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魔族で魔眼な妹と勇者な兄のそれからと
4.恋人の意味
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いつまでも離したがらないキアラを何とか引き剥がすことに成功したクロウはぐったりとソファに項垂れかかっている。
攻防の末に剥がされた後もしばらく名残惜しそうにしていたキアラだったが、もう結構な時間だということに気付き少し慌てて風呂の用意をしに行った。
手伝うこともないだろうし、とクロウがしばらくソファで体を休めているとタオルと着替えを持った彼女がリビングに戻って来た。
「おまたせ~お風呂一緒に入……らないよね! 今日は!」
と、途中で思い出したかのようにハッとしたキアラはやたらと焦りながらクロウに持っていたタオルと着替えを渡し、お風呂はあっちだからと先程のセリフを恥じるように指だけで案内する。
不可思議な顔をしたクロウを見送って、彼女はふうと思わず額を拭った。
「危ない……今のクロウは微妙な時期の少年なんだから……さすがにお風呂はまずいよ! 犯罪ダメ絶対!!」
キアラの線引きは非常にわかりにくいが、先ほどまではじゃれあいの範囲で、素肌に触れるのはアウトと認識したらしい。
◆◇
「照れるくらいなら聞かなきゃいいのに……」
いつもはあまり長風呂をしない主義だが、やたらと疲れを感じたクロウは顎までしっかりと湯に浸かり猫足のバスタブに身を委ねている。
あざといほどの可愛さで恥じらうキアラ(彼にはそう見えた)を思い出し、許すけど! と心の中で叫んでしまったのは言うまでもない。
それにしてもキアラが言った、今日は! と言うのが無性に気になる。
二十歳の自分は一体どんな風に彼女に接していたのか。性に興味を持ち始めた段階のクロウ少年はつい乏しい知識で色んなことを想像してしまい、頭を振って妄想を追いやると湯の効果もあって少しくらくらした。
そもそも、年上のお姉さんに恋人と言われただけでついソワソワしてしまうのに、隙間なく密着されてどう対応していいのかわからない。確かに最近妹になったキアラは可愛いけれど、あんな風に成長するのかとつい幼いキアラを思い浮かべて感心してしまう。
なんというか……。
「めっちゃかわいいよな……」
自分がこれから数年間、彼女にどんな風に接するのか知らない彼は、とても素直で罪深い。
どうしてもあの柔らかな押し付けられる胸の感触と一瞬だけ触れた唇を思い出してしまい、しばらく頭を抱えて煩悩を振り払っていたクロウは湯当たりを感じ、とりあえず風呂から上がることにした。
キアラが用意してくれた着替えはシンプルなシャツの寝間着だけど、多分これは彼女のもので、さっきまで着ていた未来の自分の服よりサイズはしっくり来る。
今はキアラとあまり変わらないけれど、成長すれば今よりずっと身長も高くて、剣士に相応しい体になるに違いない。
さっきリビングのソファ近くに見覚えのある聖剣が置かれてあるのも見えた。脱いだ服を持ちあげて眺めたクロウは少し嬉しくなった。
珍しく長風呂をしたクロウがリビングに戻ると、ソファに丸まって横になったキアラがうとうと微睡んでいた。あまりに無防備な姿に彼は少し戸惑うが、軽く肩を揺すって起こす。
「おまたせ。入って来たら?」
「ん……あ、そっか……クロウ……。うん、入ってくるね。疲れてるよね? 先に寝てくれていいから」
寝室は上だからと、階段を指差して小さな欠伸と共にキアラは風呂場へと向かった。
眠そうに向かう彼女が少し心配にはなったが、まさかついて行くわけにもいかず、クロウは濡れた髪をタオルで拭いながら二階へと向かう。
そういえば灯りを渡されてないけども今日はぽっかりと大きな満月が澄んだ冬空に浮かんでいて、窓から差し込むベールのような優しい光で十分に足元が見える。
二階には部屋が三つあり、全てのドアを開けてみたが二つはあまり使用していないみたいだった。
「ということは……」
やはり寝室はあの部屋か……。
また額に手を置いた彼は深い溜息を吐く。部屋が悪いのではない。むしろすごく居心地が良い。
問題はベッドが一つということだった。
「いや、恋人なんだから当たり前……当たり前だよな……?」
幸い(?)ベッドは広く、端に寄れば触れることもないだろうと自分を納得させてとりあえず髪を乾かすことに集中する。
恋人と言われても、気持ち的には初対面。そんな女性と同衾するなど、まだ今のピュアで思春期の扉を開け始めたばかりのクロウには到底出来っこない。
あらかた乾いた髪を確認してから、もうこうなったらキアラが来る前に寝てしまおうと、さっさと布団に潜ることにした。
どうやら思っていた以上に疲れていたらしい彼は、キアラが寝室に入るとすやすや気持ちよさそうに眠っていた。
起こさないようにそうっとベッドに膝をついて上がると少し身じろぎしたクロウがこちらに寝返りを打つ。
「ふふ、寝ちゃってる。可愛いっ」
おやすみなさいとあどけない頬にキスして、クロウの隣に寄り添う。いつものように抱き寄せてくる逞しい腕がないのは寂しいけれど、今日は代わりにキアラが彼を抱いて眠ることにした。
キアラが寝付いてしばらくした頃。特に何かきっかけがあったわけではないが、ぼんやりと覚醒したクロウは向き合って眠る彼女を見て、一瞬で完全に目が覚めてしまった。
すうすうと規則正しい寝息と、自分に回された柔らかな腕の感覚が妙に艶かしい。あたたかな体温と、ほのかに漂う引き寄せられそうな良い匂いに思わずごくりとクロウの喉が鳴った。
少し体をずらして腕から逃げようとすると、眠っているキアラが離さないとばかりに、より一層つよく抱きしめてくる。結果。さっきより密着する事態になってしまい、うるさいくらいの鼓動が体内に響く。
なぜだかわからないけど、身に覚えがある。
こんな記憶はないはずなのに、クロウは強烈な既視感を覚えた。多分このままでは夜明けまで眠れない。直感的にそう分かる。
「ちょっと……」
必死に揺すってみると悩まし気な声を漏らしてから、どうしたの? とキアラが眠たい目を擦ってぼんやりと覚醒する。
「ひっつくなよ」
「……どうして?」
なんでそんなこと言うの? と少し悲しい顔をする彼女にクロウが答えに詰まる。
確かに毎日こうやって過ごしているのなら別に恥ずかしがることもないのでは? ただ一緒に眠るだけだし……。そうやってしばらく悩んでいると、キアラがなんだか寂しそうに笑うのが月明りで見えた。
「そっか……嫌? それなら私はソファで寝るね」
「いや、僕が……」
「いいのいいの、疲れてるクロウはゆっくり寝ないと」
「女の人をソファで寝させるわけにはいかない」
「なにそれ……格好良いっ……!」
一瞬キュンと胸をときめかせたキアラだったが、少年の姿をしたクロウを改めて眺めて我に返る。
そんなキアラに、子どもは遠慮しちゃダメだよとおでこを軽く突かれたクロウは瞬間的に苛立ちを覚え、彼女の手を引いてやや乱暴に自分の下へ組み敷いた。
「へ? な、なに? どうしたの?」
「キアラは……僕を子どもだと思ってるのか? それとも恋人なのか? どういうつもりで無防備に引っ付いてくる? 襲って欲しいの?」
「襲っ…?! 恋人だけど……でもまだその……今は、そういう年齢じゃ……」
「年齢ってなんだよ。僕のこと、どう思ってるんだ?」
「好き、だけど……」
おどおどと目を彷徨わせるキアラを見下ろしているとクロウの中になんだか無性にぞわぞわと背を震わす感覚が芽生えて、思わず彼は興奮を覚える。
そうやって見覚えのある熱っぽい瞳にじっと見つめられたキアラは、突然焦ったようにじたじたと暴れ出した。
「だ、だめ! まだ早いよ!」
「なにが?」
「だって、そんな顔されたら私流されちゃうし……そしたら……犯罪になっちゃう!」
「は?」
「いたいけな少年を誘惑した、いけないお姉さんになっちゃう!」
本気でそう思ってるらしく、必死でクロウの腕から逃げようとしているキアラを見ているとなんだか先ほどのムードもなくなった。彼は興が醒めたかのようにため息をついて彼女を解放する。
「そう思うなら煽るのやめてくれる?」
「そんなことしてないよ?」
「くっついてくるだろ」
「だってくっつきたいんだもの!」
「どっちが子どもだよ!」
しばらく低レベルな言い争いを繰り返して両者ともに疲れて来た頃、キアラが不意に笑い出した。
何が面白いのかわからないクロウは少し眉間にシワを寄せるが、彼女はきゃらきゃらと楽しそうに笑っている。
「クロウと、こんな言い合いしたの初めてだね」
「そうなのか?」
「うん、だってずっと私のこと避けてたし、恋人になってからはずっと優しいもの」
「避け……?」
「あ、なんでもないの。ね、もう寝よう? また明日たくさんお話しようね」
そう言ってもぞもぞと布団に包まったキアラは隣をポンポンと叩いて、クロウにも眠るように促す。
確かにいつまでも起きていても仕方ないし、渋々といった体で彼も隣に潜り込んだ。さっきよりは離れているけど、それでも距離は近い。
「ねぇ、手を繋ぐだけならいい?」
「いいけど……」
やったぁと小さく喜んで細い指を絡ませるキアラの無邪気に喜ぶ顔を見ていると、変に意識することがなんだか馬鹿らしくなって、しょうがないなとクロウも小さく笑う。
「おやすみクロウ。また明日ね」
「おやすみ」
ふふっと笑って瞳を閉じたキアラはまたしばらくすると、規則的な寝息を立て始める。
「寝るの早…」
そう言って呆れたようにキアラを見ていたクロウだったが、つられたかのようにすぐ眠気に誘われた。
次に気付いた時にはもう朝の明るい日差しが降り注いでいた。
攻防の末に剥がされた後もしばらく名残惜しそうにしていたキアラだったが、もう結構な時間だということに気付き少し慌てて風呂の用意をしに行った。
手伝うこともないだろうし、とクロウがしばらくソファで体を休めているとタオルと着替えを持った彼女がリビングに戻って来た。
「おまたせ~お風呂一緒に入……らないよね! 今日は!」
と、途中で思い出したかのようにハッとしたキアラはやたらと焦りながらクロウに持っていたタオルと着替えを渡し、お風呂はあっちだからと先程のセリフを恥じるように指だけで案内する。
不可思議な顔をしたクロウを見送って、彼女はふうと思わず額を拭った。
「危ない……今のクロウは微妙な時期の少年なんだから……さすがにお風呂はまずいよ! 犯罪ダメ絶対!!」
キアラの線引きは非常にわかりにくいが、先ほどまではじゃれあいの範囲で、素肌に触れるのはアウトと認識したらしい。
◆◇
「照れるくらいなら聞かなきゃいいのに……」
いつもはあまり長風呂をしない主義だが、やたらと疲れを感じたクロウは顎までしっかりと湯に浸かり猫足のバスタブに身を委ねている。
あざといほどの可愛さで恥じらうキアラ(彼にはそう見えた)を思い出し、許すけど! と心の中で叫んでしまったのは言うまでもない。
それにしてもキアラが言った、今日は! と言うのが無性に気になる。
二十歳の自分は一体どんな風に彼女に接していたのか。性に興味を持ち始めた段階のクロウ少年はつい乏しい知識で色んなことを想像してしまい、頭を振って妄想を追いやると湯の効果もあって少しくらくらした。
そもそも、年上のお姉さんに恋人と言われただけでついソワソワしてしまうのに、隙間なく密着されてどう対応していいのかわからない。確かに最近妹になったキアラは可愛いけれど、あんな風に成長するのかとつい幼いキアラを思い浮かべて感心してしまう。
なんというか……。
「めっちゃかわいいよな……」
自分がこれから数年間、彼女にどんな風に接するのか知らない彼は、とても素直で罪深い。
どうしてもあの柔らかな押し付けられる胸の感触と一瞬だけ触れた唇を思い出してしまい、しばらく頭を抱えて煩悩を振り払っていたクロウは湯当たりを感じ、とりあえず風呂から上がることにした。
キアラが用意してくれた着替えはシンプルなシャツの寝間着だけど、多分これは彼女のもので、さっきまで着ていた未来の自分の服よりサイズはしっくり来る。
今はキアラとあまり変わらないけれど、成長すれば今よりずっと身長も高くて、剣士に相応しい体になるに違いない。
さっきリビングのソファ近くに見覚えのある聖剣が置かれてあるのも見えた。脱いだ服を持ちあげて眺めたクロウは少し嬉しくなった。
珍しく長風呂をしたクロウがリビングに戻ると、ソファに丸まって横になったキアラがうとうと微睡んでいた。あまりに無防備な姿に彼は少し戸惑うが、軽く肩を揺すって起こす。
「おまたせ。入って来たら?」
「ん……あ、そっか……クロウ……。うん、入ってくるね。疲れてるよね? 先に寝てくれていいから」
寝室は上だからと、階段を指差して小さな欠伸と共にキアラは風呂場へと向かった。
眠そうに向かう彼女が少し心配にはなったが、まさかついて行くわけにもいかず、クロウは濡れた髪をタオルで拭いながら二階へと向かう。
そういえば灯りを渡されてないけども今日はぽっかりと大きな満月が澄んだ冬空に浮かんでいて、窓から差し込むベールのような優しい光で十分に足元が見える。
二階には部屋が三つあり、全てのドアを開けてみたが二つはあまり使用していないみたいだった。
「ということは……」
やはり寝室はあの部屋か……。
また額に手を置いた彼は深い溜息を吐く。部屋が悪いのではない。むしろすごく居心地が良い。
問題はベッドが一つということだった。
「いや、恋人なんだから当たり前……当たり前だよな……?」
幸い(?)ベッドは広く、端に寄れば触れることもないだろうと自分を納得させてとりあえず髪を乾かすことに集中する。
恋人と言われても、気持ち的には初対面。そんな女性と同衾するなど、まだ今のピュアで思春期の扉を開け始めたばかりのクロウには到底出来っこない。
あらかた乾いた髪を確認してから、もうこうなったらキアラが来る前に寝てしまおうと、さっさと布団に潜ることにした。
どうやら思っていた以上に疲れていたらしい彼は、キアラが寝室に入るとすやすや気持ちよさそうに眠っていた。
起こさないようにそうっとベッドに膝をついて上がると少し身じろぎしたクロウがこちらに寝返りを打つ。
「ふふ、寝ちゃってる。可愛いっ」
おやすみなさいとあどけない頬にキスして、クロウの隣に寄り添う。いつものように抱き寄せてくる逞しい腕がないのは寂しいけれど、今日は代わりにキアラが彼を抱いて眠ることにした。
キアラが寝付いてしばらくした頃。特に何かきっかけがあったわけではないが、ぼんやりと覚醒したクロウは向き合って眠る彼女を見て、一瞬で完全に目が覚めてしまった。
すうすうと規則正しい寝息と、自分に回された柔らかな腕の感覚が妙に艶かしい。あたたかな体温と、ほのかに漂う引き寄せられそうな良い匂いに思わずごくりとクロウの喉が鳴った。
少し体をずらして腕から逃げようとすると、眠っているキアラが離さないとばかりに、より一層つよく抱きしめてくる。結果。さっきより密着する事態になってしまい、うるさいくらいの鼓動が体内に響く。
なぜだかわからないけど、身に覚えがある。
こんな記憶はないはずなのに、クロウは強烈な既視感を覚えた。多分このままでは夜明けまで眠れない。直感的にそう分かる。
「ちょっと……」
必死に揺すってみると悩まし気な声を漏らしてから、どうしたの? とキアラが眠たい目を擦ってぼんやりと覚醒する。
「ひっつくなよ」
「……どうして?」
なんでそんなこと言うの? と少し悲しい顔をする彼女にクロウが答えに詰まる。
確かに毎日こうやって過ごしているのなら別に恥ずかしがることもないのでは? ただ一緒に眠るだけだし……。そうやってしばらく悩んでいると、キアラがなんだか寂しそうに笑うのが月明りで見えた。
「そっか……嫌? それなら私はソファで寝るね」
「いや、僕が……」
「いいのいいの、疲れてるクロウはゆっくり寝ないと」
「女の人をソファで寝させるわけにはいかない」
「なにそれ……格好良いっ……!」
一瞬キュンと胸をときめかせたキアラだったが、少年の姿をしたクロウを改めて眺めて我に返る。
そんなキアラに、子どもは遠慮しちゃダメだよとおでこを軽く突かれたクロウは瞬間的に苛立ちを覚え、彼女の手を引いてやや乱暴に自分の下へ組み敷いた。
「へ? な、なに? どうしたの?」
「キアラは……僕を子どもだと思ってるのか? それとも恋人なのか? どういうつもりで無防備に引っ付いてくる? 襲って欲しいの?」
「襲っ…?! 恋人だけど……でもまだその……今は、そういう年齢じゃ……」
「年齢ってなんだよ。僕のこと、どう思ってるんだ?」
「好き、だけど……」
おどおどと目を彷徨わせるキアラを見下ろしているとクロウの中になんだか無性にぞわぞわと背を震わす感覚が芽生えて、思わず彼は興奮を覚える。
そうやって見覚えのある熱っぽい瞳にじっと見つめられたキアラは、突然焦ったようにじたじたと暴れ出した。
「だ、だめ! まだ早いよ!」
「なにが?」
「だって、そんな顔されたら私流されちゃうし……そしたら……犯罪になっちゃう!」
「は?」
「いたいけな少年を誘惑した、いけないお姉さんになっちゃう!」
本気でそう思ってるらしく、必死でクロウの腕から逃げようとしているキアラを見ているとなんだか先ほどのムードもなくなった。彼は興が醒めたかのようにため息をついて彼女を解放する。
「そう思うなら煽るのやめてくれる?」
「そんなことしてないよ?」
「くっついてくるだろ」
「だってくっつきたいんだもの!」
「どっちが子どもだよ!」
しばらく低レベルな言い争いを繰り返して両者ともに疲れて来た頃、キアラが不意に笑い出した。
何が面白いのかわからないクロウは少し眉間にシワを寄せるが、彼女はきゃらきゃらと楽しそうに笑っている。
「クロウと、こんな言い合いしたの初めてだね」
「そうなのか?」
「うん、だってずっと私のこと避けてたし、恋人になってからはずっと優しいもの」
「避け……?」
「あ、なんでもないの。ね、もう寝よう? また明日たくさんお話しようね」
そう言ってもぞもぞと布団に包まったキアラは隣をポンポンと叩いて、クロウにも眠るように促す。
確かにいつまでも起きていても仕方ないし、渋々といった体で彼も隣に潜り込んだ。さっきよりは離れているけど、それでも距離は近い。
「ねぇ、手を繋ぐだけならいい?」
「いいけど……」
やったぁと小さく喜んで細い指を絡ませるキアラの無邪気に喜ぶ顔を見ていると、変に意識することがなんだか馬鹿らしくなって、しょうがないなとクロウも小さく笑う。
「おやすみクロウ。また明日ね」
「おやすみ」
ふふっと笑って瞳を閉じたキアラはまたしばらくすると、規則的な寝息を立て始める。
「寝るの早…」
そう言って呆れたようにキアラを見ていたクロウだったが、つられたかのようにすぐ眠気に誘われた。
次に気付いた時にはもう朝の明るい日差しが降り注いでいた。
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