幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

文字の大きさ
80 / 117
第二部 高校生編

常識人判定は結局相対評価

しおりを挟む
 場所は移動して微の部屋。

 俺の部屋にいたときもそうだったが、やはり一人暮らし用の部屋に三人も集まるとそこそこ窮屈だ。
 特に俺はガタイが良いからなおの事だ。

「へー・・・同じ間取りでも結構雰囲気変わったりするんだね」
「そうかしら」

 やはり部屋はその人の特徴が出るのだろうか。だとすれば俺の部屋は微からどう見えていたのだろう。なんとなく『十中八九ろくでもない感想が返ってくる』という予感がしたので聞かなくていいか。

「すまない微、喉が渇いてしまったので飲み物を貰っても良いか?」
「え? ああ・・・別に良いわよ。冷蔵庫の中にあるから好きに飲んで」
「ありがとう」

 冷蔵庫の中にはお茶、牛乳、スポドリ、ぶどうジュースが入っていた。
 迷うことなく牛乳を選択して飲み干す。元々量が少なくなっていたので軽いものだ。

「おおっとしまった思わず牛乳を全部飲んでしまったそういえば俺の部屋にももう牛乳が無いのであったこれは困ったスーパーで買ってもいいが今日は安売りしている日でもないし少し気が引ける所だなこれはカルボナーラを作るには何か代替品を探す必要があるどうしたことだろう」
「相手が死ぬまで続くコンボ攻撃やめなさい」

 コンボ攻撃とは失礼な。俺はただ自分の失態を正直に告白したうえでどうやってリカバリーするかを早口で確認していただけではないか。

「じゃあ仁科さん、さっそく作ってくれるかな?」
「彼氏が彼氏なら彼女も彼女じゃないの」
「そんなお似合いの彼女だなんて・・・」
「言ってないし、褒めてないわよ」

 などと言いつつ台所へ移動する。

 一人暮らしの部屋でも手狭だったのに、一人暮らしの台所となるともうすし詰め状態だ。
 奥から順に俺、微、なじみという並びであるが、移動もままならぬ。

「ふむ・・・これがいわゆる二輪挿しという奴か」
「ケーくん、これ三人いるんだから三輪挿しでしょ」
「叩き出すわよお馬鹿ども!」

 おお、微が声を荒げている。
 そうそう見ない激レアシーンだ。

 まあそれはそれとして。

 俺となじみが微の両腕を拘束して、痛くない程度に捻り上げる。
 台所の窮屈さも相まって微はいよいよ身動きが取れない。

 なじみが食器棚から計量カップを取り出し、微の目の前に置く。

「さあ」
「さあ」
「・・・」

 沈黙を決め込む微だが、それを許すわけもなく。
 いやしかしここで強姦未遂みたいな事はしたくない。なじみの好奇心を満たすために微を嵌めたような形なのだから、これ以上罪を重ねるのも気が引ける。

 つまりなんとかして微を『その気』にさせなければならない。

 俺はひとまず腕の持ち方を片手に変え、もう片方の手を自由にする。

「まあまあ微よ。俺としても別に無理強いがしたいってわけでもないんだ・・・どうせならお互いストレスフリーで行きたいと、そう思っている」
「ストレスがあると味が落ちるからかしら」
「その言い方だとまるで俺が微を乳牛か何かだと思ってるみたいじゃないか」

 皮肉としてはとんでもない出来だと思うが。

「違うのかしら?」
「断じて違うが・・・まあ何を言っても弁護の余地なしか」
「そうでしょうが」
「え、仁科さんケーくんの家畜になりたくないの?」

 なぜそこまで威風堂々と疑問符を提示することが出来るのががまさしく疑問だが、今この瞬間に限って言えば存外いい援護射撃かもしれん。

「・・・安心院君、色々話すべきことが出来たわね?」

 畜生そううまくはいかないか。

「一応言っておくが別に俺から『そう』して欲しいと願ったことなんて一度もないし、誘導した覚えもないぜ」
「こんな幼気な子が、そんな過激な表現が似合う様な状況が好みだと? 何の誘導もなく、それが本質だと?」
「その通り」

 つーか幼気って。1つしか違わんだろうに。
 なじみの事ちゃんづけで呼ぶのといい、相当に年下に見えてるのか・・・?
 まあ言動は真っ直ぐだから、そう思われるのも納得できんでもないが。

「ちょっとちょっと仁科さん。何を言うかと思えば私のケーくんへの愛を侮辱するつもり?」
「えっ。いや侮辱なんてそんな・・・」

 おっとなじみから更に別角度の援護射撃が来たぞ?
 正直こっからの流れが予測不能過ぎてもはや若干楽しくなってきた。夜更かしもしてないのに深夜テンションの気分だ。

「か、家畜なんて健全な恋人関係じゃないわよ! 女性側にも人権っていうか尊厳っていうかそういうものがあるでしょ?」
「その人権とか尊厳とかはそんなに大切なの?」
「そうよ!」
「じゃあソレをケーくんに上げたらきっと喜んでくれるね!」
「なんでそうなるの!?」

 ちなみに俺の意見としては微よりである。
 そうだそうだと小声で応援したいくらいだ。

 そこまで愛してくれること自体は大変喜ばしいのだが、行き過ぎてもダッチワイフみたいになって虚しいのでちょうどいい塩梅を一緒に探していきたいところだ。

「あ、安心院君としてはどうなのかしら!? 重すぎるとかそういう事は・・・」
「いや別に。ただ捧げられすぎてもダッチワイフみたいで虚しいからちょうどいい塩梅が欲しい」
「もうこの娘ただのヤンデレよ!? それも相手に全部投げ捨てる依存系よ!?」
「まあなじみのものなら全部受け止める覚悟はあるし・・・」

 自分でもちょっとガンギマリ状態が過ぎないだろうか。
 まあ、別に良いか。

「くっ、やはり彼氏が彼氏なら彼女も彼女じゃない」
「そんなお似合いの彼女だなんて・・・」
「言ってないし、二回もやる様な下りじゃないでしょうが!」

 このメンツが集まると微がツッコミ役に回るという事実に少し驚きだが、なるほど確かにその通り。

「じゃあひとまず話題を戻すとしようか」
「そうだねちょっと脱線が過ぎたからね」
「主にあなた達の所為でしょうが・・・」

 微は頭が痛いと言わんばかりに表情をしかめるが、頭を抱えるための腕は未だ拘束されたままだ。

「さあ」
「さあ」
「・・・」

 また沈黙する微。
 しかし今回は違った。しばらくしてからその沈黙が破られたのだから。

「・・・そうよね。元から恋人がいる男に言い寄って、一回キッパリ振られたと思ったらその恋人に横恋慕を公認されて、挙句いきなり行く所まで行っちゃったんだから、異常だなんだなんて今更だわ。後続の私が追い付いて追い越すには、もっと全力で・・・自分の全部を投げ渡すぐらいじゃないと。それですら二番煎じなんだから」

 自分に言い聞かせているようにも、ただの確認にも思えた。何せその呟きは無表情で行われた上、全部声色が一緒だったのだから。
 無表情を至上の表情とする微には、平坦な声色こそ本質に近い。
 暗示というには資料のようで、確認というには詩のようで。どちらにも思えて、どちらなのか俺でも判別できない。
 ただ一つわかることと言えば、彼女が本当に本気でそれを言っているという事。その辺りのマジ具合の見極めには自信がある。

 そういえば。
 声にせよ顔にせよ、彼女から『表情』が抜け落ちるのは『素』の露出が始まった合図だ。
 安心できる場所で、安心できる相手としか曝け出す事の無い微の『素』。
 それが今。なじみも同席している今表出しつつあるというのは。
 かねてよりの不安要素、本当に親しい人間を作り出す能力の欠如に対する、一つの大きな足掛かりとなる部分ではなかろうか。

「身を、捨ててこそ・・・浮かぶ、瀬も、あれ!」

 覚悟完了と言った面持ちに、正直そこまで気合を入れんでも、と思わなくもないが。
 まあなんか結局良い感じに纏め上げられたので良し、としようじゃないか。

 勿論絞り上げるのはこれからだけどなぁ!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...