立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0057.死の淵からの土産

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「やったぜ。健が、バッチリと目を覚ましたぜ。」
 火の精が喜んで踊り回る横で銀髪の女は心配そうな顔で健を見ている。
「心配かけてすまん。もう大丈夫だ。」
 意識を取り戻した健は、ゆっくりと起き上がった。病み上がりで体がとても衰えているのがよく分かる。だが、不思議なことに感覚が異様に研ぎ澄まされているのを感じる。いや、正確には新しい感覚が身に付いているのだ。前と同じ洞窟の中にいるはずなのに、景色が違って見える。どう説明すればいいのだろうか。範囲は限られているが、世界のすべてを見通せるような感覚だ。命がけで死の淵まで行って戻ってきた際に何か特別な力を土産に持って帰ってこれたのかもしれない。
「俺の短剣を拾っておいてくれて有難う。」
 健は自分の近くにある魔法の短剣を拾いあげた。そのまま、自然な動作で魔法の短剣の光の刃を伸ばすと入口の近くの何かを斬った。
「ギャアアアアア。」
 悲鳴をあげて見えない何かがその場で倒れこんだ。見えないが何かから、血が流れ出して床を赤く染めた。
「何だ、何だ。」
 火の精と銀髪の女がビックリしてそちらを見ている。
「どうやら、この世界の主に見張りをつけられていたようだな。俺の意識が戻る前に襲われなくて良かった。」
 健は、身に付けたばかりの超感覚で曲者が洞窟内に紛れこんでいるのが分かったのである。
「見ろよ。だんだん姿を現してきやがったぞ。」
 火の精が近くに行って様子を観察していると、見えない何かは死んだ後に体が見えるようになっていった。人のような猿のような白い毛の生き物である。
「雪男の一族ね。世界の主に逆らえずに従っているはずよ。でも、こんなことができるなんて知らなかったわ。」
「俺達を襲ってきた3人といい、こいつといい、この世界の主は手強い仲間をいっぱ連れているな。」
 そう言いながらも健にもはや不安はなかった。死の淵から舞い戻るという経験のおかげで、超感覚を身に付けただけではなく、精神的にも悟りを開いたレベルで成長できたのである。
「そう言えば、世界の主が命の水晶を出す日まであと何日だ。」
「あと3日だな。」
「3日あれば充分さ。随分、遅くなっちまったが、まずは前祝いをするか。」
「そうね。全部は持って帰れなかったけど、雪ジカの肉と野菜はあるわよ。」
「お、すまんね。何から何まで助かるよ。ここに来てから、ティアラには本当にお世話になりっぱなしだな。この貸しは、世界の主を倒したら何とかチャラになるかな。」
 健が笑って言うと、銀髪の女も微笑んだ。
「よし、よーし。早速、雪見の宴といこうぜ。」
 火の精がいつもと違う踊りをして小さな炎を撒き散らすと、洞窟の入口から広がる美しい雪景色がより映えた。3人は、ここ一週間の過酷な出来事などなかったように盛り上がった。
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