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第1章 思い出は幻の中に

思い出は二人の間に ☆

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 目の前で酔いつぶれたっきり全く起きる気配のないアエリアをソファーに横にして、その髪を指で漉く。細い茶色の髪はぼさぼさで、あまり櫛を入れていないようだ。

 コイツ、何も食わずにまた酔いつぶれてしまった。このままでは体が持たなかろう。

 仕方がないので少し魔力を供給しておく。空腹は治らないが、せめて体力は戻るだろう。ついでに少しだけ治癒魔法もかけておく。このままだと明日ひどいことになるだろうしな。
 治癒魔法は本来そう簡単に使うべきものではない。なるべく自然に解決したほうがいいのだ。
 深い眠りについているアエリアをそのままにして、俺はピピンの執務室に飛んだ。

「お前の言うことにも一理ある。今すぐ数人よこして最低限の部屋を整えさせろ」
「アーロン様、この時間にいらして第一声がそれですか?」
「アエリアを寝かしつけて来た。今なら人が入っても問題ない」

 ピピンは大きなため息とともにタイラーを呼び出した。

「タイラー、すまないが今何人程使用人をアーロン様の屋敷にさける?」
「先ほどお送りした食料品の片づけに人手がいるのではないかと思っておりましたので、とりあえず5人ほど確保してあります」

 流石タイラー、こいつの有能さは折り紙つきだ。

「その5人で食料品の片づけと3、4部屋の掃除にどれくらいかかる?」

 俺が畳みかけるように尋ねるとタイラーは小首を傾げて思案する。

「そうですね。本来は一時間でキッチンを片づけながら食料品の仕分けを行おうと思っていたのですが、仕分けをせず収納だけしてしまえば掃除だけでしたら2時間ほどではないかと」
「それで構わない」
「それから私も同行させて頂きます」

 ふと思いついたようにタイラーが付け加えると、ピピンが眉間にしわを寄せて言葉を挟む。

「お前はいかなくてよろしい。アーロン様が返して下さる保証がない」
「いいえ、行かせて頂きます。スチュワードが来週からあちらでお世話になります。その前にスチュワードの部屋を整えておきたいと思います」

 そう言ってタイラーは俺に向き直り、甘いほほえみを浮かべる。

「アーロン様、勿論スチュワードに一室頂いてもよろしいですよね?」
「構わん」

 そう返事を返しながら俺は頭の片隅で『これは上手くするとタイラーもこちらに移動させられそうだ』と悪だくみを始めた。


 タイラーは言葉通り全てを2時間で整えた。
 俺は俺の主寝室と執務室が片付けばあとはどうでも良かったのだが、タイラーがアエリアの部屋も整えるべきだと言って譲らない。仕方なく隣の副寝室も整えさせた。ベッドはピピンを使って王宮の客室に入っていたものを二つ頂き俺とアエリアの部屋に入れた。
 他にもタイラーの勧めで幾つか家具を入れ替える。

 掃除が全て終わり、ベッドや家具も転移魔法でこちらに取り寄せ、他にも俺とアエリアの着替えやタイラーが準備していたリネン一式を使用人たちが全てあるべきところに収め終わった頃。
 タイラーが使用人を引き連れて『くれぐれもスチュワードをよろしくお願いいたします』と挨拶して転送魔法で帰っていった。
 今日のところは返してやる。だが俺の考えが正しければ、近いうちにこちらへの移動を自分から願い出るだろう。

 人の気配が全くなくなった所ですっかり酔いつぶれてるアエリアを俺の寝室に運んだ。ベッドに横たえ、着替えさせる。折角のベッドなのに使用人服のままでは勿体ない、いや可哀想だ。
 俺はピピンに準備させていたアエリアの着替えの中から薄いピンクのネグリジェを選ぶ。

 着替えさせるにはまず脱がせないと。

 一旦アエリアの上半身を起こしあげて自分の肩に寄りかからせる。そのままカーディガンをはぎ取り、シャツのボタンを一つずつ外していく。
 すべて外し終わり、シャツをはだけるとアエリアの少しピンクがかった肌が露出した。
 俺は一瞬手を止めてそれに見入ってしまった。

 この前は大して見る間もなく裸に剥いて着替えさせたが、こうやって無抵抗のアエリアをゆっくり脱がせると嫌でもその白い素肌と下着に包まれたまだ幼く完熟していない胸が目に入る。
 微かに透けるこの下着を選んだのは俺だ。下着の上からも微かにピンクの乳首が透けて見える。

 なんだかやけに身体が熱い。

 俺は頭を振って作業に戻る。革靴を脱がしスカートを外す。残ったのは下着姿のアエリアだ。あとはネグリジェを着せてやればおしまいだ。
 ふとその前に体を拭いてやろうと思い立つ。
 この屋敷に来てまだ一度も風呂に入れてやっていなかったはずだ。こちらの習慣では貴族でもない限り週に一度湯を浴びられればいいほうだが、折角服を着替えるのだし少しは綺麗にしてやろう。
 そう思いつき、空間魔法で王宮にある自室の浴室からタオルと香油を取りよせた。水魔法で濡らし、香油を少量染み込ませそれを振動させて温める。温められた香油の柑橘系の匂いが室内を満たしていく。
 酔いつぶれたアエリアは起きる様子もないし動かない。その弛緩した手足を順繰りに持ちあげながら温めたタオルで丁寧に拭っていく。アエリアの顔が嬉しそうに緩んだ気がする……

 もう一度アエリアの上半身を軽く持ちあげ、後ろに回って背を俺に寄りかかるように座らせた。アエリアの体から香油とはまた別の甘い香りが立ちあがり、俺の鼻孔をくすぐる。柔らかいアエリアの身体とその体温が服越しに感じられてやりづらい。勝手に火照り出した身体を持て余しつつ、単に身体を拭いてやってるだけだと自分に言い聞かせて作業を続けた。

 タオルをアエリアの首筋にあてゆっくりと上半身を拭き上げる。背中も拭き清め、前に回した手で腹の辺りも拭き終わった俺は一瞬の躊躇いを馬鹿馬鹿しいと追い払って最後に2つの乳房を拭きあげる。その柔らかい感触をなんとか頭から追い出そうと躍起になりながらも丁寧に拭き清めていく……
 胸に当てた薄手のタオルがその頂点に触れると寝ているはずのアエリアが小さな吐息をもらした。俺の心臓がドクンと音を立てて飛びあがり、頭の芯まで焼け付くような目眩がする。つい、そのまま何度もアエリアの胸の先をタオルで擦りあげる。

「ん、んん」

 アエリアがかすかに甘い声を漏らす。その掠れた声が俺の理性を吹き飛ばし、下半身が素直に反応を示した。今ここでアエリアが目覚めたらどうする。そう思わないわけではないのに俺は今この行為をやめられない。
 タオルではなく直接触れたらどんな感触がするのだろう。唇に含んでなぶったらどんな声を上げて鳴くだろう。
 考えてはいけない思いが頭の中をグルグルと回りだす。

 これ以上はヤバイ!

 俺は投げ出すようにしてアエリアの体をベッドにおろし、手早くネグリジェを着せて上掛けの中に突っ込んだ。そのまま駆け出して井戸端にしゃがみ込んだ俺は、冬のさなかに真っ裸で水浴びを繰り返した。
 やっとなんとか納まりの付いた下半身を見下ろしてため息を漏らす。

 これはそろそろ自覚するしかないのか?

 脱ぎ散らかした服を掻き集め、キッチンに向かった。そこで自室から取り寄せた大ぶりのタオルで体を拭きながら沸々と考えつつ部屋の中を歩き回る。

 この身体も今年で二十三歳だが未だ俺は一度も女を抱いたことがない。人間の齢で考えれば遅いくらいだが、俺のもう一つの血筋で考えればまだ幼年期とも言える。今まで特に女が欲しいと思ったことはなかったし、誘惑してくる女は多かったがそれに身体が反応を返すことも全くなかった。
 それがアエリアが来て以来、何かにつけて身体が熱くなり頭に血がのぼって下半身に疼くような欲望が集まる。

 齢二十三にしてやっと来た発情期と言うことか……ピピンじゃないがこれはちょっと困ったことになった。

 再びため息をつきながら城内の自室にある自分の寝間着を取り出して着替え、先程かき集めた服の全てを自室の洗濯物入れに突っ込んだ。
 とぼとぼとアエリアの眠るベッドに戻った俺は、アエリアの存在をなるべく頭から追い出しながら、しかしそのすぐ後ろで横になる。
 矛盾しているのは分かってる。だがもうコイツを手放す気がサラサラないのだけは確かだった。
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