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Lesson5 恋の愛印《メジルシ》
STEP⑥ 色を射して頭の中で彩花に
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俺はホワイトクリスマスになりそうな曇り空が天上を覆う街を走っていた。手掛かりはない。もしかしたら、今まで行ったデート場所にいるかもしれない。とりあえず、今まで行ったことがある場所に向かって走った。
俺はスマートフォンをポケットから取りだし、電話をかけた。
「もしもし」
「青野君? どうしたの?」
宮本さんの声が電話越しに聞こえてくる。
「館花さんの写真持ってない? 顔がよく分かるやつ」
「え? 持ってるけど、どうするの?」
「今から館花さんを探してみるよ」
「分かったわ。じゃ、そっちに送るね。私の方も探してみるから」
「うん。ありがとう」
俺は電話を切り、駅に向かった。
最初に向かったのはシチュー専門店のサンタマルシェ。館花さんと二人で初めて食事をした場所だ。まだ食事時ではないので、お客は少なかった。
「いらっしゃいませ」
「あの、すみません。この人、ここ四日の間に来ませんでしたか?」
俺は宮本さんに送ってもらった画像をスマートフォンに表示させて、店員に見せる。
「あー! ここに来てくださる常連さんですね。四日の間ですか。えっと確か、四日間の間には来てないと思いますよ」
「そうですか。ありがとうございました」
俺は颯爽とお店を出た。
館花さんの化けの皮が剥がれた中華料理店や死ぬほどスウィーツを食わされたピーチ文化会館。俺が館花さんに紹介した紅茶専門店、食べ歩きで入った商店街、シューティングゲームで争ったゲームセンター、金属バットで追いかけ回されたバッティングセンター。それぞれの場所で店員はもちろん、お客にも訊いて回った。
たまにちょっと不審がられた。必ずしも行方不明の人を探している恋人と見られるわけじゃない。ストーカーなんかに見られてもおかしくないのだ。
いろんな場所を回っていくと思いだされていく。すごく懐かしくて、曇り空の街なのに綺麗に見えてくる。今まで過ごしてきた全ての思い出を、後ろめたさで台無しにしたくない。それが俺の本心だ。そうだ。やっとわかった。だから、一度だけでいい。会いたい。
街はすっかり暗くなってしまった。おまけに雪まで降ってくる始末だ。俺は息を切らして歩いていた。
グリーンロード。恋人体験が終わった後に、館花さんと会ったのはその先の階段。紫陽花が咲いていた花壇の前だ。こんな雪の中、しかも紫陽花が咲いていない場所になんて来るわけがないのは分かっていた。だけど、手掛かりなんて自分の記憶の中以外にないのだ。
俺は花壇の縁に座り、空を見上げる。外灯の光に当てられた雪が、暗く染まった空を背景にひらひらと落ちてくる。
探すのはいいけど、館花さんになんて言って引き留めるか考えてない。というか、会って何したらいいか分からない。社長は変わる番って言ってたけど、それって告白しろってことだよな。でも、振った後に俺から告白するのも、なんかなぁ。館花さん、絶対怒りそう……。
まず、告白すること自体難儀だ。高校の時だってできなかったのに。
俺は苦い顔になって、地面に落ちていく雪を見る。落ちた雪は地面に触れて、少し溶ける。
変わる……か。うん……。変わろう。どうなるか分からないけど、やるだけやればいい。あとは聖なる夜がなんとかしてくれるだろう。
俺達の関係は嘘の恋人から始まったんだ。あれがなかったら、館花さんとの記憶はなかったし、こんな気持ちにもならなかった。
俺は降りてきた雪を掌で掴む。凍えた掌に冷たさがじんわりと沁みる。
あの記憶が思いだされる。極淡の黄緑色のウエディングドレス姿で泣いていた館花さん。でも、その口は笑みを帯びていて、窓から差した太陽の光がウエディングドレスと彼女の涙を輝かせていた。
本当に綺麗だったな……。
思わず出たため息。ため息は白い吐息となり、雪と一緒に溶けていく。
次はどうしよう。行く当てがもう無いような気が。
いや待て。この時間ならホテルに泊まっているんじゃ……。
俺はスマートフォンで周辺のホテルを調べる。
うっ! こんなにあるの……!?
あぁ、もうめんどくさいこと考えるのやめよう。疲れるだけだ。もう足で稼ぐしかない。
俺は両膝を叩いて、気合いを入れた。俺は休憩を終え、ホテルを目指し走った。
ホテルを転々として、聞き込みをしていく。街はどこもかしこもカップルだらけだった。ジングルベルがどこからか鳴り響き、リースがあちらこちらに見える。みんな幸せそうだ。
なんでこんな日に心配にならなきゃいけないんだ。みんな優雅に過ごしているのに、なんで俺は一人マラソン大会をしてるんだろうか。そんな不満を心の中で漏らしながら街を走り回る。
この近辺の館花さんが行きそうなホテルは回りきってしまった。
次は別の地区のホテルに行かないと……。
俺は駅に向かう。駅に行くと、すでに終電は行ってしまっていた。
タクシーで行くか。
俺は財布の中を確認する。
えっ……。全然ないじゃん。
そうだ! コンビニにATMが……。って、この時間取り扱い終了してるし! ダメだぁ……。
交通網は断たれた。俺は駅構内の時刻表の前で力なく膝をついた。
今日は野宿になるのか。一日ホームレス体験……。クリスマスイブにですか? 別の日でもよくないですか?
おかしい。ツイてなさすぎる。今日は祝いの日だというのに金にも運にも見放されている。
今日はもう寝るか?
駅構内ならなんとか寒さは凌げるだろう。
でも、職質受けないかな。
別の不安がどんどん湧いてくる。
うーん……寝られない気がする。次の街はゆっくり行けばいいか……。
俺はよいしょっと小さく呟いて立ち上がり、コンビニに向かった。コンビニでスポーツドリンクを三つほど買い、俺は次の街へ走った。
俺はスマートフォンをポケットから取りだし、電話をかけた。
「もしもし」
「青野君? どうしたの?」
宮本さんの声が電話越しに聞こえてくる。
「館花さんの写真持ってない? 顔がよく分かるやつ」
「え? 持ってるけど、どうするの?」
「今から館花さんを探してみるよ」
「分かったわ。じゃ、そっちに送るね。私の方も探してみるから」
「うん。ありがとう」
俺は電話を切り、駅に向かった。
最初に向かったのはシチュー専門店のサンタマルシェ。館花さんと二人で初めて食事をした場所だ。まだ食事時ではないので、お客は少なかった。
「いらっしゃいませ」
「あの、すみません。この人、ここ四日の間に来ませんでしたか?」
俺は宮本さんに送ってもらった画像をスマートフォンに表示させて、店員に見せる。
「あー! ここに来てくださる常連さんですね。四日の間ですか。えっと確か、四日間の間には来てないと思いますよ」
「そうですか。ありがとうございました」
俺は颯爽とお店を出た。
館花さんの化けの皮が剥がれた中華料理店や死ぬほどスウィーツを食わされたピーチ文化会館。俺が館花さんに紹介した紅茶専門店、食べ歩きで入った商店街、シューティングゲームで争ったゲームセンター、金属バットで追いかけ回されたバッティングセンター。それぞれの場所で店員はもちろん、お客にも訊いて回った。
たまにちょっと不審がられた。必ずしも行方不明の人を探している恋人と見られるわけじゃない。ストーカーなんかに見られてもおかしくないのだ。
いろんな場所を回っていくと思いだされていく。すごく懐かしくて、曇り空の街なのに綺麗に見えてくる。今まで過ごしてきた全ての思い出を、後ろめたさで台無しにしたくない。それが俺の本心だ。そうだ。やっとわかった。だから、一度だけでいい。会いたい。
街はすっかり暗くなってしまった。おまけに雪まで降ってくる始末だ。俺は息を切らして歩いていた。
グリーンロード。恋人体験が終わった後に、館花さんと会ったのはその先の階段。紫陽花が咲いていた花壇の前だ。こんな雪の中、しかも紫陽花が咲いていない場所になんて来るわけがないのは分かっていた。だけど、手掛かりなんて自分の記憶の中以外にないのだ。
俺は花壇の縁に座り、空を見上げる。外灯の光に当てられた雪が、暗く染まった空を背景にひらひらと落ちてくる。
探すのはいいけど、館花さんになんて言って引き留めるか考えてない。というか、会って何したらいいか分からない。社長は変わる番って言ってたけど、それって告白しろってことだよな。でも、振った後に俺から告白するのも、なんかなぁ。館花さん、絶対怒りそう……。
まず、告白すること自体難儀だ。高校の時だってできなかったのに。
俺は苦い顔になって、地面に落ちていく雪を見る。落ちた雪は地面に触れて、少し溶ける。
変わる……か。うん……。変わろう。どうなるか分からないけど、やるだけやればいい。あとは聖なる夜がなんとかしてくれるだろう。
俺達の関係は嘘の恋人から始まったんだ。あれがなかったら、館花さんとの記憶はなかったし、こんな気持ちにもならなかった。
俺は降りてきた雪を掌で掴む。凍えた掌に冷たさがじんわりと沁みる。
あの記憶が思いだされる。極淡の黄緑色のウエディングドレス姿で泣いていた館花さん。でも、その口は笑みを帯びていて、窓から差した太陽の光がウエディングドレスと彼女の涙を輝かせていた。
本当に綺麗だったな……。
思わず出たため息。ため息は白い吐息となり、雪と一緒に溶けていく。
次はどうしよう。行く当てがもう無いような気が。
いや待て。この時間ならホテルに泊まっているんじゃ……。
俺はスマートフォンで周辺のホテルを調べる。
うっ! こんなにあるの……!?
あぁ、もうめんどくさいこと考えるのやめよう。疲れるだけだ。もう足で稼ぐしかない。
俺は両膝を叩いて、気合いを入れた。俺は休憩を終え、ホテルを目指し走った。
ホテルを転々として、聞き込みをしていく。街はどこもかしこもカップルだらけだった。ジングルベルがどこからか鳴り響き、リースがあちらこちらに見える。みんな幸せそうだ。
なんでこんな日に心配にならなきゃいけないんだ。みんな優雅に過ごしているのに、なんで俺は一人マラソン大会をしてるんだろうか。そんな不満を心の中で漏らしながら街を走り回る。
この近辺の館花さんが行きそうなホテルは回りきってしまった。
次は別の地区のホテルに行かないと……。
俺は駅に向かう。駅に行くと、すでに終電は行ってしまっていた。
タクシーで行くか。
俺は財布の中を確認する。
えっ……。全然ないじゃん。
そうだ! コンビニにATMが……。って、この時間取り扱い終了してるし! ダメだぁ……。
交通網は断たれた。俺は駅構内の時刻表の前で力なく膝をついた。
今日は野宿になるのか。一日ホームレス体験……。クリスマスイブにですか? 別の日でもよくないですか?
おかしい。ツイてなさすぎる。今日は祝いの日だというのに金にも運にも見放されている。
今日はもう寝るか?
駅構内ならなんとか寒さは凌げるだろう。
でも、職質受けないかな。
別の不安がどんどん湧いてくる。
うーん……寝られない気がする。次の街はゆっくり行けばいいか……。
俺はよいしょっと小さく呟いて立ち上がり、コンビニに向かった。コンビニでスポーツドリンクを三つほど買い、俺は次の街へ走った。
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