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カスティア王国の首都リミエ。
人々が憩いの場として集まる広場から、それは良く見えた。
白雪城として各国からも称賛されるほど美しい白亜の城。
ブライト・カスティア国王陛下と傾国の美女と謳われているアウロア・カスティア王妃陛下が住まう場所だ。
外観は人々に感嘆の溜息を落とさせるほど美しいのに、国王陛下の執務室は重く暗い空気が流れていた。
その原因は国王でもあるブライトにある。
家族で朝食を終え、妻であるアウロアに話があると執務室に呼んだ。
そして「側妃を迎えたいと思うんだ」と、言いにくそうに告げたのだ。
お茶を飲もうとカップを持っていたアウロアは驚いたように目を見開くが、カップを戻し一言。
「了承しました」
と、あっさりと頷いた。これにはブライトも驚く。
驚きに固まっていたブライトをよそに、アウロアは話を進めていく。
「では今この時を以て、我々の夫婦関係は終了いたします」
「え?」
「で、側妃に迎えるのはどなたですか?」
「え?ちょっと待って!アウロア、夫婦関係終了って、どういうことだ!」
「どういうって、結婚時の誓約書に書いてましたでしょ?」
「誓約書?」
「えぇ。陛下もお持ちでしょ?エルヴィン、貴方も知っているわよね?」
「はい。誓約書を作られる時に、私も同席しましたから」
ブライトの側近エルヴィンが同意し「今、お持ちしましょう」と執務室を出たが、程なく戻ってきた。
「こちらにございます」
ブライトに渡すと、それをひったくる様に手に取り数ページある項目を目を皿のようにし、確かめる。
そして「あっ」と声を上げた。
「ありましたでしょ?」
誓約書の中には
一、側妃を取る、取りたいと意思表示した時点で、夫婦関係は終了する
一、王妃として残るか離縁するかはアウロアの意思に沿う事とする
一、王妃として残った場合、恋人を持つことを許可する
ブライトは思い出した。
傾国と謳われるほどの美貌をもつアウロア。
結婚に至るまでかなり揉めた為、当時は側妃など持つ気はなかった。
不義理をして相手方を怒らせたくなかったから。
女神の様に美しいアウロア。政略結婚ではあるが、仄かな好意は持っていた。
結婚してそれほど夫婦仲も悪くはなかった。
だから彼はこの現状に甘え、誓約書をちゃんと理解していなかったのだ。
呆然とするブライトに再度アウロアは質問した。
「側妃になる方はどなたですの?」
それに応えたのは今だ呆けている国王ではなく、側近のエルヴィンだった。
「ドゥーエ侯爵令嬢イライザ様です」
その名前にアウロアは「まぁ」と、眉を寄せた。
「エルヴィンは反対しなかったの?」
「たった今聞いたばかりで・・・・この通りです」
「まぁまぁ。陛下は相変わらず女性を見る目がありませんのね」
「全くです。我々がいなければ、阿婆擦れの良い餌食です」
「本当ね」
そう言って和やかに笑い合う二人。
今だ呆けている国王を尻目に、エルヴィンがアウロアの前に跪き、その手を取る。
「美しく聡明なアウロア様。どうか私、エルヴィン・ブノアを恋人候補に加えて頂きたい」
アウロアは藍色の美しい瞳を大きく見開いた。
「構いませんが・・・いいのですか?私の恋人となれば籍を入れる事も出来ず、一生独身となります。それに、周りからも良くは言われないかもしれませんよ?」
「分かっております。ですが、いつか陛下と離縁された暁に、正式な夫としてくだされば。そして私達の子供を産んで下さるのならば。その幸せを思えば陰口などに気にもなりません」
「噂と違い、情熱的な方なのですね」
「愛する方には私のありのままを見ていただきたいので」
そう言いながら、手の甲に口付けた。
何となくいい雰囲気を醸し出す二人を見て、ようやくブライトが復活し叫んだ。
「ちょっと待て!!誰が離縁すると言った!!アウロアは俺の妻だ!!」
人々が憩いの場として集まる広場から、それは良く見えた。
白雪城として各国からも称賛されるほど美しい白亜の城。
ブライト・カスティア国王陛下と傾国の美女と謳われているアウロア・カスティア王妃陛下が住まう場所だ。
外観は人々に感嘆の溜息を落とさせるほど美しいのに、国王陛下の執務室は重く暗い空気が流れていた。
その原因は国王でもあるブライトにある。
家族で朝食を終え、妻であるアウロアに話があると執務室に呼んだ。
そして「側妃を迎えたいと思うんだ」と、言いにくそうに告げたのだ。
お茶を飲もうとカップを持っていたアウロアは驚いたように目を見開くが、カップを戻し一言。
「了承しました」
と、あっさりと頷いた。これにはブライトも驚く。
驚きに固まっていたブライトをよそに、アウロアは話を進めていく。
「では今この時を以て、我々の夫婦関係は終了いたします」
「え?」
「で、側妃に迎えるのはどなたですか?」
「え?ちょっと待って!アウロア、夫婦関係終了って、どういうことだ!」
「どういうって、結婚時の誓約書に書いてましたでしょ?」
「誓約書?」
「えぇ。陛下もお持ちでしょ?エルヴィン、貴方も知っているわよね?」
「はい。誓約書を作られる時に、私も同席しましたから」
ブライトの側近エルヴィンが同意し「今、お持ちしましょう」と執務室を出たが、程なく戻ってきた。
「こちらにございます」
ブライトに渡すと、それをひったくる様に手に取り数ページある項目を目を皿のようにし、確かめる。
そして「あっ」と声を上げた。
「ありましたでしょ?」
誓約書の中には
一、側妃を取る、取りたいと意思表示した時点で、夫婦関係は終了する
一、王妃として残るか離縁するかはアウロアの意思に沿う事とする
一、王妃として残った場合、恋人を持つことを許可する
ブライトは思い出した。
傾国と謳われるほどの美貌をもつアウロア。
結婚に至るまでかなり揉めた為、当時は側妃など持つ気はなかった。
不義理をして相手方を怒らせたくなかったから。
女神の様に美しいアウロア。政略結婚ではあるが、仄かな好意は持っていた。
結婚してそれほど夫婦仲も悪くはなかった。
だから彼はこの現状に甘え、誓約書をちゃんと理解していなかったのだ。
呆然とするブライトに再度アウロアは質問した。
「側妃になる方はどなたですの?」
それに応えたのは今だ呆けている国王ではなく、側近のエルヴィンだった。
「ドゥーエ侯爵令嬢イライザ様です」
その名前にアウロアは「まぁ」と、眉を寄せた。
「エルヴィンは反対しなかったの?」
「たった今聞いたばかりで・・・・この通りです」
「まぁまぁ。陛下は相変わらず女性を見る目がありませんのね」
「全くです。我々がいなければ、阿婆擦れの良い餌食です」
「本当ね」
そう言って和やかに笑い合う二人。
今だ呆けている国王を尻目に、エルヴィンがアウロアの前に跪き、その手を取る。
「美しく聡明なアウロア様。どうか私、エルヴィン・ブノアを恋人候補に加えて頂きたい」
アウロアは藍色の美しい瞳を大きく見開いた。
「構いませんが・・・いいのですか?私の恋人となれば籍を入れる事も出来ず、一生独身となります。それに、周りからも良くは言われないかもしれませんよ?」
「分かっております。ですが、いつか陛下と離縁された暁に、正式な夫としてくだされば。そして私達の子供を産んで下さるのならば。その幸せを思えば陰口などに気にもなりません」
「噂と違い、情熱的な方なのですね」
「愛する方には私のありのままを見ていただきたいので」
そう言いながら、手の甲に口付けた。
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