日本国転生

北乃大空

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84話 アメリア占領統治政策 その1

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1943年2月某日

 この頃になると、ル連を壊滅に追い込んだ関東軍の兵力は、旧ル連の統治で大量の人員は必要無くなり、50万の兵士数を10万人に減らして、機甲師団が1個、機械化歩兵師団が4個という形で再編成していた。

 残り40万人の関東軍兵士は一旦部隊任務を解除後、日本に帰還させて休暇を取らせた後、別な職業を選択する自由を与え、日本国内で様々な職業に就く他、占領地等の統治する文官が不足気味の人員埋め合わせに従事する者などが多くいた。

 だが、関東軍兵士の大半は休暇終了後、部隊再編成に応じていたものの戦闘に向かない者や適性が無い者は、占領統治を行っている地域に文官を警護する警護兵として部隊勤務していた。
 再編成した部隊は機甲師団5個10万人、機械化歩兵師団20個40万人の合計50万人で構成された新生関東軍であり、部隊編成後直ちにアメリア進攻部隊と共にメキシカとカナダ方面に向かった。

 なお、ル連との戦闘で関東軍の被害は死者約100名、負傷者約500名で、いずれも戦闘時に電磁バリア機能が停止していたか、または作動させていなかったものであり、停止状態は使用方法のミスが主な原因で、作動不良は充電若しくは電池交換をしなかったことが原因であった。

 人的損失の他に、物的損失分は10式改戦車10台、89式改装甲車5台、運搬用トラック20台前後が全損していたが、コレも電磁バリア機能停止状態で敵砲撃を受けた時の破壊によるもので、機能停止原因の大半は車両の燃料切れにより発電装置が動かないことに他ならず、人的、物的損失のいずれも俗にいう人的ミスに他ならなかった。



 話をアメリア国内に移し、時間を若干巻き戻す。


1942年12月下旬

 アメリア上陸から1年経ち、日本軍が進攻して占領した州はウィスコンシン、イリノイ、テネシー、ミシシッピ、アラバマ、ケンタッキー、オハイオ、インディアナ、ミシガンへと順次東進を続けていた。

 また、フロリダとジョージア2州は武蔵艦隊海兵隊第2強襲揚陸部隊が既に半年程前に進攻占領し、フロリダ州内の港湾から陸軍部隊を受け入れて、フロリダの統治を陸軍に引継中であった。


 一方、メキシカ軍はようやくテキサス軍を敗退させ、州全体を占領後に現地を統治し始めたが、住民の散発的な反乱に相当の間、メキシカ政府は苦悩していた。

 日本軍とメキシカ軍の大きな違いは、住民が所持する武器等に対する処置の違いに他ならなかった。

 日本軍が占領当初にアメリア国民に対して真っ先に実施したのは、住民が所有する武器(銃砲、ナイフ等)の供出、没収であった。

 コレは戦国時代末期、豊臣秀吉が農民に行った刀狩りに近いモノといえた。
 秀吉は刀狩りを実施せずにいた場合、農民等が野武士化して反乱や反抗勢力等に繋がり、占領統治が不可能になる可能性を恐れていた。
 そこで秀吉は、新たな武装勢力を誕生させずに農民達の武装解除を奨励して統治政策の一環として刀狩りを実施していた。

 日本軍は、秀吉以上の刀狩りや明治政府の廃刀令以上の強力な法令、日本国内で実施している『銃砲刀剣類所持等取締法(以下銃刀法略)』をアメリア国内で実施していった。

 アメリア人の殆どがこの法律に反対し、住民達の一部が住民の武器を没収に来た執行官を銃撃するという暴挙に出たため、日本軍は直ちにその住民達を射殺した。
 この模様をアメリアの新聞記者等に取材させ、老若男女全ての住民をナンバリング化して、完全な形で銃刀法を実施して行った。

 新聞記者にあえて取材させたのは、違法に武器を提出せず、又は武器を隠匿した者は厳罰に処し、国が安定統治した段階で改めて狩猟等に使用する銃砲を許可制とすることを国民に周知させるためであった。

 住民のナンバリング化は或る意味では住民自身は恐怖であったが、逆に武器を率先して供出した住民や統治に協力的な住民には、食料配給や生活面の優遇措置を実施し、要するに飴と鞭を使い分けた統治を行っていった。

 また、日本軍の統治で厳格で最も苛烈だったのは銃刀法に反抗する住民への扱いだけでなく、有色人種の差別を支持していた白人至上主義な団体や白人達の措置であった。
 もし一家の主人が、白人至上主義者又はクー・クラックス・クラン(KKK以下略)のような団体等に所属し、有色人種に暴行・傷害を与えた者は裁判抜きで50年の懲役刑、有色人種を殺害した者は有無を言わさず死刑とし、主人以外は一家全員国外へ追放措置する旨を新聞等の報道機関にニュースを流して、占領地住民に周知徹底させていた。

 占領統治当初は白人至上主義者は鳴りを潜めていたが、月日が経つにつれて団体等みたいな形で集まり、有色人種の中でも黒人達を徐々に迫害するようになっていった。

 彼等の迫害行為は全て隠しカメラで記録化され、KKK等の団体に属していた者で殺害行為を行った者は即決で公開死刑(銃殺刑)処分とし、その家族は財産没収の上で国外追放(シベリア収容所移送)とした。
 また、常に白人至上主義を唱えている主義者も、国外追放処分とすることで日本統治下のアメリア国内から白人至上主義思想を唱える者はほぼ絶滅した。

 日本軍の占領統治は、有色人種達に融和的に接して一緒に生活する白人達には、白人至上主義を唱える者とは正反対に宥和措置を執り、老若男女あらゆる人種を問わずに平等に扱っていた。
 そのため、白人至上主義を旨とした白人達には、日本軍の統治政策は非常に面白くないモノであったが、白人主義者達から迫害を受けていた有色人種達には日本軍の統治政策は歓迎すべきモノで、彼等は日本軍に大変協力的な姿勢を見せていた。


 アメリアを占領統治中、国民の人心掌握が一番の懸念事項とされていたが、一部の白人至上主義を唱える白人達を除いて、意外とすんなりと日本軍はアメリア国民に歓迎されていた。

 その理由は、ルーズベルト大統領は石油枯渇に伴い、全国の石油業者から備蓄石油を軍に供出するよう大統領令を発布していた。

 そのため、国内の石油系燃料で動く車両の大部分が停止状態で、物流活動が低下して経済状況が悪化し、国民の食料供給が滞り食糧不足により国民全体が飢餓状態にあり、アメリア連邦政府への不信感が高まっていたからである。

 日本軍は占領後に真っ先に行ったのは現地住民への食料供給であった。
 コレは先程説明した武器供出・没収措置に併せて、住民に無償で食料を供給する代わりに、住民達のナンバリングを行って住民らが所持している銃器等の武器を供出させるという物々交換か、または執行官が武器没収を実施した際、食料交換券を発布する形を取ることで、住民からの武器回収率が高まっていた。

 次に行ったのは住民へのエネルギー供給であった。
 だが、日本軍は住民達に一切石油等は配布しなかった。
 この時代、既にアメリアは車社会であり一家に1台以上という自動車普及率であった。
 しかし、ガソリン等の燃料を供給しなかった理由は正史地球のように石油依存社会になり、地球温暖化を繰り返すという愚行を絶対に避けたかったわけであった。

 コレは日本国内や日本軍に使用されている車両も同じで、満州で当初製造していた10式改戦車の最初に製造された1万両はディーゼルエンジンであったが、残り1万両は常温液体化水素貯蔵タンク搭載の燃料電池によるモーター駆動とし、他の戦闘用車両や軍用トラックも燃料電池戦車と同様の仕様で製造されていた。

 なお、日本国内では旧日本は個人所有の車は皆無に近い状態であった。
 一方、新日本は元々使用していたガソリン車等は電気自動車や燃料電池車に大部分移行しており、転移事象以降はさらにその傾向に拍車が掛かり、石油系燃料で稼働する車両は殆ど無くなり、せいぜい軍事関係車両が石油燃料を使用する位で、その軍事系車両も電気自動車か燃料電池車に移行しつつあった。

 また、航空機燃料等は当面の間は石油系燃料を使わざるを得なかったが、常温液体化水素貯蔵タンクの技術が開発されたことで、現在ジェットエンジン燃料に水素を使用した飛行実験が行われており、将来的に飛行機燃料も全て水素エネルギーに切り替わる予定であった。

 占領統治中のアメリア国民へのエネルギー供給は、石油ではなく電気と水素を供給する形にしていた。
 まず占領後に最初行ったのは核融合炉(NF炉)発電所の設置であった。
 コレを設置し無尽蔵に近い形で電気と水素が生み出されることで、ここ数カ月停電状態であった各家庭は喜びに満ちあふれていた。

 次に実施したのは一家に1台以上あった自家用車のエンジンを取り除いて、高性能電気モーターと高性能電池を積み込むことであった。
 各家庭に車用充電器を取付けして充電出来るようにすることで、住民の行動が大幅に向上し、日本軍の統治に対する不満や反感が殆ど無くなっていた。
 また大型トラック等の車両は燃料電池システムを組み込み、水素供給ステーションを各都市に設置することで、国内の物流が徐々に回復しつつあった。


 日本軍が統治政策で最大の目玉は、アメリアは既に車社会が普及している段階であったが、道路の右側通行を左側通行に変更することであった。
 ルーズベルト大統領による石油統制令により、アメリア国内中の石油が殆ど一般社会から無くなり、車社会だったアメリアの道路には馬車か馬が走る程度であった。
 そこで日本軍は、統治地域の住民にエネルギー供給とモーター配布する時点で、道路の通行方法を右側通行から左側通行の切替を実施していた。
 コレを行うことで、英国の自治領だったカナダと同様の左側通行となり、メキシカも左側通行にするようにメキシカ政府に働き掛けていた。


 なお、余談であるが右側通行を普及させたのはナポレオンである。
 彼が左利きだからという俗説や、自分の軍隊が戦術的に有利に動けるように右側通行した等の諸説は色々あるが、当時中世ヨーロッパは日本と同様に左側通行であり、遥か古代のローマ帝国も左側通行であった。
 当時の英国も左側通行を採用していたが、ナポレオンが英国を征服出来なかったため、英国は右側通行になることなく左側通行のままであった。

 話を元に戻すが、満州や中国、東南アジアやインド等は日本や英国の影響を受けて左側通行にしていた他、オーストラリア、ニュージーランドも元々英国領だったため左側通行であった。

 また、ル連も国家滅亡して日本軍の占領統治地域は全て左側通行であったが、ドイツ支配地域は未だに右側通行であった。
 だが、ドイツ帝国のヒルラー総統自身も、フランク共和国のナポレオンが定めた右側通行について、何故他国のルールを自国民が使用しなければならないのかと憤慨していた。

 尤もヒルラー自身が憤慨するように仕向けたのは、三木特使がガヴリエル経由でヒルラー総統の愛妾であるアリス・グレイに働き掛けたせいであった。

 今回、ドイツは英国との和平が実現したことで、大陸統一規格と思っていた右側通行が狭いヨーロッパ地域だけであり、日本が英国と同様に左側通行であり、またアリス・グレイからの後押しによりヒルラー総統は国内及び占領地域全てを右側通行から左側通行に変更したことで、全世界道路網の通行方法は全て左側通行に統一された。
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