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75 文化祭は波乱の予感。

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 文化祭。
 それは高校生活の中で、一大イベントと呼べるものである。

 昨年はクラスの数人――全員帰宅部だった――でヨーヨーの出し物をした。
 ……が、俺には友人どころか恋人もできなかった。周りの奴らはたっぷり青春を謳歌していたというのに。

 しかし今年に限って何事もないわけはないだろう。
 だってこの学校にはダニエラ・セデカンテを筆頭に異世界人たちが紛れ込んでいる。それに加え、俺をつけ狙う銭田麗花までいるのだ。それに明希だって何をしでかすかわかったものではない。

 そんな中、俺が参加することになったイベントはというと。

「恋愛劇、か……。俺、演劇部でも何でもないんだが」

 なぜか料理系の出し物ではなく、今まで何の縁もなかった演劇だった。
 それも台本の内容は青春恋愛ものである。明希とかが好きそうな話だな、と俺はぼんやり思った。

「演劇部は昨年、部員数がゼロになって存在しなくなりましたが、文化祭にはこうした出し物が必要不可欠でしょう。
 台本は元演劇部の部員に用意させたので問題ありません。それをわたくしと佐川さん、それから……」

「ワタクシと他数人の方が演じる、ということですわね」

「セデカンテさんは焼きそばの出し物で炭を焼いていた方がよろしいのではないですか?」

「……そこ、早速喧嘩するな。こんなのじゃ俺の精神が疲弊するから」

 演劇の出し物をする者は、もちろん俺以外にもいる。
 銭田麗花、ダニエラ・セデカンテ、そして元演劇部所属の数人。元演劇部の生徒たちはともかく、他二人が加わるということに俺は不安しかなかった。
 せめてダニエラが別の出し物を選んでくれれば良かったのに。どうしてわざわざ挙手したのだろう。結局彼女の面倒を見るのは俺だろうから、非常に困る。

 しかし、決まってしまったものは仕方がないだろう。
 初心者もいいところだから演劇なんてやれるとはちっとも思っていないが、せめてそれらしくできるよう頑張るしかないだろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「君が、好きだ!!」
「そんなのっ、信じられません!」
「なら俺が、気づかせてやるよ!」
「……はいストップ。佐川くんもセデカンテくんも変に力が入りすぎ。そして銭田先輩は自分の舞台裏に隠れていてください。どうしてそんな物欲しそうな目で佐川くんを見ているんですか」

 元演劇部の二年生の男子生徒が指示を飛ばす。
 それに俺たちは従い、またやり直し、またやり直しを繰り返す。それは想像を絶するほど過酷な作業だった。

 刻々と迫る文化祭までの日々、俺たちは勉強の合間、精一杯準備に励んだ。
 そのおかげで、最初は目も当てられない程ひどかった演技が少しはマシになってきたと思う。

 意外だったのは何でもできそうに見えるダニエラも銭田麗花も、舞台上ではぎこちなかったことだ。
 本番は緊張でガチガチになるのではないかと俺は密かに危惧していたりする。

 ――とまあ、そんなこんなで俺たちの出し物はなんとか頑張るとして。
 問題は、それ以外のことだ。

 行動が読めない者が多過ぎる。
 何の出し物をやるのかと誰に聞いてもはぐらかされる。おかげで、シスコン野郎やサキ、塁はもちろん、明希にすら何も内容を教えてもらえないのだ。

 もちろん彼らにとってはサプライズのつもりなのだろうが、その中身を知らないのでは気が気ではない。
 文化祭はできるだけ騒ぎを大きくしたくないので事前にできる限りの対策をしたかったが、どうやらそれは無理そうだ。

 文化祭はやはり波乱の予感しかなかった。
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