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神様、助けてください
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俺達は耳を疑った。まさか意見が異なるとは思わなかった。
「じゃあどうすんだよ?」
俺は戸惑いながら楠菜の意図を尋ねた。
「いつ助けが来るの?」
「そりゃ分かんねえけど……。でも待ってた方が安全だろ?」
「助けが来るのは最低でも二ヶ月くらい後だと思う」
「二ヶ月? そこまでかかるような場所じゃな……」
頭の中で何かが引っかかった。いや待て。なんで二ヶ月なんて数字が出てくるんだ? 二ヶ月経ったら俺達は……ッ! 学校がある。
そうだ。俺達はみんな一人暮らし。数ヶ月家を空けても誰も気づかない。もし全然帰ってこないことに気づいた人がいたとしても、帰省してると思われそうだ。他の友達が心配してくれたら、もう少し早く捜索が始まるかもしれないが、いつになるか見当もつかない。
森で二ヶ月もサバイバル? デジタル製品に囲まれた生活に慣れたヤツに、いきなり森の原住民の暮らしをしろってか? 無理があるだろ!
そもそも、ここは登山道じゃない。立ち入り禁止の看板と侵入防止の金網を上って森に入った俺達が、遭難してることに神社の人も気づかないし、俺達が櫛菜雫神社に向かったことを知ってる人もいなかった。
「そういうこと。あたし達が生き残るためには時間がかかっても自力で森から抜けるしかないの」
「しょうがねぇな。体力に気をつけながら進もう。夜になったら野宿する。それでいいな?」
波戸は冷静な口調で仕切る。
「野宿って、大丈夫なのか? スマホのバッテリーだってそんなないし、飲みもんも数本だけだぞ」
「一応懐中電灯はあるよ?」
楠菜がリュックサックから懐中電灯を取り出して見せた。
「お前よく持ってるな。いつも常備してんのか?」
波戸は怪訝そうに尋ねる。
「前に行った廃墟探索の時に使ったの。めんどくさいからそのまま入れて来たってだけよ」
「食料や飲み物はどうにかなんだろ。こればっかりは俺達の運次第だな」
遭難したってのに、波戸のあっけらかんとした様を見せつけられると、未だに不安に駆られている俺が頼りなく感じた。
「まだ決まったわけじゃないんだから野宿しないで帰れるようにしましょ」
「そうだな。時間も惜しいことだし、さっさと行こう」
頼もしい波戸の意気を借りて、俺達は刻々と薄暗くなる森の中を進み出した。
日が落ちるのが遅い季節とはいえ、日没の時は近づいている。できることなら今日中に森から出たい。気持ち前のめりになり、歩きは速くなっていた。
プチ遭難中から脱却するべく先を急ぎ出して早数分、重たい空気を打ち破るように届いた。
「ねぇ、なんか聞こえない?」
「え?」
楠菜と同じく、俺達も聞き耳を立てる。
森が囁く音、遠くで甲高く鳴く鳥の声。自然に溶け込む音の中に響いていた。かすかな音は、凛として鳴っていた。
「これって……鈴だよな?」
波戸は確かめるように聞く。すると、楠菜が興奮した様子で声を上げた。
「これよ! これだわ! あたしが探していた櫛菜雫神社の秘密の神道!」
先ほどの落胆が嘘のように、楠菜は表情を輝かせている。
「いや……人が近くにいるってだけだろ」
ミステリーハンターの血が騒いでるらしい楠菜を冷静になだめる。
「謎を求めるならば迷わず進め! レッツゴー!」
楠菜は謎の言葉を唱えて走り出した。
「おい! 走ると危ないぞ!」
「遭難せずに済みそうじゃん。お先ー!」
波戸も楠菜に追いつけと行ってしまった。どいつもこいつも人の話を聞かないヤツばかりだ。
一抹の不安を覚えながら、怪しい夕陽の光を浴びる森を駆けていった。
今日は厄日だったのか。それとも罰当たりな行為をしたために神様の怒りを買ったのか。いずれにせよ、俺は不運の真っ只中だった。
薄暗い森の中を歩いていく俺は走り疲れていた。体力差がはっきりと出た形だ。二人は運動部じゃないが、そこそこ体力のある若者だった。二人に対し、俺は貧弱な体をした若者だ。モヤシと呼ぶには大げさだが、体育で良い思い出はなかった。それを知っているはずの友人達は、俺を置いてどんどん先へ行ってしまった結果、たった一人で森を彷徨っている。
薄情な友人達へ大声を上げたい気分に駆られながら、ひもじい思いで森からの脱出を目指し、ひたすら歩を進めていく。
スマホも限界サインを警告している。状況は悪化の一途を辿っている。
なぜだ……。俺は付き合わされただけなのに。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
神様のご慈悲に与れない不運のせいで、ネガティブな感情ばかりが頭の中でグルグルと巡っていく。許しを乞う気力もなく、方向感覚も失った俺は、泣きそうになりながらまた深いため息をついた。
俺は半ば諦めていた。短い人生だった。
夏休み前はレポートやテスト勉強が続いて、日に日に欝々とした感情を持て余していた。その反動もあったのだろう。楠菜の提案が罰当たりだってことは分かっていたが、好奇心が勝ってしまった。
懺悔はいくらでもします。助けてください、神様……。
俺は屈した。信仰心もないし、神様だっているわけないじゃんとか思っていた俺は、情けなく懇願を心で唱えた。何度も、何度も……。
夕景は幕を下ろそうとしている。カウントダウンに入ったようだ。望みは絶たれた。
辺りに暗澹とした空気が立ち込めると共に、俺の足も重くなっていた。
短い人生を回顧しようかと思っていた矢先だった。
何気なく下がっていた頭を上げた時、視界に入った一縷の希望。
なだらかな傾斜に伸びる細い道、いや、階段だ! 階段がある!
俺は倒れ込みそうな勢いで駆け出した。
「じゃあどうすんだよ?」
俺は戸惑いながら楠菜の意図を尋ねた。
「いつ助けが来るの?」
「そりゃ分かんねえけど……。でも待ってた方が安全だろ?」
「助けが来るのは最低でも二ヶ月くらい後だと思う」
「二ヶ月? そこまでかかるような場所じゃな……」
頭の中で何かが引っかかった。いや待て。なんで二ヶ月なんて数字が出てくるんだ? 二ヶ月経ったら俺達は……ッ! 学校がある。
そうだ。俺達はみんな一人暮らし。数ヶ月家を空けても誰も気づかない。もし全然帰ってこないことに気づいた人がいたとしても、帰省してると思われそうだ。他の友達が心配してくれたら、もう少し早く捜索が始まるかもしれないが、いつになるか見当もつかない。
森で二ヶ月もサバイバル? デジタル製品に囲まれた生活に慣れたヤツに、いきなり森の原住民の暮らしをしろってか? 無理があるだろ!
そもそも、ここは登山道じゃない。立ち入り禁止の看板と侵入防止の金網を上って森に入った俺達が、遭難してることに神社の人も気づかないし、俺達が櫛菜雫神社に向かったことを知ってる人もいなかった。
「そういうこと。あたし達が生き残るためには時間がかかっても自力で森から抜けるしかないの」
「しょうがねぇな。体力に気をつけながら進もう。夜になったら野宿する。それでいいな?」
波戸は冷静な口調で仕切る。
「野宿って、大丈夫なのか? スマホのバッテリーだってそんなないし、飲みもんも数本だけだぞ」
「一応懐中電灯はあるよ?」
楠菜がリュックサックから懐中電灯を取り出して見せた。
「お前よく持ってるな。いつも常備してんのか?」
波戸は怪訝そうに尋ねる。
「前に行った廃墟探索の時に使ったの。めんどくさいからそのまま入れて来たってだけよ」
「食料や飲み物はどうにかなんだろ。こればっかりは俺達の運次第だな」
遭難したってのに、波戸のあっけらかんとした様を見せつけられると、未だに不安に駆られている俺が頼りなく感じた。
「まだ決まったわけじゃないんだから野宿しないで帰れるようにしましょ」
「そうだな。時間も惜しいことだし、さっさと行こう」
頼もしい波戸の意気を借りて、俺達は刻々と薄暗くなる森の中を進み出した。
日が落ちるのが遅い季節とはいえ、日没の時は近づいている。できることなら今日中に森から出たい。気持ち前のめりになり、歩きは速くなっていた。
プチ遭難中から脱却するべく先を急ぎ出して早数分、重たい空気を打ち破るように届いた。
「ねぇ、なんか聞こえない?」
「え?」
楠菜と同じく、俺達も聞き耳を立てる。
森が囁く音、遠くで甲高く鳴く鳥の声。自然に溶け込む音の中に響いていた。かすかな音は、凛として鳴っていた。
「これって……鈴だよな?」
波戸は確かめるように聞く。すると、楠菜が興奮した様子で声を上げた。
「これよ! これだわ! あたしが探していた櫛菜雫神社の秘密の神道!」
先ほどの落胆が嘘のように、楠菜は表情を輝かせている。
「いや……人が近くにいるってだけだろ」
ミステリーハンターの血が騒いでるらしい楠菜を冷静になだめる。
「謎を求めるならば迷わず進め! レッツゴー!」
楠菜は謎の言葉を唱えて走り出した。
「おい! 走ると危ないぞ!」
「遭難せずに済みそうじゃん。お先ー!」
波戸も楠菜に追いつけと行ってしまった。どいつもこいつも人の話を聞かないヤツばかりだ。
一抹の不安を覚えながら、怪しい夕陽の光を浴びる森を駆けていった。
今日は厄日だったのか。それとも罰当たりな行為をしたために神様の怒りを買ったのか。いずれにせよ、俺は不運の真っ只中だった。
薄暗い森の中を歩いていく俺は走り疲れていた。体力差がはっきりと出た形だ。二人は運動部じゃないが、そこそこ体力のある若者だった。二人に対し、俺は貧弱な体をした若者だ。モヤシと呼ぶには大げさだが、体育で良い思い出はなかった。それを知っているはずの友人達は、俺を置いてどんどん先へ行ってしまった結果、たった一人で森を彷徨っている。
薄情な友人達へ大声を上げたい気分に駆られながら、ひもじい思いで森からの脱出を目指し、ひたすら歩を進めていく。
スマホも限界サインを警告している。状況は悪化の一途を辿っている。
なぜだ……。俺は付き合わされただけなのに。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
神様のご慈悲に与れない不運のせいで、ネガティブな感情ばかりが頭の中でグルグルと巡っていく。許しを乞う気力もなく、方向感覚も失った俺は、泣きそうになりながらまた深いため息をついた。
俺は半ば諦めていた。短い人生だった。
夏休み前はレポートやテスト勉強が続いて、日に日に欝々とした感情を持て余していた。その反動もあったのだろう。楠菜の提案が罰当たりだってことは分かっていたが、好奇心が勝ってしまった。
懺悔はいくらでもします。助けてください、神様……。
俺は屈した。信仰心もないし、神様だっているわけないじゃんとか思っていた俺は、情けなく懇願を心で唱えた。何度も、何度も……。
夕景は幕を下ろそうとしている。カウントダウンに入ったようだ。望みは絶たれた。
辺りに暗澹とした空気が立ち込めると共に、俺の足も重くなっていた。
短い人生を回顧しようかと思っていた矢先だった。
何気なく下がっていた頭を上げた時、視界に入った一縷の希望。
なだらかな傾斜に伸びる細い道、いや、階段だ! 階段がある!
俺は倒れ込みそうな勢いで駆け出した。
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