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14.好きな人
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(当たり前か。昼は真面目に働いてます、てタイプじゃないし。そもそも悪魔だし)
そんなことすら改めて実感するほど藍音はナツの一部しか知らない。
ドリンクを注文し、まっすぐにこちらへ寄ってきた彼は立ったまま藍音とミルカを改めて交互に眺めた。状況を飲み込めていないらしいナツに構わず、ミルカは「もう!」と眉を釣り上げている。
「遅い!」
「人を起こしてそれかよ。十分早いだろうが。てか、なんでアイネが?」
「うふふ、びっくりした? アイネちゃんはミルカのお友達なの」
ね? と藍音に微笑むミルカを見たナツは「マジか……」と呟き、一つ隣の席へと腰掛ける。
藍音だってまさかこの二人がそこまで近しい仲だとは思わなかった。天界と地上と魔界。三つもある世界は案外狭い。
会えたのは嬉しい。でも今ここで改めて何を話せばいいのかわからなかった。黙る藍音を不思議そうに見つめたミルカがナツに話しかける。
「こっちこそびっくりしちゃった。ナツってばいつの間にアイネちゃんと知り合ったの? ミルカにも教えてほしかったなぁ」
「たまたま知り合っただけだし。それに最近ミルカ、俺と遊んでくれないじゃん」
「だってソウマ様がナツと会うの嫌がるんだもん。やきもち可愛いよねぇ♡」
「心狭すぎん? 相変わらずクソガキだな」
「そこもいいの♡ 」
体をくねらせて惚気るミルカの姿はいつも通り、藍音もよく知る姿である。だけどナツは知らない人みたいだ。口調こそ変わらないけど、ミルカを見る瞳も、掛ける声音も藍音に対するものとは違う。
幼馴染以上の感情を勘繰ってしまうのは考えすぎだろうか。それと同時にミルカの話を憂鬱に感じた理由がわかってしまった。
彼女の話すナツは藍音が知る彼よりずっと優しい。
(なんだ、そういうことか……)
予感の通り、知りたくないことを知ってしまった。やっぱり藍音の勘はよく当たる。
すぐ側で話す二人との距離がやたらと遠く感じた。俯いた藍音に気付いたミルカがまた不思議そうに覗き込む。
「アイネちゃん?」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫? あのね、ミルカ……」
何かを言いかけようとしたミルカはスマホの通知音に素早く反応した。
急いで画面をタップした彼女の顔がキラキラ嬉しそうに輝く。ミルカにこんな表情をさせるのはおそらく世界で一人。藍音はぼんやりと年下の幼馴染を思い浮かべる。
手早くメッセージを返信したらしいミルカは軽い音を立て、椅子から立ち上がった。
「じゃあミルカもう行くね。ソウマ様のお迎えに行ってくる!」
「なんだよ、呼び出しておいて」
「別にミルカがいなくてもいいでしょ。アイネちゃんまたね♡」
自由奔放なミルカにとって世界の中心は蒼真であり、彼以上に優先すべきものはない。それに不満など感じた事はないけど、面白くなさそうなナツの溜息は心に刺さってしまった。
「本当、自由だよなあいつ」
「……ミルカちゃんのことが好きなんだね」
探るのも面倒で、ストレートに放った声は思っていたより硬くて暗い。一瞬固まったナツの表情はきっと予想的中。
視線を少し彷徨わせた彼は面倒そうな息を吐き、机に頬杖をついた。
「そんな時もあったけど、もう吹っ切れたよ。男の趣味悪すぎだし」
あっさり肯定するナツの顔が切なく見えるのは藍音の心が暗く沈んでいるからだろうか。
(この人も、誰かを好きになるんだ……)
なんとなく彼は誰にも心を奪われないような気がしていたのに。どこか現実味を帯びないせいで相槌を打つこともできなかった。
そんなことすら改めて実感するほど藍音はナツの一部しか知らない。
ドリンクを注文し、まっすぐにこちらへ寄ってきた彼は立ったまま藍音とミルカを改めて交互に眺めた。状況を飲み込めていないらしいナツに構わず、ミルカは「もう!」と眉を釣り上げている。
「遅い!」
「人を起こしてそれかよ。十分早いだろうが。てか、なんでアイネが?」
「うふふ、びっくりした? アイネちゃんはミルカのお友達なの」
ね? と藍音に微笑むミルカを見たナツは「マジか……」と呟き、一つ隣の席へと腰掛ける。
藍音だってまさかこの二人がそこまで近しい仲だとは思わなかった。天界と地上と魔界。三つもある世界は案外狭い。
会えたのは嬉しい。でも今ここで改めて何を話せばいいのかわからなかった。黙る藍音を不思議そうに見つめたミルカがナツに話しかける。
「こっちこそびっくりしちゃった。ナツってばいつの間にアイネちゃんと知り合ったの? ミルカにも教えてほしかったなぁ」
「たまたま知り合っただけだし。それに最近ミルカ、俺と遊んでくれないじゃん」
「だってソウマ様がナツと会うの嫌がるんだもん。やきもち可愛いよねぇ♡」
「心狭すぎん? 相変わらずクソガキだな」
「そこもいいの♡ 」
体をくねらせて惚気るミルカの姿はいつも通り、藍音もよく知る姿である。だけどナツは知らない人みたいだ。口調こそ変わらないけど、ミルカを見る瞳も、掛ける声音も藍音に対するものとは違う。
幼馴染以上の感情を勘繰ってしまうのは考えすぎだろうか。それと同時にミルカの話を憂鬱に感じた理由がわかってしまった。
彼女の話すナツは藍音が知る彼よりずっと優しい。
(なんだ、そういうことか……)
予感の通り、知りたくないことを知ってしまった。やっぱり藍音の勘はよく当たる。
すぐ側で話す二人との距離がやたらと遠く感じた。俯いた藍音に気付いたミルカがまた不思議そうに覗き込む。
「アイネちゃん?」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫? あのね、ミルカ……」
何かを言いかけようとしたミルカはスマホの通知音に素早く反応した。
急いで画面をタップした彼女の顔がキラキラ嬉しそうに輝く。ミルカにこんな表情をさせるのはおそらく世界で一人。藍音はぼんやりと年下の幼馴染を思い浮かべる。
手早くメッセージを返信したらしいミルカは軽い音を立て、椅子から立ち上がった。
「じゃあミルカもう行くね。ソウマ様のお迎えに行ってくる!」
「なんだよ、呼び出しておいて」
「別にミルカがいなくてもいいでしょ。アイネちゃんまたね♡」
自由奔放なミルカにとって世界の中心は蒼真であり、彼以上に優先すべきものはない。それに不満など感じた事はないけど、面白くなさそうなナツの溜息は心に刺さってしまった。
「本当、自由だよなあいつ」
「……ミルカちゃんのことが好きなんだね」
探るのも面倒で、ストレートに放った声は思っていたより硬くて暗い。一瞬固まったナツの表情はきっと予想的中。
視線を少し彷徨わせた彼は面倒そうな息を吐き、机に頬杖をついた。
「そんな時もあったけど、もう吹っ切れたよ。男の趣味悪すぎだし」
あっさり肯定するナツの顔が切なく見えるのは藍音の心が暗く沈んでいるからだろうか。
(この人も、誰かを好きになるんだ……)
なんとなく彼は誰にも心を奪われないような気がしていたのに。どこか現実味を帯びないせいで相槌を打つこともできなかった。
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