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Lesson5 恋の愛印《メジルシ》
STEP⑦ なりふり構わず
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さ、寒い……。
雪はパラパラと降り続けている。地面には数センチの積雪があった。雪で覆われた足跡のない地面を踏んでいく。
数駅分を歩いて稼いだが、清々しいほど情報がない。一年前とか二年前の話なら、情報ゼロでも納得はいく。だが、四日前から今日までに館花さんを見かけた人が一人くらいいてもいいだろうにと思う。
ホテルじゃなくて、友達の家に泊まってるとかかな……。
宮本さんからは気をつけてと励ましのメッセージをもらったが、宮本さんも収穫はなかったようだ。
足は疲労が溜まり、鉛が貼りついているように重く感じられた。膝はジーンズが破け、血が滲んでいた。疲れ切った足で走っていたら、一部アイスバーンの路面があったらしく、運動不足も相まってそこで見事に滑り転倒した。痛かったが、応急処置をできる物なんて持っていなかった。ヒリヒリとする足の感覚も、あまりに冷たい空気に晒されて鈍感になっている。時間が刻々とすぎていく中、俺は足を止めず前へ進んでいく。
深夜に動く人影や人工物の乗り物は少ない。すでに新聞配達員が働いているようだ。
体力もなければ、根気もない。そんな俺でも、守りたい物がある。してこなかった努力だってする。諦めきれるわけがない。こんなにも人を好きになるなんて、もう一生ないかもしれない。彼女が全てをなかったことにしようとするなら、最後にちゃんと伝えたい。たった一度だけでもいい。一生分の運を使い果たしたっていい。この想いだけは、失くしたくなかった。
振っている腕を大きくして、歯を食いしばって走る。空が青みがかってきた。もうすぐ夜明けのようだ。坂の傾斜に沿って見える空に雲はなかった。いつの間にか雪も止んでいた。
荒々しく息をしながら、坂を走って上っていく。トートバッグの持ち手を首輪のようにかけて、早朝から走っている人間を見たら、変な奴だと思われるに違いない。今は恰好なんてどうでもいい。一番効率的に走れる方法がこれだったのだ。俺は頂上について、走るのを止めた。
だんだん明るくなっていく空。ぼんやりと見えるようになった街の中、坂の頂上で目を凝らす。坂を下った先の道に、見慣れた建物が見えた。館花さんのマンションだ。
ゆっくり歩いていく。俺はもうクタクタだった。考える力もほとんど残ってない。
とりあえずホテルを回ったが、ホテルはピンからキリまである。全部を回りきるのは不可能であった。こうも情報が無いとへこむし、投げだしたくなる。当てがなくなった俺は、仕方なく館花さんのマンションに赴いたわけだ。
俺は館花さんのマンションに辿りついた。俺はマンションの自動ドアを通り、ポストに書かれている名前を見る。――七号室か。
センサー版の下にある呼びだしボタンを押す。
「はい。どうされましたー?」
男性のちょっとしゃがれた声が聞こえてきた。
「あの、館花佳織さんの知り合いの者なんですが、少しお部屋に伺いたいと思いまして」
「あぁ、分かりましたー。その場でお待ちください」
内線が切れる。俺は不意に自動ドアのガラスにうっすら映った自分の姿を見て、眉をしかめた。首にかかったトートバッグの持ち手を首から外し、身なりを整え警備員さんを待った。
――七号室の前。水色の扉の前に立つ。俺はインターホンに指をつけようとする。俺は躊躇してしまった。ぶんぶん頭を振り、不安を強引に一掃してインターホンを押した。
鳴っているのかどうか分からない。防音はしっかりしているみたいだ。とりあえず待ってみる。待っている間、なんて切りだそうか今になって考え始めていた。が、中から反応はない。
やはりいなかったか。
俺は緊張から解放された安堵と、期待を裏切られて落胆の意を含んだため息を吐いた。俺は肩を落としてドアの前から去る。
俺はマンションの入り口に戻っていく。その間、このマンションに住む人達に姿を見られて不審者扱いされないか気になってきた。
このマンションはレディースマンションだ。夜勤をしていたであろう警備員さんに彼女の知り合いであることを証明して棟内に入ったが、当てが外れた。
マンションを出ると、空はもう明るくなっていた。
はあ……もう、無理だ……。
俺はマンションの入り口の手前の脇にある花壇の縁に腰掛ける。一晩中走り回って体力も限界だった。
館花さんは見つからなかった。よくよく考えれば分かることだった。探偵でもない俺が、誰にも言わずに去った館花さんを探し当てられるわけがない。
また今日の夜探すか……。もう……今日は帰って寝ないと……。
不意に眠気が誘ってくる。瞼が重くなり、体が怠くなる。視界はぼやけていき、思考も断片化してきた。
ヤバい……ここで寝たら……不審、者……。
暗闇が視界を覆い尽くした。
「……何してんのよ」
急に声が聞こえて、驚いた拍子に俺の体がビクッとなる。その声が鮮明に耳に聞こえたので夢の中ではなく、現実だとすぐに認識できた。
「……あ……すみません。すぐに……」
俺は不審者に間違われたと思い、弁解を述べながら立ち去ろうとした。眠気に侵された目を擦り見上げた時、みるみる明瞭になっていく視界の中、朝の眩しい光を受けたその人を認識した後も、俺は信じられなかった。本当に目の前にいる人物が本当にその人かどうか疑わずにはいられなかったのだ。その人は俺の前に居続けた。だからこそ、その姿に驚きを隠せなかった。
「館花、さん?」
キャリーケースを率いて、ファッションにこだわりがありそうな完全防備のコートを着た館花さんが、そこにいた。
雪はパラパラと降り続けている。地面には数センチの積雪があった。雪で覆われた足跡のない地面を踏んでいく。
数駅分を歩いて稼いだが、清々しいほど情報がない。一年前とか二年前の話なら、情報ゼロでも納得はいく。だが、四日前から今日までに館花さんを見かけた人が一人くらいいてもいいだろうにと思う。
ホテルじゃなくて、友達の家に泊まってるとかかな……。
宮本さんからは気をつけてと励ましのメッセージをもらったが、宮本さんも収穫はなかったようだ。
足は疲労が溜まり、鉛が貼りついているように重く感じられた。膝はジーンズが破け、血が滲んでいた。疲れ切った足で走っていたら、一部アイスバーンの路面があったらしく、運動不足も相まってそこで見事に滑り転倒した。痛かったが、応急処置をできる物なんて持っていなかった。ヒリヒリとする足の感覚も、あまりに冷たい空気に晒されて鈍感になっている。時間が刻々とすぎていく中、俺は足を止めず前へ進んでいく。
深夜に動く人影や人工物の乗り物は少ない。すでに新聞配達員が働いているようだ。
体力もなければ、根気もない。そんな俺でも、守りたい物がある。してこなかった努力だってする。諦めきれるわけがない。こんなにも人を好きになるなんて、もう一生ないかもしれない。彼女が全てをなかったことにしようとするなら、最後にちゃんと伝えたい。たった一度だけでもいい。一生分の運を使い果たしたっていい。この想いだけは、失くしたくなかった。
振っている腕を大きくして、歯を食いしばって走る。空が青みがかってきた。もうすぐ夜明けのようだ。坂の傾斜に沿って見える空に雲はなかった。いつの間にか雪も止んでいた。
荒々しく息をしながら、坂を走って上っていく。トートバッグの持ち手を首輪のようにかけて、早朝から走っている人間を見たら、変な奴だと思われるに違いない。今は恰好なんてどうでもいい。一番効率的に走れる方法がこれだったのだ。俺は頂上について、走るのを止めた。
だんだん明るくなっていく空。ぼんやりと見えるようになった街の中、坂の頂上で目を凝らす。坂を下った先の道に、見慣れた建物が見えた。館花さんのマンションだ。
ゆっくり歩いていく。俺はもうクタクタだった。考える力もほとんど残ってない。
とりあえずホテルを回ったが、ホテルはピンからキリまである。全部を回りきるのは不可能であった。こうも情報が無いとへこむし、投げだしたくなる。当てがなくなった俺は、仕方なく館花さんのマンションに赴いたわけだ。
俺は館花さんのマンションに辿りついた。俺はマンションの自動ドアを通り、ポストに書かれている名前を見る。――七号室か。
センサー版の下にある呼びだしボタンを押す。
「はい。どうされましたー?」
男性のちょっとしゃがれた声が聞こえてきた。
「あの、館花佳織さんの知り合いの者なんですが、少しお部屋に伺いたいと思いまして」
「あぁ、分かりましたー。その場でお待ちください」
内線が切れる。俺は不意に自動ドアのガラスにうっすら映った自分の姿を見て、眉をしかめた。首にかかったトートバッグの持ち手を首から外し、身なりを整え警備員さんを待った。
――七号室の前。水色の扉の前に立つ。俺はインターホンに指をつけようとする。俺は躊躇してしまった。ぶんぶん頭を振り、不安を強引に一掃してインターホンを押した。
鳴っているのかどうか分からない。防音はしっかりしているみたいだ。とりあえず待ってみる。待っている間、なんて切りだそうか今になって考え始めていた。が、中から反応はない。
やはりいなかったか。
俺は緊張から解放された安堵と、期待を裏切られて落胆の意を含んだため息を吐いた。俺は肩を落としてドアの前から去る。
俺はマンションの入り口に戻っていく。その間、このマンションに住む人達に姿を見られて不審者扱いされないか気になってきた。
このマンションはレディースマンションだ。夜勤をしていたであろう警備員さんに彼女の知り合いであることを証明して棟内に入ったが、当てが外れた。
マンションを出ると、空はもう明るくなっていた。
はあ……もう、無理だ……。
俺はマンションの入り口の手前の脇にある花壇の縁に腰掛ける。一晩中走り回って体力も限界だった。
館花さんは見つからなかった。よくよく考えれば分かることだった。探偵でもない俺が、誰にも言わずに去った館花さんを探し当てられるわけがない。
また今日の夜探すか……。もう……今日は帰って寝ないと……。
不意に眠気が誘ってくる。瞼が重くなり、体が怠くなる。視界はぼやけていき、思考も断片化してきた。
ヤバい……ここで寝たら……不審、者……。
暗闇が視界を覆い尽くした。
「……何してんのよ」
急に声が聞こえて、驚いた拍子に俺の体がビクッとなる。その声が鮮明に耳に聞こえたので夢の中ではなく、現実だとすぐに認識できた。
「……あ……すみません。すぐに……」
俺は不審者に間違われたと思い、弁解を述べながら立ち去ろうとした。眠気に侵された目を擦り見上げた時、みるみる明瞭になっていく視界の中、朝の眩しい光を受けたその人を認識した後も、俺は信じられなかった。本当に目の前にいる人物が本当にその人かどうか疑わずにはいられなかったのだ。その人は俺の前に居続けた。だからこそ、その姿に驚きを隠せなかった。
「館花、さん?」
キャリーケースを率いて、ファッションにこだわりがありそうな完全防備のコートを着た館花さんが、そこにいた。
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