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Ⅱ章――――俺たちの夏がやってきた
07 気まずい
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洋食店『でんでん』にて。いつもならゲームに没頭する競技場になるが、期間限定で学びの場となる。
溶けるような匂いは店内に染みついている。
長くやっているせいだろうか。まだこの島に来て数ヶ月だっていうのに、何年も通い慣れた店のように感じる。
教科書やノートがテーブルを占めるところに、赤く染められたチキンライスが湯気を立てて目の前にやってきた。
「ありがとう、おっちゃん」
ヤブはチキンライスを持ってきた男に礼を言う。
見上げれば優しい笑みが迎える。大柄な体格のおっちゃん。何から何までデカい。初めてこんなデカい人を見たっていうくらいだ。この店に来た時に出迎えてくれた時は、圧倒されて言葉が出なかった。要は、恐かったのだ。
「珍しく精が出るじゃないか、小童共」
「一応高校生だからな」
村島は気の抜けた笑みを零す。
「高校生も大変なんですよ」
朝川はスポーツ刈りの頭を掻いて悩ましい顔をする。
「ヌハハハハッ! もし八十点以上のテスト用紙を土産に持ってきたら、サービスでポテトフライをやるよ」
賑やかな笑い声と共に店の奥へ向かっていく。
「俺たちに八十点以上とか求めすぎだろ」
村島はしなびたポテトフライのごとくぼやく。
「全教科三十点以上取れたらバカンスフィーバー確定だ。高望みせずやっていこうぜ」
俺はやる気がちょちょぎれそうになっている三人をささやかながら鼓舞する。
「そうだな。取れたらラッキーってことで」
朝川は教科書とノートを横に除け、チキンライスを真ん中に置く。村島は取り皿にチキンライスをよそい、それぞれに配っていく。
「んーいい匂いだ! これ食うとなんか力湧いてくんだよな!」
ヤブは鼻の穴を大きくして酸味のきいたチキンライスに口を回す。
「そんじゃいただこうか!」
腹の虫が鳴る前に満たそうとした時、店内のベルが響いた。扉の上についたベルが訪問者を告げる。
「おーいらっしゃい」
店員のおっちゃんがお客を迎え入れる。
「あ、あんたらもいたんだー」
「おう。佐士島たちも来たのか」
向かいに座る朝川が手を挙げて振っている。視線を投げると、制服姿の三人組が目に留まった。この島にいれば安い洋食店に来る確率は高い。だがここで折谷と鉢合わせるとは思わなかった。
「なにやってんのー?」
黒の前髪パッツンの烏丸祈里さん。長い髪を下ろす烏丸さんに、暑いのに蒸れないのかと聞くのは野暮になる。こだわりがあるらしいのだ。髪を乱したくないがために汗一つかかない。そんなことできるのか。
「テスト勉強だよ。テスト勉強」
ヤブはチキンライスを口に含んだまま答える。
「うわ、チキンライス? こんなくそ暑い時によくそんなの食えるね」
俺たちの頼んだメニューに苦言しているのは佐士島彩華さん。シャツのボタンを二つほど開け、ネクタイを緩めて制服を着崩している。綺麗なゴールドピンクの長髪と明るい雰囲気はよくマッチしていると思う。
「いやいや、暑い日こそ出来たてのチキンライスがうまいってなもんよ」
折谷たちは俺たちに気づいた流れで隣のボックス席につく。折谷も特に気にする素振りもなく席についた。まったく俺と目を合わせようともしない。……やりにくいな。
店員のおっちゃんがお冷を持ってくると、折谷たちはメニューを見ながら和気あいあいと選ぼうとしている。
折谷のヤツ、なんか俺と話す時と違う気がする。一段階声が高い……。気にしすぎ? 自意識過剰か? だとしても、あからさまだろ。ちょっとくらいあんな風に笑ってくれてもいいのによ。
店員のおっちゃんが注文を聞き終えたらしく、カウンターに戻っていく。
「お前らもテスト勉強しに来たのか?」
村島は隣のテーブルに声をかける。
「ええ、気晴らしに」
折谷は袖をまくりながら答える。
「お前らがここで勉強するなんて珍しいな」
朝川はもごもごしながら言った。
「彩華が久しぶりにこのお店に行きたいって言うから……」
佐士島彩華さんは銃の形を作った片手を左右に揺らしながら、笑みを投げかける。
「いやー、ここのタコスが食べたかったんだよねぇー!」
烏丸さんは湿気のこもった目を向かいに座るウキウキの佐士島に投げる。
「あ、菜音歌のスマホケースかわいい!」
佐士島の気が移った先で折谷が微笑む。テーブルに上げられた折谷のスマホケースには、白を基調とした色とりどりのマカロンがプリントされている。
「そう?」
「うん! それどこで買ったの?」
「ビビクロ」
「へぇー! いいな~いいな~」
佐士島は声を弾ませる。
「通販サイトで探してみれば? ワンチャン売られてるかもよ」
烏丸はそう提案する。
「商品名わかる?」
「買った時の通知メールが残ってたらそれでわかると思うけど」
折谷の返答を聞いて少し悩み、佐士島が答える。
「あとでそれ送ってよ」
「おっけー」
折谷がスマホを操作している間に、おっちゃんがタコスを運んできた。
「へい、おまちどう!」
「これがタコス」
「画像とちょっと違う」
烏丸さんと折谷はまじまじと見つめる。
「でんでんオリジナルタコスだ!」
おっちゃんは意気揚々と胸を張った。
「味わって食え」
「ありがとう! いただきまーす!」
「そういや、聞いたぞぉあんちゃん。海美に入ってダイビングライセンスを取ろうとしてんだって?」
おっちゃんが丸々とした瞳を俺に向けてきた。話が漏れるにしても早くないか?
俺の疑問を察したかのようにおっちゃんがクスリと笑う。
「あんちゃんのところの親父さんと浮島が話してたよ」
どうせ大声で話してたんだろうな。島が小さいせいか、話が回るのが早いらしい。
「海美に入るヤツはいるが、入って早々ダイビングライセンスを取ろうってヤツは珍しいからな。浮島が嬉しそうにしてたぞ」
「は、はぁ……」
俺は答えに困り、苦笑する。
「どんなバカでもしっかりやれば、ダイビングライセンスは取れるから心配するなよ。それに、ダイビングスクールにはおない年の大先輩がいるしな」
大先輩はガン無視で、スマホに視線を落としている。おっちゃん以外、気まずそうな顔が並び、どう反応するべきか戸惑っていた。
すると、ベルが鳴り、おっちゃんの元気な声が店内に響く。
「んじゃ、ゆっくりしてってくれ」
そう言っておっちゃんは店に来たお客に対応しにいった。
近くで安堵の息が小さく漏れ、微妙な居心地のまま、ぎこちない会話が両サイドで織り成されていく。なんとなく、申し訳なく思いながら何度も冷たい水を喉に流した。
溶けるような匂いは店内に染みついている。
長くやっているせいだろうか。まだこの島に来て数ヶ月だっていうのに、何年も通い慣れた店のように感じる。
教科書やノートがテーブルを占めるところに、赤く染められたチキンライスが湯気を立てて目の前にやってきた。
「ありがとう、おっちゃん」
ヤブはチキンライスを持ってきた男に礼を言う。
見上げれば優しい笑みが迎える。大柄な体格のおっちゃん。何から何までデカい。初めてこんなデカい人を見たっていうくらいだ。この店に来た時に出迎えてくれた時は、圧倒されて言葉が出なかった。要は、恐かったのだ。
「珍しく精が出るじゃないか、小童共」
「一応高校生だからな」
村島は気の抜けた笑みを零す。
「高校生も大変なんですよ」
朝川はスポーツ刈りの頭を掻いて悩ましい顔をする。
「ヌハハハハッ! もし八十点以上のテスト用紙を土産に持ってきたら、サービスでポテトフライをやるよ」
賑やかな笑い声と共に店の奥へ向かっていく。
「俺たちに八十点以上とか求めすぎだろ」
村島はしなびたポテトフライのごとくぼやく。
「全教科三十点以上取れたらバカンスフィーバー確定だ。高望みせずやっていこうぜ」
俺はやる気がちょちょぎれそうになっている三人をささやかながら鼓舞する。
「そうだな。取れたらラッキーってことで」
朝川は教科書とノートを横に除け、チキンライスを真ん中に置く。村島は取り皿にチキンライスをよそい、それぞれに配っていく。
「んーいい匂いだ! これ食うとなんか力湧いてくんだよな!」
ヤブは鼻の穴を大きくして酸味のきいたチキンライスに口を回す。
「そんじゃいただこうか!」
腹の虫が鳴る前に満たそうとした時、店内のベルが響いた。扉の上についたベルが訪問者を告げる。
「おーいらっしゃい」
店員のおっちゃんがお客を迎え入れる。
「あ、あんたらもいたんだー」
「おう。佐士島たちも来たのか」
向かいに座る朝川が手を挙げて振っている。視線を投げると、制服姿の三人組が目に留まった。この島にいれば安い洋食店に来る確率は高い。だがここで折谷と鉢合わせるとは思わなかった。
「なにやってんのー?」
黒の前髪パッツンの烏丸祈里さん。長い髪を下ろす烏丸さんに、暑いのに蒸れないのかと聞くのは野暮になる。こだわりがあるらしいのだ。髪を乱したくないがために汗一つかかない。そんなことできるのか。
「テスト勉強だよ。テスト勉強」
ヤブはチキンライスを口に含んだまま答える。
「うわ、チキンライス? こんなくそ暑い時によくそんなの食えるね」
俺たちの頼んだメニューに苦言しているのは佐士島彩華さん。シャツのボタンを二つほど開け、ネクタイを緩めて制服を着崩している。綺麗なゴールドピンクの長髪と明るい雰囲気はよくマッチしていると思う。
「いやいや、暑い日こそ出来たてのチキンライスがうまいってなもんよ」
折谷たちは俺たちに気づいた流れで隣のボックス席につく。折谷も特に気にする素振りもなく席についた。まったく俺と目を合わせようともしない。……やりにくいな。
店員のおっちゃんがお冷を持ってくると、折谷たちはメニューを見ながら和気あいあいと選ぼうとしている。
折谷のヤツ、なんか俺と話す時と違う気がする。一段階声が高い……。気にしすぎ? 自意識過剰か? だとしても、あからさまだろ。ちょっとくらいあんな風に笑ってくれてもいいのによ。
店員のおっちゃんが注文を聞き終えたらしく、カウンターに戻っていく。
「お前らもテスト勉強しに来たのか?」
村島は隣のテーブルに声をかける。
「ええ、気晴らしに」
折谷は袖をまくりながら答える。
「お前らがここで勉強するなんて珍しいな」
朝川はもごもごしながら言った。
「彩華が久しぶりにこのお店に行きたいって言うから……」
佐士島彩華さんは銃の形を作った片手を左右に揺らしながら、笑みを投げかける。
「いやー、ここのタコスが食べたかったんだよねぇー!」
烏丸さんは湿気のこもった目を向かいに座るウキウキの佐士島に投げる。
「あ、菜音歌のスマホケースかわいい!」
佐士島の気が移った先で折谷が微笑む。テーブルに上げられた折谷のスマホケースには、白を基調とした色とりどりのマカロンがプリントされている。
「そう?」
「うん! それどこで買ったの?」
「ビビクロ」
「へぇー! いいな~いいな~」
佐士島は声を弾ませる。
「通販サイトで探してみれば? ワンチャン売られてるかもよ」
烏丸はそう提案する。
「商品名わかる?」
「買った時の通知メールが残ってたらそれでわかると思うけど」
折谷の返答を聞いて少し悩み、佐士島が答える。
「あとでそれ送ってよ」
「おっけー」
折谷がスマホを操作している間に、おっちゃんがタコスを運んできた。
「へい、おまちどう!」
「これがタコス」
「画像とちょっと違う」
烏丸さんと折谷はまじまじと見つめる。
「でんでんオリジナルタコスだ!」
おっちゃんは意気揚々と胸を張った。
「味わって食え」
「ありがとう! いただきまーす!」
「そういや、聞いたぞぉあんちゃん。海美に入ってダイビングライセンスを取ろうとしてんだって?」
おっちゃんが丸々とした瞳を俺に向けてきた。話が漏れるにしても早くないか?
俺の疑問を察したかのようにおっちゃんがクスリと笑う。
「あんちゃんのところの親父さんと浮島が話してたよ」
どうせ大声で話してたんだろうな。島が小さいせいか、話が回るのが早いらしい。
「海美に入るヤツはいるが、入って早々ダイビングライセンスを取ろうってヤツは珍しいからな。浮島が嬉しそうにしてたぞ」
「は、はぁ……」
俺は答えに困り、苦笑する。
「どんなバカでもしっかりやれば、ダイビングライセンスは取れるから心配するなよ。それに、ダイビングスクールにはおない年の大先輩がいるしな」
大先輩はガン無視で、スマホに視線を落としている。おっちゃん以外、気まずそうな顔が並び、どう反応するべきか戸惑っていた。
すると、ベルが鳴り、おっちゃんの元気な声が店内に響く。
「んじゃ、ゆっくりしてってくれ」
そう言っておっちゃんは店に来たお客に対応しにいった。
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