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Lesson3 期限切れ
STEP③ 横顔
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私は子供の騒ぐ声を聞いたような気がして上を見た。こんな時間に子供がいるわけないと思ったが、親子連れならあり得なくもない。でも、それらしき人物は見えなかった。
代わりに倒れた椅子が転落防止用の透明なアクリル板越しに見えた。
子供がはしゃいで倒した?
「どうかした?」
彼が尋ねてくる。
「ううん。なんでもない」
私は気にせずミディアムレアに焼かれた和牛肉を口にした。
☆
倒れた椅子。そのそばで、俺は伏せていた。
気づかれてないだろうな……。
俺は伏せた体勢のまま、息を潜めながらアクリル板越しに覗く。館花さんと男は普通に話していた。俺はホッと胸を撫で下ろす。
「きょっち……」
「ん?」
俺は蘭子に呼ばれて視線を向けた。不意に向けた視線はサングラス越しに蘭子の視線を捉えた。俺は蘭子の頭を床にぶつけないように手で支えていたため、蘭子の顔を引き寄せている形になっていて、今にもキスをするかのような体勢になっていた。
「うわっ!」
俺は飛び起きた。
「ご、ごめん蘭子!!」
蘭子は上体を起こした。蘭子は恥ずかしそうに自分の腕を掴む。
「きょっちって……」
「いやごめん! 館花さんがこっち見たから、隠れなきゃと思ってやったのであって……!!」
俺はなんとか誤解を解こうとする。
「人妻好きだったのね……」
「……は?」
いきなり飛びでた蘭子の言葉に戸惑う。
「でもごめんなさい。私には定治がいるから……」
告ってもないのにしおらしく振りやがった!?
「人の趣味なんて人それぞれだから、私は気にしないけど。分かってる……。このことは誰にも言わないから」
蘭子は安っぽい演技でそう言った。
「いや、違うから!! 断じて人妻好きじゃないから!!」
「いやーん! もう! 恥ずかしがらなくていいってば!」
「なーーーー!!!」
俺の言葉は空しくスル-され、人妻好きという荒唐無稽な情報が悪友の知る所となるのが、たった今決定したのだった。
館花さんと男は食事を終えると店を出てしまった。
蘭子のからかいにツッコみまくった結果、俺の体力はゼロに近い状態となった。もうこれから館花さん達がどこに行こうがどうでも良くなっていた。蘭子は俺をいたぶったことに満足したらしく、引き続き館花さん達を尾行することに集中している。俺は仕方なくついていく。
ホテルを出た館花さん達は赤い車に乗って駐車場を出た。俺達はまたタクシーを捕まえ追いかけていく。違う運転手さんだったが、やはり怪しまれた。
しばらくつけた後、赤い車が止まったのはセキュリティがしっかりしてそうなマンションの前だった。
二重扉のようだ。自動ドアで挟まれた空間を明かりが照らし、透明なガラスの自動ドアから中の様子がうかがえた。自動ドアを一つ入ると、集合ポストの横にあるパネルが目につく。静脈を読み取るタイプの物だろうか。センサー版が銀フレームでがっちり固められていた。
館花さんは車から降り、二言三言男と話した後、車は走り去った。
「なーんだ。何もないじゃん」
つまらなそうに蘭子が言った。蘭子が予想したことはなんとなく分かる。が、あえて言わないでおこう。
「ここが館花さんのマンションか……」
「勝手に入れないからね」
「分かってるよ」
「それと」
蘭子は補足する。
「ここ、女性限定のマンションだから、マンションの前でうろちょろしてたら捕まるよ」
蘭子は薄ら笑いで俺を見る。
「しないよ……。まったく、いくら俺にキャラを植え付ければ気が済むんだよ」
「まあ、覚えといて損はないかもね」
俺は館花さんのマンションの中に入っていく姿を見つめた。マンションの棟内に入る瞬間、館花さんの横顔は嬉しそうに笑っていた。
代わりに倒れた椅子が転落防止用の透明なアクリル板越しに見えた。
子供がはしゃいで倒した?
「どうかした?」
彼が尋ねてくる。
「ううん。なんでもない」
私は気にせずミディアムレアに焼かれた和牛肉を口にした。
☆
倒れた椅子。そのそばで、俺は伏せていた。
気づかれてないだろうな……。
俺は伏せた体勢のまま、息を潜めながらアクリル板越しに覗く。館花さんと男は普通に話していた。俺はホッと胸を撫で下ろす。
「きょっち……」
「ん?」
俺は蘭子に呼ばれて視線を向けた。不意に向けた視線はサングラス越しに蘭子の視線を捉えた。俺は蘭子の頭を床にぶつけないように手で支えていたため、蘭子の顔を引き寄せている形になっていて、今にもキスをするかのような体勢になっていた。
「うわっ!」
俺は飛び起きた。
「ご、ごめん蘭子!!」
蘭子は上体を起こした。蘭子は恥ずかしそうに自分の腕を掴む。
「きょっちって……」
「いやごめん! 館花さんがこっち見たから、隠れなきゃと思ってやったのであって……!!」
俺はなんとか誤解を解こうとする。
「人妻好きだったのね……」
「……は?」
いきなり飛びでた蘭子の言葉に戸惑う。
「でもごめんなさい。私には定治がいるから……」
告ってもないのにしおらしく振りやがった!?
「人の趣味なんて人それぞれだから、私は気にしないけど。分かってる……。このことは誰にも言わないから」
蘭子は安っぽい演技でそう言った。
「いや、違うから!! 断じて人妻好きじゃないから!!」
「いやーん! もう! 恥ずかしがらなくていいってば!」
「なーーーー!!!」
俺の言葉は空しくスル-され、人妻好きという荒唐無稽な情報が悪友の知る所となるのが、たった今決定したのだった。
館花さんと男は食事を終えると店を出てしまった。
蘭子のからかいにツッコみまくった結果、俺の体力はゼロに近い状態となった。もうこれから館花さん達がどこに行こうがどうでも良くなっていた。蘭子は俺をいたぶったことに満足したらしく、引き続き館花さん達を尾行することに集中している。俺は仕方なくついていく。
ホテルを出た館花さん達は赤い車に乗って駐車場を出た。俺達はまたタクシーを捕まえ追いかけていく。違う運転手さんだったが、やはり怪しまれた。
しばらくつけた後、赤い車が止まったのはセキュリティがしっかりしてそうなマンションの前だった。
二重扉のようだ。自動ドアで挟まれた空間を明かりが照らし、透明なガラスの自動ドアから中の様子がうかがえた。自動ドアを一つ入ると、集合ポストの横にあるパネルが目につく。静脈を読み取るタイプの物だろうか。センサー版が銀フレームでがっちり固められていた。
館花さんは車から降り、二言三言男と話した後、車は走り去った。
「なーんだ。何もないじゃん」
つまらなそうに蘭子が言った。蘭子が予想したことはなんとなく分かる。が、あえて言わないでおこう。
「ここが館花さんのマンションか……」
「勝手に入れないからね」
「分かってるよ」
「それと」
蘭子は補足する。
「ここ、女性限定のマンションだから、マンションの前でうろちょろしてたら捕まるよ」
蘭子は薄ら笑いで俺を見る。
「しないよ……。まったく、いくら俺にキャラを植え付ければ気が済むんだよ」
「まあ、覚えといて損はないかもね」
俺は館花さんのマンションの中に入っていく姿を見つめた。マンションの棟内に入る瞬間、館花さんの横顔は嬉しそうに笑っていた。
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