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18:王子殿下、後悔する。
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何が間違っていたんだろう。
僕はダスティーをこんなにも愛していたのに。
ダスティーはどうして、逃げて行ってしまったんだろうか?
もしかして僕のことが嫌いだったのかも知れない。
それともあの男が好きだったのかも知れない。
けれどダスティーは、僕の花嫁になることを喜んでいたはずだったのに。
――どうしてこうなったんだ?
「ダスティー! 待って、行かないでくれ……! ダスティーダスティーダスティー!」
リーズロッタとダコタに組み伏せられながら、僕はダスティーを呼ぶ。
気がおかしくなりそうだった。頭がガンガンする。
諦められるわけがない。
あんなにも地味なのに可愛らしくて、ちょっとした動作が胸をくすぐる。
学園の中でも一番、僕に優しくしてくれたと思う。リーズロッタたちが僕を取り合って争っている間、彼女は生暖かい目で僕を心配してくれていた。
それは、気のせいだったのだろうか。
なんとしてもダスティーが欲しかった。
だから、どうしてもと言うならば、リーズロッタもダコタも囲って、三人を娶ろうと決意したのに。したのに。
『私、殿下のことをお慕いしておりません。むしろ嫌い』
はっきりそう言われ、拒絶されてしまった。
そうか……。ずっと僕のこと、嫌だったんだ。顔を見るのも辛くて、だから逃げ出そうとしたんだね。
あれは僕を誘惑する遊びだと思ったんだ。今までの素振りを見て、僕を嫌いで仕方なかっただなんて気づかなかったんだよ。
許しては……くれないだろうな。
幼少期から決められた婚約者という相手。
でも僕はそれに満足できなかった。自分の恋がしたかった。
権力目当てで僕を狙っているであろう聖女でもなく、純粋な相手。
それがダスティーだったはずだった。
しかしダスティーへの初恋は敗れ、こうして二人の女に取り囲まれている。僕はやはり、このどちらかを選ぶしかないんだ。
ダスティー、僕の初恋の人。
さようなら。君は手に入らなかったが、ずっとずっと想い続けているから、どうか僕のことを忘れないでほしいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「反省はいたしましたのかしら?」
たっぷりお説教をくらい、僕は頭を下げた。
彼女とは勝手に婚約破棄をしてしまった。まだ、その謝罪も自分ではしていなかったことを思い出す。
ダスティーで必死で、そんな余裕がなかったんだ。
「――ごめん」
「それでいいんですのよ」
銀髪の少女が鼻を鳴らし、満足げに笑う。
こうして見ればリーズロッタも可愛いものだ。いつもの尖った美しさが少しだけ柔らかになるこの瞬間が僕は昔から好きだった。
リーズロッタには勉学やら何やら色々な面で劣っていた。
だから僕は、ダスティーに逃げてしまったのかも知れない。……愚かなことではあるがリーズロッタより上に立った気になりたかったんだろう。
僕は深く後悔する。
どうして最初からリーズロッタを選び取らなかったのだろう。どうしてダスティーに嫌な思いをさせてまで彼女を欲しがったのだろう。
結果、僕の自分勝手で彼女たちを傷つけることになってしまった。
もう一人に謝らなければと思い、ピンクブロンドの髪の少女を見上げる。
彼女は聖女だった。平民上がりとはいえその佇まいは可愛らしく、男なら誰でも魅了できるだろう。
「さっきは悪かった。君を側妃にするだなんて言って」
「ダコタ、生まれて初めて王子様のこと見損なったよ。……でも謝罪は受け入れてあげる」
「その上で、だが。やはり僕はリーズロッタと婚約を結び直したいと思う。だから君は……」
少女――ダコタはにっこり笑って。
「わかった。さっきの決闘で、リーズ様がどんなに王子様のことを愛してるかはわかったしね。残念だけど、ダコタは綺麗さっぱり諦めるとするよ。お二人でお幸せに。ダコタはまた別の人を見つけるよ。リーズ様、ダコタの王子様を不幸にしたら承知しないんだからね」
「もちろんですわ。スペンサー様を世界で一番幸せな殿方にして見せますとも。あなたはそれを陰ながら祈ってなさい」
今まで争ってばかりだと思っていたリーズロッタとダコタ、しかし意外と仲がいいらしい。
二人とも僕を好きでいてくれたんだ。悪い子なはずがないよね。
ダコタが静かに部屋を出ていった。
そういえば彼女、どうやってこの部屋に忍び込んだんだろう……? 見張りもいたはずなんだが。不思議でならない。
それはともかく。
「スペンサー様、あたくしと婚約を結び直してくださるとのこと、本当ですわね?」
「うん」
「今度あたくしを見捨てるようなことがあったら、容赦いたしませんわよ。その時はゴミクズレベルまであたくしの評価が落ち、炎の海に包まれると思いなさいな」
怖いことを言うな。
というか、子爵家の放火事件はもしかして彼女が? いや、まさかな。
まさか……な。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうか。改心したか。
では、第一王子スペンサー、処遇を言い渡す。
そなたはダスティー子爵令嬢との婚約を解消し、リーズロッタ公爵令嬢と新たに婚約する。
そして婚姻がなされた際は公爵家の婿養子となること。いいな?」
「――はい、父上」
僕は今回の件で王太子ではなくなってしまった。
でもいい。それで良かったんだと思う。
これから僕はリーズロッタのお婿さんになって、彼女と支え合って生きていくつもりだ。
ダスティーへの未練はまだあるが……それはそっと胸の内にしまっておこう。
僕はダスティーをこんなにも愛していたのに。
ダスティーはどうして、逃げて行ってしまったんだろうか?
もしかして僕のことが嫌いだったのかも知れない。
それともあの男が好きだったのかも知れない。
けれどダスティーは、僕の花嫁になることを喜んでいたはずだったのに。
――どうしてこうなったんだ?
「ダスティー! 待って、行かないでくれ……! ダスティーダスティーダスティー!」
リーズロッタとダコタに組み伏せられながら、僕はダスティーを呼ぶ。
気がおかしくなりそうだった。頭がガンガンする。
諦められるわけがない。
あんなにも地味なのに可愛らしくて、ちょっとした動作が胸をくすぐる。
学園の中でも一番、僕に優しくしてくれたと思う。リーズロッタたちが僕を取り合って争っている間、彼女は生暖かい目で僕を心配してくれていた。
それは、気のせいだったのだろうか。
なんとしてもダスティーが欲しかった。
だから、どうしてもと言うならば、リーズロッタもダコタも囲って、三人を娶ろうと決意したのに。したのに。
『私、殿下のことをお慕いしておりません。むしろ嫌い』
はっきりそう言われ、拒絶されてしまった。
そうか……。ずっと僕のこと、嫌だったんだ。顔を見るのも辛くて、だから逃げ出そうとしたんだね。
あれは僕を誘惑する遊びだと思ったんだ。今までの素振りを見て、僕を嫌いで仕方なかっただなんて気づかなかったんだよ。
許しては……くれないだろうな。
幼少期から決められた婚約者という相手。
でも僕はそれに満足できなかった。自分の恋がしたかった。
権力目当てで僕を狙っているであろう聖女でもなく、純粋な相手。
それがダスティーだったはずだった。
しかしダスティーへの初恋は敗れ、こうして二人の女に取り囲まれている。僕はやはり、このどちらかを選ぶしかないんだ。
ダスティー、僕の初恋の人。
さようなら。君は手に入らなかったが、ずっとずっと想い続けているから、どうか僕のことを忘れないでほしいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「反省はいたしましたのかしら?」
たっぷりお説教をくらい、僕は頭を下げた。
彼女とは勝手に婚約破棄をしてしまった。まだ、その謝罪も自分ではしていなかったことを思い出す。
ダスティーで必死で、そんな余裕がなかったんだ。
「――ごめん」
「それでいいんですのよ」
銀髪の少女が鼻を鳴らし、満足げに笑う。
こうして見ればリーズロッタも可愛いものだ。いつもの尖った美しさが少しだけ柔らかになるこの瞬間が僕は昔から好きだった。
リーズロッタには勉学やら何やら色々な面で劣っていた。
だから僕は、ダスティーに逃げてしまったのかも知れない。……愚かなことではあるがリーズロッタより上に立った気になりたかったんだろう。
僕は深く後悔する。
どうして最初からリーズロッタを選び取らなかったのだろう。どうしてダスティーに嫌な思いをさせてまで彼女を欲しがったのだろう。
結果、僕の自分勝手で彼女たちを傷つけることになってしまった。
もう一人に謝らなければと思い、ピンクブロンドの髪の少女を見上げる。
彼女は聖女だった。平民上がりとはいえその佇まいは可愛らしく、男なら誰でも魅了できるだろう。
「さっきは悪かった。君を側妃にするだなんて言って」
「ダコタ、生まれて初めて王子様のこと見損なったよ。……でも謝罪は受け入れてあげる」
「その上で、だが。やはり僕はリーズロッタと婚約を結び直したいと思う。だから君は……」
少女――ダコタはにっこり笑って。
「わかった。さっきの決闘で、リーズ様がどんなに王子様のことを愛してるかはわかったしね。残念だけど、ダコタは綺麗さっぱり諦めるとするよ。お二人でお幸せに。ダコタはまた別の人を見つけるよ。リーズ様、ダコタの王子様を不幸にしたら承知しないんだからね」
「もちろんですわ。スペンサー様を世界で一番幸せな殿方にして見せますとも。あなたはそれを陰ながら祈ってなさい」
今まで争ってばかりだと思っていたリーズロッタとダコタ、しかし意外と仲がいいらしい。
二人とも僕を好きでいてくれたんだ。悪い子なはずがないよね。
ダコタが静かに部屋を出ていった。
そういえば彼女、どうやってこの部屋に忍び込んだんだろう……? 見張りもいたはずなんだが。不思議でならない。
それはともかく。
「スペンサー様、あたくしと婚約を結び直してくださるとのこと、本当ですわね?」
「うん」
「今度あたくしを見捨てるようなことがあったら、容赦いたしませんわよ。その時はゴミクズレベルまであたくしの評価が落ち、炎の海に包まれると思いなさいな」
怖いことを言うな。
というか、子爵家の放火事件はもしかして彼女が? いや、まさかな。
まさか……な。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうか。改心したか。
では、第一王子スペンサー、処遇を言い渡す。
そなたはダスティー子爵令嬢との婚約を解消し、リーズロッタ公爵令嬢と新たに婚約する。
そして婚姻がなされた際は公爵家の婿養子となること。いいな?」
「――はい、父上」
僕は今回の件で王太子ではなくなってしまった。
でもいい。それで良かったんだと思う。
これから僕はリーズロッタのお婿さんになって、彼女と支え合って生きていくつもりだ。
ダスティーへの未練はまだあるが……それはそっと胸の内にしまっておこう。
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