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1.旅に出ます

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「私、旅に出ようと思います」

 聖堂の定例議会。スッと手を挙げ、発言したアンジェリカにその場の視線が集中した。

「旅……ですと?」
「はい。ここにいても邪魔だろうし、それなら旅に出て困っている人々の助けになるほうがいいと思いません?」

 ふわりとした腰まであるバターブロンドに、煌めく夕日の瞳を持つ、楚々とした娘アンジェリカ。
 うら若き彼女はこの国の聖女である。
 国一番の癒しの魔力を持ち、王都の人々の暮らしを見守り、たくさんの人々を癒してきた。

 だがある日突然、絶大な癒しの魔力を持った異世界の少女ユイナが現れた。
 その日を境に、なんの因果かアンジェリカの魔力は日に日に弱くなる一方なのだ。
 
 素直で人懐っこいユイナとはすぐに打ち解け、二人でこの国を支えていきましょうね、などと約束したものだが、そうはいかなくなってきた。
 このままでは一般的な魔法使いと同等、もしくはそれ以下の魔力になることはなんとなく目に見えている。

 だけど聖女という立場上、周りの人々はアンジェリカを無下にもできない。
 皆の心遣いが最近申し訳なくなる日々だったりする。
 
 特に悲壮感も覚悟もなく、ケロッと旅立ちを希望したアンジェリカに周りはざわめいた。
 隣に座るユイナもしばらく目を瞬いていたが、みるみるうちに形の良い眉が下がっていく。
 
「そ、そんな! アンジェリカ様、どこかへいっちゃうんですか?」
「うん。聖女の役目はあなたに任せるわ、ユイナ。私より強い魔力を持ったあなたなら大丈夫よ」

 大きな瞳に涙を浮かべ慌てるユイナの髪を、アンジェリカは優しく撫でる。
 心優しく責任感の強いユイナはきっと良い聖女になるだろう。

 なんの憂いもなく任せられる後継者が出来るなんて、今まで清く正しく生きてきた甲斐があるというものだ。
 この計画を思いついて以来、アンジェリカは内心楽しくて仕方がなかったりする。
 
 だが室内は混乱に溢れ、誰もが口々に旅立ちの意見を否定する。
 その様子にアンジェリカはうんざりとため息をついた。

「あのね、ここにはもうユイナがいるでしょう? 私はユイナの邪魔にも、ただのお飾りにもなりたくないの。どうせなら出来ることをしたいわ。それが例えほんのちっぽけなことでもね」

 渋るユイナを優しく宥め、皆を見渡すアンジェリカの微笑みは目を見張るほどに美しい。
 可憐な美貌はその場にいる者を思わず納得させてしまう力があった。まさに美しさは力である。

「そ、それならば護衛を……。この国で屈強な騎士たちを複数お供に……」
「いいえ、目立つと危険だわ。それにそんな予算を回してほしくないの。護衛は一人で結構です」

 なんとなく雰囲気に呑まれていた議会の一員だったが、我に返った彼の提案をアンジェリカは秒で却下した。
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