12 / 50
第十二話 とりあえずは一人で
しおりを挟む
「通常、冒険者は主にパーティーというグループを組み、三または四人で活動します。現在、グレー様はお一人ですが、このギルドの中で新しい仲間を探すのがよろしいかと。どうされますか?」
受付嬢に問われ、グレースはしばし頭を悩ませた。
確かに今はグレース一人。女だけでは色々と困ることがあるだろうし、仲間がいることはありがたい。
しかし彼女の目的を考えれば、何も知らない相手を引き入れるのはあまり好ましくないように思えた。
「とりあえずは一人で構いません。ワタクシ、人付き合いが苦手でして」
嘘だ。社交界などでは五十人以上の貴族に対応していたのだから。
でも受付嬢はそれで納得してくれたようだった。
「ではおひとりさまですね。では良い旅をお祈り申し上げております」
グレースはカーテシーをすると、そっと受付を離れる。
それから、カーテシーはまずかったなと猛反省した。今ので貴族出身とバレなければいいのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仕事を始める前に、住居が必要である。
今までのように宿で眠るのも悪くはなかったが、しばらくこの町を拠点とする以上、家があった方が何かと便利には違いないからだ。
新居を探して町を歩く。
それは意外とすぐに見つかった。
白い砂浜に建つ、少し磯臭い建物。
しかしそれは庶民の家にしては大きく、侯爵邸よりは遥かに小さいが、屋敷と言ってもいいであろう大きさはあった。
人が住んでいる気配はなく、そこには何かの看板が吊るされていた。
「……この町の領主の別荘、ですか」
領主が誰なのかは知らないが、道理で立派な造りをしている。
見回してみると一面に青い海が見え、なかなかに景色がいい。グレースはここに決めた。
「とりあえず領主様と話をつけましょう。ある程度のお金を叩いてでもここはお譲りいただきたいですね」
金さえあれば何でも買える。
全然貴族の感覚が抜けていないグレースなのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「領主様にお会いしたく」
やって来たのは、この町では一番と言っていいくらいに大きな屋敷。
これが町の領主であるオーネッタ男爵の屋敷なのだとか。オーネッタ男爵というのはごく普通の男爵家で、領地は広くないが貧乏ではない程度。一般的な田舎貴族である。
グレースも名前だけは聞いたことがあったが、あまりにも身分が違いすぎたため、直接話したことはなかった。
そして通された男爵邸の応接室で、彼女は初めてオーネッタ男爵と相対することになる。
「やあ。君が新しくこの町にやって来た領民かね。私に直々に話があるとは一体何だ?」
「オーネッタ男爵、初めまして。ワタクシはグレーと申す者です。王都の方よりやって参りました」
頭を下げる。貴族であれば屈辱でしかないが、もはやグレースは平民なのだから。
そして早速本題に切り込んだ。
「ワタクシ、新居を探しておりまして。町を歩いていたところ海辺の素敵な屋敷を見つけたのです。そこがオーネッタ男爵家の別荘だと書いてあったものですから……。ワタクシ、どうしてもあそこが良いのです。恐縮ですがあの別荘をお譲りいただけませんでしょうか?」
「えっ」男爵は思わずと言った様子で声を上げた。「ならんよ。あそこは私の所有物だ」
「わかっております。ですから買い取らせていただきたく」
まさか小娘が大金を手にしているとは思わなかっただろう。
無理だ、とでも言うように彼は首を振った。
だがしかし、グレースはやると言ったらやる人間である。そう簡単に諦めはしなかった。
「では、これほどの代金でいかがでしょう」
袋にあった金貨を五枚取り出し、微笑む。
あれくらいの屋敷であれば簡単に買える程度の金だった。
グレースの全財産は現在金貨七枚分。その多くを使ってしまうことにはなるが、あの別荘がどうしても気に入ってしまったのだ。
その大金を見て、男爵が驚いたように目を見開いた。
「これは偽物じゃなかろうね?」
「ええ。ワタクシの名にかけて誓います」
「ほぅ。……いいだろう。どうせ現在は使用していないのだ、譲って差し上げよう」
「感謝いたします」
さすがは貴族最下級の男爵家。金の前では抵抗できないらしい。
これがもしも伯爵家などであれば、金貨五枚では到底足りなかったろう。ここの領主が男爵であったことに心から安堵する。
そうしてグレースは、割合容易く、新居を入手することができたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「月光を映す青き海。……ああ、素敵ですね」
窓の外を眺めながら、グレースはそっと呟く。
早速新居へ移り住み、暮らし始めることになった。家具は全て揃っていたし、窓から海が見える。いい住まいに巡り会えたようだ。
ここが、これからの冒険者生活を支える拠点となる。
そのうちは引っ越しするには違いないがそれまでの間を満喫しよう。
「まさに別荘ですね。ワタクシの目指す場所へ行き着くまでの」
そう言ってグレースはそっとベッドに身を横たえる。
宿のものより幾許かは寝心地がいい。早速眠りを誘った。
……明日はきっと大変になる。だから今はこのまま眠ってしまおう。
そう考えるや否や、彼女の意識は闇に落ちた。
受付嬢に問われ、グレースはしばし頭を悩ませた。
確かに今はグレース一人。女だけでは色々と困ることがあるだろうし、仲間がいることはありがたい。
しかし彼女の目的を考えれば、何も知らない相手を引き入れるのはあまり好ましくないように思えた。
「とりあえずは一人で構いません。ワタクシ、人付き合いが苦手でして」
嘘だ。社交界などでは五十人以上の貴族に対応していたのだから。
でも受付嬢はそれで納得してくれたようだった。
「ではおひとりさまですね。では良い旅をお祈り申し上げております」
グレースはカーテシーをすると、そっと受付を離れる。
それから、カーテシーはまずかったなと猛反省した。今ので貴族出身とバレなければいいのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仕事を始める前に、住居が必要である。
今までのように宿で眠るのも悪くはなかったが、しばらくこの町を拠点とする以上、家があった方が何かと便利には違いないからだ。
新居を探して町を歩く。
それは意外とすぐに見つかった。
白い砂浜に建つ、少し磯臭い建物。
しかしそれは庶民の家にしては大きく、侯爵邸よりは遥かに小さいが、屋敷と言ってもいいであろう大きさはあった。
人が住んでいる気配はなく、そこには何かの看板が吊るされていた。
「……この町の領主の別荘、ですか」
領主が誰なのかは知らないが、道理で立派な造りをしている。
見回してみると一面に青い海が見え、なかなかに景色がいい。グレースはここに決めた。
「とりあえず領主様と話をつけましょう。ある程度のお金を叩いてでもここはお譲りいただきたいですね」
金さえあれば何でも買える。
全然貴族の感覚が抜けていないグレースなのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「領主様にお会いしたく」
やって来たのは、この町では一番と言っていいくらいに大きな屋敷。
これが町の領主であるオーネッタ男爵の屋敷なのだとか。オーネッタ男爵というのはごく普通の男爵家で、領地は広くないが貧乏ではない程度。一般的な田舎貴族である。
グレースも名前だけは聞いたことがあったが、あまりにも身分が違いすぎたため、直接話したことはなかった。
そして通された男爵邸の応接室で、彼女は初めてオーネッタ男爵と相対することになる。
「やあ。君が新しくこの町にやって来た領民かね。私に直々に話があるとは一体何だ?」
「オーネッタ男爵、初めまして。ワタクシはグレーと申す者です。王都の方よりやって参りました」
頭を下げる。貴族であれば屈辱でしかないが、もはやグレースは平民なのだから。
そして早速本題に切り込んだ。
「ワタクシ、新居を探しておりまして。町を歩いていたところ海辺の素敵な屋敷を見つけたのです。そこがオーネッタ男爵家の別荘だと書いてあったものですから……。ワタクシ、どうしてもあそこが良いのです。恐縮ですがあの別荘をお譲りいただけませんでしょうか?」
「えっ」男爵は思わずと言った様子で声を上げた。「ならんよ。あそこは私の所有物だ」
「わかっております。ですから買い取らせていただきたく」
まさか小娘が大金を手にしているとは思わなかっただろう。
無理だ、とでも言うように彼は首を振った。
だがしかし、グレースはやると言ったらやる人間である。そう簡単に諦めはしなかった。
「では、これほどの代金でいかがでしょう」
袋にあった金貨を五枚取り出し、微笑む。
あれくらいの屋敷であれば簡単に買える程度の金だった。
グレースの全財産は現在金貨七枚分。その多くを使ってしまうことにはなるが、あの別荘がどうしても気に入ってしまったのだ。
その大金を見て、男爵が驚いたように目を見開いた。
「これは偽物じゃなかろうね?」
「ええ。ワタクシの名にかけて誓います」
「ほぅ。……いいだろう。どうせ現在は使用していないのだ、譲って差し上げよう」
「感謝いたします」
さすがは貴族最下級の男爵家。金の前では抵抗できないらしい。
これがもしも伯爵家などであれば、金貨五枚では到底足りなかったろう。ここの領主が男爵であったことに心から安堵する。
そうしてグレースは、割合容易く、新居を入手することができたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「月光を映す青き海。……ああ、素敵ですね」
窓の外を眺めながら、グレースはそっと呟く。
早速新居へ移り住み、暮らし始めることになった。家具は全て揃っていたし、窓から海が見える。いい住まいに巡り会えたようだ。
ここが、これからの冒険者生活を支える拠点となる。
そのうちは引っ越しするには違いないがそれまでの間を満喫しよう。
「まさに別荘ですね。ワタクシの目指す場所へ行き着くまでの」
そう言ってグレースはそっとベッドに身を横たえる。
宿のものより幾許かは寝心地がいい。早速眠りを誘った。
……明日はきっと大変になる。だから今はこのまま眠ってしまおう。
そう考えるや否や、彼女の意識は闇に落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ちびっ子元聖女は自分は成人していると声を大にして言いたい
かのん
恋愛
令嬢に必要な物は何か。優雅さ?美しさ?教養?どれもこれも確かに必要だろう。だが、そうではない。それがなければ、見向きもされず、それがなければ、壁の花にすらなれない。それとはなにか。ハッキリ言おう。身長である!!!
前世聖女であったココレットが、今世は色恋に花を咲かせようと思っていた。しかし、彼女には今世身長が足りなかった。
これは、自分は成人していると声を大にして言いたい元聖女のはじまりの話。
書きたくなって書いた、勢いと思いつきのお話です。それでも良い方はお読みください。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた
咲桜りおな
恋愛
サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。
好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。
それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。
そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑)
本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。
「小説家になろう」でも公開しています。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる