天国か地獄

田原摩耶

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√α:ep.5 『最後まで一緒に』

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「……先輩、これ」
「はい、ありがとね、俺のため。齋藤君だと思って大切にするよ」

 どの口が言うのだろうか。
 面白くもない冗談を言いながら鍵を受け取る縁に、俺は何も言わなかった。

 縁に言われるがまま、学園へとやってきた俺だったがやはり、落ち着かない。
 原因はやはり縁だろう。
 元々、学び舎という場所がそぐわない人だとは思っていたが、昼間の学園となると余計浮いているように見える。
 すれ違う生徒が、俺達から目を逸らし道を避けて歩いていくのを見て、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。
 それにしても、縁は何を考えているのだろうか。こんな場所を阿賀松に見られたりでもしたらとか考えないのだろうか。

「それじゃ、行こうか」

 なんて、人の気も知らず、縁は俺に手を差し伸べてくる。
 まさか手を繋ごうとでも言うつもりじゃないだろうな。俺は手を引っ込めながら、目の前の男を見た。

「いえ、俺は、部屋に……」
「何言ってんの、君もだよ。齋藤君」
「約束は守ったはずですけど……」
「俺が今決めたんだよ、齋藤君も着いてくるんだって」
「……」

 やはり、俺が壱畝に会いたくないことに気付いているようだ。
 動けなくなる俺に、縁は「ほら、行くよ」と俺の手を取った。
 そして、いきなりの縁の動作に離して下さい、と慌ててその手を振り払おうとしたときのことだった。

「佑樹?」

 職員室前。聞き覚えのある声に、全身が硬直する。
 冗談だろう。なんで、よりによってこんなタイミングで。
 向かい側の廊下。俺の姿に驚いたように目を丸くした十勝だったが、すぐに破顔する。

「よっ!こんなところで何を……」

 してるんだ、と笑顔で話し掛けてる十勝だったが、俺の隣、縁の姿を見つけたと同時にその表情が硬直する。
 やばい、とか、どうしよう、とか。そんなことを考えている内に笑顔を消した十勝は、縁と俺を交互に睨み付けた。

「……佑樹、なんでそいつと一緒にいんの?」
「おいおい、俺君よりも先輩なんだけど?そいつ呼ばわりは酷いなぁ」

 そんな十勝とは対照的に、縁の態度は変わらないものだった。
 初めて見る十勝の表情に冷や汗が止まらなくて、二人は知り合いなのだろうか。だとしても、とても親しいようには思えない。

「十勝君、あの……先輩とはたまたま会って……」
「そーそー、たまたまだよ、た・ま・た・ま」

 とにかく、穏便に、と思ったが強引に肩を組んでくる縁にぎょっとする。
 その時だった。
 伸びてきた十勝の手が、縁の胸倉を掴んだ。
 シャツのボタンを引きちぎる勢いで掴み掛かる十勝に俺は驚きのあまりに言葉を失った。

「佑樹から離れろよ、この変態野郎ッ」
「っと、十勝君……?!」

 確かにまともな人間には思えないが、十勝の剣幕にただならぬものを覚えた俺は慌てて十勝の腕を掴み、止める。しかし。

「おー怖い怖い。先生ー、俺、ヤンキーに絡まれてるんですけどー助けてー」
「てめぇ……」
「十勝君ッ!」

 煽る縁に十勝が拳を作るのを見て、慌てて俺は十勝の手を取った。
 正直、縁を殴ってくれるならと思ったりもしたが、十勝まで縁に目を付けられたらと思ったら見過ごすわけにはいかなかった。
 縁から十勝を引き剥がそうと仲裁に入る俺に、十勝は信じられないとでも言うかのように俺を見た。

「佑樹、なんでそいつを庇うんだよ……っ」
「庇うとかじゃなくて、ここ、職員室前で問題起こしたら大変だよ……!」
「……ッ」
「そうそう、齋藤君の言う通りだよ。いくら生徒会でも、こんな場所で問題起こしたら誤魔化し利かないだろうしね」

「今度は留年じゃ済まないかもしれないよ?」そう、縁が笑った瞬間、その場の空気が凍り付くのが分かった。
 留年?確かに、十勝は留年していると聞いていたが……。
 考えていると、十勝の強い力に引き剥がされそうになり、慌てて俺は全体重を掛けて十勝にしがみついた。

「と、十勝君……ッ!先輩も、いい加減にして下さいっ!」
「えー?俺はただ忠告してやっただけなのに、傷付くなぁ」
「おい、何を騒いでるんだ?!」

 その時だった。幸いか、職員室の扉が開き数人の教師たちが飛び出してきた。
 血相を変えた教師たちに、縁は「あーあ、ほら、言ったじゃん」とわざとらしく肩を竦める。
 そして、

「行こうか、齋藤君」
「ぁ……っ」

 そう、縁に腕を掴まれたときだった。
 その背後、片方の腕を十勝に掴まれ、引き止められる。
 強い力に驚いて振り返ったとき、十勝とまともに目が合ってしまう。

「佑樹、なんでそいつと一緒にいるんだよ」

 それは、ショックを受けたような、困惑と怒りが入り混じったその表情にぎゅっと胸が苦しくなる。
 いつも明るく笑っている十勝ばかりを見てきたからこそ、余計、十勝にこんな顔をさせていると思ったら申し訳なくて、上手く言葉がでなかった。

「っ、十勝、君……」

 そう、言葉に詰まった時だった。
 乾いた音が響き、俺を引き止めていた十勝の手が、叩き落とされた。
 目を見開く十勝に向き直り、ぐっと俺の肩を抱き寄せた縁は満面の笑みを浮かべた。

「それは齋藤君が自分でこっちを選んだからに決まってんだろ」

 縁の言葉に、十勝の目の色が変わる。
 違う、そう言い返す暇もなく、半ば強引に縁は俺を引き摺りながらその場をあとにした。
 十勝の反応がただ怖くて、とうとう俺は最後まで後ろを振り返ることが出来なかった。

 あの時、ちゃんと言い返せていたのなら何かが変わっていたのだろうか。
 今更そんなことを思っても遅い。
 なにもかもがもう手遅れなのだなら。

「先輩……、先輩……っ!」
「ん?なに?」

 縁に引っ張られるように職員室前から連れ出さられて暫く。
 ようやく縁は俺の呼び掛けに反応する。

「なに、じゃなくて……手を……」
「ああ、こうだったね」

 そう言うなり、掌を合わせて指を絡めてくる縁に全身にサブイボが立った。
 恋人繋ぎ、という単語が過ぎる。咄嗟に手を振り払おうとするが、絡み付いてくる指先は思いの外力強く、離れない。

「違います、離して下さい……っ」
「こんなところ、誰かに見られたりでもしたら勘違いされちゃう!って?」
「そ、れも、ですけど……」

 人を小馬鹿にしたような縁の言葉に同意するのは癪だったがそれも事実だ。
 先ほど、別れ際に見せた十勝の顔が離れないのだ。
 語尾を濁らせる俺に、縁はへらりと笑う。

「まあ……表向きは齋藤君は詩織のものらしいからね、俺もこんなこと見られたらあいつらに殺されちゃうかも知れないなぁ」
「なら、どうして」
「可愛い齋藤君が悪い誰かに攫われないように」

 ……また始まった。
 軽くウインクをして見せる縁に顔が強張るのが分かったがそれを隠そうとする気にもなれなかった。
 振りほどけない指先に諦めた俺は、足を進める。

「俺の部屋……行くんですよね、早く、行きましょう」
「お、やっと乗り気になってくれたね。嬉しいよ、俺は」

 縁が何を考えているなんて俺には到底出来ないだろう。
 縁が十勝に言っていた『留年では済まなくなる』という言葉がやけに頭の中に残っていたが、十勝の縁に対する態度を考えればなんとなく予想がついた。
 十勝と縁、ただの知り合いという感じには思えなかった。
 それに、十勝は縁のことを毛嫌いしているように見えたし、確かに縁の本性を知った今俺も好きになれないが、だとすると十勝も縁と何かあったということだろうか。

 十勝が灘のことを知ったらと思うと、目の前が薄暗くなる。
 本人はああ言っていたが、あの怪我ではこれまで通りノートを取れるようになるのも難しくなるかもしれない。
 それが縁のせいだと知ると、十勝は悲しむだろう。
 俺が気にしたところでどうしようもないと分かっていたが、それでもやっぱり十勝の悲しい顔は見たくなかった。

 今度は知り合いと会うことなく学生寮へ戻ってくることになった。
 エレベーターに乗り、部屋のある三階に近付くに連れ心臓がキリキリと痛み始める。
 出来ることなら逃げ出したい。
 けれど、絡み取られた手はちょっとやそっとじゃ外れそうにない。

 そうこうしている間に、自室まで辿り着いてしまう。
 まさか、またここに戻ってくることになるとは思わなかった。
 それに、隣にいるのは志摩ではなく、

「早く開けなよ、齋藤君」

 耳元、促すように囁かれ、慌てて俺は縁に背中を向け、鍵を取り出した。

「い……今、開けます」

 手を握り締められたままだから余計上手く鍵穴に嵌まらなくて、もたもたしている俺の背後から腕を回してきた縁はそっと俺の手を握りしめる。
 背中全体に伝わる体温にぞっとして鍵を落としそうになったが、掌ごと鍵を握られ、何事もなかったかのように鼻歌交じり縁は鍵穴を差し込み、捻った。
 そして、小さな音ともに錠が外れる。

 ドクリと心臓が弾む。
 俺から手を離した縁は、そのままドアノブを握り締め、扉を開いた。

 薄暗い室内。最後に俺達が後にしたときと同じ状態が目の前には広がっていた。
 そんな部屋の中へと足を踏み入れた縁は、散らかった衣類を拾い上げ、匂いを嗅いだ。
 あまりにも自然なその動作にぎょっとしていると、縁は笑いながらこちらを振り返る。

「齋藤君、した後は部屋、換気した方がいいよ。本人たちは平気かもしんねーけど、外から来た時は結構すぐ分かるから」

「ま、そういうのが好きならいいと思うけど」と、そう、クスクスと笑う縁が何を言っているのか分からなかった。それも一時のことで、部屋の匂いを指摘されたと気付いたとき、脳裏に志摩との行為が蘇る。
 そして、次の瞬間、顔面にカッと熱が集まった。

「……っ!」

 確かに、あれから部屋を出て、それからというもの閉めっきりだった。
 慌てて窓へ駆け寄った俺はカーテンを開き、窓を大きく開ける。
 途端に、じんわりと湿った夏特有の空気が流れ込んできた。
 ほっとしたとき、背後で縁が笑う気配がした。

「本当、可愛いなぁ。俺の言ったことすぐ真に受けるんだから」

 咄嗟に振り返ろうとすれば、腕を掴まれ、後ろ手に拘束される。
 軋む関節に、しまった、と青褪める。
 耳朶に唇を這わされ、ぞくりと全身が泡立ったを

「つうか、図星かよ。……亮太としたんだ、齋藤君、ここで」
「嘘、ついたんですか……?」
「人聞き悪いなぁ、ちょっと鎌掛けただけだって。あとは勝手に齋藤君が墓穴掘ったんだろ」

 言いながら、背筋から尾てい骨にかけてつぅーっと指でなぞる縁に体が震えた。
 慌てて逃げ出そうとするが、窓ガラスに上半身を押し付けられればとうとう見動きが取れなくなってしまう。
 ひんやりとしたガラス特有の硬い感触が嫌だった。

「別に今更恥ずかしがんなくてもいいよ。俺は寛容だからさ、別に君が誰としようが興味ないしね」
「ッ退いて下さい……」
「亮太としたときのこと、思い出しちゃった?」
「壱畝君に会いに来たんじゃないんですか」

 志摩は聞こえないと言っていたが、やはり壱畝がいると思ったれ気が気でなかった。
 所構わず盛り出す縁に軽蔑の眼差しを向ければ、俺の視線を真っ向から受け止めた縁はにっこりと微笑む。

「あぁ、そうだったな。確かそんなことも言っていたような気がしてきた」
「縁先輩……ッ」

 下腹部。シャツの裾を弄り、そのまま直接肌に触れてくる縁に堪らず声を上げた、そのときだった。
 無機質な着信音が室内に響き渡る。同時に縁の動きがピタリと止まった。

「あーあ、せっかく良い所なのに……タイミング考えろっての」

 舌打ち混じり。大きな溜息を吐いた縁は言いながらも俺の体から手を離し、そしてポケットから青い携帯端末を取り出した。

「はいはーい、俺だけどぉ。どうした?伊織」

 まさかこのタイミングで電話に出る縁にも驚いたが、それよりも、縁の口から出たその名前に、俺は凍り付いた。

 伊織――阿賀松、伊織。
 突然の阿賀松からの電話に、咄嗟に俺は自分の口を塞いだ。

「んだよ、声でけーって。聞こえてるから。……で、何?俺?今部屋だけど」

 平然と話し続ける縁。
 端末から聞こえてくる声は確かに阿賀松の声で。
 こんなタイミングで出るなんてどんな神経をしてるんだ。縁に常識を求めてはならないと分かっていても疑わずにはいられなくて。
 必死に口を抑え、存在を気取られないように努めるが、そんな俺の努力を知ってか縁の手が伸びてくる。

「……っ」

 首元、襟の中へするりと伸びた指先は鎖骨をなぞる。
 その感触に驚いて、咄嗟に片方の手で縁の手首を掴むが、離れない。
 それどころか、指が離れたかと思えば今度は衣類の上から胸元を弄り始める。

「何、お前今どこ?……ああ、あそこな。ま、別に無理じゃねーけど時間掛かるかもしんねーよ。文句言うなよ」
「……っ、……!」
「ああ、分かってるよ。すぐに連絡したらいいんだろ?そんなに心配しなくったって……俺が失敗したことあるかよ」

 どういうつもりなのか、阿賀松と会話しながらも徒に人の胸を弄くり回す縁に、俺は唇を噛み締めなんとか声を押し殺す。
 目の前のやつを睨めば、縁はニコッと笑い、シャツのボタンの外し始めた。
 慌てて留め直すにも片手では儘ならず、開いたそこから直接皮膚に触れてくる縁に血の気が引いていく。

「本当、素直じゃねーよな。ま、お前が素直でも気味悪いけど」

 縁の声が右から左へと抜けていく。
 やめろ、と必死に縁の指を引き抜こうとするけど、そんな俺をからかうように縁は乳首をぎゅっと摘む。

「……ん、ぅ……ッ!」

 瞬間、刺すような鋭い刺激に堪らず声を漏らしてしまう。
 くぐもった自分の声にハッとし、動きを止める縁に俺は自分の醜態に青褪めた。
 いや、醜態晒しただけで留まればそれでいい。
 けれど、確実に、聞かれた。
 電話越しにいる赤髪の男を想像しただけで目の前が真っ暗になって、そんな俺を見て縁は喉を鳴らして笑う。

「……今?俺?言ったろ、部屋だって。声?……だったらなんだよ、お前が俺の私生活に興味持つなんて珍しいじゃん」

 そう躱す縁はあくまでいつも通りで。
 一緒にいることがバレたのではないだろうか、そう動揺していたがどうやら声の主が俺だとまでは判断できなかったようだ。

「あははっ!わかってるって、冗談だろ。怒んなって。そんなに気にしなくても優先順位は履き違えねえからさ、安心しろよ」

 あの阿賀松が通話相手だと思うと、まるで親しい人間と話しているかのような縁に引っ掛からずにはいられなかった。
 縁は、阿賀松のことを利用している。馬鹿にしている。少なくとも、友達だとは思っていない。そう思っていたのに、阿賀松と話している縁は楽しそうで。
 目の前の男がどういうつもりなのか分からなくて愕然としていると、目が合って、縁は微笑む。

「俺はお前の味方だよ、伊織」

 そして、そう端末に向かって当たり前のように口にした縁はそれだけを言い残し、通話を切った。
 端末を制服へ仕舞う縁だが、通話が終了したと分かっている今でも鼓動は収まらなかった。
 恐らくそれは縁という人間が益々俺にとって不確定要素だと定着したからだろう。
 阿賀松への言葉が狂言か、それとも俺の前での態度が偽りなのか。分からない。

「偉いね、齋藤君、きちんと声我慢してくれたんだ」
「っ、縁、先輩……」

 こちらを見下ろすその目に、心臓が軋む。
 未だに緊張が解けない体を力づくで抱き寄せられる。

「良い子にはご褒美をあげないとね」

 腰を撫でられ、背筋が寒くなる。先程、阿賀松と話していた時とは全く違うその声のトーンに違和感を覚え、思わず俺は縁の胸を押し返した。

「なに、どうしたの?齋藤君」
「阿賀松先輩を、騙してるんですか……」
「は?」
「今、電話で阿賀松先輩の味方だって言ってましたよね」

 そう口にした時、微かにだが縁の纏う空気が変わったような気がした。
 阿賀松という単語に反応したのか、それとも別の何かに反応したのかまでは分からなかったが、それでも俺の言葉が縁の琴線に触れたことは確かだろう。

「先輩のことを裏切ってるなんて、先輩が知ったら……」

 間違いなく粛清されるだろう。しかし、それは俺が言えた立場ではない。
 我ながら脅しにもならないことを言っているとは思ったが、それでも縁の変化を見過ごせなかった。
 そして、その単純な挑発は見事成功する。

 言い終わるよりも先に、縁の拳が壁を殴る。
 それは俺の顔面のすぐ横を通り過ぎ、鈍い音を立て微かに振動する背後の壁に全身が凍り付いた。

「……言葉には気を付けなよ、齋藤君」

 そういう顔は笑っているのに、至近距離から見下ろしてくるその目は酷く冷たくて。

「俺は伊織を騙してるわけでもないし、伊織を裏切った君にそんなことを言われるのは心外だな」
「でも、現に……」
「現に?何?伊織の玩具を勝手に盗んで遊んでるって?」

 下腹部、縁の膝小僧で性器を潰されそうになり、心臓を潰されるような痛みととまに嫌な汗がドッと吹き出した。

「自惚れるなよ、お前は詩織に渡された時点で伊織から見放されてんだよ。要らなくなったものをどう使おうが俺の勝手だろ?」

 以前、阿佐美の肩越しに見た阿賀松の目を思い出す。
 怒りを孕んだ、軽蔑の眼差しは今でも脳裏に焼き付いていた。
 阿賀松の性格ならば、本当に必要ならば阿佐美が相手でも容赦はしないはずだ。そう縁が言いたいのは分かった。けれど。縁はどうしてここまでムキになるのだろうか。
 確かに煽ったのは俺だが、正直、ここまで分かりやすい反応をされるとは思わなかっただけに俺は逆に戸惑っていた。

「……何?なにか俺に言いたいことでもあるの?」

 尋ねられ、俺は首を横に振る。これ以上縁の逆鱗に触れてしまうのは危険だと察したからだ。
 けれど、薄っすらとだが縁の触れられたくない部分が見えたような気がした。

「そ、誰かさんと違って齋藤君はお利口さんだね」

 誰と比べているのか考えたくもなかったが、離れる手にホッとする。
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