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9. 略取②
しおりを挟む「お前に選択肢があると思うなよ、サフィルス。野良魔術師をみすみす野放しにしておくわけがないだろう。ひっ捕えて無理矢理騎士団に放り込んでやることもできるんだ」
「だとして、俺は国のために戦う気は無いし、英雄になる気もない。いくらアンタが俺を騎士団に放り込もうが俺のやる気がないなら無意味だろう」
「フンーーでは、これならどうだ」
発せられた棘のある声色に振り向く暇もなく、ガシャリと無機質な音を立てて何かが俺の首に巻きついた。そのまま思い切り後ろに引かれ、俺はウィルの腕の中から引き出されてシュナイダーの足元に倒れ込んだ。
「ぐぁっ」
苦しいが、全く息ができない程ではない。すぐに気を失ってしまうことないがそう長くは保たないだろう。必死に息を吸いながら手で首元を弄ると、太く頑丈な鎖が俺の首を締め上げていた。両手で掴んで首との間に隙間を作ろうと試みたががびくともしない。鎖の繋がる先を目線で辿ると、鎖はシュナイダーの手からまるで生えるように伸びていた。どうやら魔術で具現化した鎖で囚われてしまったようだ。
「ルカ! クソッ、そいつは関係ないだろう!」
「少しはやる気が出たか? 青狼衆の生き残りよ」
ウィルがこちらに向けて右手をかざすと、旋風が巻き起こり鎖から「ガチッ」と金属音が鳴った。恐らくウィルが何か魔術を使ったのだろうが、鎖は傷ひとつつかず俺の首を締めつけたままだった。
「そんな子ども騙しで私の術を破れるとでも思ったか」
それもそうだ。何の訓練も受けていないウィルと国内屈指の魔導騎士では実力に差がありすぎる。
勝ち誇った様に言ったシュナイダーはウィルの方を見てくすくすと笑っていた。
反撃をするとすれば、ウィルに注意が向いている今しかない。
俺は鎖から手を離し、背負っていた籠を肩から下ろすと、低い体勢のまま目の前の二人目掛けて思い切りそれを投げつけた。袋の口が緩み、中からソラの葉が飛び出す。葉を顔面から被った青い髪の男はふらりと体勢を崩し地面に片膝をついた。と同時に、俺の首に巻きついていた鎖が霧散し、自由の身になる。
「ウィルっ!」
すぐさま立ち上がりウィルのもとへ駆け出そうとしたが、その俺の首が背後から鷲掴みにされ、あっという間に再度囚われてしまった。視界の隅に赤髪が映る。しまった、こっちは魔術師ではなかったのだ。
気づいた頃には背後から太い腕で首を絞められ、今度こそ丸腰の俺はなす術がなくなってしまった。苦し紛れにジタバタと暴れても全くびくともしない上に、どんどん腕を上に引き上げられ地面から両足が離れる。きつく回された腕に圧迫され、首の血管が堰き止められるのを感じた。これはまずい。さっきの鎖よりも容赦がない。力はどんどん入らなくなり、視界がぼやぼやと霞んできた。
「ん、ぁ……ウィル、俺のことはいいから……ッ」
「田舎者のガキどもが舐めた真似を……!」
ゴホゴホと咳き込みながらシュナイダーが憎らしげに吐き捨てた。
「カイデン、こいつはこのまま連れていく」
背後の男が頷くと、シュナイダーは両手で印を結び何かの術を展開した。途端に俺たちとウィルの間に風が吹き荒れ、巻き上げられた砂塵が壁の様に立ち上った。
「こいつを返してほしければ明日の日没までに我々第一部隊の隊舎に来るがいい。お前が入隊しこの国を厄災から救ったあかつきには、この男を解放してやる」
遮られていく視界の中、遠くの方に何かを叫びながらこちらへ駆けてくる母さんが見えた。手には二本の傘を持っている。
雨が降り出したから、仕事の合間に迎えに来てくれたんだろうな。無駄足を踏ませてごめん。
「ルカ、ルカ!」
ウィルが叫びながら手を伸ばすが、その手が届く前に俺の視界は真っ黒に染まった。
真っ暗闇の中、最後に見えたウィルの顔が残像のように目に焼き付いていた。
今にも泣きそうな、あの夜の男の子と同じ表情。
俺はお前にそんな顔させたくなかったのに。
離れないって約束したばかりだったのに。
ーーごめんな、ウィル。
右目からぽろりと涙が溢れるのを感じながら、俺は意識を手放した。
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