が辿ってきた時間軸には絶対行くことが出来ず、仮に過去に戻ろうとしても、それはもう一つの別な世界である時間軸に跳躍することであり、それこそがパラレルワールドの存在に他ならなかった。


 ガイアは約1万年の間、地球を管理していたが、その間に為政者や聖職者等を一旦宇宙船内に引き入れて知能や感情操作して地上に派遣し、少しでも人類の歴史が良い方向に向かうように若干手を加えていた。

 また、俗に言う神隠しと呼ばれる現象は、能力が高いにも関わらず社会的に不遇な者や、その社会では異能者であり、不必要とされて消去しそうな者を救済する意味で、異世界に転移させたり、不慮の事故や不治の病等で天命を全う出来なかった魂を異世界に転生していた。

「剣と魔法が主体の異世界惑星ならば、転移・転生者に能力を持たせることによって、少しの人数でも歴史改変出来る影響力があるのだけどね」


 ガイアが管理している地球は、別な神々が管理する異世界惑星や実験惑星等とは違い、地球が太陽系に誕生した当初から中央管理局が目を掛けていた惑星の一つであった。

 その理由は地球が神々達の母星『ウラノーツ』に大変酷似しており、神々達が精神体に分離する際の肉体が現生人類の肉体とほぼ変わらなかったため、神々達が地球と人類に愛着を持ち始めたことに他ならなかったからである。

 そのため、中央管理局から地球管理上の注意点は

『古代文明まではある程度神々の手が介入しても許容するが、人類が神々達を崇拝して宗教を編み出すまでに文化が発展したら、神々の言葉を与える場合はアドバイス的な天使達からの天啓のみにし、極力人類社会に干渉しない』

というものであった。


「地球人類と我々管理者との差は、生物的に好戦的であるか否かなのね」

 地球上の生物が弱肉強食を基に激しい生存競争をしながら進化の道を辿っているが、と同時にその弱肉強食は生物同士の調和によるバランスを保っていたことをガイアは理解していた。


 ガイアは、地球上の生物が弱肉強食を基に激しい生存競争による進化を繰り返し、その積み重ねが遺伝子情報に生物的に好戦的であることが刻み込まれており、神々達が現生人類を生み出す際、ブランク体に地球上の生命体の遺伝子情報を利用していることから、当然ながら現生人類も好戦的になるのは自然なことであると言えた。

「人類が増加し過ぎると、弱肉強食の生態バランスが崩れるのよ。だけど宇宙内での生物個体が持つ生物精神エネルギー量は、地球人がトップなのよね」

 ガイアは過去から現在まで地球の歴史を振り返り、人類の歴史は戦争の歴史でもあることを痛いほど理解していたし、また地球人が持つ生物精神エネルギー量は宇宙内でもずば抜けており、中央管理局の見解では決して絶滅させてはならない種族と厳命されていた。


「地球人は昔から争いが絶えないけど、戦争が人類の科学を発展させる加速材料であることは確かだわ。
 私達神族の文明進化速度に比較すると、100倍以上の速度なのよね」

 ガイアは過去の様々な戦争から『戦争』という毒薬の功罪について思考を巡らしていた。

「だけど、地球人全てが好戦的ではなく、中には平和的というか調和バランスを取ることが得意な民族も存在するのよね」


 ガイアは歴史改変について、色々な方法について検討していた。
 異世界惑星では、少人数(勇者達)の活躍で歴史改変は比較的簡単に出来るが、地球ではあまりに人口数、国家数が多くて少人数程度では歴史改変どころか、1つの小国の体制を変えることすら難しいといえた。

「古代や中世ならば、少人数でもバタフライ効果で何とか歴史改変出来るかも知れないけど、近世や現代の地球ではとても少人数じゃ無理ね」

 確かに時代を遡れば、バタフライ効果で少人数でも歴史改変の可能性は高いが、それでは今まで見守ってきた地球の歴史が半ば無駄になることが、ガイア自身の矜持が無くなってしまう気がしていた。


「ウーン、過去を古代まで遡って歴史改変するのは簡単だけど、歴史がどっちに転ぶかは予測不能なのよね。
 ここは特異点となる年代から歴史改変を手掛けるのが無難か」

 地球の歴史で、近年において特異点が多数存在する年代は、第2次世界大戦前後の年代であった。

「やはり、この年代に特異点が集中するのよね。
 えーと、欧州はナチスドイツの領土拡大とユダヤ人弾圧、ソ連軍反撃に米国参戦とノルマンジー上陸作戦で、太平洋戦争はハルノートによる真珠湾攻撃とミッドウェー等で、最後は日本への原爆投下で、他にも色々あるわね」

 だが、この時代は個人や少人数程度の転移した程度の力では、時代の本流に流されるのがオチであった。

「ここは最低でも民族レベルか、国家丸ごと転移を考えますか」

 異世界内でよく発生する個人・少人数の転生・転移では、激動の戦争時代であると、その世界の歴史の本流に流されてしまうことは明白であった。

 そこで、最低でも民族等の大規模集団か国家レベルでの転移ならば、歴史をドラスティックに改変が出来、ガイアが今まで管理してきた歴史遺産も役立つのではないかと考え始めていた。

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