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第8章 運命の時 呪いの儀式
307話 これが私達の運命
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あり得ない光景に、スサノヲの気勢が殺がれる。改式と名乗った機体も元は黒雷ならば戦技は使えない筈。出力の問題が解決できず、最終的には生身の方がより大きな戦果を挙げられた歴史をスサノヲ達は知っている。が、ソレは些事に過ぎず。真に問題なのは、出力の問題を解決してしまうと今度は圧倒的な火力を持つ黒雷の存在が連合内のパワーバランスを崩してしまうという点にあった。
戦技使用可能な黒雷が誕生すれば、先ずは旗艦から守護者達に流れ、やがては二勢力とそれ以外のパワーバランスを理由に同盟惑星にも波及しただろう。そうすれば次は黒雷を持たない惑星が文句をつけ始める。そうなれば各惑星の戦力は対マガツヒという名分を遥かに超える程に強大となり、何れは制御不能に陥り、各地で武力衝突が勃発すると神は予測した。
だからこそ神は研究継続を拒否し、だから連合は比較的安定したパワーバランスを保っていた。均衡を崩す理由など無かった。いや、崩せなかった。例えマガツヒとの戦いに劣勢を強いられても、だ。
皮肉なものだ。連合の枠組みさえなければスサノヲ達も黒雷を駆っていた筈だが、かといって姫の力なしには今現在の発展も安寧も存在しない。だというのに敵も、アルゲースも神や私の苦労を傍若無人に踏みにじる。
男が叫んだ言霊に反応し、改式が持つ巨大な剣の周囲に光の粒子が舞い始めた。そのまま剣を一直線に振り下ろすと、刀身から幾つもの剣閃が生まれ周囲を、ズタズタに切り裂く。
タガミは当然距離を取るが、今度は巨大な剣を横薙ぎに振るった。剣の周囲に舞う粒子は瞬く間に無数の球形へと変化、散弾の如く前方に飛び散った。が、その程度では終わらない。攻撃は直線的ではなく曲線的に、出鱈目な速度でタガミを追跡し始めた。
強烈な誘導性を持った巨大な光球を、タガミは必至で回避し続ける。が、減らない。壁を、地面を抉り取りながら、何度でも強襲しながら、駄目押しで数を増やし続ける。
タガミも足に力を集中させ高機動を駆使するが、光球はジワジワと逃げ場を奪い続け、やがて大聖堂敷地内外を区別する巨大な壁際に追い詰められた。窮状を前に苦悶を浮かべる顔を、改式から下品な笑い声が嘲笑う。
次の瞬間、壁際で大爆発が起こった。
凄まじい衝撃は壁は元より傍らのあらゆる物を破砕した。攻防一体、且つあらゆる射程での戦闘に対応する戦技を真面に喰らったであろうタガミは爆風の中から姿を見せない。無事か、それとも……
「チィッ!!」
「よそ見をする暇などありませんよ」
「随分と余裕だな?」
「当然でしょう。この日の為に色々と準備を整えてきました。ですので負けてしまえば悪い意味で歴史に名を残してしまいます」
「お前に構う暇などッ」
「それは肆号機の事でしょうね」
「余裕だな。教えろッ、奴は何処だ!!」
「ハハハ」
肆号機の名に感情を剥き出すその様子をステロペースは笑った。アルゲースとは違い、タナトスと同じく腹の底から楽しんでいる。その態度に、タケルは砲撃で無数の爆風と銃撃で応える。
「その言動、感情。もう人間と変わりませんね。タケル殿は立派な人間ですよ。私なんかよりもずっと、ね」
「言いたイ事はハッキリ言えッ」
タケルは果敢に攻める。前後左右から上下に至る全方位攻撃。直線的な通常弾に誘導弾を交えながら、更に弾丸を空間転移させ始めた。晴天に流れる流星の様に、空間から灰色の残光と共に無数の弾丸が死角から降り注ぐ。
しかし攻撃は届かず、ステロペースは全てを回避しきった。黒雷よりも遥かに高い応答性を差し引いても異常な才能だ。
「人に生まれながら異端の烙印を押され、人ではないと蔑まれた私と、生まれも肉体を構成する要素も人間ではないのに人間と変わらぬ権利を与えられ、振る舞うタケル殿。何方がより人間として相応しいんでしょうね?」
まるで余裕とでも言わんばかりに、改式を操縦しながら男は語り掛ける。あの時と、ルミナを追跡していた時と同じように。
「お前も人間だ」
「ハハハ。タケル殿の様に眉目秀麗で全てを持っている人間に真っ直ぐ肯定されるとね、素直に受け取れないんですよ」
「随分と拗らせてイるな。だが同情はしなイ、速やかにその性根を叩き直す」
「本当に楽しい方だ」
「どうして此処まで出来る?連合を巻き込んでまで成し遂げたイ目的とは何だ?」
「さて……ね。この戦いの真の目的、実は私もそこまで私は知らないんですよ」
「何ッ!?」
理解不能な一言にタケルの言葉が、行動が一瞬止まる。僅かな隙。が、ステロペースは何もしない。あの時と同じく、ただ語るに終始する。
「全ては我らを導くタナトスの為。一族が無価値と断じた私の才能を見抜き、相応しい居場所を私に与えて下さったあの方の為ですよ。無論、私以外も同じく。理由に差はあれど、誰もが同じ理由で従っています」
「何も知らない、だと?」
「はい。目的も知らず、組織に名もありません。ここまでが死にゆく貴方に贈る餞ですよ。では、改めて参りましょうか」
ステロペースはの一方的に会話を切り上げると、意趣返しとばかりに積極的な攻撃へと転じた。桁違いの力量に、最新鋭の式守が足止めを強いられる。使用する兵器はどれもこれも標準的な黒雷用の武装だが、改式同様に手が加えられている。特に、射撃武器が顕著。
戦技が使用可能ならば、単純な武装への転用など雑作も無い。故に、他の武装よりも明らかに火力も性能も高い。しかもこの男、相応に高い濃度のカグツチをいとも容易く操っている。特兵研の最新鋭の成果であるタケルがこの男から優位を取る事が出来ない現状を判断すれば、カグツチへの適正、黒雷の操縦適性の何れも最上位レベル。アックスも大概だが、この男は桁が外れている。
自らの能力を十全に使い、更に様々な特性の武装を巧みに使い分け、更に話術まで駆使してタケルを引き付けるステロペースの実力は、恐らく少しばかり運命が違えば連合最強に名を連ねたであろう程に底知れない。頭が痛くなる。こんな人材を商才が無いと言う一点で一族から追放したザルヴァートルの連中は一体何を考えて……いや、金か。
「気付いていないの?アナタ、今その嫌っている行動を取っているのよ?口では綺麗事を言いながら、力で何かを変えようなんて怖い事を平然とするのね」
「詭弁を言うなッ、お前の行動でどれだけが犠牲になったと思っているッ!!」
大聖堂を、怒りに震える女の声が両断した。声の主は大聖堂から一番離れた場所、そこへと繋がる大通りのど真ん中でとタナトスと切り結んでいる。刃と刃、互いの意志と意志、言葉と言葉は決して交わらず、悉く激突する。
「知らないし興味も無いわ。私は与えられた役目を全うするだけ」
「お前の上に居る神の命令か?」
「そうよ。もうすぐよ、もうすぐ全部が終わるのよ」
「ならばその神も討つッ!!」
ルミナの手は止まらない。その言葉にも揺らがない。誰かを助けたい、その為に誰に何を言われようが儀を阻止する覚悟を決めた彼女すれば真偽などどうでも良い。迷いない眼差しは、常にタナトスを捉える
「出来もしない事を言わないで。アナタみたいに中途半端な人間はそうやって無駄に希望を振りまく。希望を与え、期待させ、結局出来ず、最後には絶望させる」
「結果を見ない内に決めつけるなッ」
「見なくてもわかるわ、そんな醜態をどれだけ見続けてきたと思ってるの?」
「何ッ!?」
「ウフフ、アハハハッ。楽しいわねぇ、すぅぐに騙される」
「お前はッ、ふざけているのかッ!!」
「フフッ。だから言ったでしょう、楽しいって。半年前に私の計画を潰してくれた英雄の片割れと戦う事になるなんて、ネ。貴女もそう思うでしょう?これが私達の運命だと」
「軽々しく運命なんて言うなッ」
「そう?でも少なくとも私達には運命と呼べる繋がりがあるわよ?」
「いい加減に、口を閉じろ!!」
「ウフフ……フフフフフッ。つれないわねぇ、覚えていないの?それともあの事故の直前だったから忘れちゃった?」
「何をだッ」
「ほら、貴女が小さかった頃。まだ両親から離れる事を嫌がる位に子供の頃、私達は会っているのよ?覚えてる?貴女、母親を探しに研究所内をうろついて、そして私の膝にぶつかったじゃない?私もすっかり忘れていたのだけど、でもアナタの綺麗な銀色の髪を見ていたら思い出したのよ。あの頃の貴女、とても可愛らしかったわよ?」
癒えぬ傷口を、家族、血縁との繋がりを喪失し、全てが歪んでしまった忌まわしい過去をタナトスに抉られたルミナは動きを止めた。見開いた目は、薄笑いを浮かべるタナトスを睨みつけたまま動かない。
いや、違う。問題はそこではなくて、なんでこの女がその情報を知っているのかという方だ。まさか、本当に会っているのか?だとするならば、この女は何歳なのだ。理解不能な情報がまた1つ、重なった。
戦技使用可能な黒雷が誕生すれば、先ずは旗艦から守護者達に流れ、やがては二勢力とそれ以外のパワーバランスを理由に同盟惑星にも波及しただろう。そうすれば次は黒雷を持たない惑星が文句をつけ始める。そうなれば各惑星の戦力は対マガツヒという名分を遥かに超える程に強大となり、何れは制御不能に陥り、各地で武力衝突が勃発すると神は予測した。
だからこそ神は研究継続を拒否し、だから連合は比較的安定したパワーバランスを保っていた。均衡を崩す理由など無かった。いや、崩せなかった。例えマガツヒとの戦いに劣勢を強いられても、だ。
皮肉なものだ。連合の枠組みさえなければスサノヲ達も黒雷を駆っていた筈だが、かといって姫の力なしには今現在の発展も安寧も存在しない。だというのに敵も、アルゲースも神や私の苦労を傍若無人に踏みにじる。
男が叫んだ言霊に反応し、改式が持つ巨大な剣の周囲に光の粒子が舞い始めた。そのまま剣を一直線に振り下ろすと、刀身から幾つもの剣閃が生まれ周囲を、ズタズタに切り裂く。
タガミは当然距離を取るが、今度は巨大な剣を横薙ぎに振るった。剣の周囲に舞う粒子は瞬く間に無数の球形へと変化、散弾の如く前方に飛び散った。が、その程度では終わらない。攻撃は直線的ではなく曲線的に、出鱈目な速度でタガミを追跡し始めた。
強烈な誘導性を持った巨大な光球を、タガミは必至で回避し続ける。が、減らない。壁を、地面を抉り取りながら、何度でも強襲しながら、駄目押しで数を増やし続ける。
タガミも足に力を集中させ高機動を駆使するが、光球はジワジワと逃げ場を奪い続け、やがて大聖堂敷地内外を区別する巨大な壁際に追い詰められた。窮状を前に苦悶を浮かべる顔を、改式から下品な笑い声が嘲笑う。
次の瞬間、壁際で大爆発が起こった。
凄まじい衝撃は壁は元より傍らのあらゆる物を破砕した。攻防一体、且つあらゆる射程での戦闘に対応する戦技を真面に喰らったであろうタガミは爆風の中から姿を見せない。無事か、それとも……
「チィッ!!」
「よそ見をする暇などありませんよ」
「随分と余裕だな?」
「当然でしょう。この日の為に色々と準備を整えてきました。ですので負けてしまえば悪い意味で歴史に名を残してしまいます」
「お前に構う暇などッ」
「それは肆号機の事でしょうね」
「余裕だな。教えろッ、奴は何処だ!!」
「ハハハ」
肆号機の名に感情を剥き出すその様子をステロペースは笑った。アルゲースとは違い、タナトスと同じく腹の底から楽しんでいる。その態度に、タケルは砲撃で無数の爆風と銃撃で応える。
「その言動、感情。もう人間と変わりませんね。タケル殿は立派な人間ですよ。私なんかよりもずっと、ね」
「言いたイ事はハッキリ言えッ」
タケルは果敢に攻める。前後左右から上下に至る全方位攻撃。直線的な通常弾に誘導弾を交えながら、更に弾丸を空間転移させ始めた。晴天に流れる流星の様に、空間から灰色の残光と共に無数の弾丸が死角から降り注ぐ。
しかし攻撃は届かず、ステロペースは全てを回避しきった。黒雷よりも遥かに高い応答性を差し引いても異常な才能だ。
「人に生まれながら異端の烙印を押され、人ではないと蔑まれた私と、生まれも肉体を構成する要素も人間ではないのに人間と変わらぬ権利を与えられ、振る舞うタケル殿。何方がより人間として相応しいんでしょうね?」
まるで余裕とでも言わんばかりに、改式を操縦しながら男は語り掛ける。あの時と、ルミナを追跡していた時と同じように。
「お前も人間だ」
「ハハハ。タケル殿の様に眉目秀麗で全てを持っている人間に真っ直ぐ肯定されるとね、素直に受け取れないんですよ」
「随分と拗らせてイるな。だが同情はしなイ、速やかにその性根を叩き直す」
「本当に楽しい方だ」
「どうして此処まで出来る?連合を巻き込んでまで成し遂げたイ目的とは何だ?」
「さて……ね。この戦いの真の目的、実は私もそこまで私は知らないんですよ」
「何ッ!?」
理解不能な一言にタケルの言葉が、行動が一瞬止まる。僅かな隙。が、ステロペースは何もしない。あの時と同じく、ただ語るに終始する。
「全ては我らを導くタナトスの為。一族が無価値と断じた私の才能を見抜き、相応しい居場所を私に与えて下さったあの方の為ですよ。無論、私以外も同じく。理由に差はあれど、誰もが同じ理由で従っています」
「何も知らない、だと?」
「はい。目的も知らず、組織に名もありません。ここまでが死にゆく貴方に贈る餞ですよ。では、改めて参りましょうか」
ステロペースはの一方的に会話を切り上げると、意趣返しとばかりに積極的な攻撃へと転じた。桁違いの力量に、最新鋭の式守が足止めを強いられる。使用する兵器はどれもこれも標準的な黒雷用の武装だが、改式同様に手が加えられている。特に、射撃武器が顕著。
戦技が使用可能ならば、単純な武装への転用など雑作も無い。故に、他の武装よりも明らかに火力も性能も高い。しかもこの男、相応に高い濃度のカグツチをいとも容易く操っている。特兵研の最新鋭の成果であるタケルがこの男から優位を取る事が出来ない現状を判断すれば、カグツチへの適正、黒雷の操縦適性の何れも最上位レベル。アックスも大概だが、この男は桁が外れている。
自らの能力を十全に使い、更に様々な特性の武装を巧みに使い分け、更に話術まで駆使してタケルを引き付けるステロペースの実力は、恐らく少しばかり運命が違えば連合最強に名を連ねたであろう程に底知れない。頭が痛くなる。こんな人材を商才が無いと言う一点で一族から追放したザルヴァートルの連中は一体何を考えて……いや、金か。
「気付いていないの?アナタ、今その嫌っている行動を取っているのよ?口では綺麗事を言いながら、力で何かを変えようなんて怖い事を平然とするのね」
「詭弁を言うなッ、お前の行動でどれだけが犠牲になったと思っているッ!!」
大聖堂を、怒りに震える女の声が両断した。声の主は大聖堂から一番離れた場所、そこへと繋がる大通りのど真ん中でとタナトスと切り結んでいる。刃と刃、互いの意志と意志、言葉と言葉は決して交わらず、悉く激突する。
「知らないし興味も無いわ。私は与えられた役目を全うするだけ」
「お前の上に居る神の命令か?」
「そうよ。もうすぐよ、もうすぐ全部が終わるのよ」
「ならばその神も討つッ!!」
ルミナの手は止まらない。その言葉にも揺らがない。誰かを助けたい、その為に誰に何を言われようが儀を阻止する覚悟を決めた彼女すれば真偽などどうでも良い。迷いない眼差しは、常にタナトスを捉える
「出来もしない事を言わないで。アナタみたいに中途半端な人間はそうやって無駄に希望を振りまく。希望を与え、期待させ、結局出来ず、最後には絶望させる」
「結果を見ない内に決めつけるなッ」
「見なくてもわかるわ、そんな醜態をどれだけ見続けてきたと思ってるの?」
「何ッ!?」
「ウフフ、アハハハッ。楽しいわねぇ、すぅぐに騙される」
「お前はッ、ふざけているのかッ!!」
「フフッ。だから言ったでしょう、楽しいって。半年前に私の計画を潰してくれた英雄の片割れと戦う事になるなんて、ネ。貴女もそう思うでしょう?これが私達の運命だと」
「軽々しく運命なんて言うなッ」
「そう?でも少なくとも私達には運命と呼べる繋がりがあるわよ?」
「いい加減に、口を閉じろ!!」
「ウフフ……フフフフフッ。つれないわねぇ、覚えていないの?それともあの事故の直前だったから忘れちゃった?」
「何をだッ」
「ほら、貴女が小さかった頃。まだ両親から離れる事を嫌がる位に子供の頃、私達は会っているのよ?覚えてる?貴女、母親を探しに研究所内をうろついて、そして私の膝にぶつかったじゃない?私もすっかり忘れていたのだけど、でもアナタの綺麗な銀色の髪を見ていたら思い出したのよ。あの頃の貴女、とても可愛らしかったわよ?」
癒えぬ傷口を、家族、血縁との繋がりを喪失し、全てが歪んでしまった忌まわしい過去をタナトスに抉られたルミナは動きを止めた。見開いた目は、薄笑いを浮かべるタナトスを睨みつけたまま動かない。
いや、違う。問題はそこではなくて、なんでこの女がその情報を知っているのかという方だ。まさか、本当に会っているのか?だとするならば、この女は何歳なのだ。理解不能な情報がまた1つ、重なった。
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