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第六章
70:魔王、そして人質
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「――来たであるか。哀れな人間めが」
黒い穴を抜けた先。
最初に聞こえたのは、嘲笑うような声だった。
それは普通の人間のものではなく、まるで地響きかのように低く振動して聞こえる。目線を上げるとそこには大岩の如きの化け物がいた。
「お前が魔王か? なんかやたらと体重たそうだな」
「これこそが我の威厳である。どうか、恐れ慄いたであるか?」
「いいや別に。動きとろそうだなって思っただけだから」
岩のような大きな体を玉座に腰かけ、腕を組む熊のような化け物。
人形はしているがその肌は光沢を放つ黒。毛の生えていないその巨体は、動くにはかなり不利に見えた。
ともかく、
「俺は勇者カレジャス。魔王、お前を倒すためにはるばるやって来たぜ」
名乗り上げるなりカレジャスは武器を構え、魔王へと全力で斬りかかっていった。
* * * * * * * * * * * * * * *
――が。
「簡単に我を殺せると思っているであるか。それはあまりにも浅はかである」
次の瞬間、勇者の体が何者かに阻まれた。
一体何があるのか。見てみるが、そこには何もないように思える。だが確実にあるのだ、進路を塞ぐように広がる透明な幕が。
「ちっ。見たことねえな、これも魔術の一種か?」
「我が使うのは魔術と違う、妖術である。勘違いするでない」
「魔術も妖術も、俺にとっては一緒だよ」
どちらにしろ、魔術破りの魔法で突破できるだろう。普通の魔法使いなどと違い、カレジャスには特殊な魔法が使えるのだ。
剣に魔法を込める。そしてそのまま、透明な幕を切り裂いた。
「ぬっ!?」
そんなに意外だったのか、魔王はギョッとした。よほど先ほどの幕の強度に自信があったのだろうか?
「お前の術は効かねえ。これで終わりだ」
「そうは行かせないのである。こちらには、人質がいるのである」
人質、という言葉にカレジャスは嫌な予感がした。そしてそれは的中することになる。
「地上から連れて来た姫である。もしも我を殺すつもりなのであるなら、この娘を殺すのである。勇者として、それはいいであるか?」
「た~す~け~て~く~だ~さ~い」
魔王の手にがっしりと掴まれた少女の声が、部屋中に響き渡る。
殺されそうになっているというのになんとも腑抜けた声だな、と思ったがそれは置いておこう。
どこの姫だか知らないが、大柄な少女だ。頭から布を被っている。その灰色の瞳は、こちらをじっと見つめていた。
どうしようかとカレジャスは躊躇う。
本当ならこんなやつは放っておいて魔王を殺すべきだろう。が、もしダームだったらどうするか? という考えが浮かんでしまった。
きっとあの魔法使いの少女であれば、目の前の少女を救うと決めるだろうから。
「人質はどうやったら解放するか、とりあえず条件くらい言えよ」
「そうであるな。勇者が頭を垂れて我の仲間入りをする。それだけである」
まあなんとも傲慢な。
さすが魔王、と称賛の拍手を送りたいくらいだ。さて、どうするか。
とりあえず会話を続け、その隙に姫を救出。それしかない。もちろん魔王の言葉通りにはしないので。
「その娘は、どこの姫だ?」
「北国の姫である」
「ふーん……。北国って王政だったっけか? よく覚えてねえな」
会話の内容はどうでもいい。タイミングを狙うだけだ。
そして、今だ、とカレジャスは思った。
魔王が少しだけ話に気を取られたその時、思い切り剣から雷を放った。
そして雷の光で目眩し状態になっている間に猛ダッシュ。魔王の手の中の少女へと――。
黒い穴を抜けた先。
最初に聞こえたのは、嘲笑うような声だった。
それは普通の人間のものではなく、まるで地響きかのように低く振動して聞こえる。目線を上げるとそこには大岩の如きの化け物がいた。
「お前が魔王か? なんかやたらと体重たそうだな」
「これこそが我の威厳である。どうか、恐れ慄いたであるか?」
「いいや別に。動きとろそうだなって思っただけだから」
岩のような大きな体を玉座に腰かけ、腕を組む熊のような化け物。
人形はしているがその肌は光沢を放つ黒。毛の生えていないその巨体は、動くにはかなり不利に見えた。
ともかく、
「俺は勇者カレジャス。魔王、お前を倒すためにはるばるやって来たぜ」
名乗り上げるなりカレジャスは武器を構え、魔王へと全力で斬りかかっていった。
* * * * * * * * * * * * * * *
――が。
「簡単に我を殺せると思っているであるか。それはあまりにも浅はかである」
次の瞬間、勇者の体が何者かに阻まれた。
一体何があるのか。見てみるが、そこには何もないように思える。だが確実にあるのだ、進路を塞ぐように広がる透明な幕が。
「ちっ。見たことねえな、これも魔術の一種か?」
「我が使うのは魔術と違う、妖術である。勘違いするでない」
「魔術も妖術も、俺にとっては一緒だよ」
どちらにしろ、魔術破りの魔法で突破できるだろう。普通の魔法使いなどと違い、カレジャスには特殊な魔法が使えるのだ。
剣に魔法を込める。そしてそのまま、透明な幕を切り裂いた。
「ぬっ!?」
そんなに意外だったのか、魔王はギョッとした。よほど先ほどの幕の強度に自信があったのだろうか?
「お前の術は効かねえ。これで終わりだ」
「そうは行かせないのである。こちらには、人質がいるのである」
人質、という言葉にカレジャスは嫌な予感がした。そしてそれは的中することになる。
「地上から連れて来た姫である。もしも我を殺すつもりなのであるなら、この娘を殺すのである。勇者として、それはいいであるか?」
「た~す~け~て~く~だ~さ~い」
魔王の手にがっしりと掴まれた少女の声が、部屋中に響き渡る。
殺されそうになっているというのになんとも腑抜けた声だな、と思ったがそれは置いておこう。
どこの姫だか知らないが、大柄な少女だ。頭から布を被っている。その灰色の瞳は、こちらをじっと見つめていた。
どうしようかとカレジャスは躊躇う。
本当ならこんなやつは放っておいて魔王を殺すべきだろう。が、もしダームだったらどうするか? という考えが浮かんでしまった。
きっとあの魔法使いの少女であれば、目の前の少女を救うと決めるだろうから。
「人質はどうやったら解放するか、とりあえず条件くらい言えよ」
「そうであるな。勇者が頭を垂れて我の仲間入りをする。それだけである」
まあなんとも傲慢な。
さすが魔王、と称賛の拍手を送りたいくらいだ。さて、どうするか。
とりあえず会話を続け、その隙に姫を救出。それしかない。もちろん魔王の言葉通りにはしないので。
「その娘は、どこの姫だ?」
「北国の姫である」
「ふーん……。北国って王政だったっけか? よく覚えてねえな」
会話の内容はどうでもいい。タイミングを狙うだけだ。
そして、今だ、とカレジャスは思った。
魔王が少しだけ話に気を取られたその時、思い切り剣から雷を放った。
そして雷の光で目眩し状態になっている間に猛ダッシュ。魔王の手の中の少女へと――。
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