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ヘイスレイブ奪還編
第106話 自空間
しおりを挟むあたりを見渡すとどこまでも真っ黒な暗闇が広がっていた。
カナメル「ここは、、、」
オガリョ「ようこそ、俺の自空間へ」
オガリョの声が響き渡る。
カナメル「自空間だと?そんな高度な魔術をお前が使えるわけないだろ」
オガリョ「ケッ、、、ヒッヒッ、、それが使えちゃってるんですよ、カナメル君。あまり俺をみくびるなよ」
暗闇の中からオガリョが姿をあらわした。
カナメル「なんだ、その姿は」
頭からは触角が生え、虫の翅を携えたオガリョがいた。
オガリョ「闇の力を注入してもらったのさ、俺は力を手にした」
オガリョはバタバタと音を立てながら宙へと浮いた。
カナメル「変わったな、オガリョ」
カナメルの手に炎が灯る。
オガリョ「ああ、俺は変わった。今ならお前にも勝てそうだ」
カナメル「お前は何も分かってないな」
オガリョ「いつまで俺の上にいるつもりだ?お前の泣き顔を想像するだけで、ワクワクするよ」
暗闇の中を羽虫の大群が移動している。
カナメル「この蟲達はお前の召喚魔法か」
オガリョ「そうさ、この自空間では永続的に蟲達は生成される。こいつらは皮膚を喰らい、体内へと侵入し、臓器を貪る。せいぜい自分の身体を守りきるんだな」
蟲達が一斉にカナメルに襲いかかる。
カナメルは炎で辺りを薙ぎ払い、蟲達を一掃する。
しかし、蟲達は止めどなく現れ、永続的にカナメルへと向かってくる。
炎で蟲達を焼き殺しながら、隙を突いて炎の槍をオガリョへと投げつける。
オガリョはそれを鉄の壁で防ぎ、高笑いをしていた。
オガリョ「攻撃する余裕があるとは流石は元四天王だな。でもこれで終わりだと思うなよ?」
オガリョが魔法を唱えると、暗闇から鉄の針が多量に放出された。
エンハツで距離を取るカナメル。
しかし、蟲達と針の勢いは衰えることなく、執拗にカナメルを追い回す。
オガリョ「魔力を浪費すると魔力切れを起こすぞ?身体を動かし続けるとスタミナ切れが起きるぞ?どちらにしてもその先に待っているのは、死のみだ」
カナメル「確かにキリがないな、大技を練る隙もない」
オガリョ「お前が泣きながら土下座をし、俺の家来になるというのであれば命だけは助けてやろう」
カナメルはオガリョの提案を鼻で笑った。
オガリョ「何がおかしい」
カナメル「いや、別に」
オガリョ「カッコつけられるのも今のうちだぞ」
オガリョは苛立ちを見せ、蟲達と鉄の針の勢いは増していく。
カナメルの魔法により巨大な炎の渦が立ち昇り、全てを焼き尽くした。
オガリョ「いつの間にそんな大技を!?」
カナメル「魔法を学ぶ上で必要なことは地道な日々の努力とアイディアだ」
炎の渦は徐々に大きくなっていく。
カナメル「魔法に近道なんてものはない、四天王になれる者は才能があるからだと思っているだろ?でもそれは違う。熟練者達が飄々としているのは日々の鍛錬がルーティンとなり、息をするように勝手に努力をしてしまっているからだ」
オガリョの顔が引き攣っていく。
カナメル「付け焼き刃の力では強さに限界がある、限界があるということは一定の地位を保つことが出来ないということだ、よってお前は王となることは出来ない」
オガリョ「な、何を言ってい、、ガァ!!!!」
オガリョの背中で炎の鳥が爆発した。
羽を失い、地へと落ちる。
暗闇が薄れていき、鉄で出来た床と壁が姿をあらわす。
カナメル「暗闇は照らせば晴れてしまう、暗闇で隠せるものなんてたかが知れている。永続的な蟲達の召喚、壁からの鉄の針の放出。そんな単調な芸の無い技で俺を仕留められると思っていたのであれば、ヘイスレイブを甘く見過ぎだ」
炎の渦が全てを焼き尽くし、蟲達は現れなくなった。
カナメル「鉄の針を生成する余裕は無さそうだな、だが、これで終わりだと思うなよ」
炎の渦は巨大な鳥の姿へと形を変える。
カナメル「炎術最終魔法、朱雀!!!」
床、壁、この空間の全てが燃え盛り、炎の鳥が羽ばたいた。
オガリョ「やめろ、、、やめてくれ、、頼む、、殺さないでくれ!!!、、、死にたくない、死にたくない!!!」
カナメル「ヤマカイ、イマムー、その他のヘイスレイブの未来を担う有力な魔導士もそうやって死んでいったのか?なぁ、教えてくれよ、オガリョ」
オガリョは泣きながら祈るようにカナメルを見上げる。
カナメル「祈ったって、多分お前の行き先は地獄確定だ」
炎の鳥がオガリョ目掛けて舞い降りる。
カナメル「じゃあな」
オガリョ「やめろぉぉおおおお!!!!!」
うずくまり、頭を抱えるオガリョだったが、燃えていない自分の身体を確認し、驚いてカナメルを見た。
カナメル「本気で殺してやろうとも思ったけど、その判断はアンチェアに任せるとするか。お前の罪は重い、だがもしアンチェアが許してくれるのであれば、生きろ」
オガリョ「、、、う、、う、、、」
恐怖と感謝の入り混じった感情がオガリョを襲う。
カナメル「魔法の才能があるのに、どうして素直に高みを目指さないのか、俺は昔から疑問だったよ。まぁ、別に俺には関係のない話なんだけど」
オガリョ「あ、、ああ、、、、」
涙で滲む薄暗い空間が晴れていく。
オガリョ「俺は、何てことをしてしまったんだ」
オガリョは後悔で身体中が燃えるように熱かった。
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