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Lesson5 恋の愛印《メジルシ》
STEP① もう交わることのない二人
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私はお風呂から上がって紅茶を飲んでいた。彼が教えてくれた淹れ方で作った紅茶。酷く甘い香りが部屋に充満していた。これが何杯目か分からない。
口に入れると、温かい温度が口の中を包む。渋みが舌を刺激し、すぐに鼻から抜けて緩和される。最後に残るのは深い甘み。ミルクティーだ。体に染み渡る甘さと温度にまた涙が出そうになる。泣き腫らした目をパジャマの袖で拭う。
ウエディングドレスは箱にしまい、花冠はテーブルに置いたままになっている。あの後、未久の車で自宅まで送ってもらった。その間、隣にいた未久と助手席に座っていた蘭子は何も訊いてこなかった。「おかえり。よく頑張ったね」とそう言っただけだった。きっと泣いていた私の様子を見て察したのだろう。
これから、どうすればいいのか。
結婚式は頓挫し、青野亨二にもフラれた。
浮気……みたいなものだよね。最低だな。私……。
帝にも嫌われたかもしれない。もしかしたら、内心青野君もそう思っていたのかもしれない。それが理由で断られたのなら、まだ諦められる。
自分だけを責めることができる。このミルクティーの甘さでしか悲しみを埋められない、馬鹿な私を。
酷く甘い香りの中で、ミルクティーに悲しみを溶けさせるように飲み続けた。
☆
久々の休日らしい休日の午後。俺は海香ちゃんとデートをしていた。最近俺の都合であんまりできなかったため、今日はその埋め合わせの意味を持っている。ファッション店で服を品定めしている海香ちゃんは楽しそうだった。その姿に少し元気をもらえる。
俺の中には、館花さんの好意に応じられなかった罪悪感みたいな物が残っていた。それをどうにかできるものでもないことは分かっている。だから時間がすぎるのを期待しているのだ。こうして目の前にいる彼女が傍にいることに幸せを感じ、時間が早くすぎていく中で、きっとこの光景が当たり前になっていく。あれがちょっとしたほろ苦い思い出になるのだ。
「どうやろ? 亨二さん。これうちに似合うと思う?」
「意外と大人っぽい服着るんだね」
「意外ってなんや意外って」
ぶすっと頬を膨らませる海香ちゃん。
「うちだってちょっと大人っぽい服も着るし!」
「そんなに怒らなくても」
「亨二さんがうちを子供扱いするからや」
「いやいや。海香ちゃんはその可愛らしさがいいんじゃん」
「今更褒めても遅いわ」
うっ、手強い……。
俺はあえなく撃沈した。
俺と海香ちゃんは一通り買い物を済ませた後、ピザ屋に立ち寄った。デリバリーもしているが、店内でも食べられるお店らしい。テラス席に運ばれてきた出来立てのピザ。俺のはマルゲリータで、海香ちゃんは山盛りチーズピザ。海香ちゃんはピザを齧り、糸を引くチーズをハグハグと食べていく。俺も海香ちゃんのその姿を見ながらピザを食べる。
「そういえば亨二さん。そんなに仕事忙しかったん? 長い期間忙しそうやったけど」
「あー、まあ仕事もあるんだけど、友人の結婚式のプレゼントを作ってたら時間かかってさ」
俺は冗談ぽく愚痴交じりに苦笑する。
「そうなんや。結婚式見たん?」
「いや、仕事で行けなかったんだ。だから、その代わりにプレゼント」
「なるほどなぁ。ご苦労さん」
昼と夜の狭間の空の下、必要な生活消耗品や食材を買い、自宅に帰っている道中をゆっくり歩く。本来であればデートはお開きだったのだが、もう少し一緒にいたいと海香ちゃんから言われたため自宅に招待した。なので、買い物袋を持った俺の隣には海香ちゃんがいた。自宅のマンションの部屋の鍵を開け、中に入る。俺は玄関で立ち止まる。
あ、そういやそうだった……。
「海香ちゃん。ちょっとだけここで待ってもらっていい?」
「うち、あの類のアニメのDVDが山積みになってても驚かへんよ?」
「いや、そういうんじゃなくて、散らかってるから。ほんの二、三分待って!」
俺は急いでドアを閉め、中から鍵をかける。俺は買い物袋を玄関に置き、急いで部屋を片付ける。
数分後、ドアを開けた。
「どうぞ。上がって」
「それじゃお邪魔しまーす」
俺はじわりと滲んだ額の汗を拭って、ドアを閉めた。
「よいしょっと」
海香ちゃんは不細工な猫のカーペットの上に座った。
「疲れたー」
「海香ちゃんは座っててよ。買い物袋の中身片づけたらお茶淹れるから」
俺は買い物袋の中身をそれぞれの場所にしまう。冷蔵庫の中身は貧しかった。
ほれ、仲間が増えたぞー。
俺はどんどん冷蔵庫に色々入れていく。
「ん? これ何?」
海香ちゃんがどのことを言っているのかを確認すると、試作品の花冠だった。
「あー、それが友人に送ったプレゼントだよ」
「へー! すごいやん! 亨二さん手芸も得意なん?」
「だいぶ時間かかったから得意ってほどでもないよ」
「綺麗やわー。どう?」
海香ちゃんは花冠を着けて俺に問う。
「うん、似合ってるよ」
「これ着けてお茶飲もうっと」
海香ちゃんは楽しそうに花冠を手に取って眺めていた。俺は微笑ましい海香ちゃんの様子に頬をほころばせながら、紅茶の準備を進めた。
口に入れると、温かい温度が口の中を包む。渋みが舌を刺激し、すぐに鼻から抜けて緩和される。最後に残るのは深い甘み。ミルクティーだ。体に染み渡る甘さと温度にまた涙が出そうになる。泣き腫らした目をパジャマの袖で拭う。
ウエディングドレスは箱にしまい、花冠はテーブルに置いたままになっている。あの後、未久の車で自宅まで送ってもらった。その間、隣にいた未久と助手席に座っていた蘭子は何も訊いてこなかった。「おかえり。よく頑張ったね」とそう言っただけだった。きっと泣いていた私の様子を見て察したのだろう。
これから、どうすればいいのか。
結婚式は頓挫し、青野亨二にもフラれた。
浮気……みたいなものだよね。最低だな。私……。
帝にも嫌われたかもしれない。もしかしたら、内心青野君もそう思っていたのかもしれない。それが理由で断られたのなら、まだ諦められる。
自分だけを責めることができる。このミルクティーの甘さでしか悲しみを埋められない、馬鹿な私を。
酷く甘い香りの中で、ミルクティーに悲しみを溶けさせるように飲み続けた。
☆
久々の休日らしい休日の午後。俺は海香ちゃんとデートをしていた。最近俺の都合であんまりできなかったため、今日はその埋め合わせの意味を持っている。ファッション店で服を品定めしている海香ちゃんは楽しそうだった。その姿に少し元気をもらえる。
俺の中には、館花さんの好意に応じられなかった罪悪感みたいな物が残っていた。それをどうにかできるものでもないことは分かっている。だから時間がすぎるのを期待しているのだ。こうして目の前にいる彼女が傍にいることに幸せを感じ、時間が早くすぎていく中で、きっとこの光景が当たり前になっていく。あれがちょっとしたほろ苦い思い出になるのだ。
「どうやろ? 亨二さん。これうちに似合うと思う?」
「意外と大人っぽい服着るんだね」
「意外ってなんや意外って」
ぶすっと頬を膨らませる海香ちゃん。
「うちだってちょっと大人っぽい服も着るし!」
「そんなに怒らなくても」
「亨二さんがうちを子供扱いするからや」
「いやいや。海香ちゃんはその可愛らしさがいいんじゃん」
「今更褒めても遅いわ」
うっ、手強い……。
俺はあえなく撃沈した。
俺と海香ちゃんは一通り買い物を済ませた後、ピザ屋に立ち寄った。デリバリーもしているが、店内でも食べられるお店らしい。テラス席に運ばれてきた出来立てのピザ。俺のはマルゲリータで、海香ちゃんは山盛りチーズピザ。海香ちゃんはピザを齧り、糸を引くチーズをハグハグと食べていく。俺も海香ちゃんのその姿を見ながらピザを食べる。
「そういえば亨二さん。そんなに仕事忙しかったん? 長い期間忙しそうやったけど」
「あー、まあ仕事もあるんだけど、友人の結婚式のプレゼントを作ってたら時間かかってさ」
俺は冗談ぽく愚痴交じりに苦笑する。
「そうなんや。結婚式見たん?」
「いや、仕事で行けなかったんだ。だから、その代わりにプレゼント」
「なるほどなぁ。ご苦労さん」
昼と夜の狭間の空の下、必要な生活消耗品や食材を買い、自宅に帰っている道中をゆっくり歩く。本来であればデートはお開きだったのだが、もう少し一緒にいたいと海香ちゃんから言われたため自宅に招待した。なので、買い物袋を持った俺の隣には海香ちゃんがいた。自宅のマンションの部屋の鍵を開け、中に入る。俺は玄関で立ち止まる。
あ、そういやそうだった……。
「海香ちゃん。ちょっとだけここで待ってもらっていい?」
「うち、あの類のアニメのDVDが山積みになってても驚かへんよ?」
「いや、そういうんじゃなくて、散らかってるから。ほんの二、三分待って!」
俺は急いでドアを閉め、中から鍵をかける。俺は買い物袋を玄関に置き、急いで部屋を片付ける。
数分後、ドアを開けた。
「どうぞ。上がって」
「それじゃお邪魔しまーす」
俺はじわりと滲んだ額の汗を拭って、ドアを閉めた。
「よいしょっと」
海香ちゃんは不細工な猫のカーペットの上に座った。
「疲れたー」
「海香ちゃんは座っててよ。買い物袋の中身片づけたらお茶淹れるから」
俺は買い物袋の中身をそれぞれの場所にしまう。冷蔵庫の中身は貧しかった。
ほれ、仲間が増えたぞー。
俺はどんどん冷蔵庫に色々入れていく。
「ん? これ何?」
海香ちゃんがどのことを言っているのかを確認すると、試作品の花冠だった。
「あー、それが友人に送ったプレゼントだよ」
「へー! すごいやん! 亨二さん手芸も得意なん?」
「だいぶ時間かかったから得意ってほどでもないよ」
「綺麗やわー。どう?」
海香ちゃんは花冠を着けて俺に問う。
「うん、似合ってるよ」
「これ着けてお茶飲もうっと」
海香ちゃんは楽しそうに花冠を手に取って眺めていた。俺は微笑ましい海香ちゃんの様子に頬をほころばせながら、紅茶の準備を進めた。
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