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26 悪役令嬢が俺の自宅に逃げて来た

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「セイヤ、助けてくださいませ!」

 ――そしてその日の夕方、俺の自宅にダニエラが早速助けを求めてやって来た。
 彼女は必死の形相で扉を叩いており、これはさすがに放っておくわけにはいかないと思って俺は仕方なく彼女を招き入れる。

「どうしたんだ、ダニエラ」

 もちろん問わなくても大体のことはわかっている。
 だが一応聞いておくべきだろう。

「お兄様がワタクシに迫って来ましたの。
 いつもは魔法を使って脅しておりましたけれど、この世界のワタクシは無力。お兄様のことになるとサキが役立たずになってしまいますから、命からがらで逃亡いたしましたのよ」

「……迫って来たって、どういう」

「ワタクシを部屋の壁際まで追い詰め、気色の悪い愛の言葉を囁きながら強く抱きしめてドレスを剥ぎ取ろうと」

「わかったダニエラ、それ以上言わなくていい」

 ダニエラが住まう高級マンションの一室で、かなりR18……いや、それ以上にやばいことが繰り広げられていたらしい。
 あのシスコン野郎、そこまでやるのかとゾッとした。

「……誠哉、お風呂沸いたよー――ってダニエラさん!?」

「あらアキ様、まだセイヤの家にいらっしゃいましたの?」

 俺が背筋を冷たくしていると、明希が廊下の奥からひょっこり姿を見せた。
 なぜ彼女がいまだに俺の家に居座っているかといえば日比野家が留守だからである。
 「家で一人きりは寂しいから」と頼み込まれ、仕方なく俺の家に泊めさせてやることにしたのだった。

 ここにさらにダニエラが加わるとなると、カオスな絵面しか浮かばない。

「ダニエラ、お兄様を家から追い出すことはできないのか?」
「ワタクシ一人では無理ですわ。一対二ですもの」

 一対二ということはあのメイドもシスコン野郎の仲間なわけで。
 そりゃあ確かに無理だな、と納得してしまう。

「それで避難先が俺の家か……。わからなくはないが」

「お願いいたしますわ」

「一晩だけならまだしも、これからずっととか無理だぞ」

「一晩の間にきちんと対策は考えるつもりですわ。……いい加減、あの憎きお兄様を懲らしめてやりませんと」

 自分の兄のことを憎きとか言っているダニエラもどうかと思うが、あのシスコン野郎を一度見てしまえば非難する気にはなれなかった。

「明希、そういうことでいいか?」

「仕方ないね。せっかく小さい頃みたいに誠哉と二人きりでお風呂に入れると思ってたんだけど……」

「いや、それはダメだから。小学生じゃあるまいし年頃の乙女がこんなパッとしない男と混浴なんてしたくないだろ、普通」

「私は別にいいんだけどね」

 冗談か本気かよくわからない口調でそんな風に言いながら、「じゃあダニエラさん一緒に入ろ?」と誘う明希。
 今夜も彼女らに振り回される予感しかない。せめて夜くらいゆっくり休ませてくれるといいんだが……と祈るように思いながら、俺はため息を吐くのだった。

 何もかもあのシスコン野郎のせいだ。
 異世界にお帰りいただきたいところだが、きっとそれは無理なのだろう。となるとこれからあの気持ち悪い美形シスコン野郎とも折り合いをつけていかなければならないわけだ。
 この先のことが色々と不安でならなかった。

 今はただひたすらに早く両親に帰って来てほしかった。
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