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第1章 日常 夢現(ゆめうつつ)
10話 伊佐凪竜一の日常 連合標準時刻:火の節 2日目
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――地球の監視者が仕事を放棄するので代わりに旗艦の監視者たるE-12が連合最重要人物となった地球人"伊佐凪竜一"と、ルミナ=AZ1の動向を監視する。
※※※
伊佐凪竜一がツクヨミと半ば強制的に合同生活を営むようになってから幾分か経過した頃、今日も今日とて彼は起きている時間の大半を訓練に費やす日々を送っていた。
旗艦アマテラスという超々巨大な航宙艦”旗艦アマテラス”には、随伴する小型艦アメノトリフネが100近く存在する。今、彼が居るこの場所はその小型艦の1つ、第5番艦内に存在する訓練施設。カグツチという粒子を自在に操るスサノヲの為に用意された特殊な訓練施設は、その重要性と危険性故に旗艦内には作られず、更に念のために旗艦に随伴すると言いつつも数光年程度離れた場所を航行する。
そうしなければならない理由はただ一つ、カグツチ濃度が高まるとマガツヒに襲撃されてしまうからであり、物理法則を完全に無視する化け物による際限ない襲撃から旗艦を守る為の止むを得ない処置でもある。
超広大な施設内にはビル群から森林砂漠など、あらゆる戦闘を想定した様々な建造物や環境が再現されているが、その一角、無造作に林立するビルの1つは今、非常に活気に満ちている。
数十人以上は居る誰もが精粋な表情に幾つもの傷を刻んだ生粋の兵士だが、全員が全員旗艦アマテラスの最精鋭たるスサノヲの兵士という訳ではない。ココに集まった大半はヤタガラスの中から選抜された精鋭。彼等が来た理由は昇進試験の為。先の戦いでスサノヲはその数を減らしてしまったが為、補充の必要性が生じたからだ。
「では1番から10番、準備を始めろ」
やがて一人の老兵……スサノヲ最強と目されるスクナが指示を出すと、呼ばれた何名かが人だかりから離れあちこちに散会していった。老兵は次に真後ろを向くと一人の青年に目配せをした。その視線を受ける形で青年が老兵の前へと出ると、その場の全員視線が青年へと集まる。
「改めて説明する。試験内容はあくまで戦闘内容の評価であって勝敗は関係ない。無論、無関係とは言わんが一番評価すべきはどれだけ冷静であるか、だ。各自、ソレを肝に銘じて試験に当たるよう。特にタガミ」
老兵は通信を通し、改めてここで行われるのが試験であると伝え、更に殊更に注意するよう1人を名指しした。
「俺はもう合格してるだろ!!」
すぐさまそんな声が聞こえてきた。今、必死で反論するスキンヘッドの男がそのタガミ。彼は地球という惑星と旗艦アマテラスとの全面衝突しかねない事態を察知した旗艦アマテラスの神、超高性能演算システム”アマテラスオオカミ”の命を受ける形で戦いを主導したアラハバキなる政治組織へと潜り込み、神と共に可能な限り犠牲を最小限に食い止める為に奔走していた。
時は流れ終戦後。その功績を理由に彼はスサノヲへと昇進を果たしたのだが、しかしそれ以前から昇進試験に何度も落ちていたという事実から最終的に暫定という形での昇進に留まっており、自らの優位性を常に証明し続けなければその座から簡単に降ろされてしまう位置にいる。
「神からの伝言でな。駄目なら落としても構わんとさ」
「ひでぇ。何とかしてよ?俺、凄い頑張ったじゃない?」
「駄目だ」
一生懸命に頑張ったのに、そう言いたげなスキンヘッドは必至で上司のスクナに懇願するが、悲しいかなバッサリと一言で斬り捨てられた。
「オイ、お前からも何とか言ってやってくれや。なぁ、親友?」
この男、往生際が悪い。諦めきれないタガミはそう言うと老兵の前で待ちぼうけを食わされた青年に視線を移す。そこに居るのは……
「アレが英雄。地球人、伊佐凪竜一か?」
「ううむ。あの時の映像は見ているが、しかし本当に見た目は普通だな」
と、まぁこんな感じで終始値踏みされる英雄"伊佐凪竜一"がいた。地球人である彼は本来ならばカグツチへの適性が低い筈なのだが、しかし半年前の戦いで見せた能力は余りにも桁違いであり常識外でもあった為に誰もが半信半疑でいた。大勢の人間はあの時起きた現象をこう解釈している。"一度きりの奇跡"と。だから奇異の視線を向ける一方でごく普通の何処にでもいる青年であると高を括っている。
「まぁ。その辺は俺も一緒だし、仲良く頑張ろう」
「オイオイオイ、そりゃあないぜ」
一方、タガミは有象無象が向ける視線とは明らかに違う態度を取る。彼にしてみれば伊佐凪竜一は数多くいる友人の1人程度にしか見ておらず、相手が英雄だからと言って物怖じしたりはしないし、ましてや奇妙奇怪な視線を向けるなどあり得ない。だからこそこの男は様々な理由で旗艦アマテラスへと居を移した伊佐凪竜一のメンタルケアを兼任しているのだが。
「ホレ。雑談はそこまでにしておけ。では、試験を始める。各員、平常心を忘れるなよ?」
スクナは緊張感など皆無なタガミを窘めつつも試験開始の合図を飛ばした。
※※※
伊佐凪竜一がツクヨミと半ば強制的に合同生活を営むようになってから幾分か経過した頃、今日も今日とて彼は起きている時間の大半を訓練に費やす日々を送っていた。
旗艦アマテラスという超々巨大な航宙艦”旗艦アマテラス”には、随伴する小型艦アメノトリフネが100近く存在する。今、彼が居るこの場所はその小型艦の1つ、第5番艦内に存在する訓練施設。カグツチという粒子を自在に操るスサノヲの為に用意された特殊な訓練施設は、その重要性と危険性故に旗艦内には作られず、更に念のために旗艦に随伴すると言いつつも数光年程度離れた場所を航行する。
そうしなければならない理由はただ一つ、カグツチ濃度が高まるとマガツヒに襲撃されてしまうからであり、物理法則を完全に無視する化け物による際限ない襲撃から旗艦を守る為の止むを得ない処置でもある。
超広大な施設内にはビル群から森林砂漠など、あらゆる戦闘を想定した様々な建造物や環境が再現されているが、その一角、無造作に林立するビルの1つは今、非常に活気に満ちている。
数十人以上は居る誰もが精粋な表情に幾つもの傷を刻んだ生粋の兵士だが、全員が全員旗艦アマテラスの最精鋭たるスサノヲの兵士という訳ではない。ココに集まった大半はヤタガラスの中から選抜された精鋭。彼等が来た理由は昇進試験の為。先の戦いでスサノヲはその数を減らしてしまったが為、補充の必要性が生じたからだ。
「では1番から10番、準備を始めろ」
やがて一人の老兵……スサノヲ最強と目されるスクナが指示を出すと、呼ばれた何名かが人だかりから離れあちこちに散会していった。老兵は次に真後ろを向くと一人の青年に目配せをした。その視線を受ける形で青年が老兵の前へと出ると、その場の全員視線が青年へと集まる。
「改めて説明する。試験内容はあくまで戦闘内容の評価であって勝敗は関係ない。無論、無関係とは言わんが一番評価すべきはどれだけ冷静であるか、だ。各自、ソレを肝に銘じて試験に当たるよう。特にタガミ」
老兵は通信を通し、改めてここで行われるのが試験であると伝え、更に殊更に注意するよう1人を名指しした。
「俺はもう合格してるだろ!!」
すぐさまそんな声が聞こえてきた。今、必死で反論するスキンヘッドの男がそのタガミ。彼は地球という惑星と旗艦アマテラスとの全面衝突しかねない事態を察知した旗艦アマテラスの神、超高性能演算システム”アマテラスオオカミ”の命を受ける形で戦いを主導したアラハバキなる政治組織へと潜り込み、神と共に可能な限り犠牲を最小限に食い止める為に奔走していた。
時は流れ終戦後。その功績を理由に彼はスサノヲへと昇進を果たしたのだが、しかしそれ以前から昇進試験に何度も落ちていたという事実から最終的に暫定という形での昇進に留まっており、自らの優位性を常に証明し続けなければその座から簡単に降ろされてしまう位置にいる。
「神からの伝言でな。駄目なら落としても構わんとさ」
「ひでぇ。何とかしてよ?俺、凄い頑張ったじゃない?」
「駄目だ」
一生懸命に頑張ったのに、そう言いたげなスキンヘッドは必至で上司のスクナに懇願するが、悲しいかなバッサリと一言で斬り捨てられた。
「オイ、お前からも何とか言ってやってくれや。なぁ、親友?」
この男、往生際が悪い。諦めきれないタガミはそう言うと老兵の前で待ちぼうけを食わされた青年に視線を移す。そこに居るのは……
「アレが英雄。地球人、伊佐凪竜一か?」
「ううむ。あの時の映像は見ているが、しかし本当に見た目は普通だな」
と、まぁこんな感じで終始値踏みされる英雄"伊佐凪竜一"がいた。地球人である彼は本来ならばカグツチへの適性が低い筈なのだが、しかし半年前の戦いで見せた能力は余りにも桁違いであり常識外でもあった為に誰もが半信半疑でいた。大勢の人間はあの時起きた現象をこう解釈している。"一度きりの奇跡"と。だから奇異の視線を向ける一方でごく普通の何処にでもいる青年であると高を括っている。
「まぁ。その辺は俺も一緒だし、仲良く頑張ろう」
「オイオイオイ、そりゃあないぜ」
一方、タガミは有象無象が向ける視線とは明らかに違う態度を取る。彼にしてみれば伊佐凪竜一は数多くいる友人の1人程度にしか見ておらず、相手が英雄だからと言って物怖じしたりはしないし、ましてや奇妙奇怪な視線を向けるなどあり得ない。だからこそこの男は様々な理由で旗艦アマテラスへと居を移した伊佐凪竜一のメンタルケアを兼任しているのだが。
「ホレ。雑談はそこまでにしておけ。では、試験を始める。各員、平常心を忘れるなよ?」
スクナは緊張感など皆無なタガミを窘めつつも試験開始の合図を飛ばした。
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