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遭難!?
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楠菜を置いて行くわけにもいかない。楠菜についていく以外に選択肢はなかった。
これまで楠菜の話を聞いていた聴講者諸君もお気づきになっているかもしれないが、楠菜は神社巡りを趣味にしているわけではない。不思議な出来事、つまりオカルトっぽい話を仕入れて現場に向かい、調査を行う自称ミステリーハンターを名乗っている変人だ。
俺は少々心配しているつもりだが、楠菜には響いてないらしい。曲がりなりにも高校からの付き合いになる友人としては、率直に趣味が悪いと思っている。
楠菜の理屈では、「幽霊や神様を信じてない人に言われても説得力に欠けるんだよね~」と聞く耳を持とうとしない。一理あるとはいえ、心配することと幽霊や神様を信じないのは別腹だと思うんだが、楠菜とオカルト話を話し合っても反りが合わないのは充分に理解しているので、現状好きにさせている。ただ、それに巻き込まれる身にもなってほしい……。
前方で珍しい原生林を写真に収めている楠菜にジト目を送ってみる。
「うーん! ミステリーハンターの腕がなるぜ!」
と舌なめずりしている姿を目の当たりにしてしまった。呆れて物も言えない。
「しっかし、この森はどこまで広がってんのかね~」
波戸が周囲を見回しながら唐突に話しかけてきた。
「お前、何気に楽しんでないか?」
波戸はほっかむりをしたタオルの間から笑顔を覗かせる。
「こうなったら楽しむしかないだろ」
「この状況によく納得できんな」
「あはははっ、納得するしかないってのが本音だけどな」
波戸も高校からの付き合いになる。三人で同じ大学に進むことになって以来、高校の時より仲が良くなった友人だ。高校ではただのクラスメイトでしかなかった俺達だが、進路を意識する三年生になった頃に話す機会があり、同じ学校に進むことが分かったのだ。繋ぎ役となったのが変人の楠菜だ。俺達は共に進学に向けて受験勉強の日々を過ごした。そして、念願叶って合格の切符を手にし、今に至っている。
「今更だけどさ、なんでお前この誘いに乗ったんだ?」
俺達の目の届く距離で先に行く楠菜を追いながら、気になっていた疑問をぶつけてみる。
「あー……まーあれだ」
「アレ?」
波戸の歯切れの悪さに深く足を入れてみる。波戸の表情は湿った空気になじんでいくように渋くなっている。
「喧嘩中なんだよ……」
「例の彼女と?」
波戸は深い息を零す。
「仲直りしたいけど、少し頭冷やしてからの方がいいと思ってな」
「あーそうか。お前、神頼みしようと思って誘いに乗ったんだろ?」
俺はニタニタしながら突っ込む。波戸は観念したような笑顔を返した。
「効果があるならなんだってすがりたくなるさ。そうだろ?」
「まあ、気持ちは分かる。……仲直りできるといいな」
「ありがとよ」
波戸の彼女は同じ学科の後輩の子だ。かれこれ八ヶ月は経っていると思う。機会が会って顔も知っている。大人しげな雰囲気で清楚っぽい感じが印象的だった。
彼女ができた頃は楠菜とイジり倒して遊んでいたけど、実際すれ違いなんてのは恋愛関係でもごくありふれている。そして望まない結果となることもあるだろう。
始め彼女ができたと聞いた時はジェラシーを感じたこともあったが、二人の並ぶ姿を目にしたら、絵になるなと純粋に思ってしまった。ジェラシーもどこかへ消え失せ、陰ながら応援していたのだが、どのカップルにも訪れる倦怠期という壁に差し当たってしまったらしい。
神頼みでどうにかできるとは思えないが、ここで指摘する必要も感じない。なにはともあれ、二人が仲直りしてくれることを願う。きっと、俺にはそれくらいしかできないだろう。
「はぁ……」
楠菜の落胆ぶりは後ろからついていく俺にも伝わってきた。
「もう日が暮れるんだ。仕方ないだろ」
このままだと遭難しかねないので、さすがに探索の中止を促すしかなかった。
「今回は絶対本物だと思ったんだけどな……」
楠菜の独り言が森の中に溶けていく。
歩き回って大変ではあったが、自然豊かな情景を見られたのは思い出になった。俺としてはだいぶ満足している。
「帰りにどこか寄ってくか?」
波戸は笑顔を弾けさせながら最後尾にいる俺に尋ねる。
「そうだな。どこか適当に食べられる場所でも探すか」
「ここに来る途中のサービスエリアにあった鍋にするか!」
「ああ、そうするか。楠菜も食べたいって言ってたもんな?」
俺と波戸は阿吽の呼吸で図るも、楠菜は有無を言わず肩を落としている。
空振りに終わったのにもう一度振りに行く勇気は俺達になかった。時が過ぎるのを待つしかないと、波戸に目配せして無言のまま険しい道のりを歩く。
木漏れ日が眩しかった時は過ぎ、辺りは少しずつ暗さを増してきていた。
「なあ、本当にこっちでいいのか?」
俺の口は溜め込んだ不安を吐露した。侵入した脇道が一向に見えてこない。楠菜は持参したコンパスがあるから大丈夫と言っていたが、万が一の時のために俺も方向を入念に確かめながら移動している。森に侵入してから引き返そうとした体感時間では、一時間近く経っているのはどうもしっくりこない。
俺は先頭を歩く楠菜に尋ねたつもりだが、無視される。
「もうすぐ着くよ。な、楠菜?」
波戸は明るくそう尋ねた時だった。
突然楠菜が立ち止まった。一列に並んで歩いていた俺達は立ち止まるしかない。
「どうした?」
俺は楠菜の背後に近づいて再度問いかけた。しゃんと立って前を見る楠菜だったが、背中で語ろうとするかのように無言を貫く。
「まさか……迷った、のか?」
少しの間が空いて、はっきり首を縦に振った。
「どーすんだよお前っ!?」
「迷っちゃったもんはしょうがないでしょ!」
俺は面食らって引け腰になる。
「逆ギレかよ……」
「まあそうイライラするなよ。こういう時は文明の利器を使うのがお約束なんだよ」
波戸は俺達をなだめながらスマホに視線を向ける。
「なあ!? 電波入ってねえっ!?」
「今知ったのかよ」
「だからコンパス持ってきたのよ」
「おい、これ……ガチで遭難じゃねえの?」
「そうだな……」
俺達の不安に呼応するように、カラスの声がどこからか聞こえてきた。夕陽の光がかすかに降り注ぐ森の中、自分がどこにいるのか分からないこの状況……。話には聞いたことはあるが、お決まりに自分がハマってしまうとか、あり得ねえ。言いようのない焦りと怖さが忍び寄ってきているような嫌な感じがある。
「なんか、不気味じゃない?」
自称ミステリーハンターも冗談を言う余裕もないらしい。
「だから止めとけって言ったのに」
「邪な考えを見透かした神社の神様が俺達に天罰を下したのかもな」
さっき深刻な顔をしていたくせに波戸はまだ楽観的な様子だ。意外と図太いのかもしれない。
「とにかく、どうにかしなきゃマジでヤバイぞ」
「戻ってみる?」
いつも自信満々な楠菜にしてはらしくない不安そうな顔をしている。保護欲そそる女っぽい声を聞いて、不覚にも可愛いなんて思ってない。
「動かない方がいいんじゃないか? 助けが来るまで待つのが最善って聞いたことあるし」
俺も聞いたことがある。ここがどこか分からないんじゃ、下手に動いてクマに出くわしたとか、滑落して怪我したとか、体力を削る結果になるかもしれない。
「じゃあそ……」
「ダメ!」
俺が同意しようとした時、楠菜の声が遮った。
これまで楠菜の話を聞いていた聴講者諸君もお気づきになっているかもしれないが、楠菜は神社巡りを趣味にしているわけではない。不思議な出来事、つまりオカルトっぽい話を仕入れて現場に向かい、調査を行う自称ミステリーハンターを名乗っている変人だ。
俺は少々心配しているつもりだが、楠菜には響いてないらしい。曲がりなりにも高校からの付き合いになる友人としては、率直に趣味が悪いと思っている。
楠菜の理屈では、「幽霊や神様を信じてない人に言われても説得力に欠けるんだよね~」と聞く耳を持とうとしない。一理あるとはいえ、心配することと幽霊や神様を信じないのは別腹だと思うんだが、楠菜とオカルト話を話し合っても反りが合わないのは充分に理解しているので、現状好きにさせている。ただ、それに巻き込まれる身にもなってほしい……。
前方で珍しい原生林を写真に収めている楠菜にジト目を送ってみる。
「うーん! ミステリーハンターの腕がなるぜ!」
と舌なめずりしている姿を目の当たりにしてしまった。呆れて物も言えない。
「しっかし、この森はどこまで広がってんのかね~」
波戸が周囲を見回しながら唐突に話しかけてきた。
「お前、何気に楽しんでないか?」
波戸はほっかむりをしたタオルの間から笑顔を覗かせる。
「こうなったら楽しむしかないだろ」
「この状況によく納得できんな」
「あはははっ、納得するしかないってのが本音だけどな」
波戸も高校からの付き合いになる。三人で同じ大学に進むことになって以来、高校の時より仲が良くなった友人だ。高校ではただのクラスメイトでしかなかった俺達だが、進路を意識する三年生になった頃に話す機会があり、同じ学校に進むことが分かったのだ。繋ぎ役となったのが変人の楠菜だ。俺達は共に進学に向けて受験勉強の日々を過ごした。そして、念願叶って合格の切符を手にし、今に至っている。
「今更だけどさ、なんでお前この誘いに乗ったんだ?」
俺達の目の届く距離で先に行く楠菜を追いながら、気になっていた疑問をぶつけてみる。
「あー……まーあれだ」
「アレ?」
波戸の歯切れの悪さに深く足を入れてみる。波戸の表情は湿った空気になじんでいくように渋くなっている。
「喧嘩中なんだよ……」
「例の彼女と?」
波戸は深い息を零す。
「仲直りしたいけど、少し頭冷やしてからの方がいいと思ってな」
「あーそうか。お前、神頼みしようと思って誘いに乗ったんだろ?」
俺はニタニタしながら突っ込む。波戸は観念したような笑顔を返した。
「効果があるならなんだってすがりたくなるさ。そうだろ?」
「まあ、気持ちは分かる。……仲直りできるといいな」
「ありがとよ」
波戸の彼女は同じ学科の後輩の子だ。かれこれ八ヶ月は経っていると思う。機会が会って顔も知っている。大人しげな雰囲気で清楚っぽい感じが印象的だった。
彼女ができた頃は楠菜とイジり倒して遊んでいたけど、実際すれ違いなんてのは恋愛関係でもごくありふれている。そして望まない結果となることもあるだろう。
始め彼女ができたと聞いた時はジェラシーを感じたこともあったが、二人の並ぶ姿を目にしたら、絵になるなと純粋に思ってしまった。ジェラシーもどこかへ消え失せ、陰ながら応援していたのだが、どのカップルにも訪れる倦怠期という壁に差し当たってしまったらしい。
神頼みでどうにかできるとは思えないが、ここで指摘する必要も感じない。なにはともあれ、二人が仲直りしてくれることを願う。きっと、俺にはそれくらいしかできないだろう。
「はぁ……」
楠菜の落胆ぶりは後ろからついていく俺にも伝わってきた。
「もう日が暮れるんだ。仕方ないだろ」
このままだと遭難しかねないので、さすがに探索の中止を促すしかなかった。
「今回は絶対本物だと思ったんだけどな……」
楠菜の独り言が森の中に溶けていく。
歩き回って大変ではあったが、自然豊かな情景を見られたのは思い出になった。俺としてはだいぶ満足している。
「帰りにどこか寄ってくか?」
波戸は笑顔を弾けさせながら最後尾にいる俺に尋ねる。
「そうだな。どこか適当に食べられる場所でも探すか」
「ここに来る途中のサービスエリアにあった鍋にするか!」
「ああ、そうするか。楠菜も食べたいって言ってたもんな?」
俺と波戸は阿吽の呼吸で図るも、楠菜は有無を言わず肩を落としている。
空振りに終わったのにもう一度振りに行く勇気は俺達になかった。時が過ぎるのを待つしかないと、波戸に目配せして無言のまま険しい道のりを歩く。
木漏れ日が眩しかった時は過ぎ、辺りは少しずつ暗さを増してきていた。
「なあ、本当にこっちでいいのか?」
俺の口は溜め込んだ不安を吐露した。侵入した脇道が一向に見えてこない。楠菜は持参したコンパスがあるから大丈夫と言っていたが、万が一の時のために俺も方向を入念に確かめながら移動している。森に侵入してから引き返そうとした体感時間では、一時間近く経っているのはどうもしっくりこない。
俺は先頭を歩く楠菜に尋ねたつもりだが、無視される。
「もうすぐ着くよ。な、楠菜?」
波戸は明るくそう尋ねた時だった。
突然楠菜が立ち止まった。一列に並んで歩いていた俺達は立ち止まるしかない。
「どうした?」
俺は楠菜の背後に近づいて再度問いかけた。しゃんと立って前を見る楠菜だったが、背中で語ろうとするかのように無言を貫く。
「まさか……迷った、のか?」
少しの間が空いて、はっきり首を縦に振った。
「どーすんだよお前っ!?」
「迷っちゃったもんはしょうがないでしょ!」
俺は面食らって引け腰になる。
「逆ギレかよ……」
「まあそうイライラするなよ。こういう時は文明の利器を使うのがお約束なんだよ」
波戸は俺達をなだめながらスマホに視線を向ける。
「なあ!? 電波入ってねえっ!?」
「今知ったのかよ」
「だからコンパス持ってきたのよ」
「おい、これ……ガチで遭難じゃねえの?」
「そうだな……」
俺達の不安に呼応するように、カラスの声がどこからか聞こえてきた。夕陽の光がかすかに降り注ぐ森の中、自分がどこにいるのか分からないこの状況……。話には聞いたことはあるが、お決まりに自分がハマってしまうとか、あり得ねえ。言いようのない焦りと怖さが忍び寄ってきているような嫌な感じがある。
「なんか、不気味じゃない?」
自称ミステリーハンターも冗談を言う余裕もないらしい。
「だから止めとけって言ったのに」
「邪な考えを見透かした神社の神様が俺達に天罰を下したのかもな」
さっき深刻な顔をしていたくせに波戸はまだ楽観的な様子だ。意外と図太いのかもしれない。
「とにかく、どうにかしなきゃマジでヤバイぞ」
「戻ってみる?」
いつも自信満々な楠菜にしてはらしくない不安そうな顔をしている。保護欲そそる女っぽい声を聞いて、不覚にも可愛いなんて思ってない。
「動かない方がいいんじゃないか? 助けが来るまで待つのが最善って聞いたことあるし」
俺も聞いたことがある。ここがどこか分からないんじゃ、下手に動いてクマに出くわしたとか、滑落して怪我したとか、体力を削る結果になるかもしれない。
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