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Lesson3 期限切れ
STEP② 恋愛探偵ホームズ
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少し経てば分かる……。
あと少し…………。
もう少し……。
……もう~すこ~~し…………。
「あの、蘭子さん?」
俺は耐えきれなくなって蘭子に尋ねる。
「……なに?」
蘭子の表情もすぐれない。
「一向に館花さんが出てこないんですが?」
「し、仕事が長引いてるのよ。きっと!」
「待ち続けて二時間経ちましたけど?」
「……」
蘭子から反応が無い。
「もしもし?」
「もうすぐだって! もうちょっと待とうー!」
蘭子は無理やり俺と自分を鼓舞するように左手を上げる。
「それにさ。職員は正面じゃなくて裏から出るんじゃ……あっ」
「どうしたの?」
「出てきた……」
「マジ!?」
旅行会社の店舗の脇道から正面の道に出てきたボブヘアの女性、間違いなく館花さんだった。
「おー! 来た来たー! さ、偵察開始よ。ワトソン君」
蘭子は懐から虫メガネを取りだし、追いかけた。
「ホームズ……?」
蘭子の探偵ごっこに付き合いながらの偵察になりそうだ。俺は、奇怪な蘭子の後ろを少し離れてついていく。
俺達は道路を挟んで向かい側の歩道を歩く館花さんを見失わないよう目を光らせる。
「佳織、なんかいつもよりお洒落してるかも」
「蘭子、その虫メガネしまってくれない? すごく恥ずかしい」
「虫メガネがないと名探偵感が出ないじゃん」
蘭子は虫メガネを俺に向ける。
「だったらもっと探偵らしい恰好しろよ」
「そんな恰好したら名探偵モロ出しじゃん。尾行してるんだから、気づかれないような恰好しないと」
「分かったから前向いて歩いてくれ」
俺は館花さんに目を向ける。
「左に曲がった」
「急いで渡りましょう」
俺達は急いで道路を横断し、館花さんの行方を追う。
俺達は館花さんが曲がった角を覗く。館花さんの後ろ姿を再び捕捉した。
「さっきから思ったんだけどさ。館花さん、駅に向かってないか?」
「まあ、その方向ね」
「これって……そのまま家に、というオチじゃありませんよね?」
「それはー……」
蘭子は言い澱む。
「あ、佳織が離れちゃう! 追うよ!」
はぐらかされた……。
俺はこの偵察が不発で終わる気がしてならなかった。
駅が見えてきた。最悪の展開に着々と進みつつある状況に、俺達ができることは何もない。俺達はただ消化不良で帰るという結末を見守るしかない。下手したらただのストーカーだ。
「うーん……今日はハズレだったかなぁ」
蘭子は肩を落とす。
「ま、仕方ないさ。じゃあ今日は解散ということで!」
切り上げるため、そそくさと駅へと向かおうとした時。
「あ! ちょっと!!!」
蘭子が俺の襟を掴んでしゃがませてきた。一瞬、首が締まった。俺は喉元を押さえる。
「……な、なんだよ……」
俺は蘭子に涙目で問う。
「あれ!」
蘭子が顎で方向を示し、俺に見るように促す。
まだ涙が滲む瞳を向けると、駅前の歩道近くに止まっていた一台の車の窓の前で、館花さんは立ち止まっていた。
何やら話しているようだ。
車は車高の低い赤い車で、少し値が張りそうな雰囲気を放っている。車の中で話している人の顔は遠くてよく分からない。しかし、短髪のシルエットから男ではないかと推測できた。館花さんはその車に乗り、車は走り去る。
俺と蘭子は急展開の状況に探偵パロディの設定を完全に忘れ、タクシーを止めた。もちろん、乗った後に言うセリフは。
「「あの赤い車を追ってくださいっ!!」」
俺と蘭子は同時に運転手さんに言った。
「は、はい……」
中年の細い体のドライバーさんは、戸惑いながらタクシーを走らせた。
俺達はなんだか緊張してしまい、会話もせずに赤い車を凝視していた。赤信号で赤い車が止まり、その後ろにタクシーがつけた。
張りつめていたものが少し和らぐ。俺は上体が前のめりになっていたことに今気づき、座席の背にもたれる。
その時、バックミラーに不可解な物が映った。いや、物と言うより行為と言うべきかもしれない。タクシーの運転手さんがバックミラーから俺達を不審な様子でうかがっていた。運転手さんの疑いの眼差しがチラチラとバックミラーに映っている。俺は気づかないふりをする。
怪しまれてる。完全に変質者扱いだ! 通報されないだろうな……。
俺は別の意味でまた緊張してきた。
赤い車がホテルの駐車場に入った。タクシーをその手前で止める。
「ホテルってまさか、佳織!?」
蘭子はなぜか涙目だ。蘭子が涙目になる理由は分からないが、これから2人が何をしようとしているか。それを推測するのは、恋愛経験ゼロに等しい俺でも容易い。だが……。
「いや、そのために泊まるって決まったわけじゃないだろ」
俺は早まる推測を断定しないよう窘める。
「分かんないじゃん! 早く君が欲しい……。もう、ホテルまで待って……なんて会話が車の中でされているのよ!!」
顔を赤くしてこの人は何を言っているんだろうか……。
「グズグズしてられないわ!!」
「あ! おい!!」
蘭子は料金を払わずタクシーを降りてしまった。俺は蘭子を制止したが、間に合わず。運転手さんと目が合い、愛想笑いが向けられる。俺は渋々財布からちょうどの料金を出し、蘭子を追いかけた。
蘭子は鉢植えの影でホテルの入り口を監視していた。俺は蘭子に駆け寄り、身を屈ませた。
「館花さんは?」
「今車から出てきた所」
俺は館花さんが乗っていた赤い車を探す。暗がりのせいでよく見えない。遅い時間とあって人もほとんど駐車場にいない。
二つの揺れる影を見据えた。その影は寄り添うようにホテルの入り口へと歩きだす。
ホテル入り口の屋根の天井に埋め込まれたライトが影を照らし、館花さんの顔がはっきり見えた。そして、その隣にいるスラッとした体の男。ワックスで跳ねさせた黒の短髪。白肌は目鼻立ちがくっきりしている顔立ちを際立たせていた。ブルーのカラーシャツが男の清潔感を際立たせている。館花さんの隣にいた男は、男の俺から見てもかなりカッコよかった。
「うわー、爽やかイケメンだー」
蘭子が感嘆の声を漏らす。館花さんと男はホテルの中に入った。
「これは面白くなってきたっ!」
蘭子は意気揚々とホテルの入り口まで駆けていく。俺も後に続く。
屋根を支える柱の影からホテルの入り口を見る。二人はもうすでに入り口から見えなくなっていて、蘭子は「ヤバッ」と言ってホテルの中に入っていく。焦ってホテルに入っていく蘭子に続くと、俺は他の客から挙動不審に映らないよう館花さんを探す。
「あっち!」
蘭子が小声で知らせ、首を振る。エレベーターに乗る館花さんと男の姿が見えた。
俺達は走り、館花さん達が乗ったエレベーターの前で止まる。エレベーターは二階で止まった。俺達もエレベーターで二階へと急ぐ。エレベーターを降りて、俺達はキョロキョロと視線を振る。エレベーターから降りて右はトイレのようだ。前はツルツルのオレンジ色の壁。つまり、俺達は左にしか行けない。俺達は左に行こうとしたが、俺達の足は反射的に止まった。
店頭看板には料金の横に鯛の活造りや肉が鉄板の上で焼かれている写真が貼られていた。問題は写真ではない。料金は一人一万円から……。高い……。
これも俺達の足を前に進めさせなかった理由の一つだ。しかし本当の問題は、暖簾のかかったお店の入り口の脇にある木製の門の柱に貼られた札に、完全予約制の赤い文字が踊っていたことだった。
「俺達には敷居が高いね……」
「クッソ~。あの男、金も持ってるってわけか……」
なぜ蘭子が悔しそうなのか分からない。
「俺達はホテルのロビーで待とうか」
「いや! まだある!!」
「え、何が?」
「監視だよ。ワトソン君」
またパロディが再開されてしまったようだ。
「いや、監視も何も、入れないんじゃ監視のしようが……」
蘭子は俺の出来そこないっぷりに肩をすくめる。
「はあ~、これだからワトソン君は。横がダメなら、上だよ」
蘭子は指を上に差した。俺は蘭子の指差した上を見て、ようやく蘭子の言いたいことが分かった。
館花さんと男は窓際ではなく、壁際の席に陣取って食事をとっていた。ここなら監視はしやすいな。俺達は透明な転落防止のアクリル板越しに見る。視点は斜め上から、向かい合っている二人の横顔に笑顔が見える。俺と蘭子も転落防止のアクリル板のそばにある休憩用の丸テーブルを挟んで椅子に座っていた。
二階から三階まで吹き抜けになっていて、三階はお土産屋やネットカフェが設置されていた。俺達はお土産屋で売っていたヨモギ餅を食べながら、三階でから監視を続行していた。
「うーん……美男美女が高級店で食事。様になってますなぁ~」
「蘭子、もっと物陰から監視したいんだけど」
「大丈夫よ。二人の世界に入ってるからバレないって」
「えー……」
転落防止板が透明だから監視はできるが、こちらから見えるということは、もちろんあちらからも見えるということだ。俺はバレないかヒヤヒヤしながら館花さんと男を見守る。
会話はよく聞こえない。時々二人の笑い声が聞こえてくるだけだ。
けっこう打ち解けてるんだな……。
様子からして大分仲が良いようだ。
ここで俺はふと疑問が湧いた。
もし今館花さんが会話している人が彼氏だとして、その人とはいつから付き合っていたんだろうか?
俺とのイチコイ作戦が始まったのは十月一日。それ以降に付き合いが始まったならまだ分かる。だがもし、それ以前に付き合いがあったというのなら、俺とイチコイ作戦を行うメリットが無い。
まさか!! 火遊びを好むタイプ!?
うーん……でも、真剣に悩んでたような気もするしなぁ……。
それに同窓会で彼氏はいないと公言していたように思う。イチコイ作戦はあくまで仲間内でのルールだ。他の人から見たら浮気だと勘違いされる。彼氏に浮気しているんじゃないかと勘違いされたら、館花さんの本命が愛想尽かす可能性だってある。
館花さんが俺に気が無いのは百も承知だ。じゃあ、なんで俺とイチコイ作戦を……。
館花さんがイチコイ作戦をする理由がまた謎に包まれていく。
「ふむふむ。分かったぞ! 食事の後にあの野郎抱くつもりだな!? くぅ~~~!!! けしからんっ!!」
蘭子は狂乱寸前で、ヨモギ餅の入っていた箱を噛む。変態ホームズのせいで俺の思考に余計なイメージが挿入されるのはなんとも煩わしい。
「蘭子、あんまり騒ぐとバレるから落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!!」
俺が蘭子を窘めながら館花さんの様子を見ようと視線を振った。その瞬間、館花さんがこちらに首を上げようとしたのが見えた。
「うきゃっ!?」
俺はとっさに蘭子を押し倒した。
あと少し…………。
もう少し……。
……もう~すこ~~し…………。
「あの、蘭子さん?」
俺は耐えきれなくなって蘭子に尋ねる。
「……なに?」
蘭子の表情もすぐれない。
「一向に館花さんが出てこないんですが?」
「し、仕事が長引いてるのよ。きっと!」
「待ち続けて二時間経ちましたけど?」
「……」
蘭子から反応が無い。
「もしもし?」
「もうすぐだって! もうちょっと待とうー!」
蘭子は無理やり俺と自分を鼓舞するように左手を上げる。
「それにさ。職員は正面じゃなくて裏から出るんじゃ……あっ」
「どうしたの?」
「出てきた……」
「マジ!?」
旅行会社の店舗の脇道から正面の道に出てきたボブヘアの女性、間違いなく館花さんだった。
「おー! 来た来たー! さ、偵察開始よ。ワトソン君」
蘭子は懐から虫メガネを取りだし、追いかけた。
「ホームズ……?」
蘭子の探偵ごっこに付き合いながらの偵察になりそうだ。俺は、奇怪な蘭子の後ろを少し離れてついていく。
俺達は道路を挟んで向かい側の歩道を歩く館花さんを見失わないよう目を光らせる。
「佳織、なんかいつもよりお洒落してるかも」
「蘭子、その虫メガネしまってくれない? すごく恥ずかしい」
「虫メガネがないと名探偵感が出ないじゃん」
蘭子は虫メガネを俺に向ける。
「だったらもっと探偵らしい恰好しろよ」
「そんな恰好したら名探偵モロ出しじゃん。尾行してるんだから、気づかれないような恰好しないと」
「分かったから前向いて歩いてくれ」
俺は館花さんに目を向ける。
「左に曲がった」
「急いで渡りましょう」
俺達は急いで道路を横断し、館花さんの行方を追う。
俺達は館花さんが曲がった角を覗く。館花さんの後ろ姿を再び捕捉した。
「さっきから思ったんだけどさ。館花さん、駅に向かってないか?」
「まあ、その方向ね」
「これって……そのまま家に、というオチじゃありませんよね?」
「それはー……」
蘭子は言い澱む。
「あ、佳織が離れちゃう! 追うよ!」
はぐらかされた……。
俺はこの偵察が不発で終わる気がしてならなかった。
駅が見えてきた。最悪の展開に着々と進みつつある状況に、俺達ができることは何もない。俺達はただ消化不良で帰るという結末を見守るしかない。下手したらただのストーカーだ。
「うーん……今日はハズレだったかなぁ」
蘭子は肩を落とす。
「ま、仕方ないさ。じゃあ今日は解散ということで!」
切り上げるため、そそくさと駅へと向かおうとした時。
「あ! ちょっと!!!」
蘭子が俺の襟を掴んでしゃがませてきた。一瞬、首が締まった。俺は喉元を押さえる。
「……な、なんだよ……」
俺は蘭子に涙目で問う。
「あれ!」
蘭子が顎で方向を示し、俺に見るように促す。
まだ涙が滲む瞳を向けると、駅前の歩道近くに止まっていた一台の車の窓の前で、館花さんは立ち止まっていた。
何やら話しているようだ。
車は車高の低い赤い車で、少し値が張りそうな雰囲気を放っている。車の中で話している人の顔は遠くてよく分からない。しかし、短髪のシルエットから男ではないかと推測できた。館花さんはその車に乗り、車は走り去る。
俺と蘭子は急展開の状況に探偵パロディの設定を完全に忘れ、タクシーを止めた。もちろん、乗った後に言うセリフは。
「「あの赤い車を追ってくださいっ!!」」
俺と蘭子は同時に運転手さんに言った。
「は、はい……」
中年の細い体のドライバーさんは、戸惑いながらタクシーを走らせた。
俺達はなんだか緊張してしまい、会話もせずに赤い車を凝視していた。赤信号で赤い車が止まり、その後ろにタクシーがつけた。
張りつめていたものが少し和らぐ。俺は上体が前のめりになっていたことに今気づき、座席の背にもたれる。
その時、バックミラーに不可解な物が映った。いや、物と言うより行為と言うべきかもしれない。タクシーの運転手さんがバックミラーから俺達を不審な様子でうかがっていた。運転手さんの疑いの眼差しがチラチラとバックミラーに映っている。俺は気づかないふりをする。
怪しまれてる。完全に変質者扱いだ! 通報されないだろうな……。
俺は別の意味でまた緊張してきた。
赤い車がホテルの駐車場に入った。タクシーをその手前で止める。
「ホテルってまさか、佳織!?」
蘭子はなぜか涙目だ。蘭子が涙目になる理由は分からないが、これから2人が何をしようとしているか。それを推測するのは、恋愛経験ゼロに等しい俺でも容易い。だが……。
「いや、そのために泊まるって決まったわけじゃないだろ」
俺は早まる推測を断定しないよう窘める。
「分かんないじゃん! 早く君が欲しい……。もう、ホテルまで待って……なんて会話が車の中でされているのよ!!」
顔を赤くしてこの人は何を言っているんだろうか……。
「グズグズしてられないわ!!」
「あ! おい!!」
蘭子は料金を払わずタクシーを降りてしまった。俺は蘭子を制止したが、間に合わず。運転手さんと目が合い、愛想笑いが向けられる。俺は渋々財布からちょうどの料金を出し、蘭子を追いかけた。
蘭子は鉢植えの影でホテルの入り口を監視していた。俺は蘭子に駆け寄り、身を屈ませた。
「館花さんは?」
「今車から出てきた所」
俺は館花さんが乗っていた赤い車を探す。暗がりのせいでよく見えない。遅い時間とあって人もほとんど駐車場にいない。
二つの揺れる影を見据えた。その影は寄り添うようにホテルの入り口へと歩きだす。
ホテル入り口の屋根の天井に埋め込まれたライトが影を照らし、館花さんの顔がはっきり見えた。そして、その隣にいるスラッとした体の男。ワックスで跳ねさせた黒の短髪。白肌は目鼻立ちがくっきりしている顔立ちを際立たせていた。ブルーのカラーシャツが男の清潔感を際立たせている。館花さんの隣にいた男は、男の俺から見てもかなりカッコよかった。
「うわー、爽やかイケメンだー」
蘭子が感嘆の声を漏らす。館花さんと男はホテルの中に入った。
「これは面白くなってきたっ!」
蘭子は意気揚々とホテルの入り口まで駆けていく。俺も後に続く。
屋根を支える柱の影からホテルの入り口を見る。二人はもうすでに入り口から見えなくなっていて、蘭子は「ヤバッ」と言ってホテルの中に入っていく。焦ってホテルに入っていく蘭子に続くと、俺は他の客から挙動不審に映らないよう館花さんを探す。
「あっち!」
蘭子が小声で知らせ、首を振る。エレベーターに乗る館花さんと男の姿が見えた。
俺達は走り、館花さん達が乗ったエレベーターの前で止まる。エレベーターは二階で止まった。俺達もエレベーターで二階へと急ぐ。エレベーターを降りて、俺達はキョロキョロと視線を振る。エレベーターから降りて右はトイレのようだ。前はツルツルのオレンジ色の壁。つまり、俺達は左にしか行けない。俺達は左に行こうとしたが、俺達の足は反射的に止まった。
店頭看板には料金の横に鯛の活造りや肉が鉄板の上で焼かれている写真が貼られていた。問題は写真ではない。料金は一人一万円から……。高い……。
これも俺達の足を前に進めさせなかった理由の一つだ。しかし本当の問題は、暖簾のかかったお店の入り口の脇にある木製の門の柱に貼られた札に、完全予約制の赤い文字が踊っていたことだった。
「俺達には敷居が高いね……」
「クッソ~。あの男、金も持ってるってわけか……」
なぜ蘭子が悔しそうなのか分からない。
「俺達はホテルのロビーで待とうか」
「いや! まだある!!」
「え、何が?」
「監視だよ。ワトソン君」
またパロディが再開されてしまったようだ。
「いや、監視も何も、入れないんじゃ監視のしようが……」
蘭子は俺の出来そこないっぷりに肩をすくめる。
「はあ~、これだからワトソン君は。横がダメなら、上だよ」
蘭子は指を上に差した。俺は蘭子の指差した上を見て、ようやく蘭子の言いたいことが分かった。
館花さんと男は窓際ではなく、壁際の席に陣取って食事をとっていた。ここなら監視はしやすいな。俺達は透明な転落防止のアクリル板越しに見る。視点は斜め上から、向かい合っている二人の横顔に笑顔が見える。俺と蘭子も転落防止のアクリル板のそばにある休憩用の丸テーブルを挟んで椅子に座っていた。
二階から三階まで吹き抜けになっていて、三階はお土産屋やネットカフェが設置されていた。俺達はお土産屋で売っていたヨモギ餅を食べながら、三階でから監視を続行していた。
「うーん……美男美女が高級店で食事。様になってますなぁ~」
「蘭子、もっと物陰から監視したいんだけど」
「大丈夫よ。二人の世界に入ってるからバレないって」
「えー……」
転落防止板が透明だから監視はできるが、こちらから見えるということは、もちろんあちらからも見えるということだ。俺はバレないかヒヤヒヤしながら館花さんと男を見守る。
会話はよく聞こえない。時々二人の笑い声が聞こえてくるだけだ。
けっこう打ち解けてるんだな……。
様子からして大分仲が良いようだ。
ここで俺はふと疑問が湧いた。
もし今館花さんが会話している人が彼氏だとして、その人とはいつから付き合っていたんだろうか?
俺とのイチコイ作戦が始まったのは十月一日。それ以降に付き合いが始まったならまだ分かる。だがもし、それ以前に付き合いがあったというのなら、俺とイチコイ作戦を行うメリットが無い。
まさか!! 火遊びを好むタイプ!?
うーん……でも、真剣に悩んでたような気もするしなぁ……。
それに同窓会で彼氏はいないと公言していたように思う。イチコイ作戦はあくまで仲間内でのルールだ。他の人から見たら浮気だと勘違いされる。彼氏に浮気しているんじゃないかと勘違いされたら、館花さんの本命が愛想尽かす可能性だってある。
館花さんが俺に気が無いのは百も承知だ。じゃあ、なんで俺とイチコイ作戦を……。
館花さんがイチコイ作戦をする理由がまた謎に包まれていく。
「ふむふむ。分かったぞ! 食事の後にあの野郎抱くつもりだな!? くぅ~~~!!! けしからんっ!!」
蘭子は狂乱寸前で、ヨモギ餅の入っていた箱を噛む。変態ホームズのせいで俺の思考に余計なイメージが挿入されるのはなんとも煩わしい。
「蘭子、あんまり騒ぐとバレるから落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!!」
俺が蘭子を窘めながら館花さんの様子を見ようと視線を振った。その瞬間、館花さんがこちらに首を上げようとしたのが見えた。
「うきゃっ!?」
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