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第2章 新しい風
新しい波の行方 ― 2 ―
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明け方アエリアがぐっすり寝てる間に、俺は一人でベッドをあとにした。昨日の二の舞いはゴメンだ。先に城内の自室に飛んでシャワーを浴びる。そのまま城内で朝のトレーニングを終え、その足でピピンの執務室に向かった。
アエリアのことは何も言わない。言ってないのになぜかピピンの顔から物言いたげな微笑みが絶えない。大方タイラー辺りから報告を受けているのだろう。それを無視してスチュワードを連れて行く許可を得る。まあ今日はまだ日帰りだが。
準備を終えたスチュワードを連れて屋敷に戻り、アエリアにスチュワードを紹介した。身支度を終えてダイニングで朝食を取ってたアエリアがなんの臆面もなく俺に微笑みかけてくる。
スチュワードの3年計画を聞いてまたぞろ騎士団入隊を持ち出しそうなアエリアに釘を刺すと、今度はいまにも泣き出しそうになっっちまった。その様子に掛ける言葉もなく動揺してる俺を見かねて、スチュワードが他の魔術師の職種や色々な可能性をアエリアに示唆してやってくれた。流石、長年教師をやってきただけのことはある。
だが、今までろくな訓練をしてやった訳でもないのに、アエリアがこれからも俺の訓練を受けたいと言い出した。思いがけないアエリアの言葉に心が躍り上がる。それでも何とかそれを押し隠してこれからも続けてやると約束してしまった。
スチュワードとの教練は思っていた以上に時間を取り、結局午後までずっと二人きりで部屋に閉じこもっている。スチュワードが男色で絶対にアエリアに手を出すような奴ではないのは分かっているのだが、それでもイライラが止まらない。全く、まだたった初日だというのに。
アエリアたちの授業が終わり、なんだか疲れた気分でスチュワードを連れて城に戻った。
「ピピン、あの館に少し手を入れたい。近日中になんとか出来るか?」
スチュワードと別れていつもの如くピピンの執務室に寄る。
「アーロン様がドアから現れるなんてどうなさったんですか?」
「スチュワードを送ってきた帰りだ。そんなことより数部屋、研究とアレの学習室に改装したいのだが」
「しばらく使われてなかった屋敷ですからそれを先にされると思っていたんですがね。やっとそういう気になって下さいましたか」
そう言ってピピンはタイラーを呼び出した。
「アエリアの安全が最も優先されるので改装中はどこかに移したい」
「それでしたら城内のアーロン様のご自室で寝泊まりしていただいたらいかがですか? どうせ使われていないのでしょう?」
「確かに城内の部屋でしたらまず侵入者自体を制限できますし結界も張りやすいかと」
タイラーは真面目に答えているがピピンの目は半分笑ってる。
「……アイツが嫌がると思うぞ」
「嫌がられると思うようなやましい所でもあるのですかな?」
「余計なお世話だ」
目元の笑いを隠しもせずにピピンが続けた。
「では問題ありませんな。タイラー、信用のおける職人を選別して作業するとなるとどのくらいかかる?」
タイラーがしばらく思案してから答える。
「4、5日くらいでしょうか」
「ではいっそご旅行にでも行かれてはいかがですかな?」
ピピンが俺を煽るように次から次へと俺の欲望に沿う提案をしてくる。
……何を考えてやがる?
そこでピピンがゆっくりと俺に向かい直り呆れた様に俺を見て言う。
「アーロン様。何をそんなに怖気づいてらっしゃるんですか。他の何事にも恐れず即決即断即実行のアーロン様がそんなに狼狽えられるとは、恋は盲目とはよく言ったものですね」
俺はちょうど口を付けていたお茶を思いっきり吹き出した。
「な、何を馬鹿なことを!」
タイラーがすかさず俺の前を片付ける。
「アエリア様と一緒にいたいと思われるのでしたら別に閉じ込めておく必要はないのですよ。アエリア様の肩を軽く抱き寄せながら一緒に買いものに行こうとでも呟いてご覧なさい。きっと喜んでご一緒されると思いますよ」
至極理にかなったピピンの返答に俺は言葉に詰まる。理性ではピピンが正しいと思えるのにどうやってもそれを実行に移す自分が思い浮かべられない。
そんな俺を生暖かい目で見ながらピピンが話を切り替えた。
「ところでアーロン様。フレイバーンより使者が参りました。フレイバーン王室よりこちらに輿入れを望むという通達が非公式にされています。来月には正式な発表が出されますがそれを待たずしてあちらの密偵がどうも色々と暗躍を始めたようです」
この前の海竜騒ぎに続いて一体何を考えているんだ。
「誰に輿入れすると言うのだ? 今の大公には既に正妃と側室が二人いると思うが。第一王子も十六で正式にアレフィーリア神聖王国の第三王女と婚約が成立している。第二王子はまだ5才だ」
「そこなのですが。どうにも目ぼしい相手を特定出来ていないのです。ただ、どうもやけに私と魔導騎士団宛てにアーロン様関連の問い合わせが増えています」
「はぁ? 俺を調べてどうするつもりだ?」
「考えたくはありませんがもしアーロン様のご出自が漏れたとすれば……」
「止めてくれ。断固お断りだ。間違っても俺の所によこすな」
俺の機嫌が急降下したのを見て取ったピピンは再度話を切り替える。
「では、今日はどうぞこちらで夕食を取りながら再度フレイバーンとどのようなやり取りをされたのかお聞かせください。アーロン様が担当の外交関連の執務も滞っておりますし……」
話しを続けつつ席を立ったピピンは、そのまま有無を言わせず俺をダイニングへ連行していった。
アエリアのことは何も言わない。言ってないのになぜかピピンの顔から物言いたげな微笑みが絶えない。大方タイラー辺りから報告を受けているのだろう。それを無視してスチュワードを連れて行く許可を得る。まあ今日はまだ日帰りだが。
準備を終えたスチュワードを連れて屋敷に戻り、アエリアにスチュワードを紹介した。身支度を終えてダイニングで朝食を取ってたアエリアがなんの臆面もなく俺に微笑みかけてくる。
スチュワードの3年計画を聞いてまたぞろ騎士団入隊を持ち出しそうなアエリアに釘を刺すと、今度はいまにも泣き出しそうになっっちまった。その様子に掛ける言葉もなく動揺してる俺を見かねて、スチュワードが他の魔術師の職種や色々な可能性をアエリアに示唆してやってくれた。流石、長年教師をやってきただけのことはある。
だが、今までろくな訓練をしてやった訳でもないのに、アエリアがこれからも俺の訓練を受けたいと言い出した。思いがけないアエリアの言葉に心が躍り上がる。それでも何とかそれを押し隠してこれからも続けてやると約束してしまった。
スチュワードとの教練は思っていた以上に時間を取り、結局午後までずっと二人きりで部屋に閉じこもっている。スチュワードが男色で絶対にアエリアに手を出すような奴ではないのは分かっているのだが、それでもイライラが止まらない。全く、まだたった初日だというのに。
アエリアたちの授業が終わり、なんだか疲れた気分でスチュワードを連れて城に戻った。
「ピピン、あの館に少し手を入れたい。近日中になんとか出来るか?」
スチュワードと別れていつもの如くピピンの執務室に寄る。
「アーロン様がドアから現れるなんてどうなさったんですか?」
「スチュワードを送ってきた帰りだ。そんなことより数部屋、研究とアレの学習室に改装したいのだが」
「しばらく使われてなかった屋敷ですからそれを先にされると思っていたんですがね。やっとそういう気になって下さいましたか」
そう言ってピピンはタイラーを呼び出した。
「アエリアの安全が最も優先されるので改装中はどこかに移したい」
「それでしたら城内のアーロン様のご自室で寝泊まりしていただいたらいかがですか? どうせ使われていないのでしょう?」
「確かに城内の部屋でしたらまず侵入者自体を制限できますし結界も張りやすいかと」
タイラーは真面目に答えているがピピンの目は半分笑ってる。
「……アイツが嫌がると思うぞ」
「嫌がられると思うようなやましい所でもあるのですかな?」
「余計なお世話だ」
目元の笑いを隠しもせずにピピンが続けた。
「では問題ありませんな。タイラー、信用のおける職人を選別して作業するとなるとどのくらいかかる?」
タイラーがしばらく思案してから答える。
「4、5日くらいでしょうか」
「ではいっそご旅行にでも行かれてはいかがですかな?」
ピピンが俺を煽るように次から次へと俺の欲望に沿う提案をしてくる。
……何を考えてやがる?
そこでピピンがゆっくりと俺に向かい直り呆れた様に俺を見て言う。
「アーロン様。何をそんなに怖気づいてらっしゃるんですか。他の何事にも恐れず即決即断即実行のアーロン様がそんなに狼狽えられるとは、恋は盲目とはよく言ったものですね」
俺はちょうど口を付けていたお茶を思いっきり吹き出した。
「な、何を馬鹿なことを!」
タイラーがすかさず俺の前を片付ける。
「アエリア様と一緒にいたいと思われるのでしたら別に閉じ込めておく必要はないのですよ。アエリア様の肩を軽く抱き寄せながら一緒に買いものに行こうとでも呟いてご覧なさい。きっと喜んでご一緒されると思いますよ」
至極理にかなったピピンの返答に俺は言葉に詰まる。理性ではピピンが正しいと思えるのにどうやってもそれを実行に移す自分が思い浮かべられない。
そんな俺を生暖かい目で見ながらピピンが話を切り替えた。
「ところでアーロン様。フレイバーンより使者が参りました。フレイバーン王室よりこちらに輿入れを望むという通達が非公式にされています。来月には正式な発表が出されますがそれを待たずしてあちらの密偵がどうも色々と暗躍を始めたようです」
この前の海竜騒ぎに続いて一体何を考えているんだ。
「誰に輿入れすると言うのだ? 今の大公には既に正妃と側室が二人いると思うが。第一王子も十六で正式にアレフィーリア神聖王国の第三王女と婚約が成立している。第二王子はまだ5才だ」
「そこなのですが。どうにも目ぼしい相手を特定出来ていないのです。ただ、どうもやけに私と魔導騎士団宛てにアーロン様関連の問い合わせが増えています」
「はぁ? 俺を調べてどうするつもりだ?」
「考えたくはありませんがもしアーロン様のご出自が漏れたとすれば……」
「止めてくれ。断固お断りだ。間違っても俺の所によこすな」
俺の機嫌が急降下したのを見て取ったピピンは再度話を切り替える。
「では、今日はどうぞこちらで夕食を取りながら再度フレイバーンとどのようなやり取りをされたのかお聞かせください。アーロン様が担当の外交関連の執務も滞っておりますし……」
話しを続けつつ席を立ったピピンは、そのまま有無を言わせず俺をダイニングへ連行していった。
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