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決戦のグレイス城編
第195話 絆の弊害
しおりを挟むナミチュが倒れた絶体絶命の状況にマツの思考が停止していた。
BB「あなたの甘さがその子を傷つけたの。これを機に、敵に慈悲を与えるのはやめなさい。魔術師は常に非情であるべきよ」
マツ「分かりました、今ならあなたと戦えそうです」
BB「そう、私は敵なのよ」
マツは槍を構えた。
高速転移をもつ相手にスピードでの勝負は無謀、とはいえ純粋な魔法戦でこの人には勝てない。
勝ち筋を模索するもシュミレーションの段階で勝つイメージが出来ない。
逃げるしかないか。
しかしナミチュを抱えて逃げることが出来るだろうか?
引き返すことは出来ない、逃げるとしても進むしかない。
その先には違う敵がいるかもしれない。
そもそも目の前にいるこの敵にそんな隙はない。
こんな時、ドラならどうするだろうか?
戦闘の最中に何を考えているんだと思いながらも、思考はドラへの心配へと変わっていった。
ドラはマツを守るために竜に囚われてしまった。
今はナオティッシモ先生の元で催眠の魔法で眠らされ続けているが、その身体は未だに竜のままである。
もうドラが人間に戻ることはないのかもしれない。
ごめん、ドラ。
マツの苦悶の表情を読み取ったBBが口開く。
BB「私を倒すシュミレーションは出来たのかしら?それとも違うことを考えていたとか?だとしたら随分と余裕ね」
マツ「正直に言うと、あなたを倒す術は私にはありません。それでも私を守ってくれた全ての人のためにもここで命を諦めるわけにもいきません」
BB「だとしたら、どうするの?」
マツ「分かりません、でも足掻きます。足掻き続けてみせます!何一つ諦めずに」
マツは瞬雷を発動した。
あえて軌道をずらしたトリッキーな動きや不意をついた攻撃も全て分かっているかのように先回りして防御魔法を展開された。
雷槍を放ち、それに続いて第二詠唱をしようとしたが、後出しなのにマツよりも早く岩魔法でそれを封じられる。
意を決したマツは槍を構えて接近戦に持ち込もうとしたが距離を取られ、いつの間にか設置されていた魔法陣の餌食となってしまった。
心身ともに疲弊したマツは槍を支えにして何とか立ち上がる。
マツ「こんなにも、、差があるなんて、、、、」
カナメルさん、ナミチュ、そしてドラ。
私はここでお別れのようです。
マツは最後の力を振り絞り、立ち上がった。
震える足を無理やり動かし、槍を構えて走り出す。
あの時のように緑のオーラが発動することもない、もう誰も助けに来ることもない。
きっとこれが最後の攻撃になるだろうことはマツ自身も分かっていた。
マツ「瞬雷!!!!」
身体に馴染んでいる雷が全身を駆け巡る。
「ガルゥアアアアア!!!!!!」
その時、天井から獣のような轟音が響いた。
マツは咄嗟にナミチュの元へと軌道を変え、彼女を守りながら天井を見上げた。
何か来る。
マツとBBは互いに手を止め、震える空気を警戒しながら上を見上げた。
バキバキと音を立てながら天井が裂けていく、そこから紅い大きな竜の頭が顔を出した。
「ガァアアァァアア!!!!!!」
竜は勢いよく身を乗り出し、天井を破壊してマツとBBの間へと降り立った。
ドガン!!!!!!
地響きとともに着地した紅き竜はその大きな目玉でBBを睨んでいる。
BB「空間転送を破壊してここまで来たというの!?」
流石のBBも驚きを隠せない。
マツ「ドラ、なの?」
ヘイスレイブ城で見た時よりも明らかに獰猛なその姿にマツも恐怖を感じていた。
BB「ドラゴンスレイヤーになってみたいけれど、そうするには気が散る状況ね。流石の私も竜の餌にはなりたくないのよ。一応人間の未来を潰す神の軍勢の一人なのでね、最後まで私も足掻かせてもらうわ」
BBは一瞬にして霧となって消えた。
BBの魔法で辺りは濃霧に包まれた。
もしかしてこれは逃げろという、BBからのメッセージなのだろうか?
あえて霧を撒き散らしたのには理由があるはずだ。
マツはナミチュを背負って扉の方へと歩き出した。
しかし、途中で歩みを止めた。
マツ「ドラ、私を助けに来てくれたんだよね」
マツはナミチュを壁にもたれかけさせた。
紅き竜の大きな目玉にマツの姿が反射している。
マツ「ドラ、、、ありがとう」
マツは槍を地面に置き、手を伸ばした。
「ガルゥアアア!!!!!」
紅き竜は咆哮とともにマツへと襲いかかった。
マツはそっと目を閉じた。
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