野花のような君へ

古紫汐桜

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和解と知らなかった真実

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『創、大好きよ』

   いつも向けられていた向日葵のような笑顔は、全てを知った上でも僕を思ってくれていた笑顔だったのだと初めて知った。
「僕は……美鈴に、弟のように思われて居るのだとばかり思っていました」
思わずぽつりと呟いた言葉に
「本当は、そのままにしておいてあげるべきだったんだろうね。でもね、美鈴の仏壇に手を合わせるきみを見ていて、彼女の思いをきみに知って欲しくなってしまったんだ。ごめんね」
そう呟いた蔦田さんに、僕は首を大きく横に振った。
「きみにこの話をしたのは、俺と彼女は清い関係だったことを知っておいて欲しかったんだ。彼女はずっときみが好きだったから、決して俺にその身体を触れさせる事は無かった。まぁ……俺自身、女性を抱く事が出来ないしね。でも、俺には血を分けた跡取りが必要だった。彼女はきみを高杉の家から救い出す為には、高杉の息が掛からない人間との結婚がしたかった。だから僕達は、お互いに協力する事を誓って結婚したんだ」
信じられない話に、僕は頭を抱えた。
「そんな……」
「誤解しないで欲しいのは、きみにこの話をしたのは、彼女の死をきみのせいにしたいわけじゃないんだ。むしろきみには、胸を張ってはじめ君と幸せになって欲しい。彼女もきっと、それを望んでいる筈だ。でも、彼女が俺と結婚したのは、俺を愛していた訳じゃ無かった事だけは知って欲しかったんだ」
「じゃあ……美鈴の妊娠は……」
「体外受精だよ」
次々に語られる真実に、僕の思考が追い付いて行かない。
「それでも、妊娠中の体調不良に気付けなかったのは俺のミスだ」
混乱していた僕の視線に、テーブルで両手を握り締めて震える蔦田さんの手が見えた。
(あぁ……この人はあの日からずっと、美鈴の死を自分の罪だと責めて生きて来たんだ……)
そう思った。
僕はそっと蔦田さんの震える手に自分の手を置いて
「もう、あなたも自由になって下さい」
と、そう口から出ていた。
多分、美鈴もこんな風に自分を責めて生きて欲しくて蔦田さんと結婚したんじゃない筈だ。
「創君……」
悲しみに瞳を翳らす蔦田さんに
「きっと美鈴も、それを伝えたくて僕と蔦田さんを今、引き合わせてくれたんだと思います」
そう伝えた。
すると蔦田さんは俯き、手で顔を隠して身体を震わせた。

  彼も美鈴を失い、ずっと心に傷を抱えて生きて来たのだと知って、僕の中にあった彼への憎しみや不信感が消えて行く。
美鈴が他界して10年以上経過している。
もう、お互いに前を向いて歩き出さなくちゃいけないと気付いた。
「蔦田さんも、もう自由になって下さい」
ぽつりと呟くと、驚いた顔をして顔を上げた。
「もう、充分苦しんだ筈です。今度は、貴方が幸せになる番です」
微笑んでそう言うと、蔦田さんは泣き笑いの表情を浮かべて
「ありがとう」
と呟いた。
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