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野原のマフィンと親指少女
(四)
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「そんなにおどろくことですか?」
「そりゃあもう! 熟年夫婦感出てるのに。それに、彼氏のおばあちゃんの家で一緒に暮らすって、なんか考えにくくて。だからてっきりご夫婦なのかと」
「ああ、なるほど」
たしかに職場の同僚に引越しの話をしたら、「え、彼氏のおばあちゃんの家に住むの?」とおどろかれた。でも雪斗たちは歓迎してくれたし。
「遠慮のない女なんですよー、私」
冗談めかして、ははっと笑う。しかし朱里ははっとして、早口になった。
「Sorry! 悪く言ってるわけじゃないんですよ? ただびっくりしただけで。えー、でもそっかあ、嫁入り前の娘が田舎に行っちゃうなんて、親御さんしょんぼりですね」
「あー、うちはそういうのないから、大丈夫です」
「そうなんですかあ。ご両親、サバサバ系?」
「んー、というよりは――」
ふたりの会話を、スマホの着信音が遮った。
「ちょっとすみません」と朱里はポケットからスマホを取り出して、いくつか会話をする。話が終わるころには、ぶすっとした顔でスマホをもう一度ポケットに押し込んだ。
「父さんから、店が忙しいからもどってこいって言われちゃいました。ってことで、穂乃花さん雪斗さん、あたしたち帰りますね! また遊びに来ていいですか?」
「いいですよ、ぜひ」
雪斗がのほほんと頷く。朱里は娘の手を握って「では!」と背中を向けた。
「かけっこしよっか!」「いや、ママはやいもん……」という声が聞こえる。和真も「お騒がせしました」とお辞儀して、そのあとを追っていった。
「嵐みたいな人たちだね」
「そうですね」
両親に挟まれ、結局かけっこすることになったらしい少女の背中を穂乃花が見つめていると、雪斗が首を傾げた。
「あの子、穂乃花さんと同じなのかな」
雪斗の目も、少女に向いている。
「そうみたいですね。あの子の前では、その鈴、外してください」
ちりりん、と雪斗の手首にある鈴が鳴る。桜模様が彫られた、小ぶりの鈴。
「いいなあ、きれいな音なんだよね。俺も聞いてみたいなあ」
雪斗は穂乃花の頭をぽんぽん撫でながら言った。
雪斗の持つ鈴は人の世のものではない。ふつうの人はその音を聞くことができない。今まで鈴の音を知っていたのは穂乃花だけだった。
「隠さなくてもいいんじゃない? 視えること。あの子には」
「駄目ですよ。なるべく秘密にしなきゃ。どこから噂話が広まるか分からないし」
――怖いこと言わないで。
雪斗の母の声がよみがえる。隣人は、怖くなんてないのに。もちろん穂乃花も、自分が怖い人間なんて思っていない。でも誤解されてしまうのは仕方ないとも思う。喉をつかまれたように、息が苦しくなった。
「穂乃花さん」
ぎゅっと握りしめた手に、雪斗の手が重なる。
「大丈夫、大丈夫」
「――……うん」
「そりゃあもう! 熟年夫婦感出てるのに。それに、彼氏のおばあちゃんの家で一緒に暮らすって、なんか考えにくくて。だからてっきりご夫婦なのかと」
「ああ、なるほど」
たしかに職場の同僚に引越しの話をしたら、「え、彼氏のおばあちゃんの家に住むの?」とおどろかれた。でも雪斗たちは歓迎してくれたし。
「遠慮のない女なんですよー、私」
冗談めかして、ははっと笑う。しかし朱里ははっとして、早口になった。
「Sorry! 悪く言ってるわけじゃないんですよ? ただびっくりしただけで。えー、でもそっかあ、嫁入り前の娘が田舎に行っちゃうなんて、親御さんしょんぼりですね」
「あー、うちはそういうのないから、大丈夫です」
「そうなんですかあ。ご両親、サバサバ系?」
「んー、というよりは――」
ふたりの会話を、スマホの着信音が遮った。
「ちょっとすみません」と朱里はポケットからスマホを取り出して、いくつか会話をする。話が終わるころには、ぶすっとした顔でスマホをもう一度ポケットに押し込んだ。
「父さんから、店が忙しいからもどってこいって言われちゃいました。ってことで、穂乃花さん雪斗さん、あたしたち帰りますね! また遊びに来ていいですか?」
「いいですよ、ぜひ」
雪斗がのほほんと頷く。朱里は娘の手を握って「では!」と背中を向けた。
「かけっこしよっか!」「いや、ママはやいもん……」という声が聞こえる。和真も「お騒がせしました」とお辞儀して、そのあとを追っていった。
「嵐みたいな人たちだね」
「そうですね」
両親に挟まれ、結局かけっこすることになったらしい少女の背中を穂乃花が見つめていると、雪斗が首を傾げた。
「あの子、穂乃花さんと同じなのかな」
雪斗の目も、少女に向いている。
「そうみたいですね。あの子の前では、その鈴、外してください」
ちりりん、と雪斗の手首にある鈴が鳴る。桜模様が彫られた、小ぶりの鈴。
「いいなあ、きれいな音なんだよね。俺も聞いてみたいなあ」
雪斗は穂乃花の頭をぽんぽん撫でながら言った。
雪斗の持つ鈴は人の世のものではない。ふつうの人はその音を聞くことができない。今まで鈴の音を知っていたのは穂乃花だけだった。
「隠さなくてもいいんじゃない? 視えること。あの子には」
「駄目ですよ。なるべく秘密にしなきゃ。どこから噂話が広まるか分からないし」
――怖いこと言わないで。
雪斗の母の声がよみがえる。隣人は、怖くなんてないのに。もちろん穂乃花も、自分が怖い人間なんて思っていない。でも誤解されてしまうのは仕方ないとも思う。喉をつかまれたように、息が苦しくなった。
「穂乃花さん」
ぎゅっと握りしめた手に、雪斗の手が重なる。
「大丈夫、大丈夫」
「――……うん」
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