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016、隠してきたもの
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――壊れるくらいに愛してしまいたい。
蓮華寺先輩の言葉を、私はどう受け止めていいかわからずにいた。
その響きは、どの部員の、どの言葉とも違っていて、私の心臓を乱暴に掴んだ。
「えっと……どういう意味、ですか?」
絞り出すようにそう言った私の声は、掠れていて、自分でも情けないと思う。でも、どうしてもそれ以上の言葉が見つからなかった。
蓮華寺先輩は目を伏せ、カップの縁を指でなぞる。その仕草にどこか迷いが見えた。
「灰崎さんは、みんなのために頑張ってくれている。累くんも、白人君も、青慈も、君がいたからあれだけの力を発揮できた。魔法少年部にとって、君の存在は本当に特別だ」
「そんなこと……」
マネージャーの能力。この力は、確かに特別なものだ。しかし私が何か特別なことをしたわけではない。魔法少年たちの活躍は、部員たちそれぞれの努力の結果だ。
そう言い返したかったけれど、蓮華寺先輩の真剣な表情に、その言葉は喉の奥で押しつぶされてしまう。
「僕にとってもね、君は特別なんだよ」
蓮華寺先輩は顔を上げ、真っ直ぐ私を見つめる。その瞳は、まるで全てを見透かすような強さを秘めていて、私は思わず視線をそらしてしまった。
「でも、それだけじゃないんだ。君に触れるたび、君のことを考えるたび、僕は自分を抑えられなくなりそうになる。そんな自分が怖い」
「抑えられないって……」
紅茶のカップを置く音が、やけに大きく部室に響く。
蓮華寺先輩は、静かにカップの中の紅茶に目を落とす。次の言葉を探しているように、何度か口を小さく開く。
「……蓮華寺先輩」
声をかけると、先輩は顔を上げる。
「何を不安に思っているかわからないですけど……。私は、どんなことがあっても魔法少年部の、いえ、先輩の味方ですよ」
そう言うと、先輩は驚いたように目を見開いて――そして、痛々しいような苦い笑みを浮かべた。
カップの中の残った紅茶を一気に飲み干すと、何かを決意したような光が先輩の瞳にともる。
「灰崎さん、こっちに来てくれる?」
言われるままに椅子から立ち上がると、蓮華寺先輩のそばへ向かう。
「僕の隣に立って。そして、手を出して」
「手……はい」
右手を蓮華寺先輩のほうに差し出す。先輩は、壊れものを扱うかのように、恭しく私の手を取ると、ゆっくり彼の口元に手を近づける。
先輩の形のいい唇から、やけになまめかしい舌が伸びると、小指の付け根あたりを小さく舐める。「――あっ」そして唇でそこを挟むと、私の目をじっと見つめながら――ギリッ、と歯を立てられる。
「いッーーたぁっ……!!」
突然の痛みに、空いている左手で蓮華寺先輩の肩をぎゅっとつかむ。
「いた、痛いですっ、先輩……なに、ぃたぁあ……ッ」
肩を叩き、痛みを訴えても、先輩は歯を立てるのを止めない。それどころか、一層深く歯を立てられる。
焼けるような感覚が走り、頭の中が痛みに支配される。
「ぁああぁ……っ」
痛みで、涙が浮かぶ。
訴えるような視線を向けても、蓮華寺先輩はただ冷静に私を見つめ返すだけだ。
その瞳の奥には、気配を隠し獲物を狙っている獰猛な猫科の生き物めいた恐ろしさがあった。
頭の中が先輩から与えられる痛みでいっぱいになる。
なんで、こんなこと。いたい、あ、、あ。
そうしていると、ふっと私の手のひらを噛む歯の力が弱くなる。唇で挟まれたまま、労わられるように舌でそこを撫でられる。急に痛みから解放された部分に甘い刺激が与えられ、そこはただの手のひらではなく、何か敏感な、特別な部位のように感覚が鋭敏になっている。
「せんぱ、ぃ……」
私が必死に首を振ると、蓮華寺先輩はようやく私の手から口を離す。
蓮華寺先輩の唾液で濡れた手には、くっきりと歯形が残ってしまっていた。
私の荒い呼吸が部室に響く。
先輩は、さきほどまで瞳に宿していた獰猛な気配は影を潜め、いつもの雰囲気に戻っている。
先輩がつけた歯型をそっと指でなぞる。
それは凸凹して、触れるたびに、先ほどの痛みが浮かんできそうだった。
「こんなにキツく痕をつけても、どうせすぐに消えてしまうんだよ。灰崎さん、僕は君にもっと僕の後を刻み込みたい。消えないような痕を。心にも、身体にも。ねえ、嫌だろう、そんなこと」
自重するような先輩の声色。
ああ、先輩は今。
ずっとずっと隠していたものを、私に見せてくれているんだ。
「蓮華寺先輩――」
私は先輩の足元にひざまずくと、そのほっそりした太腿に顔を寄せた。
「は、灰崎さん?」
「嫌じゃ、ないです。先輩の与えてくれるものを、全部受け止めさせてください……」
私は先輩の足元にひざまずくと、そのほっそりとした太腿に顔を寄せた。
蓮華寺先輩は何も言わない。
見上げた先輩の顔は硬直し、その瞳は戸惑いと混乱で揺れている。
彼は一度、息を吸うように口を開いたが、何も言葉を発することなくまた閉じる。
「……灰崎さん、本気で言っているの?」
絞り出すような声。
先輩がこの瞬間をどう受け止めればいいのかわからずにいるのが、痛いほど伝わる。
私は何も言わずに、ただ先輩の膝元に寄り添っている。
先輩はそれでも躊躇うように視線が揺れ動く。
そして決意したように目の色が変わると、その手がそつと私の髪に触れた。
優しく髪を撫でる指先から伝わる感触に、私は目を閉じた。
蓮華寺先輩の言葉を、私はどう受け止めていいかわからずにいた。
その響きは、どの部員の、どの言葉とも違っていて、私の心臓を乱暴に掴んだ。
「えっと……どういう意味、ですか?」
絞り出すようにそう言った私の声は、掠れていて、自分でも情けないと思う。でも、どうしてもそれ以上の言葉が見つからなかった。
蓮華寺先輩は目を伏せ、カップの縁を指でなぞる。その仕草にどこか迷いが見えた。
「灰崎さんは、みんなのために頑張ってくれている。累くんも、白人君も、青慈も、君がいたからあれだけの力を発揮できた。魔法少年部にとって、君の存在は本当に特別だ」
「そんなこと……」
マネージャーの能力。この力は、確かに特別なものだ。しかし私が何か特別なことをしたわけではない。魔法少年たちの活躍は、部員たちそれぞれの努力の結果だ。
そう言い返したかったけれど、蓮華寺先輩の真剣な表情に、その言葉は喉の奥で押しつぶされてしまう。
「僕にとってもね、君は特別なんだよ」
蓮華寺先輩は顔を上げ、真っ直ぐ私を見つめる。その瞳は、まるで全てを見透かすような強さを秘めていて、私は思わず視線をそらしてしまった。
「でも、それだけじゃないんだ。君に触れるたび、君のことを考えるたび、僕は自分を抑えられなくなりそうになる。そんな自分が怖い」
「抑えられないって……」
紅茶のカップを置く音が、やけに大きく部室に響く。
蓮華寺先輩は、静かにカップの中の紅茶に目を落とす。次の言葉を探しているように、何度か口を小さく開く。
「……蓮華寺先輩」
声をかけると、先輩は顔を上げる。
「何を不安に思っているかわからないですけど……。私は、どんなことがあっても魔法少年部の、いえ、先輩の味方ですよ」
そう言うと、先輩は驚いたように目を見開いて――そして、痛々しいような苦い笑みを浮かべた。
カップの中の残った紅茶を一気に飲み干すと、何かを決意したような光が先輩の瞳にともる。
「灰崎さん、こっちに来てくれる?」
言われるままに椅子から立ち上がると、蓮華寺先輩のそばへ向かう。
「僕の隣に立って。そして、手を出して」
「手……はい」
右手を蓮華寺先輩のほうに差し出す。先輩は、壊れものを扱うかのように、恭しく私の手を取ると、ゆっくり彼の口元に手を近づける。
先輩の形のいい唇から、やけになまめかしい舌が伸びると、小指の付け根あたりを小さく舐める。「――あっ」そして唇でそこを挟むと、私の目をじっと見つめながら――ギリッ、と歯を立てられる。
「いッーーたぁっ……!!」
突然の痛みに、空いている左手で蓮華寺先輩の肩をぎゅっとつかむ。
「いた、痛いですっ、先輩……なに、ぃたぁあ……ッ」
肩を叩き、痛みを訴えても、先輩は歯を立てるのを止めない。それどころか、一層深く歯を立てられる。
焼けるような感覚が走り、頭の中が痛みに支配される。
「ぁああぁ……っ」
痛みで、涙が浮かぶ。
訴えるような視線を向けても、蓮華寺先輩はただ冷静に私を見つめ返すだけだ。
その瞳の奥には、気配を隠し獲物を狙っている獰猛な猫科の生き物めいた恐ろしさがあった。
頭の中が先輩から与えられる痛みでいっぱいになる。
なんで、こんなこと。いたい、あ、、あ。
そうしていると、ふっと私の手のひらを噛む歯の力が弱くなる。唇で挟まれたまま、労わられるように舌でそこを撫でられる。急に痛みから解放された部分に甘い刺激が与えられ、そこはただの手のひらではなく、何か敏感な、特別な部位のように感覚が鋭敏になっている。
「せんぱ、ぃ……」
私が必死に首を振ると、蓮華寺先輩はようやく私の手から口を離す。
蓮華寺先輩の唾液で濡れた手には、くっきりと歯形が残ってしまっていた。
私の荒い呼吸が部室に響く。
先輩は、さきほどまで瞳に宿していた獰猛な気配は影を潜め、いつもの雰囲気に戻っている。
先輩がつけた歯型をそっと指でなぞる。
それは凸凹して、触れるたびに、先ほどの痛みが浮かんできそうだった。
「こんなにキツく痕をつけても、どうせすぐに消えてしまうんだよ。灰崎さん、僕は君にもっと僕の後を刻み込みたい。消えないような痕を。心にも、身体にも。ねえ、嫌だろう、そんなこと」
自重するような先輩の声色。
ああ、先輩は今。
ずっとずっと隠していたものを、私に見せてくれているんだ。
「蓮華寺先輩――」
私は先輩の足元にひざまずくと、そのほっそりした太腿に顔を寄せた。
「は、灰崎さん?」
「嫌じゃ、ないです。先輩の与えてくれるものを、全部受け止めさせてください……」
私は先輩の足元にひざまずくと、そのほっそりとした太腿に顔を寄せた。
蓮華寺先輩は何も言わない。
見上げた先輩の顔は硬直し、その瞳は戸惑いと混乱で揺れている。
彼は一度、息を吸うように口を開いたが、何も言葉を発することなくまた閉じる。
「……灰崎さん、本気で言っているの?」
絞り出すような声。
先輩がこの瞬間をどう受け止めればいいのかわからずにいるのが、痛いほど伝わる。
私は何も言わずに、ただ先輩の膝元に寄り添っている。
先輩はそれでも躊躇うように視線が揺れ動く。
そして決意したように目の色が変わると、その手がそつと私の髪に触れた。
優しく髪を撫でる指先から伝わる感触に、私は目を閉じた。
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