野花のような君へ

古紫汐桜

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和解と知らなかった真実

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「今度、はじめと美鈴のお墓参りに行ってきます」
帰りしな、蔦田さんにそう言うと
「一君、きみの恋人じゃなかったらなぁ~」
と、わざとらしい残念な表情で普段の減らず口が出た。
もう、彼も大丈夫だろう。
僕がギロリと睨み
「はじめは僕のパートナーです。それから、ハルさんは蓮君のパートナーなんですから、そろそろ貴方だけのパートナーを見付けたらどうですか?」
と呟くと、蔦田さんは苦笑いを浮かべて
「悠希君もはじめ君もそうだけど、良いなぁ~と思うとパートナーが居るからなぁ~」
なんて言って、肩を窄めて苦笑いをしていた。
玄関で靴を履きながら、ふと
「深沢先生とはどうなんです?」
と、思わず聞いてしまった。
深沢先生は、弁護士なのにハルさんみたいに優しいふんわりとした雰囲気をしている。
「はあ?あいつとは、ただの友達だよ。しかも既婚者だからな」
苦笑いした蔦田さんに
「え?深沢先生って、既婚者なんですか?」
と聞くと
「あれ?あいつ言って無かった?学生結婚していて、確か子供も居たはずだよ。それに、長らく一緒に居過ぎて、既に家族みたいなもんだからなぁ~」
そう言って、靴を履き終えた僕に微笑んだ。
「何かあったら、いつでも連絡してくれ」
蔦田さんは、名刺の裏に走り書きでプライベートの番号を書いて手渡した。
僕は受け取りながら、自分の番号をスーツの内ポケットに入っていた自分の名刺に書いて手渡し
「蔦田さんも」
そう答えて握手した。
「今日、話せて良かったです」
「あぁ、俺もだ」
お互いに顔を見合わせ小さく笑う。
「じゃあ、お邪魔しました」
玄関のドアノブに手を掛けて言うと
「あ!もし、はじめ君と別れる事があったら、俺が貰うからね」
ニヤリと笑って言われ、僕はムッとした顔をすると
「別れませんから、ご安心ください!!」
そう言って、ドアを乱暴に閉めた。
おそらくドアの向こう側では、蔦田さんは爆笑しているんだろうなぁ……。
マンションの廊下を歩き、エレベーターのボタンを押して一息着いた。

  ふと、はじめの声が聞きたくなって、山奥の新しい僕の自宅に電話を掛ける。
『はい、熊谷です』
今、一番聞きたかった声に笑みが零れた時
「創さんですよね?何かありましたか?」
って開口1番に言われた。
はじめの家は、未だに黒電話ってヤツを使っていて、番号の通知なんてされる訳がない。
深呼吸して
「なんで僕だと思った?」
と聞くと
「創さんの事は、なんとなく分かるんです」
そう答えたはじめは、きっと今頃、受話器の向こうで赤面しているのだろう。
小さく笑いながら
「すぐ帰る。今夜、今日の事を話したいんだけど、時間取れるか?」
と聞いた僕に、はじめは間髪入れずに
「もちろん!創さんの為なら、いくらでも時間を作りますよ」
そう答えた。
エレベーターが到着し
「じゃあ、今から帰る」
と言って電話を切ると、エレベーターに乗り込んだ。
美鈴と喧嘩別れしたあの日から、随分と経過したんだとしみじみ感じながら、僕は自宅への帰路を急いだ。
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